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上京どうぶつ病院院長。北里大学出身。日本獣医生命科学大学付属動物病院にて研修後現職。
愛犬の目が赤く充血しているように見える場合は、結膜炎にかかっているかもしれません。まぶたの裏の粘膜が赤くなっていたり、眼球の表面を覆う透明の粘膜が赤く見えたりする場合は、炎症が起きている可能性があります。結膜炎は犬の目の病気で比較的出会う頻度の多い症状です。「ただ目がかゆくなったり赤くなったりするだけ」と軽視してしまいがちですが、実は慢性化しやすく、他の深刻な目の病気が原因の場合もあります。そのため、結膜炎の正しい知識を知っておくことが大切です。今回は結膜炎の症状や原因、かかりやすい犬種、治療方法などを解説します。
目次
- 犬の結膜炎の症状
- 犬の結膜炎の原因
- 結膜炎にかかりやすい犬種
- 犬の結膜炎の治療方法
- 犬の結膜炎の予防方法
- 犬の結膜炎は人にうつるのか
- まとめ
犬の結膜炎の症状
犬の結膜炎とは、白目の表面とまぶたの裏側にある結膜に炎症が起きてしまう病気です。血管が多い箇所でもあり、炎症が起きると結膜が充血することで、白目まで赤く見えます。結膜炎でわかりやすい症状は、この白目が赤く見えるところです。
炎症がひどくなると結膜が腫れて、両目をおおってしまいます。目が開きづらそうにしていたり、目をかいたりする様子がみられます。こうした異変にいち早く気づけるように、日常的に愛犬の様子を観察しておくことが大切です。
主な症状
- 白目が赤く見える
- 白目がたるんでいるように見える
- 涙目になる
- 涙が出て止まらない
- 目やにが増える
- まばたきが増える
- 目が腫れて目が開きづらくなる
- 目がかゆくなって前足でかく
- 床や壁に目を擦りつける
これらの症状に気づいたら、できるだけ早く動物病院を受診してください。結膜炎は重い病気ではありませんが、軽視して良いわけではありません。治療せずに放置していると、自然に治らなかったり、傷が残ったり、視力を失ったり、深刻な健康問題に発展したりする場合があります。
犬の結膜炎の原因
犬の結膜炎は、犬種や年齢を問わず、かかりやすい病気です。結膜炎は「感染性」と「非感染性」があります。感染性結膜炎はウイルス感染や細菌感染が原因となって発症し、ピンクアイあるいはレッドアイとも呼ばれています。ただ、犬で発症するのは稀です。犬が主にかかるのは「非感染性結膜炎」で、アレルギーや外部からの刺激、目の損傷、先天性異常が原因で起こります。
考えられる原因
- 感染性(細菌、ウイルス、寄生虫)
細菌やウイルスによる感染症、目に寄生する寄生虫(東洋眼虫)が原因となって結膜炎を引き起こします。
- アレルギー性
花粉やハウスダストなどが犬の目に入ると、アレルギー反応を起こします。かゆみや炎症につながり結膜炎を誘発します。
- 逆さまつ毛
逆さまつ毛とは、まぶたの縁に生えているまつ毛が、外側ではなく眼球に向かって内側に生えることです。そのまつ毛が犬の目を刺激することで結膜炎になる場合があります。目の周りの毛が長い犬種も同じことが起こり得ます。
- 眼瞼内反(がんけんないはん)
まぶたが眼球側に入り込む病気です。犬がまばたきをするとまつ毛やまぶたの縁が目の表面をこすり、結膜炎を引き起こします。
- 異物混入
散歩中に小さな草の種などが目に入って、結膜や角膜の表面を傷つけるような怪我をして炎症を起こす場合があります。
- 化学物質
シャンプーや薬品が目に入った場合も、炎症を起こす可能性があります。目に入ったことに気づいたら、すぐにゆすぐか、できるだけ早く動物病院を受診してください。
- 免疫システムの異常
犬の免疫細胞が、涙をつくる涙腺細胞を異物と勘違いして、涙腺細胞を破壊してしまう免疫系の疾患です。ドライアイとなって結膜炎を引き起こします。
- 神経性障害
涙の分泌に関係する神経細胞が冒されたり、まばたきをするための顔面神経が冒されたりすると、ドライアイとなって結膜炎を引き起こします。
結膜炎にかかりやすい犬種
犬の結膜炎は犬種を問わずかかる病気ですが、なりやすい犬種もいるようです。たとえば、パグ、フレンチ・ブルドッグ、シー・ズー、チワワ、マルチーズ、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、アメリカン・コッカー・スパニエル、シャー・ペイ、チャウ・チャウなどが挙げられます。
目が前に出ている短頭種(パグ、フレンチ・ブルドッグ、チワワなど)は、異物が目に入って眼球に傷がつきやすいため、角膜潰瘍や結膜炎になりやすいと言われています。また、涙が少ないシー・ズーやチワワもドライアイから結膜炎になりやすいため注意が必要です。まぶたの縁が内側に巻いている眼瞼内反と呼ばれる状態が多く見られるシャー・ペイ、チャウ・チャウも、結膜に炎症を引き起こしやすいと言われています。
犬の結膜炎の治療方法
検査方法
- 視診
最初に結膜の充血、流涙、結膜浮腫などの症状を肉眼で観察する視診をします。
- スリットランプ検査
目の詳細なチェックに欠かせない細い光(スリットランプ)を当てて、角膜の傷の深さや水晶体の異常などを観察する検査を行います。
- フルオレセイン染色
角膜表面を染色して、角膜の傷を調べる検査です。結膜炎に続いて角膜炎を発症している場合があるため、検査を行います。角膜にある目の傷は、この検査によって小さな傷まで確認できます。
- シルマーティア試験
涙の量を調べる検査です。涙を吸い込む試験紙をまぶたの間に挟んで、どれくらい涙が染み込むかを観察します。この検査では、乾性角結膜炎やドライアイを確認することが可能です。乾性角結膜炎によって涙の量が減少してドライアイになることもあれば、ドライアイが原因で目の表面に細菌が付着して結膜炎を引き起こすこともあります。
- 眼圧検査
眼の圧力を測定する検査です。眼圧が上昇すれば緑内障、眼圧が低下すればブドウ膜炎が疑われます。
- 眼底検査
眼底を観察する検査です。網膜疾患や高血圧などがわかります。
- 細菌検査・細胞診
犬の結膜炎の症状が改善しない場合に実施します。眼球の表面の細胞を綿棒で軽くぬぐって細菌や細胞を採取し、顕微鏡で細菌の有無や増殖している細胞の種類を確認。そのうえで効果的な薬を決定します。
- アレルギー検査
犬のアレルゲンを特定するための検査です。犬にアレルギー性結膜炎が疑われる場合に実施します。
- 血液検査
犬の結膜炎が別の基礎疾患に起因していることが疑われた場合に、血液検査を実施します。
治療方法
結膜炎の原因が多いぶん、治療方法も様々な種類があります。
- 細菌、アレルギーが原因の場合
抗生剤や抗炎症剤の点眼薬、内服薬、注射を使用します。真菌には抗真菌薬の点眼薬、アレルギーが原因の結膜炎の場合はステロイドの点眼薬をさします。症状が重い場合は内服薬も使います。また特定のアレルゲンを避けた生活をすることで、症状は完治に向かいます。
- 寄生虫が原因の場合
犬の目から結膜炎の原因となっている寄生虫(主に東洋眼虫)を取り除いた後、点眼薬をさします。駆虫薬を投与する場合もあります。
- 涙の量の減少が原因の場合
涙の量が減って、涙の質が低下すると、乾性角結膜炎を発症します。その場合は、人工涙液や免疫抑制剤による治療を行います。
- 異物混入が原因の場合
異物が刺激と腫れを引き起こしている場合は、洗浄によって異物を取り除きます。治療で目をさらに傷つけることがないように全身麻酔をかけて異物を取り除く場合もあります。炎症がひどい場合は、内服薬も使います。
- 眼瞼内反の場合
犬のまぶたが眼球側に向かって入り込んでいかないように手術をします。難易度の高い手術であるため、対応できる病院は限られます。
- 他の疾患が原因の場合
結膜炎の主な症状である目の充血や腫れ、涙などは、目の表面にある角膜の傷や他の眼疾患に起因して起きている可能性があります。そのため、結膜炎の治療と同時に、原因となる疾患の治療も必要です。たとえば、逆さまつ毛や目の周りの毛が原因ならば取り除きます。もし、床や壁に目を擦りつけることで炎症が悪化している場合は、エリザベスカラーを装着して治療します。
犬の結膜炎の予防方法
結膜炎を完全に予防する方法はありませんが、早期に発見することで、軽症のタイミングで治療可能です。軽症であれば1~2週間ほどの短期間で完治することもありますし、結膜炎の原因となっている他の深刻な目の病気も発見できます。
症状が重い場合は、まぶたが炎症を起こして腫れてかゆみがひどくなります。目の粘膜がむくんでしまうと、粘膜同士や粘膜と眼球の表面が癒着を起して、視覚障害に発展する可能性も考えられます。また、角膜に激しい痛みのある炎症が広がると失明するリスクもあるため、結膜炎の症状が見られたら、症状が悪化する前に早めに動物病院に連れていってください。
目の異常にいち早く気づくためにも、日常的に愛犬の目の状態をチェックしてみることをおすすめします。いつもチェックしておけば「今日は目やにが多いな」「目を開きづらそうに細めているな」といった違和感に気づくことができるでしょう。花粉やハウスダストなどのアレルギー、逆さまつ毛や目の周りの長い毛などによる刺激が原因の場合は、獣医師の指示に従って原因を避ける対策を取ってください。
犬の結膜炎は人にうつるのか
犬の結膜炎は人にうつりません。ただし、ウイルス感染や細菌感染が原因となって発症する「感染性結膜炎」は、一緒に飼っている犬など、近くにいる別の犬にうつる可能性があります。感染を防ぐためには、愛犬に触れる前も、愛犬に触れた後も、石けんでの手洗いを徹底してください。また、結膜炎が治るまでは、食器や寝床をわけてください。それらもこまめに洗って清潔な状態を保ちましょう。ペットシッターにお世話を依頼する場合は、感染予防についての情報を共有しておかなければなりません。
まとめ
結膜炎は人間の症状と似ているため、比較的気づきやすい病気です。愛犬の白目が充血していたり、涙や目やにが出やすくなったり、前足でかくしぐさや目が開きにくそうな様子がみられたら、早めに動物病院を受診しましょう。適切な治療をしないと角膜炎になってしまう恐れや視覚障害・失明につながる場合もありますので、軽く考えずに早めの治療をおすすめします。