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明石むかい動物病院院長。獣医麻酔外科学会、獣医がん学会。
街中を歩いている際、ゴールデン・レトリーバーに似た黒い犬を見かけたことはありませんか?「ゴールデン・レトリーバーにも黒い毛色の子がいるのか」と思われるかもしれませんが、実は別の犬種なのです。
そこでこの記事では、ゴールデン・レトリーバーに似た黒い犬の犬種や性格、一緒に暮らす際のポイントなどを解説します。
目次
- ゴールデン・レトリーバーに似た黒い犬=「フラットコーテッド・レトリーバー」
- フラットコーテッド・レトリーバーの性格
- フラットコーテッド・レトリーバーの飼い主が気をつけたい病気
- フラットコーテッド・レトリーバーが快適に暮らせるようにするためのポイント
- フラットコーテッド・レトリーバーの子犬はどこで探せる?
- まとめ
ゴールデン・レトリーバーに似た黒い犬=「フラットコーテッド・レトリーバー」
ゴールデン・レトリーバーによく似た黒い犬を見かけたのなら、フラットコーテッド・レトリーバーである可能性が高いでしょう。
フラットコーテッド・レトリーバーは、イギリス原産の大型犬です。かつてイギリスで鳥猟が盛んだった時代には、人間が撃ち落とした鳥を回収する「鳥猟犬」として活躍しました。
犬種名のとおりフラットコート(平らに生えた毛)と呼ばれるサラサラの被毛を持ち、光沢のあるなめらかな毛並みが特徴です。
多くはストレートの被毛を持ちますが、なかにはややウェーブのかかった被毛を持つ子もいます。フラットコーテッド・レトリーバーの毛色は、黒(ブラック)と、「レバー」と呼ばれる濃い赤褐色の2種類です。
被毛の特徴としては、ほかの部位と比べておしりやしっぽ、脚にやや長めor多めの毛が生えることも挙げられます。
フラットコーテッド・レトリーバーの理想体高と理想体重は、オス・メスそれぞれ以下のとおりです。
【オス】体高:59~61.5cm/体重:27~36kg
【メス】体高:56.5~59cm/体重:25~32kg
ここで、ゴールデン・レトリーバーの理想体高と理想体重を見てみましょう。
【オス】体高:56~61cm/体重:29~32kg
【メス】体高:51~56cm/体重25~27kg
このように、フラットコーテッド・レトリーバーとゴールデン・レトリーバーの体の大きさは非常に似ていることがわかります。しかし、ゴールデン・レトリーバーは頭部が比較的大きいのに対し、フラットコーテッド・レトリーバーは頭も体も比較的幅が狭く、スマートな体型をしています。
また、最大の違いは被毛の色です。ゴールデン・レトリーバーの被毛の色は黄金色のゴールドまたはクリーム色のみで、暗い毛色が存在しません。「暗い毛色のゴールデン・レトリーバー」を見かけたら、まず間違いなくフラットコーテッド・レトリーバーと考えてよいでしょう。
フラットコーテッド・レトリーバーの性格
フラットコーテッド・レトリーバーは、明るく陽気な性格です。愛情深く、社交性もあるため、ほかの人や犬ともすぐに仲良くなれるでしょう。甘えん坊で、飼い主と遊ぶことが大好きな犬種です。とくにオスはエネルギッシュで元気な印象の子が多く、飼い主とアクティブに遊ぶことを好みます。大型犬で力もスタミナもあるため、体力に自信のある人が飼うのに向いているでしょう。
フラットコーテッド・レトリーバーは天真爛漫で、底抜けに明るい性格が魅力です。その反面、不安や恐怖を感じているときでも明るく、甘えた表情を見せる傾向があります。一見甘えているだけのように見えても、犬の様子をよく観察し、不安やストレスを感じていないか気を配ってあげましょう。
また、かつて鳥猟犬として活躍したフラットコーテッド・レトリーバーは、高い学習能力を持ちます。訓練やトレーニングを得意としており、人間と一緒に作業をすることが大好きです。環境への適応力にも優れており、トレーニングを重ねることで家庭犬としてのマナーが身につきやすくなります。
興奮しやすい性格でもあるため、子犬のころから落ち着くことを教えてあげるとよいでしょう。なかなか落ち着くことが身につかない場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
フラットコーテッド・レトリーバーの飼い主が気をつけたい病気
フラットコーテッド・レトリーバーを飼う場合、以下のような病気に気をつけてあげましょう。
股関節形成不全
股関節形成不全とは、股関節の形状に異常が現れる病気です。進行すると歩行異常(腰を振るように歩くなど)や横座りなどの症状が見られるようになります。症状が軽いうちは体重管理や痛み止めの服用などにより経過を観察しますが、進行すると外科手術になる場合もあります。
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨脱臼とは、よく「膝のお皿」と呼ばれる骨が正常な位置から外れてしまうことです。遺伝的な要因や外傷が原因で発症することが多く、重度の場合は歩行障がいが見られることもあります。膝蓋骨が正常な位置から外側に外れる外方脱臼、内側に外れる内方脱臼があり、両方向に外れてしまう犬もいます。
進行性網膜萎縮症
進行性網膜萎縮症とは、視力がだんだんと低下する病気です。初期は「ものにぶつかる」「動きが鈍くなる」などの異常が見られ、症状が進むと完全に失明してしまいます。先天的な疾患であり決定的な治療法は確立されていないため、視力の低下に備えて環境を整えてあげることが重要です。具体的には、犬の高さに角のある家具を置かないことや、家具の配置換えをしないようにすることなどです。
てんかん
てんかんとは、脳神経の一時的な興奮によりけいれん発作が起こる病気です。脳神経が興奮した場所によって、体の一部がけいれんする場合もあれば、全身がけいれんする場合もあります。軽度であれば発作は2~3分でおさまり、無治療で経過を観察することもあるでしょう。しかし、重度になると数分以上にわたって発作が続いたり、1日に何度も発作が起きたりします。動物病院を受診する際には、けいれん発作時の動画を撮影し、獣医師に見せると診断の助けになるでしょう。
糖尿病
糖尿病は、インスリンの働きが弱まることにより血糖値が高くなる病気のことです。進行すると「不自然な減量」や「水を多飲する」「食欲の増加」などの症状が現れ、放っておくと命にかかる可能性もあります。
外耳炎
外耳炎とは、耳の入口から鼓膜までの部分に起きる炎症のことです。フラットコーテッド・レトリーバーのような垂れ耳の犬種は、外耳炎を発症しやすいとされています。とくに、高温多湿な環境では外耳炎を発症しやすいため、暑い季節は耳の状態をこまめにチェックしてあげましょう。
腫瘍
レトリーバー種は、腫瘍ができやすい犬種として知られています。悪性腫瘍(=がん)ができた場合は命にかかわる危険性があるため、食欲低下や体重減少などの症状が見られた場合はすぐに動物病院を受診することが大切です。
胃捻転胃拡張症候群
胃捻転胃拡張症候群とは、なんらかの原因で拡張した胃がねじれてしまった状態のことです。フラットコーテッド・レトリーバーのように胸の深い犬種は、胃捻転を起こしやすいとされています。発症した場合は、緊急の処置が必要です。すぐに治療を受けなければ命にかかわる危険性があるため、「苦しそうに呼吸をしている」「吐きそうなのになにも吐瀉物がでてこない」といった症状が現れた場合は急患を受け入れている動物病院にすぐさま駆け込みましょう。
フラットコーテッド・レトリーバーが快適に暮らせるようにするためのポイント
フラットコーテッド・レトリーバーが快適に暮らすためには、以下のポイントに気をつけましょう。
毎日十分な運動をさせてあげる
フラットコーテッド・レトリーバーは、とてもエネルギッシュな犬種です。もともと鳥猟犬だったこともあり体を動かすことを好むため、毎日散歩の時間をたっぷりとって十分な運動量を確保してあげましょう。
もちろん、飼い主と一緒に遊ぶことも大好きなので、できるだけ遊ぶ時間を増やしてあげると喜びます。
ただし、大型犬は力が強いため、引っ張られたり、飛びつかれたりして転倒しないよう、飼い主がしっかり制御することも大切です。
子犬のころから飼い主と歩調を合わせる訓練を行うなど、行動を制御するトレーニングを重ねていきましょう。
頭を使う遊びを取り入れる
レトリーバー種は学習能力が高く、古くから人間(ハンター)のパートナーとして獲物の捕獲を担ってきた歴史を持ちます。そのため、レトリーバー種は生まれつき知的好奇心が旺盛です。「頭を使いたい」という本能が満たされないと、ストレスを溜め込みイタズラを繰り返してしまう場合もあります。
そこで、日常の中で頭を使う遊びや、トレーニングを取り入れてあげるのがおすすめです。市販の知育おもちゃを使うのももちろん良いですが、以下のような方法なら家にあるもので手軽に「おやつ探しゲーム」を楽しめます。
• 家の中におやつを隠して、探してもらう遊び
• ペットボトルの中におやつを入れて、コロコロ転がして取り出す遊び
また、家の近くに施設がある場合は、ドッグスポーツやアジリティなどに取り組むのもよいでしょう。頭を使いながら体を動かすアクティビティは、フラットコーテッド・レトリーバーにぴったりの遊びといえるでしょう。
夏場は熱中症に注意する
フラットコーテッド・レトリーバーは、比較的暑さ・寒さに強いとされています。しかし、被毛に耐水性がある分、夏場は体温を発散させにくい状態になってしまうでしょう。
とくに日本の夏は高温多湿であるため、被毛の内側に熱がこもり熱中症になってしまう恐れがあります。
暑い日には冷房で室温を調節し、涼しく過ごせる環境を整えてあげましょう。また、日中の外出は避け、なるべく気温の低い早朝や日没後に散歩をするのがおすすめです。
床をすべりにくい状態にする
フラットコーテッド・レトリーバーに限った話ではありませんが、年齢を重ねて筋肉量が落ちると、すべりやすい床の上では重心を安定させることが難しくなってしまいます。
足首や関節に負担をかけないためにも、床をすべりにくい状態にすることが大切です。すべりにくい床材を取り入れたり、犬が過ごすエリアにはペットマットを敷いたりといった工夫を施しましょう。
換毛期は入念なお手入れを
フラットコーテッド・レトリーバーは抜け毛が多い犬種です。毛玉や毛のもつれを防ぐためにも、なるべくこまめにブラッシングしてあげましょう。
とくに、冬毛から夏毛に生え替わる換毛期には毎日たくさんの毛が抜けます。抜け毛をそのままにしておくと皮膚が蒸れる原因になるため、毎日のブラッシングを欠かさず行いましょう。また、被毛や皮膚を清潔に保つために、月1~2回のペースでシャンプーを行うのがおすすめです。
フラットコーテッド・レトリーバーの子犬はどこで探せる?
フラットコーテッド・レトリーバーの子犬を迎えるなら、ペットショップやブリーダーから購入する、保護犬の里親になるといった方法があります。
ペットショップで購入する場合の費用は、30万円以上が相場です。なお、ドッグショーのチャンピオンや各種競技会で好成績をおさめた犬の子どもは、通常よりも価格が高くなりやすいでしょう。
まとめ
フラットコーテッド・レトリーバーはゴールデン・レトリーバーとよく似ていますが、実はまったく別の犬種です。
フラットコーテッド・レトリーバーは明るく活発な生活で、人懐っこく飼い主と遊ぶことが大好きです。エネルギッシュでスタミナもあるため、体力に自信のある人に向いています。
また、生まれつき知的好奇心が旺盛な犬種でもあるので、日常生活の中に頭を使う遊びやトレーニングを取り入れてあげるとよいでしょう。
もともと鳥猟犬として活躍した犬種なので、「とってきて」などちょっとしたお手伝いを教えてあげると、いきいきと応えてくれるはずです。