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兵庫ペット医療センター東灘、獣医皮膚科学会、VET DERM TOKYO 皮膚科第1期研修医
愛犬のまんまるな黒目が、ある日突然斜視になったら心配ですよね。「ものが見えづらくないか」「何かの病気じゃないか」と不安になるでしょう。犬の斜視は先天的なものと後天的なものがあります。後天的な斜視は重い病気の症状である可能性もあるため、注意が必要です。この記事では、犬が斜視になる理由や、病気かどうか見分けるサインについて紹介します。愛犬の斜視について獣医師に相談する前の参考にしてください。
目次
- 犬の斜視とは
- 犬の斜視には先天性と後天性がある
- 斜視の治療の必要性
- 遺伝性の斜視と病気による斜視を見分けるサイン
- 斜視を伴う病気
- まとめ
犬の斜視とは
斜視とは、黒目が視線の先を向かない状態のことです。斜視の症状は原因によってさまざまで、両目に表れることもあれば、片目のみに表れる場合もあります。黒目が内側に向くものは内斜視、外側に向くものは外斜視と呼ばれていて、上下や斜めを向くこともあります。
犬が斜視になると目の焦点が合いづらくなり、ものが2つに見える「複視」や、2つのものが同じ位置に見える「混乱視」が発生します。こうした視界を改善しようと、片目をつぶることもあるでしょう。また、視界が悪いため、歩くスピードがゆっくりになったり、壁にぶつかったり、おもちゃなどを咥えづらかったりといった行動の変化が起こることもあります。
犬の斜視には先天性と後天性がある
生まれつき斜視の犬と、後天的に斜視になる犬がいて、それぞれ原因が異なります。ここでは、先天性と後天性の斜視の原因について解説します。
先天性の斜視
斜視が発生しやすい犬種もいます。毛色や体長の特徴と同じように、遺伝子によって目やその周辺の構造が決められていることが理由です。斜視の表れ方は、身体のどの部分が原因になっているかによって異なります。
顔の骨格が原因の場合は、外斜視が発生します。眼窩のサイズが小さくて、本来は中に収まるはずの眼球が押し出されていることが理由です。そのため、眼球が大きい犬種に起こりやすいと言われていて、パグやキャバリア、ブルドッグ、ペキニーズなどが当てはまります。また、チワワやポメラニアン、トイプードルなどの小型犬にも先天性の外斜視が見られます。
内斜視の場合は、網膜や眼神経の構造が原因で発生します。毛色がブルーマール(シルバーの斑模様)のシェットランド・シープドッグに多く見られる特徴です。網膜や眼神経に異常をもたらす遺伝子によって、目で見た情報が正常に脳に届かないことから、視野を安定させるために寄り目の状態になります。
後天性の斜視
成長期や、成犬になった後に斜視になるケースもあります。原因は、骨格の変化もしくは病気・けがのどちらかです。骨格の変化が理由の場合は、先天性の場合と同じく病気ではありません。ただし、病気やけがが理由の可能性もあるので、動物病院に相談して診断してもらいましょう。愛犬に治療が必要かどうか見分ける方法については、以下で紹介しています。
斜視の治療の必要性
家族としてお迎えする前から斜視だった場合は、遺伝性の可能性が高いです。特別な治療は必要ないことがほとんどですので、愛犬の個性として受け入れましょう。斜視によってものが見えづらかったり、歩きづらそうだったり、生活に支障をきたしている場合は動物病院に相談してください。
愛犬をお迎えして月日が経ってから斜視へと変化した場合は、病気の可能性もあります。早めに獣医師に相談して、必要に応じて適切な治療を受けることが大切です。
遺伝性の斜視と病気による斜視を見分けるサイン
病気が原因で斜視になっている場合は、他の神経症状が見られる可能性も高いです。下記のような症状が見られた場合は、早急に動物病院に相談してください。
・同じ場所を何度もくるくる回っている(旋回運動)
・眼球が往復するように揺れつづけている(眼振)
・歩き方がふらふらしている
・呼びかけても反応がぼんやりしている
・攻撃的な性格になった
・眠りつづけていて、少しの刺激では目覚めない
・食欲がなくなる
・痙攣を起こしている
斜視を伴う病気
斜視やそれに近い症状が出る病気は、主に3つあります。それぞれの症状や対処方法、かかりやすいと言われている犬種を紹介します。
1. 脳腫瘍
脳にできる腫瘍の総称で、腫瘍によって神経が圧迫されることでさまざまな症状が表れます。原因が解明されていないので、予防することは難しいです。
· 症状
初期の段階で、痙攣の発作がみられることが多いです。眼球が上下左右に振れる「眼振」が発症することがあるため、愛犬の斜視に気づいた場合は黒目の動きを注意深く観察してください。
また、体や首を傾けて平衡感覚を失っているような様子を見せたり、歩き方がふらついたりといった認知症と似た症状も見られます。高齢犬がかかりやすい病気なので、「年齢的に足腰が弱っているから」と決めつけることなく、検査を行うことが大切です。
· 対処方法
腫瘍が大きくなるほど症状も悪化するため、獣医師に早めに診断してもらうことで、愛犬が苦しい思いをするのを避けることができます。診断後は、投薬や手術によって腫瘍そのものを取り除いたり、症状を軽減したりすることで治療します。
· かかりやすい犬種
どの犬種、性別、年齢の犬も発症する可能性がある症状です。とくに5歳以降の中齢〜高齢の犬に多い傾向があります。ボクサー、ゴールデン・レトリーバー、ボストンテリア、フレンチブルドックなどが好発犬種として挙げられています。
2. 前庭疾患
鼓膜の奥にある前庭部が正常に働かなくなることで起きる疾患です。外耳炎の悪化によって発症することもありますが、多くは突発的に発症するため予防は難しいと言われています。
· 症状
前庭部は体のバランスを司っている部位なので、脳腫瘍と同じように眼球や体全体が傾くといった症状が出ます。片方の耳を地面に向けて傾ける姿勢や、左右どちらかに倒れ込むような歩き方をしている場合は、前庭疾患の可能性が高いでしょう。黒目が上下左右に震える「眼振」や、同じ場所を何度もぐるぐると回る「旋回運動」なども前庭疾患の特徴的な症状です。
さらに、前庭部の異常によって平衡感覚が失われると車酔いのような状態になるため、食欲不振や嘔吐などの症状も出ることもあります。ある程度回復してからも数週間〜数ヶ月間は後遺症がつづく可能性があるようです。
· 対処方法
嘔吐や食欲不振などの症状が見られる場合は、投薬による対症療法を行うこともあるようです。検査で前庭疾患の原因になっている病気が判明した場合は、原因疾患の治療を行います。腫瘍が原因の場合は手術で取り除くこともあります。
回復するまでは、犬がバランスを上手く取れずに怪我をする可能性があるでしょう。そうした健康二次被害を防止するために、犬の生活範囲を狭めて階段や段差などに近づけないようにしてください。
· かかりやすい犬種
どの犬種、性別、年齢の犬にも発症する可能性がありますが、とくに高齢の犬に多くみられます。好発犬種は、柴犬や柴犬ミックスです。
3. 水頭症
脳室に髄液が過剰に溜まることで、脳を圧迫して障害を起こす病気です。生後2〜3ヶ月以降に発症する先天性のものと、後天性のものがあります。
· 症状
症状は、圧迫されている箇所やその大きさによって異なります。無症状のこともあれば、ぼんやりしたり、よく眠ったりといった認知症のような症状が出ることもあります。他にも、旋回運動、四肢のふらつき、てんかんの発作、性格の変化などさまざまです。また、目が外の下方向を向いている「外腹側斜視」や、頭の形がドーム状に大きく膨れるなどの外見上の変化も見られます。
· 対処方法
獣医師による精密検査の結果、水頭症だと判明した際は投薬治療を行います。利尿剤やステロイド剤を投下することで、脳髄液の量を抑えて脳圧を低下することが可能です。場合によっては外科手術を行うこともあります。脳室にチューブをつけて脳髄液を外側に逃すことで、脳圧を下げる治療法です。
· かかりやすい犬種
どの犬種もかかる可能性があり、特に小型犬や短頭種に多い病気です。好発犬種はチワワ、トイプードル、パグ、マルチーズ、ヨークシャテリア、ブルドッグなどが挙げられています。
まとめ
黒目が視線とは別の方向になり、目の焦点が合わなくなっている状態が斜視です。犬の斜視には先天性と後天性があり、後天性の場合は神経性の病気のサインである可能性があります。症状が悪化すると痙攣が起きたり、起き上がれなくなったりするため、早めの対応が大切です。かかりつけの獣医師に相談し、適切な治療を受けましょう。