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こころ鳳ペットクリニック、大阪どうぶつ夜間急病センター所属。小動物臨床に従事。犬猫をはじめ、鳥類、爬虫類、両生類、霊長類など様々な小動物の診療・手術執刀を行う
「スパイスの王さま」と呼ばれるシナモン。いろんなお菓子や料理の隠し味として使われるほか、漢方の世界では「桂皮(ケイヒ)」と呼ばれ、滋養強壮、血行促進、鎮痛効果があるとされています。人間にとってメリットの多いシナモンですが、過剰摂取に注意しなければなりません。人間より身体が小さい犬は、なおさらシナモンの影響を受けやすいと言えます。犬がシナモンを摂取することで問題になるのは「クマリン」というシナモンの香り成分が、肝機能障害を引き起こす原因となるからです。シナモンスティックを丸ごと飲んでしまったという場合は、過剰摂取となって危険です。シナモンを過剰摂取した際の症状や対処方法を解説します。
目次
- 犬にシナモンを食べさせても大丈夫か
- 犬がシナモンを食べた場合の対処方法
- シナモンが使われている食べ物
- まとめ
犬にシナモンを食べさせても大丈夫か
結論としては、犬がシナモンを過剰摂取すると危険です。また個体によっては過敏症反応を起こすこともあるため、ごく少量であっても注意が必要です。その理由を詳しく解説します。
シナモンとは
シナモンとは、クスノキ科ニッケイ属の樹木です。私たちがシナモンと呼んで利用しているものは、樹皮をはがして乾燥させた香辛料です。思い浮かぶ形状は、樹皮をくるくると巻いて棒状にしたシナモンスティックや粉末状に加工したシナモンパウダーかと思います。
シナモンは、独特な香りと甘み、辛味があり、カクテル、紅茶、コーヒー、ホットワイン、チャイなどの飲料やアップルパイ、シナモンロールなどの洋菓子の香りづけに重宝されています。南アジア、中東、北アフリカでは、料理の香りづけによく使われています。
シナモンの過剰摂取は危険
シナモンには「クマリン」という成分が含まれています。この「クマリン」を過剰摂取すると、犬の肝臓に悪影響をもたらします。そもそも「クマリン」は、炎症を抑える抗炎症作用や抗菌作用があり、風邪などの感染症を予防する成分です。悪玉コレステロールを下げる効果がありますし、血糖値を安定させる働きで糖尿病の改善も期待できます。胃腸を活発にする作用もあります。医学的に優れた効能があるので、昔から特効薬としても利用されてきました。
その一方で、肝臓に対して有害である「肝毒性」を持つ成分であり、肝臓機能障害を起こすことが確認されています。肝機能が低下すれば解毒作用もうまく働かないので、身体に毒素がたまってしまいます。肝臓に悪影響が出るのは、犬だけではなく人間も同様です。人間の1日当たりの摂取量は0.6~3g、子どもで0.5gが目安で、過剰摂取に注意しなければならないとされています。
人間より身体が小さい犬は、「クマリン」の悪影響が人間よりも大きく響くことが予測されますので、大量摂取に気をつけなければなりません。少量であっても過敏な反応を示す場合もあります。シナモンロールやシナモンクッキーといったお菓子も与えないようにしてください。バターや砂糖もたくさん含まれていますので、肥満や糖尿病の原因にもなります。
犬はシナモンの香りも苦手
人間にとってスーッとしたシナモンの香りにはリラックス効果がありますが、嗅覚が人の100万倍と言われる犬はシナモンの香りが苦手なようです。そのため、シナモンの香りを使った犬除けスプレーも販売されています。なお、犬はコレステロールが血管に詰まる病気にかかることはほとんどありませんので、犬にシナモンを与える必要はないでしょう。犬がシナモンを口にした場合、少量で大事に至る可能性は低いと言えますが、万が一誤食した場合は、少量であってもかかりつけの動物病院に相談してください。
犬がシナモンを食べた場合の対処方法
犬がシナモンパウダーのかかったお菓子を舐めたり、シナモンスティックをかじったりしたら、食べた量や食べてからどれぐらい時間が経っているかを確認しましょう。特にシナモンスティックを食べた場合は「クマリン」を過剰に摂取した可能性があります。
食べた後に、嘔吐、下痢、心拍数の増加、呼吸困難がないかを確認し、動物病院に連れていってください。摂取した量や症状によっては、吐き戻させたり点滴するなどの治療が必要になります。なお、子犬や老犬の場合は少量でも健康に害を及ぼすリスクがありますので、下痢や嘔吐などの症状が出ていないかも注意深く観察してください。
シナモンが使われている食べ物
「スパイスの王さま」と呼ばれるシナモンは、いろいろなお菓子やドリンクの香りづけや、料理の隠し味として使われています。
お菓子
クッキー、ビスケット、シナモンロール、アップルパイ、ケーキ、タルト、ドーナツ、チュロス、スコーン、フレンチトースト、パン、クレープ、スイートポテト、マフィン、アイスクリーム、ジャム、プリン、焼きりんごなど。
ドリンク
ココア、カプチーノ、ジンジャーエール、紅茶、ミルクティー、ホットワイン、カルーアチョコ、豆乳ラテ、ジンジャーミルク、スムージー、シェイクなど。
料理
カレー、スープ、ポタージュ、豚の角煮、鶏の煮込み、チキンソテー、ナポリタン、チキンライス、唐揚げ、サラダ、マッシュポテト、オムレツなど。
レーズンパンやチョコレート菓子は危険
もし、シナモンと相性のいいレーズンを使ったシナモンレーズンパンを食べた場合は、レーズンによって急性腎障害が起き、場合によっては死亡する危険があります。シナモンを使ったチョコレート味のお菓子やアイスクリームも同様です。チョコレートの原料であるカカオ豆に含まれる苦み成分によって食中毒を起こす可能性があります。中毒症状は嘔吐、下痢、失禁で、重症化すると震え、心拍数の増加、痙攣が見られ、最悪の場合は死に至ります。
まとめ
テーブルに置いてあったシナモンたっぷりのアップルパイや、シナモンスティックが丸ごと入ったホットワインを、愛犬がペロリ。慌てて止めようとしたけれどあっという間に飲み込んで間に合わなかった。
注意していてもちょっとした油断でそんな状況に陥ってしまうことはありそうです。愛犬から目を離さないでずっと一緒に過ごすわけにはいきません。シナモン入りのお菓子やデザートを買ったときは愛犬が食べてしまうことがないように、戸棚の中や冷蔵庫にしまっておきましょう。特に子犬はなんにでも興味を持って舐めたり噛んだりしますから、お菓子のかけらやシナモンスティックが床などに落ちていないかも確認しましょう。
なお、人間と同じように食欲促進のために犬のごはんにシナモンをふりかける人がいるようですが、犬はシナモンの香りを好まないので逆効果です。もし、うっかりシナモンの入ったお菓子や料理を食べてしまって症状が出た場合や、シナモンスティックを丸ごと食べてしまった場合は、すぐ動物病院に連れていって、獣医師に相談してください。