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札幌市、平岡動物病院の院長。主に呼吸器、整形、眼科、歯科の外科とエキゾチックアニマル診療を中心に力を入れている。趣味は娘と遊ぶこと。
大切な愛犬の命を守るために欠かせないのがワクチン接種です。日本では、狂犬病ワクチンは法律で義務づけられているため、必ず接種しなければいけません。その他、感染症予防のために接種を推奨されているワクチンもあります。
この記事では、ワクチンを接種するタイミングや愛犬に必要なワクチンの種類について解説します。ワクチン接種時の注意点も取り上げますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
- 犬のワクチンは毎年必要?接種しないとどうなる?
- 犬に必要なワクチンの種類と概要
- 混合ワクチンは何年に1回接種する?
- 狂犬病ワクチンと混合ワクチンはどちらを優先して接種する?
- 犬のワクチン接種をするときの注意点
- まとめ
犬のワクチンは毎年必要?接種しないとどうなる?
犬のワクチンの種類はいくつかありますが、毎年接種が必要なのは狂犬病ワクチンです。狂犬病ワクチンは、1950年に狂犬病予防法が制定され、法律で義務付けられています。そのため、毎年接種しなければいけません。
万が一、狂犬病ワクチンの接種をしないでいると、20万円以下の罰金が科せられます。
狂犬病予防法が制定されるまでの日本では、多くの犬が狂犬病を発症していました。狂犬病は人にも発症するため、狂犬病を発症した犬に嚙まれて死亡に至るケースもあったほどです。
しかし、狂犬病予防法が制定された今、日本では65年以上、狂犬病は発生していません。
犬に必要なワクチンの種類と概要
犬に接種が必要なワクチンは、狂犬病ワクチンだけではありません。推奨されているワクチンも含めて、犬に必要なワクチンの種類について解説していきます。
狂犬病ワクチン
狂犬病ワクチンは、厚生労働省が定める狂犬病予防法によって、犬が接種するワクチンの中で唯一、法律で義務付けられているワクチンです。
狂犬病ワクチンは、生後3ヵ月以降の犬が対象となっており、年1回の接種が定められています。また、接種時期も決まっており、毎年4月1日~6月30日の間に接種しなければいけません。自治体によっては、集合注射会場で狂犬病ワクチン接種と同時に、犬の登録も可能です。
狂犬病ワクチンの接種費用は動物病院によって異なりますが、3,000~4,000円が相場となっています。
コアワクチン(混合ワクチン)
強制ではありませんが、接種を強く推奨されているのがコアワクチン(混合ワクチン)です。
コアワクチンは、おもに犬同士の感染を防ぐために接種が推奨されています。そのため、ドッグランやペットホテルなど、たくさんの犬と接触する施設では、コアワクチンの接種証明書を求められることが多くなっています。
コアワクチンで予防されるおもな感染症は、以下の3つです。
1. 犬ジステンパーウイルス(CDV)
2. 犬アデノウイルス(CAV1および2型)
3. 犬パルボウイルス(CPV-2)
犬ジステンパーウイルスとは、空気や飛沫によって感染する伝染病です。人にうつる心配はありませんが非常に感染力が強いため、場合によっては下半身まひや異常行動を起こす可能性もあります。また、子犬が感染すると重症化しやすいのも特徴です。
初期症状は食欲不振や発熱ですが、徐々に症状が進行していくと嘔吐や下痢、結膜炎による目ヤニが出てきます。脳にまでウイルスが到達すると、最悪のケースに陥ることもあります。
犬アデノウイルスとは、排泄物や飛沫によって感染する伝染病です。犬アデノウイルスには、犬伝染性肝炎と犬伝染性喉頭気管炎の2種類があります。
犬伝染性肝炎の症状は、食欲低下や発熱、下痢などがみられます。また、肝炎により腹水が溜まったり血便や皮膚に点状出血が起こることもあり、最悪の場合、突然死する可能性がある怖い病気です。
犬パルボウイルスとは、嘔吐や下痢を伴う感染症です。犬パルボウイルスは数ヵ月も生存するほど感染力が高いため、免疫力の弱い犬が感染すると死亡に至るケースがあります。飼い主の服や手に付いたウイルスからも感染するため、しっかりとした予防が不可欠です。
これらのコアワクチンは、一般的に3種類以上の混合ワクチンが推奨されています。近年の研究では、3年に1回のペースでもワクチン効果が持続することが証明されていますが、施設によっては1年以内の接種証明書の提示が求められます。
コアワクチンの費用ですが、ワクチンの種類や混合数によっても異なります。一般的に3種混合で3,000~5,000円ほど、5種混合で5,000~7,500円ほどが相場です。
ノンコアワクチン(混合ワクチン)
強く推奨されているわけではありませんが、特定感染症を予防するために接種を推奨されているのが、ノンコアワクチン(混合ワクチン)です。
ノンコアワクチンの接種で予防される感染症は、おもに以下の3つが挙げられます。
1. パラインフルエンザ
2. 犬コロナウイルス
3. レプトスピラ
パラインフルエンザは、犬の風邪といわれている病気です。乾いた咳や発熱を伴い、症状が重くなると肺炎を引き起こします。
犬コロナウイルスは、消化器系の感染症です。犬コロナウイルスは、コロナウイルスを含む糞便を犬が口にすることで感染します。感染すると、食欲不振や下痢、嘔吐などの症状がみられます。
レプトスピラは、おもにレプトスピラを含む尿や尿に汚染された土壌の接触することで起こる感染症です。レプトスピラの怖いところは犬から人へ感染し、肺出血、腎不全などの障害が起こることです。犬がレプトスピラに感染すると、肝炎および腎炎になる可能性があります。軽度であれば、自然治癒することもあります。
これらは、コアワクチン対象の感染症に比べ危険度は低いですが、多くの犬と接触する機会が多い場合は、接種しておくことが望ましいといわれています。実際に、接種が必要かどうかは、かかりつけの動物病院で相談することをおすすめします。
ノンコアワクチンの費用は、混合するワクチンの種類によって異なりますが、5,000~10,000円が相場とみておいていいでしょう。
混合ワクチンは何年に1回接種する?
狂犬病ワクチンは前項でもお伝えしたように、年1回の接種が義務づけられています。一方で混合ワクチンの接種タイミングは、状況により異なります。
コアワクチンを接種する場合は、コアワクチンの抗体検査を受け十分に効果が残っていることを確認できれば3年に1回を目安に接種するといいでしょう。
ただし、多くの犬と接触する機会が多かったり、施設を頻繁に利用したりする場合は、年1回を接種しておくと安心です。また、ノンコアワクチンも接種している場合も、同様に年1回を目安に接種しましょう。
一方で、ノンコアワクチンの接種タイミングは、年1回が推奨されています。しかし、実際のタイミングは、動物病院で相談しながら決めましょう。
狂犬病ワクチンと混合ワクチンはどちらを優先して接種する?
家族として愛犬を迎え入れるには、ワクチン接種のタイミングを知っておかなければいけません。狂犬病ワクチンと混合ワクチンでは、どちらを優先して接種する方がいいのでしょう。
ここからは、2つのケースに分けて、それぞれのワクチンの優先度を紹介します。
混合ワクチンが1年以上過ぎている場合
狂犬病ワクチンと混合ワクチンどちらも接種期間内であれば、狂犬病ワクチンを優先して接種するほうが望ましいとされています。その理由は、国内にはない感染を予防するためです。
また、狂犬病ワクチンの接種期間内かつ、混合ワクチンの接種が前回よりも1年以上過ぎている場合は、混合ワクチンを優先的に接種しましょう。
コアワクチンのワクチン接種は、抗体検査によっては3年に1回の頻度でも問題ありませんが、ドッグランやペットホテル、トリミングなどを使う方は、今年度の接種証明書の提示を求められることがあるので、1年に1回の接種をしておく方が安心です。
狂犬病ワクチンの接種期間が過ぎ混合ワクチンが1年以上経っている場合
狂犬病ワクチンの接種期限が過ぎている場合は、早急に狂犬病ワクチンから摂取をするようにしましょう。狂犬病ワクチンは、毎年接種が義務づけられているワクチンです。本来であれば、接種期限が過ぎることはあってはいけません。
たとえ、混合ワクチンの接種期間が1年以上過ぎていても、狂犬病ワクチンを優先するようにしてください。
ワクチンの接種タイミングに不安のある方は、かかりつけの獣医に相談してみることをおすすめします。
犬のワクチン接種をするときの注意点
続いて、犬のワクチン接種をするときの注意点を見ていきましょう。ワクチンの種類によっては副作用が出ることもあるので、愛犬の体調を見ながら接種を進めてみてください。
ワクチンは午前中に接種する
飼い主の都合がつくようであれば、ワクチンはなるべく午前中に予約をし、接種するようにしましょう。万が一、ワクチン接種をした後に愛犬に異変が起きても、動物病院が営業している時間に対応してもらいやすいためです。
接種後の体調や変化を確認する
犬によっては、ワクチンの副作用が出ることもあります。そのため、ワクチン接種後はなるべく安静にし、体調の変化を確認するようにしましょう。とくに、ワクチン接種から1時間は慎重に確認してみてください。
シャンプーは後日行う
シャンプーは念のため、後日にするのが理想です。もしくは、ワクチン接種前に済ませておくのもいいでしょう。トリミングが必要な犬種なら、事前に済ませておくのもおすすめです。
まとめ
犬へのワクチン接種は、愛犬を守るだけでなく人やほかの犬に対しても大切なものです。
日本で狂犬病が長く発生していないのも、狂犬病ワクチンが法律で義務付けられていることが大きな理由です。狂犬病ワクチンは毎年の接種が欠かせません。また混合ワクチンも、愛犬の置かれている状況によっては毎年の接種が必要になってくるでしょう。
最適な接種期間は、担当の獣医師と相談してみることをおすすめします。