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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。

梅雨や台風シーズンの散歩、どうしていますか? どんなに雨の日でも、愛犬のために散歩に行かなければいけないこともありますよね。
そんなときのために、愛犬にレインコートを購入したことがある方も多いのではないでしょうか。でもせっかくレインコートを買ったのに、サイズが合わなかったり、愛犬が嫌がって着てくれなかったり…。 そんな経験、思い当たる方も多いのでは?
筆者もそのひとりです。 可愛いデザインに惹かれて購入したレインコートを着せたところ、うちの愛犬はその場でピタリと固まり、全く動かなくなってしまいました。 理由もよくわからないまま、レインコートはタンスの奥で眠ったままになっています。
そうなると、ふと思うのです。
「犬にレインコートって、本当に必要なんだろうか?」
「自然界で生きてきた動物なのに、雨がそこまで問題になるの?」
「そもそも、無理に着せようとするのって人間のエゴじゃない…?」
いくつもの疑問が頭をよぎった私は、その真相を獣医師に聞いてみることにしました。
目次
- 【獣医師が解説】犬にレインコートが必要な理由とは?
- 愛犬にレインコートを着せると飼い主にもメリットが
- レインコートは、雨が苦手な愛犬のストレス軽減にも
- 【実用】レインコートを嫌がる犬への対処法と慣らし方
- 犬のレインコートの選び方|“着せやすさ”とサイズ・形・素材のポイント
- レインコート選びはサイズが最重要! 正しい愛犬のサイズの測り方
- ポンチョ? フルカバー? 形状別で見る、犬用レインコートの使い方
- 機能性もチェック! レインコートの防水・通気性
- 愛犬のサイズを測り、レインコートを購入!
- まとめ
【獣医師が解説】犬にレインコートが必要な理由とは?

私たちはつい、「雨に濡れると風邪をひくから注意しなきゃ」と考えがちです。 でも、犬にとってはそれ以上に“皮膚への影響”が深刻なのだと、獣医師の茂木先生は指摘します。
雨で皮膚病が悪化? 愛犬のジメジメした状態に要注意
犬の皮膚には、人間と同じように「善玉菌」と「悪玉菌」の両方が存在しているんだとか。本来はバランスよく共存していますが、雨に濡れて湿ったままの状態が続くと、悪玉菌が増殖しやすくなり、かゆみや赤みなどの症状が出やすくなってしまうのだそう。

とくに注意が必要なのが、膿皮症やマラセチア皮膚炎などの湿度に敏感な皮膚病です。
梅雨から秋にかけての高湿度な時期は、皮膚トラブルのリスクが一気に高まります
皮膚が弱い子や、すでに皮膚トラブルを抱えている子にとって、雨に濡れること自体が“健康リスク”となるようです。
濡れるだけで体温が下がる? 愛犬の低体温にも注意を
雨に濡れたあと体が冷えると風邪をひきやすい——
これは私たちにも馴染みのある感覚ですが、犬にとっても同じく注意が必要です。
ただし、犬の場合はその影響が想像以上に深刻である場合もあります。
ある実験(※1)によれば、犬が雨に濡れたまま風にさらされると、体温は2.6℃も低下するというデータもあるとのこと。
たった数度と思われるかもしれませんが、犬の平熱は人間より高いため、この温度変化は体に大きな負担をかけてしまうんだと先生は注意を促します。

子犬やシニア犬は、とくに体温を保つ力が弱く、ほんの少しの冷えでもすぐに体調を崩しやすくなります。 風邪だけでなく、食欲不振や免疫低下にもつながるおそれがあるため、油断は禁物です
皮膚トラブルと同様、体温のコントロールもレインコートで守ってあげられる健康管理の一つ。 ただの防水アイテムではなく、健康を守る“ウェア”として見直す視点が必要ですね。
(※1)Berma, A. (2008). Increasing heat stress relief produced by coupled coat wetting and forced ventilation. Journal of dairy science, 91(12), 4571-4578.
愛犬にレインコートを着せると飼い主にもメリットが

レインコートは、雨の日の手間やストレスも減らしてくれる便利なアイテムですよね。ワンちゃんにとっても同じことが言えるそう。
ここからは、改めて「お手入れの負担軽減」と「防災やアウトドアでの備え」という2つの視点での、レインコートの魅力をご紹介します。
散歩後、愛犬のお手入れが簡単に
雨の散歩は、帰宅してからが大変です。泥のついた足やおなかまわり、濡れた毛をしっかり乾かすのはとても大変な作業ですよね。
レインコートを活用すれば帰宅後の愛犬のタオルドライやシャンプーの手間が少なくなり、飼い主さんにも大きなメリットとなります。
万が一に備える! 防災対策やアウトドアでの必需品
レインコートは日常だけでなく、防災やアウトドアシーンでも活躍してくれると先生はいいます。

たとえば災害時、愛犬を連れて雨の中を避難しなければならない状況では、「泥や汚れから体を守ること」や、「体温の低下を防ぐこと」がとても重要になります。
被災時は、豪雨や泥の多い地面を歩く避難が増えるでしょう。レインコートを着用することで、低体温や被毛への汚染物の付着リスクを減らすことができます。
また、身体が濡れたり汚れたりすること自体が、犬のストレスになることも。 平時からレインコートの着用に慣らしておくことは、非常に有効な防災対策だといえるでしょう
キャンプやハイキングなど、急な天候変化があるアウトドアでも、レインコートを備えておけば安心ですね。
レインコートは、雨が苦手な愛犬のストレス軽減にも

雨が続くと、外に出たがらなくなる犬は少なくありません。 雷の音に怯えたり、ドアを開けた瞬間に雨だとわかって動かなくなったり…。 中には、足先が濡れるのを極端に嫌がる子もいるでしょう。
こうした敏感な子にとって、雨の多い時期は心と体の両面でストレスを抱えやすい季節です。

散歩の機会が減ることで運動不足になり、エネルギーを発散できないままストレスがたまりやすくなってしまいます。分離不安や家族への攻撃行動などの問題行動も起こりやすくなります。
そんなとき、レインコートは「外に出るきっかけ」をつくるサポートアイテムとしても役立ちます。 濡れる不快感を軽減できれば、雨の日でも安心して散歩に出かけられるようになり、愛犬の気分転換や健康維持にもつながりますよ。
雨が苦手な子でも少しずつ慣らしていけば、「雨の日のお散歩」もポジティブな時間に変えるチャンスになる、ということになります!