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札幌市、平岡動物病院の院長。主に呼吸器、整形、眼科、歯科の外科とエキゾチックアニマル診療を中心に力を入れている。趣味は娘と遊ぶこと。
「赤チン」とは、オス犬の赤みを帯びた性器が、それを包んでいる皮膚「包皮」からぴょこんと顔を出している状態のことです。初めて見た飼い主は「赤く腫れている!」とびっくりするかもしれませんが、病気ではありません。赤チンは、主にメス犬のフェロモン臭を嗅いだときに出る子孫を残すための生理現象です。このほか、ストレスを発散するときや、自分の優位性を相手に示したいときにも同じ現象がみられます。犬が赤チンを出す生態を詳しく見ていきましょう。
目次
- なぜ犬は赤チンを出すのか
- 犬のマウンティングとの関係性
- 自宅で犬の赤チンを戻す方法
- 動物病院で犬の赤チンを治してもらう場合
- まとめ
なぜ犬は赤チンを出すのか
オス犬が赤チンを出す理由や、メス犬の発情がオス犬に与える影響、去勢と赤チンの関係性などについて紹介します。
赤チンとは何か
赤チンは包皮の中から出てきた陰茎です。陰茎は尿道を備えた交尾器で、興奮状態になると充血して勃起し、通常の大きさの倍以上になります。大きくなることで包皮の中におさまりきらなくなって、外に飛び出してしまいます。つまり、陰茎が大きく赤く「勃起」している状態ですが、直接的な表現を避けて「赤チン」と呼ばれています。赤チンは主に、オス犬が生殖活動のための興奮状態にあることを意味しています。
オス犬が赤チンを出すのは子孫を残すため
赤チンが出ていると「発情期かな?」と思う方は多いかもしれませんが、オス犬に決まった発情期はありません。発情期はメス犬に見られるものです。発情期を迎えたメス犬のおしっこにはフェロモン臭が含まれていて、その臭いにオス犬が反応している状態です。そして生殖活動を起す準備として、赤チンを出します。赤チンになるからこそメス犬と交尾をして子孫を残せます。赤チンは、決して恥ずかしいことではありません。
また、生殖活動以外にも赤チンになることがあります。たとえば「何かの遊びや運動に夢中になったとき」「犬同士でじゃれあっているとき」「上下関係を示すためのマウンティングをしたとき」などが挙げられます。いずれも病気ではない生理現象なので心配はいりません。興奮状態がおさまると自然に包皮の中に戻ります。
メス犬の発情期は6~10か月周期で発生
メス犬がオス犬に交尾を許す期間が、発情期です。メス犬の発情期は、四季に関係なく6~10か月周期で繰り返されます。発情の周期は「発情前期」「発情期」「発情休止期」「無発情期」の4期です。
発情中のメス犬は、おしっこの中にフェロモンを排出するため、そのフェロモン臭に誘発されてオス犬がメス犬を追いかけ、生殖活動を起そうとします。オス犬は数キロ離れた場所から、メス犬のフェロモンを察知できると言われています。同じメス犬を追いかける別のオス犬に出くわした場合は、メス犬を争ってケンカになることがあります。
犬の性成熟期が訪れるのは生後6~12か月頃
発情や交尾ができるのは、性成熟期を迎えた犬だけです。犬種や個体によって差はありますが、小型犬は性成熟期が早く訪れ、大型犬は遅く訪れる傾向にあります。はじめての発情期が訪れる目安は、小型犬は生後6-12か月、大型犬は生後12~24か月です。性成熟期を迎えたオス犬のサインは、おしっこをする時に片足を上げることだと考えられています。
参照:みんなのどうぶつ病気大百科
メス犬が気になっているオス犬の行動
オス犬は、発情しているメス犬に自分の居場所を知らせようとします。飼い主がうるさいと感じてご近所迷惑を心配してしまうほど「遠吠え」や「夜鳴き」の回数が増えるでしょう。また、後ろ足をあげてあちこちにおしっこをかける「マーキング」もします。交尾ができない期間が長く続くと、イライラして落ち着きがなくなったり、食欲が落ちたりする場合もあります。このようなときは、他のオス犬と喧嘩する可能性が高くなりますので、散歩の時などは気をつけましょう。
また、近所にメス犬を飼っているご家庭がある場合、メス犬とオス犬を多頭飼いしている場合も、オス犬の行動やストレスに配慮が必要です。オス犬が興奮して、息が荒くなったり、過剰に吠えたりする様子を見せることがあります。また、ドッグランなど犬が集まる場所にも注意が必要です。飼い主が発情していることに気づかずに避妊手術をしていないメス犬を連れてきた場合は、望まない妊娠をしてしまう可能性があります。生殖行動は、しつけで抑えることはできません。
去勢しても赤チンが出る場合がある
去勢していないオス犬は、そばに発情したメス犬がいれば、いつでも生殖行動を起こすことができます。去勢手術をすれば、メス犬を追いかける衝動を抑えることができますし、生理的欲求が満たされないストレスから開放してあげることができます。マーキングやイライラからくる攻撃的な行動が少なくなることも期待できるでしょう。また、後ほど説明しますが、飼い主や他の犬、物などに対して腰を振る「マウンティング行為」も減少します。
去勢手術をすれば、赤チンが出ないのかといえばそうではありません。去勢手術は、精巣である睾丸のみを摘出しますので、勃起の機能は残ります。つまり、赤チンが出る可能性があるということです。赤チンは、出た後に包皮に戻れば問題ありません。赤チンが包皮の中に戻らない場合は注意が必要です。時間がたっても戻らない場合や包皮口の被毛や皮膚が絡まって腫れている場合がありますので、動物病院を受診することをおすすめします。
犬のマウンティングとの関係性
犬のマウンティングとは、オス犬がメス犬の背中を前足で抱え込んで、腰を振る動作のことです。これは交尾の体勢ですので、主に生殖行動の際に行われる動作です。
ただし、このマウンティングは、メス犬もします。オス犬の場合はメス犬に限らず、オス犬が相手でもします。飼い主の足や腕、ぬいぐるみやクッションなどの物、一緒に暮らしている猫を抱えて腰を振る場合もあります。マウンティングには様々な理由があると言われています。いずれの理由でも、オス犬は赤チンを出す場合があります。
自分の強さを主張するため
人間社会の中で「マウントをとる」とは、相手よりも自分のほうが上だと優位性を示す発言や行動をすることです。その行動は犬にも見られることであり、犬のマウンティングも、他の犬に対して自分の強さを主張し、主従関係を認めさせるためと考えられています。
ストレスを発散するため
犬のマウンティングは、ストレス発散とも言われています。飼い主とのスキンシップ不足、運動不足、退屈しているなどの理由で、ぬいぐるみやクッションなど、自分と同じようなサイズで抱きかかえやすい物に対してもマウンティングをするようです。
遊びで興奮するため
マウンティングは、性成熟期を迎えていない子犬にも見られます。犬同士でじゃれあって遊んでいたり、飼い主に撫でてもらったり遊んでもらっているとき、ドッグスポーツなどで興奮しているときにマウンティングをすることもあります。この際に赤チンを出す場合は少なくないようです。
独占欲がある
飼い主がお気に入りのおもちゃを片付けようとして触った時に、マウンティングを見せる場合があります。その場合は「触らないで!」「取らないで!」といった独占欲を表現していることもあるようです。
飼い主が喜ぶと誤解している
マウンティングをすると、飼い主がびっくりしたり照れたりして、つい騒いでしまうことがあると思います。そうすると「喜んでくれているんだ!」と愛犬が勘違いする場合もあるようです。愛犬はうれしくなるので、マウンティングに拍車がかかってしまいます。
成長過程のトレーニング
成長過程にある子犬は、取っ組み合いのような遊びの中で、マウンティングをしたりされたりを繰り返します。これは、獲物をとらえるトレーニングやケンカをする際の身のかわし方の学習、運動能力を高める意味があります。
自宅で犬の赤チンを戻す方法
赤チンが飛び出したまま、なかなか引っ込んでくれない場合は、ちょっと心配になるかもしれませんね。来客や他の飼い主の前だと、早く戻したくなるかもしれません。
個体差はありますが、赤チンが包皮の中に戻るまでに5~10分かかると言われています。興奮時に赤チンは出るので、一旦は一人にさせて落ち着かせて見ることをおすすめします。また、おやつを与えて気をそらしているうちに元に戻っているかもしれません。
それでもなかなか赤チンが戻らないときは、ベビーオイル、オリーブオイル、ワセリンなどの潤滑油を使う方法があります。まず、手をしっかり洗ってください。必ず清潔な手で、潤滑油を赤チンに塗ってあげてください。洗っていない手で赤チンを戻そうとすると、人の手の雑菌が尿道に入り尿道炎や膀胱炎を引き起こすことがあります。潤滑油を塗ったら、赤チンの外側の皮膚をゆっくりと上に引っ張り上げるように、包皮の中に入れていきましょう。
動物病院で犬の赤チンを治してもらう場合
赤チンが戻らず、オス犬が頻繁に赤チンを舐めているときは早めに動物病院に連れていってください。動物病院へ連れていけば、獣医師が潤滑剤を塗って赤チンを包皮の中に戻してくれます。また、赤チンを長時間放置したことで炎症を起こして痛みが出ている場合があります。その際は、麻酔をして赤チンを戻してくれます。
長い時間、赤チンが戻らない場合は「陥頓包茎(かんとんほうけい)」かもしれません。この原因は、包皮口の周辺にある被毛が、赤チンに絡まって起こります。毛に絡まると皮膚が圧迫されて血行障害になり、むくんでさらに戻りにくくなります。鬱血を起こす可能性がありますので、赤チンが30分以上戻らない場合は、迷わず動物病院に連れていってください。
まとめ
赤チンは、犬が性成熟期を迎えた証であり、子孫を残すために必要な生理現象です。去勢手術後も赤チンになることがありますが、恥ずかしいと思わないであげてください。もし赤チンの色が正常の色である赤、ピンク、紫でない場合や乾燥している場合は、排尿障害や性器の損傷など永久的に障害が残る可能性がありますので、すぐに動物病院で診てもらいましょう。