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上京どうぶつ病院院長。北里大学出身。日本獣医生命科学大学付属動物病院にて研修後現職。
びわは栄養満点で、昔から薬効を持つ果物として愛されてきました。犬にとっても、免疫力の向上、老化やガンの予防、被毛を綺麗に保つ、視力の維持、肥満の改善など、さまざまな効果が期待できます。犬にびわを食べさせても問題ないのですが、それは果実の話です。種や葉は犬の胃腸で分解される際に、「シアン化水素」という猛毒を発生させます。今回は、びわの栄養素や効果、与える際の注意点を解説します。
目次
- 犬にびわを食べさせても大丈夫か
- びわの栄養素と期待できる効果
- 犬にびわを与える際の注意点
- びわの加工品やお茶には注意
- まとめ
犬にびわを食べさせても大丈夫か
結論としては、大丈夫です。びわはさまざまな薬効を持つことから「大薬王樹」(だいやくおうじゅ)と言われています。古くからびわの葉は漢方に使用されていますし、びわの実にもさまざまな栄養素がバランスよく含まれています。犬にとってもびわは、健康に良い効果が期待できる果物です。
ただし、与えても大丈夫なのは、びわの実の部分だけです。後ほど詳しく解説しますが、びわの種や葉には犬にとって猛毒になる成分が含まれていますので、くれぐれも種や葉を犬が口にしないようびわを管理してください。
なお、安全な実を与えたとしても、人間同様に一度に食べ過ぎると下痢や嘔吐などの消化不良を起こしてしまう可能性があります。1日の食事量の10%程度が良いとされるおやつ程度の量にとどめ、あげすぎないようにしましょう。
びわの成分(100gあたり)
エネルギー 40kcal
水分 88,600mg
たんぱく質 300mg
脂質 100mg
炭水化物 10.6mg
鉄分 0.1mg
βカロテン 0.51㎍
β−クリプトキサンチン 0.6㎍
ビタミンC 5mg
食物繊維 1600mg
カルシウム 13mg
カリウム 160mg
1日の摂取量
1日の適切なおやつ量は、全体の食事量の10%程度が目安です。びわの実を与えるときは、10%を超えないように気をつけましょう。食事量は犬のサイズによって異なりますので、超小型犬、小型犬、大型犬に分けて与えても大丈夫な量の目安を紹介します。
◆体重4㎏以下の超小型犬
パピヨン、ボロニーズ、豆柴、ヨークシャー・テリア、チワワ、トイ・プードルといった犬種の食事量は、1日100~250gですので、与えても大丈夫なびわの量は最大で10~25gです。びわ1個の可食部分は平均32gなので、びわ1/3~半分程度の量にあたります。
◆体重10kg以下の小型犬
ジャック・ラッセル・テリア、シー・ズー、パグ、ミニチュア・ダックスフンド、柴犬といった犬種の食事量は、1日300~500gです。与えても大丈夫なびわの量は最大30~50gで、びわ1個~1個半程度を目安にすると良いでしょう。
◆体重が25㎏以下の中型犬
バセンジー、ビーグル、ボーダー・コリー、ブルドッグ、バセット・ハウンドといった犬種の食事量は、1日500~1,000gです。びわ1個半~3個程度の量にあたる50~100gまで与えても問題ありません。
◆体重25㎏以上の大型犬
ダルメシアン、ドーベルマン、サモエド、セント・バーナード、ゴールデン・レトリーバー、ラフ・コリーなどの犬種の食事量は1日1,000~1,450gで、与えても大丈夫なびわの量は最大で100~145gです。びわ3個~4個程度にあたります。
◆子犬の場合は要注意
犬は肉食寄りの動物なので、野菜や果物の消化が上手ではありません。子犬は消化器官が未発達のため、成犬以上に胃腸に負担がかかって下痢や嘔吐を起こしやすいでしょう。
びわの栄養素と期待できる効果
びわを与えることで、犬の健康にどんな効果を期待できるのでしょうか。成分ごとに解説していきます。
水分
みずみずしいびわは、約90%が水分でできています。そのため、犬の水分補給に適している果物です。
炭水化物
炭水化物は、脂肪やたんぱく質に並ぶ三大栄養素のひとつです。犬の体内で主にエネルギー源として利用され、使われない分は体脂肪として蓄積されます。
鉄分
鉄分は血液のヘモグロビンの中に含まれ、酸素を運ぶことやエネルギーを作り出すために必要な栄養素です。貧血を防ぎ、筋肉の働きを促す効果が期待できます。
βカロテン
βカロテンには抗酸化作用があり、ストレスなどで発生する活性酸素を除去することができます。活性酸素を除去すると、免疫力が向上し、老化やガンの予防につながるようです。また、βカロテンは摂取するとビタミンAに変わり、皮膚や粘膜の免疫・抵抗力を高める働きがあります。そのため、細菌やウイルスが侵入しにくくなり、風邪や感染症にかかりにくい身体を作るでしょう。また、被毛を綺麗に保つ効果や視力を維持する効果も期待できます。
β−クリプトキサンチン
β-クリプトキサンチンはβカロテンの仲間で、老化やガンの予防につながる栄養素です。強力な抗酸化作用があるため、ガンを予防する働きはβカロテンの約5倍と言われています。
食物繊維
食物繊維は、腸内の善玉菌を増やし、悪玉菌や毒素を排出して、腸の健康を保ってくれる栄養素です。また、糖の吸収を抑えてコレステロールを吸着、排出します。摂りすぎると消化不良を起こすので注意が必要です。
カリウム
体内の水分バランスを調整するカリウムは、生命を維持する上で欠かすことのできない栄養素です。摂取しすぎた塩分を外に排出してくれるため、高血圧を防ぎ、むくみを解消する役割があります。また、カリウムはカルシウムを骨に蓄積する効果を高めてくれるため、骨粗しょう症の予防も期待できます。
クロロゲン酸
クロロゲン酸は主にコーヒーに含まれている栄養素です。脂肪を蓄積させない効果があるため、肥満の予防や改善が期待できます。他にもリンゴ酸、クエン酸、カルシウムなどを含むため、骨や歯の形成、疲労回復、咳や喉の炎症を抑えるようです。また、血を作り自然治癒力を高めるといった効果もあります。
犬にびわを与える際の注意点
びわは栄養たっぷりですが、与え方によっては犬の健康に害をもたらします。
種や葉は胃腸で猛毒に変わる
びわの種や葉は、絶対に犬に与えないでください。びわの種や葉には、天然の有害物質「アミグダリン」という成分が含まれています。アミグダリン自体に毒性はありませんが、犬を含む動物が摂取して胃腸で分解されると「シアン化水素」という青酸系の猛毒が発生しますので、大変危険です。アミグダリン中毒を起こすと、嘔吐、発熱、瞳孔の拡大、歩行困難、意識障害などが起こり、最悪の場合死に至ります。
なお、種を丸ごと飲み込めば、窒息の危険があるので注意が必要です。テーブルにびわを丸ごと置いておくと、愛犬が丸ごとくわえてガツガツと食べてしまうかもしれません。愛犬の目に触れないところに保管しておいたほうが良さそうです。
皮は消化に悪い
実を食べる際に「皮ごと食べた方が、栄養豊富でおすすめ」という考え方は昔からよく聞きます。たしかに果物の多くが、皮や果実と皮の間に栄養素を蓄えています。ただし、びわの皮は消化に悪く、農薬が残留している可能性もあります。
また、皮は食物繊維が果実よりも多く含まれていますので、摂取過多になって消化不良を起こす場合もあります。そのため、犬に与えるときは皮を剥いて、果実の部分だけを与えてください。
新鮮なびわを選ぶ
せっかくなら愛犬には新鮮でおいしいびわをあげたいですよね。新鮮なびわは、皮にハリがあってシワがありません。鮮度や糖度が落ち始めているびわはハリがなくなります。また、びわの旬は4月下旬から6月下旬ですが、食べ頃のびわには産毛がついています。産毛がついていないものは、食べ頃の時期を過ぎたものです。さらには、皮全体が綺麗なオレンジ色でムラがないものを選びましょう。
左右対称に丸みを帯びた形のキレイなものも、おいしいびわの特徴です。形がいびつなびわは、栄養バランスが偏って育った可能性があり、味にムラが出ることがあります。軸のヘタが青々としてしっかりしているものも、おいしいびわの特徴です。へたが弱々しいものは果肉がパサついて甘くない場合があります。
食べ過ぎは肥満の原因
びわは果物の中ではカロリーが低いほうです。しかし、びわのカロリーは100gあたり40kcalほどありますので、愛犬に与えすぎると肥満の原因になります。また、糖分も多いため、食べすぎると歯周病や糖尿病の原因になってしまいます。水分も豊富なので、食べ過ぎれば下痢や嘔吐などの消化不良を起こしてしまう点にも注意が必要です。
アレルギー症状に注意
愛犬が初めてびわを食べる際は、アレルギー症状が出る可能性があるため、ごく少量から与えてください。食べた後に、下痢、嘔吐、体のかゆみ、目の充血などの異変がないかを確認してみてください。症状が出ないようであれば、徐々に量を増やしながら与えるようにしましょう。愛犬の様子がおかしいと感じた場合は、すぐに動物病院に連絡して獣医師に相談してください。
びわの加工品やお茶には注意
びわを使ったジャム、コンポート、ゼリーなどの加工食品も、愛犬に与えてはいけません。加工食品は大量の砂糖や添加物が入っていて、肥満、糖尿病、脳梗塞の原因となります。愛犬にびわを与える際は、生のびわを与えてください。
また、人間にとって健康食品として愛されてきたびわ茶は、びわの葉を煎じたものです。前述の通り、びわの葉に含まれる「アミグダリン」が犬の胃腸で分解されると、「シアン化水素」という青酸系の猛毒が発生します。命の危険がありますので、絶対に飲ませないでください。
なお、2018年6月に独立行政法人国民生活センターからびわ茶について、シアン化水素に関する注意喚起が出されました。人間でも多く摂取することで、頭痛やめまいなどの健康被害を引き起こす恐れがあるという注意喚起です。人間よりも身体の小さい犬は、より影響を受けやすいことが想定されますので、びわ茶を犬にあげるのは絶対にやめましょう。
出典:『ビワの種子を使用した健康茶等に含まれるシアン化合物に関する情報提供―体内で分解して青酸を発生するおそれがあるため過剰な摂取に注意!―』独立行政法人国民生活センター
まとめ
愛犬にびわを与える際は、種、葉、皮をとった果実だけを与えるようにしましょう。びわに含まれる天然の有害物質「アミグダリン」は、犬の胃腸で分解されると猛毒の「シアン化水素」を発生させます。アミグダリンは、びわだけでなく「アンズ」「ウメ」「モモ」「スモモ」「アーモンド」などのバラ科に属する植物の種子や未熟な果実の部分にも含まれます。愛犬に果物を与えるときには犬にとって害になる部分がないかどうかにもよく注意して食べさせましょう。