2023年09月13日 更新 (2023年06月14日 公開)
自身の経験をもとに、持ち運びに便利な、犬にも子どもにも使える抱っこ紐『gyuttone!』を開発。現在は、夫と小学生の息子、トイプードルと一緒に暮らしている。
シングルマザーの実体験から発明された、愛犬にも子どもにも使える抱っこ紐『gyuttone!(ぎゅっとね!)』とは?
目次
- 子どもにも愛犬にも使える多機能抱っこ紐『gyuttone!』を開発した大門みづきさん
- 身軽に外出が叶う。1つで何役もこなす“抱っこカバン”を制作
- 抱っこ紐の安全性のため、商品化と事業化を決意
- 15回以上の試作の末、抱っこ紐・かばん・布団の一体化に成功
- 購入者の9割がペットオーナーに。犬が教えてくれた、新たなニーズ
- 「息子の味方を増やしたい」働くママの強い決意が商品を生んだ
- 「犬や子どもが使う抱っこ紐は相性が大事」対面販売を続ける
- 『gyuttone!』が引き合わせてくれた、愛犬と息子と夫との幸せな暮らし
子どもにも愛犬にも使える多機能抱っこ紐『gyuttone!』を開発した大門みづきさん
愛犬や、小さな子どもとのお出かけは荷物が多くて大変ですよね。かつてシングルマザーだった大門みづきさんも、外出時の荷物の多さに困っていました。
「抱っこ紐は、子どもとのお出かけには必需品。だけど、使ってない時は嵩張っていやだ……」
そんなご自身の苦労をもとに、抱っこ紐のさらなる機能性を追求した商品開発に挑戦し、世界で唯一のアイテムの発明に成功します。
大門さんが生み出した、多機能な抱っこ紐『gyuttone!(ぎゅっとね!)』は、人も犬も抱っこできます。さらには、エコバッグ・オムツ替えシート・簡易式布団、ペット用のカフェマットとしても活用できるんです。
特許も取得し、2021年にはキッズデザイン賞も受賞しました。今では子ども用としてだけでなく、ワンちゃん猫ちゃんの抱っこ紐としても多くの飼い主さんからの支持を集めています。
大門さんが『gyuttone!』に込めた想いとは? 大門さんに発明の背景や家族の成長とともに変化した商品の使い方を伺いました。
身軽に外出が叶う。1つで何役もこなす“抱っこカバン”を制作
「私、コスパの良いものが好きなんです」
そう話す大門さんは、かつてシングルマザーで、小さな息子さんを育てていた頃、抱っこ紐に悩まされていました。
「抱っこ紐って、子どもとのお出かけには必需品です。でも、すごく嵩張るし、子どもの気分によっては使わない日もある。せっかく持って行ったのに使わなかったりすると、なんだかすごく悔しくて……」
いくつもの抱っこ紐を試しながら、「なんでこんなに使い勝手が悪いんだろう」と既存の抱っこ紐に不満を募らせていました。赤ちゃんの時から使える抱っこ紐は子どもの身体に合わせてサイズ調整が可能だけど、クッションが分厚くて嵩張る。だから持ち歩きには適していない。
一方、簡易的な抱っこ紐はコンパクトで持ち運びが楽だけど、サイズの微調整ができなくて結局すぐにサイズアウトしてしまうか、無理をして使うので子ども自身や親の身体を痛めることになってしまいます。
7個ほどの抱っこ紐を試したのち、もういっそのこと自分で作ってみようと決めた大門さんは、既存の抱っこ紐の問題点を洗い出し、2015年にオリジナルの抱っこ紐づくりを始めました。
こだわったのは、「持ち運びに躊躇しない、なおかつきちんと体に合わせてサイズ調整ができる抱っこ紐」でした。
なぜならば、「コンパクトな抱っこ紐」はすでにたくさん発売されているけど、結局小さく畳めたとしてもカバンの中でスペースをとることに変わりはなかったからです。
持ち歩きが楽で、サイズ調整ができる。でも、抱っこ紐としての機能しかないと、結局使っていない時にはただの荷物になり得ます。そう気がついた時、いつも持ち歩いているものが抱っこ紐を兼用してくれたら、持ち歩くのに躊躇しないんじゃないか、と思いました。
同時に、「カバンの取手に手を通して、布の部分に子どものお尻が乗れば、抱っこ紐になる」と気がつきました。そして、どんな形態の鞄であれば実現が可能なのか調べるため、図書館に行ってカバンの作り方の本を片っ端から調べたのです。
「学生時代にずっと美術をやっていたので、頭の中でイメージを膨らませるのは得意でした」
抱っこ紐の完成形がイメージできると、次はそれを実現するにはどんなパーツを作ればいいのかを考えて、試作の繰り返し。少しずつ理想の形に近づけていきました。
元々、営業職として長年働いてきた経験もある大門さん。目標を立てたら逆算して期日を設定し、道筋を立てて努力をする、ということが習慣化していたそう。自身が育児の壁で見つけた、「抱っこ紐の最適化」を目指して、新たに動き出しました。
抱っこ紐の安全性のため、商品化と事業化を決意
大門さんは、あるときふと「そういえば、一番丈夫な布ってなんなんだろう。もし使ってる時に破れたらどうしよう……」
いくら自分の息子にしか使っていないとは言っても、安全第一であることには変わりない。
「そういうのって誰に相談したらいいのだろう……」と様々なキーワードで検索していたところ、インターネットで各自治体にある企業相談窓口「よろず支援拠点」を見つけ、すぐに相談へ。そこで出会った中小企業診断士の小川良佳(おがわはるか)さんとの出会いが、その後の大門さんの人生を大きく変えるきっかけとなりました。
小川さんは親身に大門さんの相談に乗ってくれ、布の耐久検査ができる場所を調べて教えてくれました。
小川さんは大門さんに「もし将来的に商品化したいと考えているなら、工場で作ってもらったほうがいい。どこの誰が作ったかわからないような抱っこ紐って、買うの怖くない?」とアドバイス。
「確かにそうだ。確かに素人の母親が作った抱っこ紐なんて怖いかもしれない」と思います。大門さんはここで初めて、商品化するということは、起業するということなのだと意識し始めました。
「“商品化する”ということ自体はまだぼんやりとしたものでしたが、どこまでできるか挑戦してみよう、と思いました」
ちょうどよろず支援拠点のアドバイザーになったばかりだった白井要一さんとの出会いも幸運でした。白井さんは、登山用リュックを作っている「シライデザイン」の社長を務めています。
それから約2年間、抱っこ紐を自分の理想に近づけて、いずれは商品化し、起業をするために、毎月1回よろず支援拠点に通い続けました。
15回以上の試作の末、抱っこ紐・かばん・布団の一体化に成功
2017年3月、15回を超える試作を経て、ついに大門さんの抱っこ紐は商品化へと進みます。
最初は、「自分と息子のため」だった抱っこ紐。作るきっかけになったのは、シングルマザーとしての子育ての辛さでした。そこには、「孤独な子育てを頑張っているママたちと繋がりたい」という思いがあり、最後まで諦めなかったのは、大門さんは一番、「繋がり」を求めていたからでした。
「持ち運びに躊躇しない、丈夫で他機能な抱っこ紐を作る」という初志を貫き、
- 抱っこ紐
- エコバック
- おむつ替えシート
- 簡易敷布団
4つの機能を持つ、世界で唯一の抱っこ紐が完成しました。
当初の心配事だった「丈夫さ」は、一般財団法人日本繊維品品質技術センターで耐荷重検査をし、60キロまで大丈夫とのお墨付き。腰が座った頃から4、5歳くらいまで安心して使えます。
抱っこ紐として使わないときはサブバックにもインナーバックにもなりますし、子どもが公園でおやつを食べたいときには敷物としても使用可能です。布一枚の形になるので、膝掛けにも、寒い時には肩掛けにもなるので、子どもとのお出かけには本当に重宝します。
商品名は、息子さんが「抱っこして」というのを「ぎゅっ~して」と言っていたことから、『gyuttone!(ぎゅっとね!)』に決定。
必要な資金はクラウドファンディングで調達し、白井社長に紹介された「株式会社いいづか」(東京都台東区)の工場で縫製することになりました。
大門さんはこの工場でも柏木部長という恩人に出会います。柏木部長は大門さんの両親と同じ世代で、大門さんの息子さんと1歳違いのお孫さんがいることもあり、親身になって商品づくりに協力してくれました。
柏木部長は、仕事には厳しいけれど、週末は必ずお孫さんと遊んであげる、とても優しいおじいちゃんです。
「”抱っこして”と”歩きたい”の繰り返しの時期から、使い勝手のいい抱っこ紐がないので、作りたいんです」という大門さんの要望も、お孫さんを世話している柏木部長にはよく理解できました。
「ほんのちょっと、支えてくれたらいいんだよね」と共感してくれつつ、大門さんが作っていた抱っこ紐の試作品を見て、さらにアイデアをくれました。完成度の高い商品になったのは、最後の柏木部長のアイデアのおかげだと大門さんは言います。
「小川さん、白井社長、そして柏木部長。抱っこ紐を作り始めてから、何かに導かれるかのように、次々に素晴らしい人との出会いに恵まれました」
購入者の9割がペットオーナーに。犬が教えてくれた、新たなニーズ
その後、『gyuttone!(ぎゅっとね)』の商品名にちなんで2017年9月10日(語呂合わせ)に販売を開始。すると、シングルマザーがゼロから自力で手掛けた商品ということで注目度も高く、テレビや新聞でも広く紹介されました。一時は在庫がなくなるほどの人気商品に。
購入した人からは「ひとつで何役もこなしてくれるから助かる!」「(子育ての)救世主だと思った」など、次々と喜びの声が寄せられました。
「商品を通して、同じような悩みを抱えている人たちに喜んでもらえたり、子育ての悩みを共有して共感し合えたりするのも嬉しかったです」
そして2021年、さらに転機が訪れます。とあるイベントでたまたま猫のぬいぐるみでディスプレイしていたら、何人かのお客様に「これ、ペット用なんですか?」と聞かれたのです。
実はその頃、愛犬のコタロウくんが皮膚病になり、”待合室で抱っこして待つのが辛い”という経験をしていました。
そのため大門さんも、ちょうど子育て用品として作っていた『gyuttone!』を愛犬にも使えないか、と改良を考えていました。
子育てもそうですが、犬とのお出かけも荷物が多い。お店で出会う飼い主さんたちに話を聞きながら、今度は「ペットにも使える抱っこ紐」を作り上げていきました。一般的な犬の抱っこ紐はスリングタイプが多く、腰ベルトがついていないものがほとんど。例え小型犬であっても、肩だけに負担がかかり、肩こりが悪化したり、ひどい時には肩こりから吐き気を催してしまう人もいます。また、袋状のものだと犬が落ち着かず、足を突っ張るか、モゾモゾして出てきてしまうパターンも。
その点、『gyuttone!』は腰ベルトと肩ベルトで支えるので犬の体重が分散され、肩だけに負担がかかることはありません。また、腰ベルトでしっかり固定し、肩ベルトで密着させていることで、犬も安心感を感じ、大人しく抱っこされたままでいてくれるのです。抱っこ紐の中でも、伏せやおすわりの姿勢ができて、犬の体にも負担がかかりにくい構造になっています。
その使い勝手の良さがInstagramを通じて口コミで広がり、『gyuttone!』の試着のためにイベントにきてくださるお客様も増えてきているとのこと。
ちなみに、オムツ替えシートとして役立っていた機能は、ドッグカフェなどに行った際、カフェマットとしても使えます。
「息子の味方を増やしたい」働くママの強い決意が商品を生んだ
「夫に先立たれ、広い世界に息子と二人で放り出されてしまったような不安や孤独感に苦しみました。もちろん今もそれがゼロになったわけではありませんが、『gyuttone!』を通じて出会った皆さんのおかげで、少しずつ前に進めるようになったことに感謝しています」と話す大門さん。
実は、不慮の事故により、ご主人との突然の別れを経験していました。生後10か月の息子さんとともに幸せに暮らす毎日に、突然の訃報。現実を受け入れられずに、家に引きこもったり、気持ちがふさぎ込んだりした時期もあったといいます。
「子どものためにと外出しても、一人で荷物を抱えながら、息子も抱っこしなければいけない状況が、体力的にも精神的にも、苦しかったです。旦那さん、奥さん、子どもがいる、よその家族を見るだけで傷つく。当時はそんな「当たり前の景色」の全てが辛かったんです」
でも、大門さんはスクスクと元気に育ってくれる息子のおかげで、いつまでも悲しみに引きずられずにいることができました。
「本当に人生って何が起きるか分からない。夫が突然亡くなったように、私だっていつ死ぬかわからない。だからこそ、私は息子に何を残してあげられるんだろう、ってすごく考えるようになったんです。そして、少しでも『息子の味方をたくさん作ってあげたい』って思いました。もし私が、何か人の役に立つ商品やサービスを作ることができて、その商品なりサービスなりが、誰かの印象に残っていたら。『この商品のおかげで助かったよね』ってもしも誰かに言ってもらえたら、それが将来、ささやかながらも、息子の支えになったらいいなって思ったんです」
「犬や子どもが使う抱っこ紐は相性が大事」対面販売を続ける
『gyuttone!』の商品は口コミで知られるようになりましたが、大門さんは原則として通信販売はせず、現在もペット関連イベントなどでの対面販売にこだわり続けています。
「抱っこ紐って、使う人との相性がすごく大事なアイテムです。間違った使い方をして一度でも怖い思いをしてしまうと、犬も子どもも入るのがトラウマになってしまいかねません。だから、適切なサイズ・きちんとした使用法を直接お伝えしたいんです」
大門さんにとって『gyuttone!』は、息子さん協力もと、一緒に作った大切なもの。だから、ちゃんと特性を理解してくれて、ちゃんと安全に使える練習をして持って帰って欲しい、といいます。
「ワンちゃんは体重が何キロだから入ります、入りません、と一概には言い切れません。体格が本当にさまざまだからです。そしてフィット感も、ネットでは絶対に伝えられません。だからこそ、一度しっかり試してからご購入いただきたいんです」
「私自身、通販で購入したものの使い勝手が悪くて、まったく使わなくなった商品が色々あります。でも『gyuttone!』は、間違った使い方をして『使いにくかったね』と誤解されてお蔵入りにしてほしくない。愛するお子さんやワンちゃんたちのために、使い倒して欲しいんです」
『gyuttone!』が引き合わせてくれた、愛犬と息子と夫との幸せな暮らし
『gyuttone!』の制作から約7年。現在、大門さんは再婚をされ、新しい生活を送っています。
「今の夫は『gyuttone!』の取材に来てくれた報道関係の人なので、最初から亡夫のことは知っていました。その上で、私も息子も受け入れて、仕事のことも理解してくれ、イベント出店に同行してくれたり、店番もしてくれます。いろいろな場所のイベントに出て、口コミが広がるまでになったのは、今の夫のおかげでもあるんです」
『gyuttone!』を作り始めた当初はまだ小さかった息子さんも、もう9歳になりました。コタロウとは兄弟みたいに育っているので、イベントのお手伝いに来るときは、必ず『gyuttone!』でコタロウを抱っこし、お世話をしたり、お客さんに付け方を伝えてくれています。
「最近は、お客様がお店を手伝ってくださったり、出店者仲間も増えて、みんなが息子を可愛がってくれます。本当にありがたいです。ビジネスとしてはまだまだ道半ばではありますが、今の夫含め、起業するときに思い描いていた、『誰かの役に立つことで、息子の味方を増やしたい』という願いが、少しずつ形になっていっているのを感じます」
最近は、介護や闘病中のワンちゃん、元保護犬で、深く傷ついているワンちゃんなど、お世話の大変な犬たちを大事に世話しているご家族が買ってくださることが増えているとのこと。
「そういうご家族にこそ、率先してお役に立ちたいので、もっと肌触りのいいものや使い勝手の追及、飼い主さんが使っていて楽しくなるような商品にしていきたいと思っています。」
今年は販売6周年を記念したオリジナルテキスタイルでの『gyuttone!』や、抱っこ紐カバーなどの展開も考えているそうです。新商品やイベント出展に関する情報は、ホームページやSNSなどで随時更新予定。ぜひ、リアルの場で『gyuttone!』の使い心地を、お確かめください!