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日・米・英にて行動診療やパピークラスを実施する動物行動コンサルティングはっぴぃているず代表。日本でまだ数十名しかいない獣医行動診療科認定医として幅広く活躍。
洗面所や脱衣所など、家のあらゆるところに落ちてしまう髪の毛。その髪の毛を食べてしまう犬の行動をやめさせたいけれど、原因や対処法がわからず、困っている飼い主も多いのではないでしょうか。今回は、犬が髪の毛を食べる理由や対処法、さらに、髪の毛を引っ張ったり、噛んだりする行動などについて、動物行動コンサルティングはっぴぃているず所属の獣医師、フリッツ吉川綾先生に解説いただきます。
目次
- 犬が髪の毛を食べる理由は?
- 犬が髪の毛を食べるリスクは?
- 犬が髪の毛を食べる行動の対処法は?
- 犬が髪の毛を噛んだり、引っ張ったりする理由は?
- 犬に髪の毛を噛ませない、引っ張らせないための対処法は?
犬が髪の毛を食べる理由は?
犬が髪の毛を食べてしまう理由には以下のようなものがあります。愛犬の行動にあてはまるものがないか、チェックしましょう。
遊びの延長による誤飲
髪の毛はちょっと触るとそれぞれが違う動きをし、引っ張ったら取れるという結果も得られるので、犬にとって楽しむ対象になりやすいです。特に子犬が飼い主の髪にじゃれつくことが多いでしょう。また、飼い主がやめさせようと騒いだり、手で髪を抑えたりすることを遊びの一環と学習してしまうと、飼い主にかまってほしい時や遊んでほしい時にも髪を引っ張るようになってしまいます。こういった遊びの過程では興奮することも多いため、誤って髪の毛を飲み込んでしまうことも多いと考えられます。
匂いチェックからの誤飲
髪の毛についている整髪料などの匂いや、排水口や床などに髪の毛と一緒に溜まっている物の匂いに興味を持つ場合があります。それをチェックするため舐めているうちに、誤って食べてしまうこともあるでしょう。
食事管理や体に問題がある
栄養のバランスが崩れている、食事量が足りていないなどの栄養管理の問題がある場合が考えられます。また、胃などの上部消化管に不快がある場合には、床やカーペットなどを舐めるような行動が見られることもあるため、誤って髪の毛を飲み込んでしまう可能性があります。
ストレス、行動学的な問題がある
嫌なことや怖いことがあったときや、社会的・身体的な刺激が不足しているなどの状況下では、ストレスを抱えていることもあります。また、飼い主の頭、排水口、床などにある髪の毛を必死に探すように食べる場合は、犬の正常な行動を逸脱した行動学的な問題があることも考えられます。
犬が髪の毛を食べるリスクは?
犬が髪の毛を食べてしまうと、どのようなリスクがあるのか詳しく見ていきましょう。
髪の毛が消化管につまる
少量であれば問題になりませんが、髪の毛は消化できないので食べる量が多くなると胃などに詰まってしまいます。その結果、食欲低下、嘔吐、元気がなくなるなどの症状が見られることがあります。
ヘアワックスなどによる中毒
髪の毛につけるヘアワックスやジェルなどのスタイリング剤の成分にも注意が必要です。特に育毛効果のあるミノキシジルは、飼い主の皮膚や枕カバーを舐めた程度という非常に少量であっても、犬や猫には重篤な中毒を起こすことが報告されています。
※参考
Kathy C. Tater,Topical Minoxidil Exposures and Toxicoses in Dogs and Cats: 211 Cases (2001–2019),Volume 57,Issue 5,Sep/Oct 2021
犬が髪の毛を食べる行動の対処法は?
犬が髪の毛を食べるのを防ぐためには、いくつかの対処法があります。以下を参考に犬との生活環境を整えましょう。
髪の毛が落ちている場所に近寄らせない
カーペットや排水口など、多くの髪の毛が落ちている可能性のある場所には近寄らせないことが大切です。扉を閉めたり、ゲートやサークルを設置するなどの工夫をしましょう。
こまめに室内の掃除をする
人の抜け毛は1日50〜100本といわれます。それが家族分となると多くの髪の毛が床に落ちていることになります。特に脱衣所や人が髪の毛を整える鏡の前などはこまめに掃除をするように意識しましょう。
飼い主の髪の毛にじゃれつく機会を作らない
運動させたり、コミュニケーションの機会を増やしたりすることで、飼い主の髪の毛にじゃれつく機会を作らないようにしましょう。
食事や生活の見直しをする
お腹が空いていたり、何らかのストレスがあったりする場合にも、髪の毛に興味を持つきっかけとなるかもしれません。食事や生活がより充実したものになるように見直しをしましょう。高品質でバランスの取れた内容かつ、体重や体質にあった量の食事が理想です。よくわからない場合は、かかりつけの動物病院で獣医師や動物看護師に相談することをおすすめします。また、生活全般が充実し、安定するように、①空間、②採食、③感覚、④社会的、⑤認知という5つの基準から成る「環境エンリッチメント」を心がけてください。
動物病院で健康診断を受ける
犬が髪の毛を食べる場合は、何らかの身体的な問題や行動学的な問題が関連している可能性もあります。まずは、一度、かかりつけの動物病院で健康診断を受け、相談するとよいでしょう。もし、身体的な問題が見つからない場合には、獣医行動診療科を受診する必要があるかもしれません。
犬が髪の毛を噛んだり、引っ張ったりする理由は?
犬の中には室内に落ちている髪の毛を食べるだけでなく、飼い主などの髪の毛を噛んだり、引っ張ったりする子もいます。そのような行動をする場合、髪の毛を噛んだり、引っ張ったりすることが犬にとって遊びの対象になっているのが大きな理由です。触るだけでそれぞれの髪の毛が違う動きをするので、楽しんでいるのでしょう。または、飼い主にかまって欲しいときや遊んで欲しいときにもこの行動をとることがあります。
犬に髪の毛を噛ませない、引っ張らせないための対処法は?
犬が飼い主などの髪の毛を噛んだり、引っ張ったりしないようにするためには、以下のような対処法があります。それぞれ見ていきましょう。
普段からたっぷり運動・遊びをさせる
髪の毛に興味を持つことを少なくするために、日頃からたっぷりと散歩や運動の機会を与えるのがよいでしょう。また、頭を使った活動や遊び、飼い主とのコミュニケーションの機会を与えることなどがとても大切です。
立ち上がって犬が髪の毛に届かない姿勢になる
飼い主の髪の毛を狙ってきたら、大げさに騒がず、すっと立ち上がり、犬が髪の毛に届かないような姿勢をとりましょう。それでもしつこくやってくるようであれば、飼い主がその場から離れるようにします。
別室やケージの中などで過ごさせる
休んでいる時や眠っているときなど、寝ている姿勢のときに髪の毛を噛んだり引っ張ったりされる場合には、犬をケージや別室に誘導しましょう。その際、ケージや別室では犬がリラックスできる環境を整え、あらかじめ慣らしておくようにします。