更新 ( 公開)
博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
町中で、犬を自転車に乗せている人を見かけたことはありませんか? 自転車を使えば、「徒歩では行きづらいけど、車や電車を使うほどではない」といった場所にもアクセスしやすくなり、愛犬と行動できる範囲がグッと広がります。しかし、軽車両である自転車に犬を乗せるには、守らなくてはいけない法律や注意点もあるのです。獣医師の茂木千恵先生に伺ったポイントをふまえて解説します。
目次
- 犬を自転車に乗せても大丈夫?
- 犬を自転車に乗せる際に気をつけたい道路交通法とは?
- 犬を自転車に乗せる際の注意点は?
- 子犬やシニア犬を自転車に乗せても大丈夫?
- 自転車に乗せない方がいい犬は?
- 犬を自転車に慣れさせるコツは?
- 犬を自転車に乗せる適切な方法は?
- 犬を自転車に乗せる際に便利なグッズは?
- 犬と自転車で移動したい場合の別の方法は?
犬を自転車に乗せても大丈夫?
基本的には、犬を自転車に乗せても大丈夫です。ですが、乗せ方によっては周囲の人を危険に巻き込む可能性や、道路交通法に違反してしまう可能性があるので、注意しなくてはいけません。安全対策をきっちりと行いましょう。
犬を自転車に乗せる際に気をつけたい道路交通法とは?
犬を自転車に乗せるときは、まず「道路交通法」に違反した乗り方ではないか気をつける必要があります。犬の安全面はもちろん、周囲の歩行者や車両に危険が及ばないように配慮することも重要です。
具体的には、「安定を失う恐れのある方法」で自転車を運転することは道路交通法違反です。特に犬を自転車の前カゴ部分にそのまま乗せるのは、違反になる可能性が高くなります。犬が左右に大きく動いたり外に飛び出そうとしたりしてバランスが崩れ、自転車ごと転倒してしまう危険性があるためです。
また、道路交通法では「自転車の片手運転」も禁止されています。つまり犬のリードを片手で持って自転車を運転するのはNGなのです。犬のリードとハンドルを同時に持っていても、ハンドル以外のものを持っている時点で違反となります。犬の進路によっては自転車にリードが絡んだり自転車と犬の間に歩行者を巻き込んでしまったりするため、自転車で犬と並走して散歩するのはやめましょう。
犬を自転車に乗せる際の注意点は?
犬を自転車に乗せる時、どのような点に注意すればいいのでしょうか。自転車の選び方や道を選ぶ時のポイントをまとめました。
安定感のある自転車を選ぶ
自転車は地面からの振動がダイレクトに届くため、犬にとってもペットカートなどに乗せられる場合よりも振動が伝わりやすくなっています。そのため、振動が伝わりにくいような厚いタイヤ、左右に振れにくい頑丈なフレームといった点を意識して、なるべく安定感のある自転車を選びましょう。
交通量の少ない、落ち着いた雰囲気の道を選ぶ
交通量が少なく安全に走れる経路を選ぶと安心です。工事現場などでの異常に大きな音も、犬のストレスにつながるので要注意。少し遠回りになっても、犬がより安心できる道を選んで走行するようにしましょう。
犬が怖がったらやめておく
リュック型キャリーで犬を背負う場合、犬の目線が普段よりはるかに高くなり、周囲の景色が素早く動いていくように映ります。すると、犬は興奮したり不安を感じたりしがちです。また、抱っこと違って安定感がないため長時間の走行は犬の肉体的にも精神的にも負担となることが懸念されます。犬が怖がる場合には、乗せ方を変えるか、無理に乗せないようにしましょう。
音楽を聴きながらはNG
イヤホンなどで音楽を聴きながらの走行は大変危険です。周囲の状況が分かりにくくなるだけでなく、犬の動きや吠えに気づきにくくなってしまい対応が遅れます。常に周囲の状況や愛犬の様子に気を配りましょう。
天気が悪い日は避ける
天候が悪いときは自転車を使うことは避けましょう。飼い主が単独で乗る場合でも、路面が滑りやすくなっていたり突然の横風にあおられて転倒したりしてしまうかもしれません。犬を乗せているとその危険性はより高まり、万が一転倒した際には犬も負傷する可能性があります。
自転車に乗せたまま放置しない
「ちょっと買い物するだけだから」と犬を乗せたまま自転車を放置するのはマナー違反。犬は飼い主がいないと不安になり、道路や通行人に向かって飛び出そうとするかもしれません。その衝撃で自転車が倒れてしまったら、愛犬はもちろん周囲の人にも迷惑をかけることになってしまいます。
子犬やシニア犬を自転車に乗せても大丈夫?
子犬は骨・関節が成長途中のため、関節が可動域を超えて曲げられてしまうことがあり痛みの原因になります。また、揺れて不安定な自転車に乗せることで関節の負傷にもつながります。子犬に「自転車に乗ったら体が痛くなった」という経験をさせてしまうと、今後のライフスタイルにも影響します。
どうしても子犬を自転車に乗せる必要がある場合は、極力短時間での移動にしましょう。乗せる際も、犬の座る位置にクッション性の高いものを敷く、犬の体にフィットするサイズのキャリーに入れるなど快適に過ごせるように工夫してあげてください。
シニア犬は関節に痛みを感じていることが多く、自転車に乗せられることでさらに痛みが増すことが考えられます。また、狭い空間に閉じ込めることで呼吸が苦しくなるリスクも。特に暑い季節は長時間の移動に自転車を使うのはおすすめできません。
自転車に乗せない方がいい犬は?
自転車に載せない方がいい犬の持病や犬種は下記の通りです。
自転車に乗せない方がいい持病
走行中、無理な体勢になったときに痛みを伴う可能性のある持病がある犬は注意が必要です。例えば、変形性関節症、脊椎ヘルニア、リューマチなどの慢性関節性疾患を持っている犬が該当します。また、呼吸器に不安のある持病を持っている犬、閉じ込められたときに不安を感じやすい性質の犬も乗せないほうが安全です。
この他、出産が近いメス犬も自転車に乗せないようにしましょう。走行中に無理な体勢になると、胎仔に悪影響を及ぼすことがあります。
自転車に乗せない方がいい犬種
パグ、フレンチ・ブルドック、ボストン・テリア、シー・ズーなど短頭種は、気道が閉塞し呼吸困難になりやすいため、走行中もこまめに呼吸数が落ち着いているかチェックする必要があります。
犬を自転車に慣れさせるコツは?
犬を自転車に慣れさせるには、最初はほんの短い時間から練習を始めることが大切です。いきなり長距離の移動に連れ出すと、慣れない乗り物を怖がってしまうかもしれないので少しずつ慣らしていきましょう。
犬の自転車へのイメージを良くするためには、落ち着いて自転車に乗れたらおやつをあげるのも有効です。初めて自転車に乗せて訪れる場所には、犬が喜ぶような公園や顔見知りの店員さんがいるペットサロンなどの場所を選ぶと好印象でスタートできるでしょう。
犬を自転車に乗せる適切な方法は?
具体的にどのようなポイントに注意して犬を自転車に乗せればいいのか解説します。
前カゴ部分に乗せる
犬は必ず前カゴ部分に乗せましょう。後方に乗せると、走行中に飼い主が愛犬の様子を確認できず、とっさの場合に愛犬の動きを抑えたりなだめたりすることができなくなってしまいます。
首輪ではなくハーネスを使う
ペット専用カゴの使う場合、内部に飛び出し防止のための短いリードフックが付いている場合が多くあります。リードフックを首輪につなぐと、万が一犬が自転車から落ちてしまいそうになった際に首吊り状態になる恐れがあります。思わぬ事故を避けるためにも、首輪でなくハーネスを着用した状態で自転車に乗せるようにしましょう。
座面に滑りにくいクッションシートを敷く
自転車に乗せられている犬には、常に小刻みな振動が伝わります。特に、歩道と車道の境目や点字ブロックの上を走る場合は、犬は大きな揺れを感じます。座面は滑りにくくクッション性の高いものを敷き、犬が過ごしやすいように工夫しましょう。
耐荷重量をチェックする
自転車にもよりますが、前カゴ部分の耐荷重は3~10kg程度となっています。これは、ペット専用カゴと犬の体重を合わせた重量が10kg未満であると安全という意味です。自転車を購入する際には必ず前カゴ部分の耐荷重量をチェックし、愛犬の重さとキャリー等の重さの合計が耐荷重量内に収まっているか確認するようにしましょう。
犬を自転車に乗せる際に便利なグッズは?
犬を安全に自転車に乗せるためには下記のようなグッズを使いましょう。
ペット用の自転車用キャリーバッグ
上部がワイヤーやメッシュで作られていて、しっかりと閉じることができるタイプが安全です。中に入れられる犬のサイズに限界がありますが、そもそも大きな犬を乗せると運転が不安定になり危険です。
ちなみに、口を縛るタイプのカゴはおすすめできません。犬が常に頭を外に出せる状態だと、犬は「いつでも飛び出せる」と誤解します。安全のためにリードフックが付いているものが多いですが、飛び出した犬がリードフックにつながれているせいで首つり状態になることもあるので注意が必要です。
自転車用ペットシート
自転車用のペットシートは、犬の飛び出し防止のためのハーネスがしっかりとしていて、四肢が安定した状態で乗せられるタイプのものを選びましょう。初めて乗せるときは怖がって暴れるかもしれないので、実際に走る前に自宅でただ乗せるだけの練習しておくことがおすすめです。
犬と自転車で移動したい場合の別の方法は?
犬が前カゴ部分に乗せられるのを嫌がる場合には、キャリーバックに入れて背負って移動することもできます。背中に背負ってしまうと犬の状態が確認しづらいため、外に飛び出しそうになっていないか、無理な体勢になっていないかなど、こまめに自転車を降りて確認するようにしましょう。
スリングは飼い主さんと密着できて安心する犬が多いですが、自転車に乗る場合は犬が周囲の状況に過剰に反応したり興奮した犬が外に飛び出そうとしたりして危険です。そのような事態に飼い主さんがすぐに対応できない上、左右どちらかに偏った抱え方になり、飼い主さん自身もバランスを崩しやすくなります。状況によっては道路交通法違反とみなされることもありますのでおすすめできません。
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。