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上京どうぶつ病院院長。北里大学出身。日本獣医生命科学大学付属動物病院にて研修後現職。
愛犬がトイレ以外でおしっこをする場合、愛犬がそうしたいと思っていないのに無意識で失禁してしまう場合があります。心身の病気やケガをしている可能性もありますので、決して叱らないでください。原因は、恐怖や不安によるもの、生まれつきのもの、成長過程によるもの、加齢によるもの、ケガによるものなど様々です。ここでは、尿漏れの原因、考えられる病気や治療法などを解説します。
目次
- 犬が尿漏れする原因|子犬の場合は?
- 犬の尿漏れで考えられる病気と治療方法
- 犬が尿漏れしたときの対処方法
- まとめ
犬が尿漏れする原因|子犬の場合は?
恐怖や不安
犬は恐怖や不安といったストレスを感じたときに、尿漏れを起こすことがあります。たとえば、耳をつんざくような大きな雷鳴や立っていられないほどの大きな地震は、人間ですら身の危険を感じます。人間よりも身体が小さく、自然現象の発生のメカニズムもわからない犬であれば、恐怖や不安は相当大きなものになるでしょう。
また、別の犬や猫が家族の一員として新たに迎えられるといった環境の変化によっても、自分の地位が脅かされるのではないかという不安を感じて、尿漏れを起こすようです。飼い主の留守中に分離不安の症状を起こしたときも同様です。
興奮
子犬は興奮しすぎて尿漏れを起こすことがよくあります。いわゆる「うれしょん」と言われる状態です。飼い主になでられてうれしかったり、遊んでもらってはしゃぎ過ぎたりしたときに、おしっこが出てしまいます。これは、お漏らしというより、愛情表現です。甘えや服従心を意味していると言われています。
好奇心が旺盛で感情を抑えられない子犬、膀胱括約筋という尿を溜めておく筋肉をまだ自分でコントロールできない子犬、服従心や依存心が強い犬に見られるようです。多くの場合は成長することで解消されます。
先天性の尿路疾患
大型犬に見られる、先天性の「異所性尿管」である可能性があります。おしっこは、腎臓で作られ、尿管を通って膀胱に運ばれます。異所性尿管である場合は、左右の腎臓から出ている尿管(片方あるいは両方)が、膀胱以外の所につながっている疾患です。
そのため、膀胱におしっこを溜めることができずに常に尿が漏れたり、おしっこをするタイミングがうまく合わず尿漏れを起こしたりしてしまいます。主にメスの子犬に多く見られるようです。好発犬種としては、ワイヤー・フォックス・テリア、ウェルシュ・コーギー・カーディガン、シベリアン・ハスキー、トイ・プードルなどが挙げられます。
膀胱機能の疾患
ホルモンや神経系の要因で膀胱機能が低下し、尿漏れを起こす場合もあります。避妊・去勢手術をした後に、ホルモンのバランスが崩れて尿道の筋肉がゆるみ尿漏れを起こす「ホルモン反応性尿失禁」という疾患が原因の1つです。特に高齢のメス犬に起きやすく、女性ホルモンの分泌不足によって尿道括約筋(この筋肉が収縮することで膀胱に尿を貯めやすくなる)の働きが低下して、尿漏れを起こしやすくなります。起きているときではなく、寝ているときに漏らすことが特徴です。
また、膀胱の神経が過敏になって勝手に膀胱が収縮することでも尿漏れを起こします。膀胱の筋肉がゆるんで収縮できなくなったために、常に膀胱がいっぱいになって尿があふれ出てしまう場合もあります。
犬の尿漏れで考えられる病気と治療方法
ケガや病気でおしっこを漏らす場合もあります。骨折などの外傷、脊椎骨折、椎間板ヘルニア、脊椎腫瘍、脳腫瘍などで中枢神経が傷ついて、尿道括約筋機能の障害が起きることが原因です。ここでは、3つの病気と治療法をご紹介します。
異所性尿管
異所性尿管は、左右の腎臓から出ている尿管(片方あるいは両方)が、膀胱以外の所につながっている生まれつきの疾患です。メス犬に多く見られる傾向があり、尿管が尿道に直接つながっているほか、子宮や膣につながっていることもあります。尿管が直接尿道につながっていると持続的な尿漏れが起きますし、尿は酸性であるため膣や外陰部に炎症を起こす場合もあります。
異所性尿管は、生後3~6か月齢位の幼若犬に見つかることが多く、メス犬はオス犬よりも発生頻度が高いと言われています。また、好発犬種は、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、フォックス・テリア、ミチュア・プードル、トイ・プードル、シベリアン・ハスキー、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバーです。異所性尿管の診断は、静脈内に投与された造影剤によるX線検査・超音波検査でわかります。
一般的な治療方法は、外科手術です。膀胱以外につながっている尿管を、正しい場所である膀胱につなげる手術です。尿漏れが完全に治らない場合は内服薬を併用し、細菌感染がある場合には抗生剤も投与します。なお、重度の症状がある場合は、尿管と腎臓を摘出することもあります。
椎間板ヘルニア
椎間板とは、背骨の骨と骨の間にあってクッションの役割を果たしている部分です。椎間板が変形して飛び出し、背骨にある脊髄神経を圧迫して神経障害を起こす病気を椎間板ヘルニアと言います。椎間板ヘルニアは、犬の神経疾患で最も多い病気です。椎間板ヘルニアになると、首や腰に痛みが出たり、足が麻痺して歩行に異常が見られたりします。ヘルニアが発生する場所によっては、尿が出なくなる場合もあれば、尿漏れを起こす場合もあります。
好発犬種は、ミニチュア・ダックスフンド、ペキニーズ、トイ・プードル、コッカー・スパニエル、ウェルシュ・コーギー、シー・ズーといった「軟骨異栄養性犬種」と、柴犬、ジャーマン・シェパード、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバーなどの「非軟骨異栄養犬種」です。愛犬が腰を丸めていたり、抱っこをすると痛そうにキャインと鳴いたり、震えて元気がなかったり、寝床に隠れて出てこなかったりすると、椎間板ヘルニアの疑いがあります。もし、後足を引きずっていたり、触るとかみついたり、尿や便が漏れるあるいは出ない場合は、重症化しているかもしれません。
診断では病変部の位置や程度を確認するために、CT検査・MRI検査が必要です。治療方法は、重症度などによって異なります。軽症の場合は、絶対安静で、鎮痛剤と神経保護作用・神経再生促進作用・抗炎症作用などを含んだサプリメントやビタミン剤も投与します。足の痛みの感覚がないといった重症の場合は、外科手術も選択肢の1つです。手術は背骨の一部を削って椎間板物質を取り除き、神経の圧迫を解除します。手術後は、硬直した筋肉をほぐすなどのリハビリテーションも行います。
脊髄腫瘍
脊髄は、脳から連続する神経中枢で、背骨の間で保護されるように存在します。脊髄腫瘍は脊髄の腫瘍ができる病気です。発生頻度は少なく、腫瘍の部位によって「硬膜外腫瘍」「硬膜内腫瘍」「髄内腫瘍」にわけられます。いずれも治療は簡単ではありません。特に硬膜外腫瘍のうち椎骨から発生した悪性腫瘍や髄内腫瘍は治療法が確立されていません。一部の病院でチャレンジしているというのが現状です。
初期症状はふらつきが出たり、足を引きずったりします。症状が進行すると前足も後足も麻痺して、まったく歩けなくなることもあるようです。障害の部位によっては、尿が出なくなったり、尿漏れを起こしたりします。
脊髄腫瘍の病変部位を特定するために、脳・脊髄・神経の機能を調べる「神経学的検査」が行われます。また、レントゲンや高度画像診断機器(CT・MRIなど)を使った「造影検査」などを組み合わせて画像診断をします。全身性疾患の病態を調べる血液検査と同じような意義を持つ「脳脊髄液検査」が、診断に有効な場合もあります。なお、手術時に採取した腫瘍組織を病理学的検査にまわして確定診断をします。
治療方法は主に「外科手術」「化学療法」「放射線療法」の3種類。腫瘍の種類とステージによって治療の選択肢は異なりますが、多くの場合は外科的な治療が必要となるようです。
犬が尿漏れしたときの対処方法
動物病院で治療
尿漏れに気づいた場合は、早めに動物病院に連れていってください。連れていく前に「どのような状況で尿漏れを起こしているのか」をしっかりと観察しましょう。「意識外でおしっこを漏らしているのかどうか」「分離不安などの精神的な影響が考えられるかどうか」「1日のおしっこの回数や量はどうか」「1日にどれぐらい水を飲んでいるか」などを獣医師に伝えると、診断もスムーズです。獣医師はその情報をもとに、身体検査や尿検査、必要な検査を実施しながら尿漏れの原因を探っていきますので、情報共有が詳細であるほど原因や適切な治療方法が見つかりやすいでしょう。
自宅で排泄介助
歩行障害がある場合、老化で歩行スピードが低下した場合、椎間板ヘルニアによる下半身麻痺がある場合、老化で足腰が立たなくなった場合、首の神経異常がある場合、脳の病気で立てなくなった場合など、愛犬が排泄の姿勢がとれないときには、自宅での排泄介助が必要です。
何とか歩ける場合、排泄介助は必要ないかもしれませんが、排泄時間や尿漏れしやすいタイミングを把握して、トイレに誘導してあげると良いでしょう。立てない場合は、排泄介助が必要です。ペットシーツやオムツなどを活用すると、汚れが飛び散りませんので、飼い主の負担も減ります。
持続的に尿漏れが続いている場合は、皮膚炎を起こす場合がありますので、そちらも気にかけてあげてください。また、自力排泄機能が残っていない場合は、膀胱をやさしく圧迫して排尿を促します。便の場合は、肛門を刺激して肛門が便で盛り上がったら押し出してあげましょう。
まとめ
尿漏れの原因は多岐にわたります。日頃から愛犬の様子を観察し、尿漏れしやすいタイミングを把握しておくと原因を特定して対策がしやすくなるでしょう。決して尿漏れを叱らないでください。叱ったことで排尿自体がいけないことだと理解して症状を悪化させる場合があります。自分の意思ではどうにもならない心や身体機能の問題が隠れていることもありますので、愛犬に変化がないか日々チェックしましょう。