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明石むかい動物病院院長。獣医麻酔外科学会、獣医がん学会。
しらすとは、イワシ類を中心とした稚魚の総称です。カルシウムがとれて朝食のお供になることが多い食材ですが、人間と同じように犬にとっても栄養豊富で健康に好影響をもたらします。しらすは一匹あたりのサイズが小さいため、犬にとって食べやすく安心して与えられる食材です。犬用のしらすも販売されていますが、人間用に販売されている釜揚げしらすやちりめんじゃこを与えるときは注意が必要です。この記事では、しらすが犬の健康に良い理由や与え方について詳しく解説します。
目次
- 犬にしらすを食べさせても大丈夫か
- しらすに含まれる栄養素
- 1日に与えても良いしらすの量
- 犬にしらすを食べさせるメリット
- 犬にしらすを与える際の注意点
- まとめ
犬にしらすを食べさせても大丈夫か
結論としては、犬にしらすを与えても大丈夫です。しらすは小さいので、超小型犬から大型犬、子犬、シニア犬と体格や年齢問わず食べやすく、害となる成分も含まれていません。しらすは、イワシをはじめとするさまざまな魚の稚魚で、骨ごと食べることができます。カルシウムが豊富に含まれているうえに、低カロリーで高たんぱくです。人間と同様に、犬にとって必要な栄養素がたくさん含まれています。
新鮮なしらすであれば、愛犬に生で与えてもかまいません。むしろ、人間用に加工されたしらすを与えるときに、塩分に注意しなければなりません。人間用に加工されたしらすは、多くは塩水で煮沸した「釜揚げしらす」か、釜揚げしらすを天日で干した「ちりめんじゃこ」です。犬が食べるものとしては塩分が多くなるので、塩抜きをしてから与えるようにしましょう。
塩抜きの手順はとても簡単で、茶こしやザルにしらすを広げて、沸騰したお湯を回しかけるだけで完了です。少量をドッグフードにふりかける程度であれば、塩分を気にすることはないでしょう。心配であれば、犬用に作られたしらすが販売されていますので、購入を検討してください。
しらすに含まれる栄養素
犬の健康に好影響をもたらす栄養素と、体内での働きについて紹介します。
カルシウム
カルシウムは骨や歯の形成に欠かせない栄養素です。しらす100gあたり約190㎎のカルシウムが含まれています。乾燥させてあるほどカルシウムの含有量は増えます。そのため、新鮮なしらすを釜でゆでて水分が蒸発する程度に軽く天日干しをした「釜揚げしらす」よりも、釜でゆでた後にしっかりと乾燥させた「ちりめんじゃこ」の方が、カルシウムが豊富ということになります。
もし、市販のドッグフードではなく手作りのフードを与えている場合は、カルシウムが不足しがちになりますので、しらすをふりかけのようにかけてカルシウムを補給しても良いでしょう。しらすは骨が柔らかいため、子犬やシニア犬にも安心して与えることができます。
ナトリウム、カリウム
しらすには、ミネラルであるナトリウムとカリウムが含まれています。ナトリウムとカリウムは、お互いに作用しながら、水分バランスを維持したり、血液の浸透圧を調整したり、神経の情報伝達をサポートするなどの役割を担っています。
ただし、ナトリウムとカリウムは塩分ですので、過剰に摂取すると腎臓に負担がかかってしまいます。
セレン
セレンは、とても強い抗酸化作用があるミネラルです。ビタミンEと一緒にとることで、一層の効果を発揮します。セレンが不足すると、心筋や筋力の低下につながります。また、妊娠している母犬に、ビタミンEとセレンが不足すると、子犬の筋肉の萎縮や成長阻害、免疫低下、虚弱などの症状が出る可能性があります。
リン
リンもミネラルの一種です。リンはカルシウムと同じく、骨や歯の形成に欠かせない栄養素です。また、神経や筋肉の動きを助ける役割を担っています。適量であれば健康をサポートしてくれますが、とりすぎると体内でミネラル成分が固まって、ストルバイト結石やシュウ酸カルシウム結石といった尿路結石を発症する原因となります。
コレステロール
コレステロールは人間の生活習慣病の原因となりますので、しらすを与えたくなくなるかもしれませんが、とりすぎなければ健康に良い効果を与えます。たとえば、ミネラルの吸収をサポートするビタミンDを作り出したり、ホルモンの原料になったりします。
1日に与えても良いしらすの量
しらすは犬にとっておやつにあたりますので、適正な摂取量は1日の食事量の10%程度までです。犬が必要とする栄養は基本的にドッグフードだけで賄えますので、総合栄養食であるドックフードを与えている場合は、犬の食欲が落ちたときや、ごほうびのおやつとして与えてあげるだけで充分です。トータルの摂取カロリーが多くなりすぎないよう注意しましょう。
◆体重が1~4kg未満の超小型犬
チワワ、トイ・プードル、マルチーズ、ポメラニアン、ボロニーズ、“豆柴”と呼ばれる柴犬の中でも特に身体が小さい個体などは、しらす10~20g程度。
※“豆柴”は正式な犬種名ではありません。
◆体重が10kg以下の小型犬
シー・ズー、柴犬、パグ、ミニチュア・ダックスフンド、ペキニーズなどは、しらす30~50g程度。
◆体重が25kg以下の中型犬
日本スピッツ、ビーグル、バセット・ハウンド、ブルドッグ、ボーダー・コリーなどは、しらす50~100g程度。
◆体重が25~40kgの大型犬
ゴールデン・レトリーバー、グレート・デン、シベリアン・ハスキー、ダルメシアン、サモエド、セント・バーナード、ボクサーなどは、しらす100~140g程度。
犬にしらすを食べさせるメリット
しらすは、犬の栄養補給と健康的な見た目の維持につながります。それぞれ詳しく解説します。
カルシウムを補える
愛犬に手作りフードを与えている場合、カルシウムが不足しがちになるようです。ふりかけのようにしらすをフードにかける、あるいは、おやつとして与えれば、手軽にカルシウムを補うことができます。カルシウムの含有量が多いちりめんじゃこを与える場合は、お湯をかけて塩抜きをしてから与えると塩分を抑えられますので安心です。
皮膚や毛の健康を維持できる
しらすにはEPAやDHAといったオメガ3脂肪酸が豊富に含まれています。オメガ3脂肪酸が不足すると、被毛の変色や脱毛が見られたり、うろこ状のフケが出たり、皮膚が脂ぎったり、アレルギー症状が出たりします。健康維持に必要なオメガ3脂肪酸は、体内で作ることができません。そこで、しらすが重宝します。しらすを食べることによって、毛艶が良くなったり、皮膚の健康が保たれたり、免疫力が向上したり、炎症が治まったり、血栓症やガンを予防したりと、さまざまな健康効果が期待できます。
犬にしらすを与える際の注意点
しらすは犬の健康に良い影響を与えますが、摂取量や頻度には注意が必要です。また、しらすと相性の悪い病気もあります。犬にしらすを与えるときには、以下に挙げる事柄に気をつけてください。
少しずつ与えてアレルギー反応を確認
しらすには、さまざまな魚介類の稚魚が混じっています。もし、愛犬が魚にアレルギーを持っている場合は、アレルギー反応が出る可能性が高いでしょう。アレルギーの初期症状は、皮膚が赤くなったり、身体をかゆがる仕草をみせたり、フケが出るといったものです。症状が進むと下痢や嘔吐など体力を消耗するような症状が出ます。
しらすを初めて与える際は、ひとつまみ程度の量を食べさせるところから始めてください。愛犬の様子に異変はないかを観察しながら、大丈夫であれば、徐々に量を増やしていくと良いでしょう。量を増やす過程でも愛犬の様子を観察してください。もし、体調不良を起こしたら、動物病院に連れていきましょう。同じことを繰り返さないためにも詳しいアレルギー検査を受けて、他の食物アレルギーがないか確認してみることをおすすめします。
塩分をとりすぎると消化不良になる
人間用に加工されたしらすは塩分が多いので、与える量に注意します。また、与える際は塩抜きをするようにしましょう。熱湯をかけて塩抜きをすれば、約40%の塩分を取り除くことができるようです。
また、消化器官が未発達の子犬や、身体の機能が弱っているシニア犬は、消化不良を起こしやすいので特に注意が必要です。なお、シニア犬は腎臓が弱い場合も多いので、与える際はごく少量にとどめてください。
尿路結石や甲状腺機能低下につながるリスクも
しらすは、毎日食べさせるのではなく、週1~2回程度に抑えましょう。しらすに含まれるカルシウムを毎日のように多くとってしまうと、腎臓から尿道までの尿路に結石が生じる「尿路結石」を患う危険が高まります。特にオス犬は尿路結石になりやすいと言われています。尿路結石の症状は「トイレの回数が多くなる」「尿が出にくくなる」「頻尿になる」「尿に血が混ざる」「排尿の痛みで鳴き声を上げる」「元気がない」といったものです。症状が悪化すると結石が尿道を塞ぎ、膀胱破裂など命にかかわる事態になってしまいますのでご注意ください。
また、しらすに含まれるヨウ素を多量に摂取することで、代謝を活発にする甲状腺ホルモンの分泌が低下し(甲状腺機能低下)、寒がったり、太りやすくなったり、左右対称の脱毛や尾の脱毛が見られたり、疲れやすく元気がなくなったりする症状が見られます。気になる様子が見られたら、動物病院を受診してください。
腎臓病の犬には与えない
しらすは、他の魚と同様、動物性たんぱく質が多い食べ物です。釜揚げしらすでいえば、2割弱のたんぱく質と8割弱の水分でできています。腎不全を患っている犬は、人間と同じように、たんぱく質の代謝の過程で生じる毒素を排出することができません。愛犬に腎臓病の療法食を与えている場合は、しらすを食べさせないでください。
まとめ
しらすは、カルシウムやオメガ3脂肪酸などの栄養を吸収でき、犬の健康に好影響をもたらす食べ物です。手作りフードのトッピングやご褒美のおやつとして与えてみてはいかがでしょうか。
与えるときは、魚アレルギーに注意することはもちろんですが、塩分にも注意しましょう。人間用に市販されている釜揚げしらすやちりめんじゃこは、犬にとって塩分過多になりますので、必ず塩抜きをしてから与えてください。できれば、無塩のしらすか、犬用のしらすを。病気を誘発するリスクがぐっと少なくなりますので、安心して愛犬の健康管理ができるでしょう。
なお、しらすを初めて与えるときは少量ずつ与えてアレルギー反応が出ないことを確認しながら、与える量を増やしていってください。しらすを食べた後で、皮膚の赤みやかゆみ、下痢や嘔吐などの症状が見られた場合は、様子を見ずに、できるだけ早く動物病院に連れていってください。