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兵庫ペット医療センター東灘、獣医皮膚科学会、VET DERM TOKYO 皮膚科第1期研修医
動物が好きで、多頭飼育に憧れる人も多いでしょう。多頭飼育自体は問題ありませんが、アニマルホーダーにならないよう注意が必要です。アニマルホーダーは、多頭飼育崩壊を引き起こすおそれがあります。
この記事ではアニマルホーダーの定義や特徴、アニマルホーダーにならないために気をつけたいことなどを紹介します。ぜひ参考として、内容をご確認ください。
目次
- アニマルホーダーとは?
- アニマルホーダーの特徴
- アニマルホーダーになる原因
- アニマルホーダーの事例
- アニマルホーダーかも?遭遇したときの対処法
- アニマルホーダーにならないために気をつけたいこと
- ペットと飼い主の理想的な関係
- まとめ
アニマルホーダーとは?
アニマルホーダーとは、日本語では「劣悪多頭飼育者」を意味する言葉です。ホーダー(hoarder)とは専門用語で、ごみや物を捨てられず集めてしまう精神病理がある人に対して使われます。そこから、劣悪な環境で多頭飼育を行う人がアニマルホーダーと呼ばれるようになりました。
愛犬家、愛猫家にとっては、見るのもつらい話題かもしれません。しかし、動物の飼育環境を守るためにも、どのようなものか知っておく必要があります。
アニマルホーダーの定義
環境省の「動物の遺棄・虐待事例等調査報告書」から、アニマルホーダーの定義を紹介します。報告書によるホーダーの定義は、以下のとおりです。
1. 多数の動物を飼育している(何頭かは一概には言えない)。
2. 動物に対し、最低限の栄養、衛生状態、獣医療が提供できない。
3. 動物の状況悪化への対応ができない。
4. 環境悪化に対応できない。
5. 本人や同居人の健康や幸せにマイナス効果が生じていることに対応ができない。
参考:環境省_平成21年度 動物の遺棄・虐待事例等調査報告書
何頭からがアニマルホーダーに該当するかは、明確になっていません。上記の定義に該当する場合、アニマルホーダーであると考えられます。
アニマルホーダーの特質
アニマルホーダーに見られる共通の特質について解説します。動物に対して避妊、去勢の手術を行う人は稀で、自家繁殖によってますます増えていくのが大きな特質のひとつです。
犬を対象としたアニマルホーダーも見られますが、どちらかといえば猫がひどい状況だとされています。多頭飼育をしているため、それぞれの個体にはほとんど時間が割けず、動物病院にも連れていけません。
アニマルホーダーの特徴
どのような状態がアニマルホーダーなのか、具体的な特徴を紹介します。代表的な特徴として挙げられるのが、以下の6つです。
1. 収入や時間のほとんどを動物に使う
2. 動物好きをアピールしており周囲にサポートする人がいる
3. 動物以外も収集する傾向がある
4. 新しい飼い主を探さない
5. 病気に対する関心が薄い
6. 何度も繰り返す
特徴について、ひとつずつ確認してみましょう。
収入や時間のほとんどを動物に使う
アニマルホーダーには、収入や時間のほとんどを動物に使うといった特徴が見られます。収入や時間を費やすものの、十分な栄養や医療などの提供は行いません。そのため多くの動物が劣悪な環境で過ごすといった状態に陥ります。
動物好きをアピールしており周囲にサポートする人がいる
動物好きを強くアピールするのも、アニマルホーダーが持つ特徴です。行政から動物を引き取るといったケースも見られます。その様子から「動物好きな人」と見えるため、周囲にサポートする人がいるのも特徴です。
動物以外も収集する傾向がある
アニマルホーダーが集めるのは、動物だけではありません。ごみや不用品などを集めるという特徴もあります。もったいない、捨てられないといった理由で、いろいろなものを集めて積み上げるのです。その結果、アニマルホーダーの家は、ゴミ屋敷に近い状態になる傾向があります。
新しい飼い主を探さない
動物保護家は、保護した動物が安心して暮らせるように新しい飼い主を探します。しかしアニマルホーダーは、動物を保護しても新しい飼い主を探さないのも特徴です。「面倒を見られるのは自分だけ」「他の人には懐かない」といったように「譲渡できない理由」を自分で作る傾向が見られます。
愛護団体や行政を信じず、サポートを受けようとしないのも、アニマルホーダーに多い特徴です。
病気に対する関心が薄い
動物の病気に対する関心が薄いのも、アニマルホーダーの特徴です。「生きていれば大丈夫」といった考え方が多いとされています。そのため動物が病気になっても、適切な医療は提供されません。動物は病気のまま、治療されず放置されます。
何度も繰り返す
アニマルホーダーは、何度もホーディングを繰り返すという特徴もあります。ホーディングの傾向が見られるようになるのは、20代ごろからです。家族や行政が動物を取り上げたとしても、同じことを繰り返します。動物を取り上げるだけでは根本的な解決にはなりません。
アニマルホーダーになる原因
アニマルホーダーになる原因は人によって違います。代表的な原因は次のようなものです。
1. 強迫性障害(OCD)
2. 近親者の死を始めとする重大な喪失
3. 認知症
4. 精神疾患
特に関係が深いと考えられているのが、強迫性障害(OCD)です。強迫性障害の患者のうち約2割に、動物に限らずホーディングの症状が見られます。
ただし強迫性障害だからといって、必ずしもアニマルホーダーになるわけではありません。強迫性障害患者は、自分で症状に気づいて治療を受ける人もいます。
しかしホーダーは、自分自身の症状を問題だとは考えていません。
アニマルホーダーの事例
アニマルホーダーは、どのような問題を起こしているのでしょうか。国内で発覚した、実際のアニマルホーダーの事例を紹介します。
名護市で57頭の犬を劣悪な環境で飼育
2008年、名護市では劣悪な環境で飼育されている57匹の犬が見つかりました。飼育していたのは49歳の男性です。犬たちは狂犬病の予防接種を受けていなかったことが判明しています。
県や名護市による行政指導が行われ、男性は書類送検されました。
倉敷市で猫17匹の死骸が見つかる
2006年には、倉敷市の民家で猫17匹が死に、ノミが大量発生するという事件も発生しています。事件で逮捕されたのは42歳の女性です。女性は借家で猫を飼っていたものの、餌を与えるだけで糞尿の処理をしていませんでした。
激しい異臭によって家主が明け渡しを求めたところ、女性は猫を置き去りにして福山市に転居したのです。この事件では、略式起訴により、倉敷簡裁が罰金20万円の略式命令を出しています。
松山市で猫9匹が衰弱死
2007年には、松山市で猫9匹を衰弱死させたとして、48歳女性とその長女が書類送検されています。親子は、敷地内の小屋で12匹の猫を飼育していました。しかし12月上旬から3月22日までのあいだほとんど帰宅せず、猫たちに餌や水を与えないまま衰弱死させたのです。
2人は動物愛護法違反の疑いで、松山地検に書類送検されています。
アニマルホーダーかも?遭遇したときの対処法
アニマルホーダーに遭遇したときの対処法を紹介します。動物の多頭飼い自体は問題ありませんが、多頭飼育崩壊や劣悪環境飼育の状態にあるなら、アニマルホーダーである可能性が高いでしょう。
アニマルホーダーに対しては、認知行動療法を繰り返していく必要があります。しかし自覚もないアニマルホーダーに対する治療は困難です。
多頭飼育が崩壊している場合、第三者からのアプローチとして、保護団体やボランティア団体に相談する方法があります。また地域包括支援センター、社会福祉協議会など、福祉関係の機関への相談も必要です。
アニマルホーダーにならないために気をつけたいこと
自覚しづらいのがアニマルホーダーです。そこで、アニマルホーダーにならないよう、自分を省みながら注意しなくてはなりません。アニマルホーダーにならないために気をつけたいこともチェックしてみましょう。
十分な飼育ができる限度を明確に決める
多頭飼育をするのなら、飼育できる限度を明確に決めるのが大切です。動物を飼うにあたっては、十分な栄養、適切な医療、清潔な環境が必要になります。
十分な栄養と適切な医療には、費用も必要です。また清潔な環境を保つためには、ある程度の広さも求められます。ギリギリで維持するのではなく、余裕を持った飼育ができる範囲で限度を決めると、アニマルホーダーになるのを防げるでしょう。
飼育する動物の避妊や去勢を行う
多頭飼育するなら、動物の避妊、去勢を行いましょう。アニマルホーダーには、避妊や去勢を行わずに数が増えてしまい、多頭飼育崩壊に陥る例が見られます。
たとえば猫は、交尾の刺激で排卵して、ほぼ確実に妊娠する動物です。条件が揃うと1年中いつでも出産が可能で、約2か月の妊娠期間を経て1度に4~8頭を出産します。
環境省によると、1匹の雌猫が、3年後には2,000頭に増える計算です。避妊や去勢を行わないと爆発的に増える可能性もあります。多頭飼育崩壊を防ぐためにも、避妊、去勢手術を行うのが大切です。
保護動物が増えても一人で悩まない
アニマルホーダーにならないためには、保護動物が増えても一人で悩まないようにしましょう。捨てられている動物を、可哀想だと次々に拾ってアニマルホーダー化する人もいます。確かに捨てられている状況は可哀想ですが、劣悪な環境で飼うのも残酷です。
「周囲に相談相手がいない」「自分が飼わなくてはならない」と思い込まず、困ったときは行政に相談してください。行政に相談すると、適切な団体を紹介してもらえる可能性があります。動物のためにも、自分のキャパシティを超えない範囲で飼育しましょう。
ペットと飼い主の理想的な関係
動物の飼育においては、ペットと飼い主の理想的な関係を考えるのも大切です。環境省の「動物の遺棄・虐待事例等調査報告書」では、動物福祉の観点から見て、ペットと飼い主の関係には以下の5つの自由が必要だとしています。
1. 飢えと渇きからの自由
2. 不快からの自由
3. 痛み・負傷・病気からの自由
4. 恐怖や抑圧からの自由
5. 自然な行動をとる自由
人間に飼育される動物は、自分で基本的なニーズを満たせない不自由さがあります。その不自由さを少しでも解消できるよう、飼い主には努力が必要です。
まとめ
快適に生きられない劣悪な環境下に、どんどん動物を集めてしまうのがアニマルホーダーです。アニマルホーダーは動物だけでなく、本人や周囲の人も不幸にします。自覚するのは難しいため、まず「アニマルホーダーにならないこと」を考えなくてはなりません。
動物、そして自分のためにも、アニマルホーダーにならないよう、意識していきましょう。