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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
ペットの中でも最もポピュラーな犬と猫。それぞれまったく違う可愛らしさを持っていて、飼っている人も多くいます。当然、犬と猫の両方を好む人も多いため、中には「犬と猫を一緒に飼いたい」と考える人もいるかもしれません。そもそも、犬と猫は一緒に飼っても問題はないのでしょうか。今回は獣医師の林美彩先生に教えていただいた、犬と猫を同居させるうえで知っておきたい習性の違いや、飼い主が注意すべきポイントについて解説していきます。
目次
- 犬と猫は一緒に飼っても大丈夫?
- 犬と猫の同居に必要なものは?
- 犬と猫の同居で気を付けるポイントは?
- 犬と猫を一緒に飼う場合、どちらを先に飼った方がいい?
- 犬と猫を一緒に飼う場合、どちらかを後から迎えるときのポイントは?
- 犬と猫を一緒に飼っているときの餌の与え方は?
- 犬と猫が仲良くなれなかった場合はどうすればいい?
犬と猫は一緒に飼っても大丈夫?
犬と猫の同居がうまくいくかどうかは、それぞれの性格や相性によって左右されます。中には難しいケースもありますが、絶対に無理なことではありません。飼い主が犬と猫の両方の様子をよく観察し、少しずつ仲良くなれるように気を配りながら、たっぷり愛情を注ぐことが大切です。
なお、犬と猫の習性や性質には多くの違いがあります。次のような違いをよく理解したうえで、飼い方を工夫するようにしましょう。
犬と猫の食性の違い
どちらも肉食動物のイメージがある犬と猫ですが、犬は肉食寄りの雑食、猫は完全な肉食動物です。猫のほうがより多くのタンパク質を必要とし、必須アミノ酸の種類も異なります。餌はそれぞれの動物の食性に合ったものを与えましょう。
犬と猫の運動量の違い
犬には狩猟やそりひきなど、人間社会の中で働いてきた歴史があり、多くの運動量を必要とします。そのため、飼育するうえでは毎日の散歩が欠かせません。猫には犬ほどの運動量は必要ないため、散歩が不要です。病気・事故予防の観点から、猫を飼うときは外に出さない「室内飼い」が推奨されています。
また、犬は高いところに登ることはなく、平面での動きがメイン。一方、猫は高いところが大好きで、立体的な空間で暮らす習性があります。
犬と猫の行動習性の違い
集団行動をとる習性がある犬は、仲間意識が強く、飼い主さんに対しての独占欲もしっかり持っています。対して、猫は単独行動を好むマイペースな動物で、犬ほど飼い主さんに甘えることはないかもしれません。
また、犬は昼に活動して夜は眠りますが、猫は日中ほとんど寝ており夜行性です。生活リズムの違いを意識し、遊ばせる時間を分けたり、リラックスできるスペースを確保したりする工夫をしましょう。
犬と猫の毛づくろいの習性の違い
犬は頻繁に毛づくろいをする動物ではありません。放っておくと体臭が強くなるため、清潔を保つために定期的なシャンプーやトリミングが必要です。
一方、猫は綺麗好きでよく毛づくろいをするため、匂いが少ない動物です。完全室内飼いをしている短毛種であれば、シャンプーは不要と言われています。ただし、長毛種の場合は毛づくろいやブラッシングだけでは汚れを落としきれないため、月に一度はシャンプーをしてあげましょう。
犬と猫の同居に必要なものは?
犬と猫は行動習性が大きく異なりますが、どちらもテリトリー意識が強い動物です。犬と猫の両方に、それぞれ一匹だけで安心して過ごせるような専用のスペースを用意してあげましょう。
犬には、階段下や廊下の隅などの静かに過ごせる場所に犬用ベッドなどを用意します。猫には棚の上にクッションを置いたり、キャットタワーを購入したりして、犬が悪戯できないような高い場所を用意してあげましょう。お互いに専用スペースを持っていれば、たとえケンカをしても、自分専用スペースでクールダウンすることができるはずです。
また、犬と猫を一緒に飼う場合はそれぞれにケージが必要です。犬用に平面の広さがあるケージを、猫用に高さがあって中で上下運動ができるケージを準備しましょう。
犬と猫の同居で気を付けるポイントは?
犬と猫は生活時間帯が異なり、テリトリー意識の強い動物です。一緒に飼えばストレスも溜まりやすくなるため、こまめにストレスを発散させてあげましょう。例えば、犬であれば散歩時間をしっかり確保する、猫であれば上下運動ができるキャットタワーを用意するなどの対策が必要です。
同居によって喧嘩が起こる可能性も
ストレスから喧嘩が起こることもあります。「喧嘩による怪我は、犬と猫を一緒に飼っていれば多かれ少なかれ発生するもの」と受け止める必要がありますが、できるだけ怪我を予防するために、普段から必ず爪を切っておきましょう。
犬と猫を一緒に飼う場合は、無理に仲良くさせようとしないことも大切です。彼らのペースや距離感を無視して無理に遊ばせようとすると、かえってストレスを感じ、喧嘩になるおそれもあります。
また、人間が家を留守にするときは、犬も猫もそれぞれのケージに入れることをおすすめします。人間の目が届かないところでは、できるだけ接触させないようにしましょう。
犬と猫を一緒に飼う場合、どちらを先に飼った方がいい?
犬と猫が仲良く一緒に暮らせるかどうかは、個体の性格や相性によって左右されるため、どちらかを先に迎えれば必ず仲良くなるというわけではありません。ただし、どちらかといえば犬を先、猫を後に迎えた方が仲良くなりやすい傾向があるようです。
比較的うまくいきやすいのは、成犬がいる家庭に子猫を迎えるパターンです。群れで暮らす犬は、後から来た子猫を自分よりも「下」の存在とみなすため、世話をしてくれる可能性があります。
とはいえ、もっとも理想的なのは、犬猫が両方とも子どもの時期から同居をスタートさせること。生後2~9週間の「社会化期」にあたる犬猫は、お互いを遊び相手として認識するため、仲良くなりやすいと言われています。
犬と猫を一緒に飼う場合、どちらかを後から迎えるときのポイントは?
犬と猫、どちらを先に迎える場合でも必ず意識したいのが、先に住んでいるペットのケアに気を配ること。先に住んでいるペットにとって、後からやってきたペットは自分の縄張りに侵入し、大好きな飼い主の愛情を奪う存在です。
そういった嫉妬や敵対心は、ペット同士のトラブルの原因になります。帰宅後はまず先に住んでいたペットに構ったり、ご飯を先に与えたりして、尊重していることを示しましょう。
犬が先住で後から猫を迎える場合
犬が先住で後から猫を迎える場合は、いきなり同じ空間で交流させるのではなく、ケージ越しの対面から始めましょう。犬と猫には体格差があることも少なくないため、仲良くなる前に交流させると、怪我などのトラブルにつながることもあります。
犬は縄張りや序列を重んじるほか、独占欲が強く嫉妬深い子が多いと言われています。ご飯を与えるときは、必ず犬から先にあげるようにしましょう。後に入ってきた猫にばかり気を取られるのではなく、犬と遊んだり、スキンシップしたりする時間をたっぷり確保することも大切です。
猫が先住で後から犬を迎える場合
猫はマイペースで単独行動を好みます。猫が生後2~9週間の社会化期を過ぎている場合は、犬に歩み寄るのは難しいかもしれません。できるだけ猫のストレスがないよう、猫が一匹になれる場所を用意してあげましょう。
猫が先に住んでいて、後から犬を迎える場合も、犬の場合と同じように、まずは猫の世話を優先します。序列を気にする犬に、猫の方が上の立場だと示すことが大切です。
犬と猫を一緒に飼っているときの餌の与え方は?
犬は肉食寄りの雑食、猫は真性の肉食動物のため、必須アミノ酸の数や必要なカロリー数に差があります。そのため、一見同じようなドッグフードとキャットフードでも成分は異なります。「同じ肉食動物だから」と同じものを与えるのではなく、犬にはドッグフード、猫にはキャットフードを食べさせるようにしましょう。
ただし、飼い主が別々の餌を与えていても、それぞれが相手の餌を食べてしまう可能性もあります。合わない餌を食べ続けると皮膚病や肥満、腎臓病のリスクが高まるため、お互いの餌を食べてしまわないように注意しましょう。
餌を与えるときは、食べる場所を分けるなどの対策が必要です。また、餌の時間をずらすのもいいでしょう。食事中に他の動物が近くにいるとストレスを感じるペットもいるため、できれば餌を食べさせる場所や時間は分けるようにしてあげてください。
犬と猫が仲良くなれなかった場合はどうすればいい?
近年は、犬と猫が一緒に暮らす様子を綴った漫画やSNSの投稿などをよく見かけるようになりました。「我が家でも犬と猫が仲良く暮らす様子が見たい」と憧れた人は少なくないでしょう。しかし、犬と猫の同居が必ずしもうまくいくわけではないことは、飼う前にきちんと認識しておかなければなりません。
犬と猫は習性や生活リズムが異なるため、お互いの存在がストレスになります。特に猫は単独行動を好み、猫同士の多頭飼いが難しいことさえあるため、犬と仲良くなれない個体は決して珍しくありません。
犬と猫が仲良くなれなかった場合、無理に一緒の空間で過ごさせることは避けてください。かえってお互いを敵視し、関係が悪くなる可能性があります。まずは「相手がいても特に意識することはなく、リラックスして生活できる」という環境を目指すのが、犬と猫の同居成功のカギと言えるかもしれません。
そのためには、ケージから出す時間をずらしたり、犬と猫の居住部屋を分けたりといった対策が有効です。また、それぞれがリラックスできる場所を作ったり、散歩や遊びでしっかりストレスを解消させたりすることも欠かせません。
犬と猫を同居させるときは「じゃれ合えるほど仲良くなる」ことを目指さず、お互いが無理なく暮らせることをゴールにするといいでしょう。仲良くならなくても、お互いにストレスで体調を崩すようなことがなければ、同居はうまくいっていると言えるかもしれません。
ストレスの少ない同居を実現できるように、飼い主が犬と猫のそれぞれの様子をよく観察し、飼育方法を工夫してあげましょう。
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。