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ふくふく動物病院院長。得意分野は皮膚病。飼い主とペットの笑顔につながる診療がモットー。キャバリアと5匹の保護ねこ、わんぱくなロップイヤーと一緒に暮らしている。
土佐闘犬は大柄でがっちりした体型と、こわもての風貌が特徴的な犬種です。見た目の印象と闘犬という言葉から、獰猛な犬という印象を持っている方もいらっしゃることでしょう。この記事では、実際の土佐闘犬とはどのような犬なのか、ルーツや性格など家庭犬としての飼いやすさについて解説しています。
目次
- 土佐闘犬の歴史やルーツは?
- 土佐闘犬と土佐犬の違いとは?
- 土佐闘犬の体高・体重は?
- 土佐闘犬の特徴は?
- 土佐闘犬の性格は?
- 土佐闘犬は家庭で飼える?
- 土佐闘犬がかかりやすい病気
- 土佐闘犬による咬傷事件
- 土佐闘犬を「特定犬」に指定している自治体
- 土佐闘犬を飼育するうえで飼い主が果たすべきこと
- まとめ
土佐闘犬の歴史やルーツは?
土佐闘犬の来歴を紐解くと、その歴史は14世紀にまでさかのぼります。鎌倉時代から室町時代の頃、現在の高知県にあたる土佐藩で、藩士の士気を高めるために闘犬が奨励されていました。
この時期に闘犬として活躍していたのは、土佐犬と呼ばれていた四国土着の猟犬です。中型の日本犬で、現在は四国犬という犬種名で登録されています。しかし、多くの人が「土佐犬」と聞いて思い浮かべるのは、横綱を思わせる風貌の大型犬ですよね。なぜ中型犬だったはずの土佐犬が、いつの間にか大型犬になったのでしょうか。
その理由は、闘犬が盛んになった幕末から明治にかけて、世界一の闘犬を生み出そうという気運のもと、土佐犬の大型化が進んだからです。
土佐犬(四国犬)をベースにブルドッグ、イングリッシュ・マスティフ、ジャーマン・ポインター、グレート・デーン等との交配改良が行われた結果、現在のような大型の闘犬が犬種として固定されました。
土佐闘犬と土佐犬の違いとは?
より強い闘犬を目指して誕生した改良型の土佐犬は、現在もジャパニーズ・マスティフと呼ばれるほどマスティフの血が色濃く出ています。その結果、作出のベースとなった本来の土佐犬とは、サイズだけではなく風貌も大きくかけ離れてしまいました。
そこで、混同を避けるために元々の土佐犬の登録犬種名を「四国犬」と改名し、闘犬として改良された犬を「土佐闘犬」としたのです。現在、一般的に土佐犬と呼ばれているのは土佐闘犬で、本来の土佐犬であった四国犬のことではありません。
土佐闘犬の体高・体重は?
土佐闘犬はマスティフをはじめとして、様々な犬種との交配によって誕生した犬種です。そのため、小さめの個体から超大型犬までと、体格にはかなりの幅があります。
- 体重 30~100kg
- 体高 60~80cm
闘犬の愛好団体によって基準は異なりますが、体重によって大型・中型・小型と3段階に分けられることもあります。
土佐闘犬の特徴は?
土佐闘犬には、闘犬としての歴史をうかがわせる様々な特徴があります。
- がっしりした骨格
- 力強い筋肉質の体
- 咬まれてもダメージの少ないたるんだ皮膚
- 大きな口と強靭なアゴ
また、土佐闘犬は付け根が太く長い垂れ尾を持ちますが、断尾はしません。耳は基本的に垂れ耳ですが、笹耳(耳の半分が垂れている)の犬も少数ながら存在しています。
土佐闘犬の毛質と毛色
土佐闘犬の被毛は短く、毛質は硬めのスムースコートのみです。また、毛色はレッド、フォーン、ブラック、アプリコットなどがあり、少数ながらブリンドルやホワイトも存在しています。
土佐闘犬の性格は?
土佐闘犬は迫力のある体格とこわもてから凶暴なイメージを持たれがちですが、多くの大型犬と同様に、大らかで忍耐強い一面を持っています。また、日本犬としての性格もしっかり受け継いでおり、信頼している飼い主に対しては従順に振る舞うことができる聡明な犬種です。
しかし、同時に闘犬としての性質もしっかり持ち合わせているため、闘争本能、警戒心、縄張り意識が強いことも性格的な特徴の一つといえるでしょう。特に成犬のオス同士がメスをめぐって争う際に攻撃性が高まりやすいため、注意が必要です。
土佐闘犬は家庭で飼える?
土佐闘犬はとても魅力的な犬種ですが、興味本位で飼育することは困難な犬種でもあります。大型犬らしく大らかで穏やかな一面を持つ犬ですが、闘犬として「いかに強靭であるか」を追求して交配が重ねられた歴史があり、強い闘争心と警戒心をいまだに持ち合わせていることは間違いありません。
こうした性質は、闘犬が衰退した今では消失したかのように見えるかもしれませんが、何かのきっかけで表に出てしまうことは珍しくないのです。そのため、同じ大型犬であっても家庭犬として人気の使役犬や牧羊犬などと同じような感覚で飼育することは、かなり難しいと考えたほうがよいでしょう。
それでも、どうしても土佐闘犬を飼いたいのであれば、この犬種の持つ気質の良い面だけではなく難しい面も正確に理解し、そのうえできちんと飼育環境が確保できるのかを検討する必要があります。
もちろん、筋骨隆々でパワフルな土佐闘犬をしっかり制御できるだけの体力と、気力を兼ね備えていることも飼い主に求められる重要なポイントとなるでしょう。
家庭犬として過ごすために必要なトレーニングを一貫しておこなうことができるのか、体力自慢の土佐闘犬を毎日満足させられるほどの運動量が確保できるかなど、飼い主には相当の覚悟が必要な犬種です。
土佐闘犬がかかりやすい病気
土佐闘犬がかかりやすいとされている病気には、次のようなものがあります。
股関節形成不全
股関節形成不全とは、骨格が形成される時期に骨の変形や関節が緩むなどの異常が起き、骨盤にある寛骨臼というくぼみと後ろ肢の大腿骨頭というでっぱりが上手くかみ合わなくなる病気です。
大型犬に多く見られるこの病気は、約7割が遺伝的要因によるものと考えられていますが、環境的要因によっても発症することが指摘されています。
肘関節形成不全
肘関節形成不全とは、肘関節の発育不全が原因で痛みが生じる病気です。大型犬や超大型犬に多く見られる病気で、ほとんどの場合は両足に症状が出るため、正常な歩行ができなくなります。
胃捻転
胃捻転とは、なんらかの原因で胃がねじれてしまい、血液の循環が妨げられてしまった状態のことです。主な原因として胃の中でガスが発生しやすい食べ物を食べたことやドカ食い・早食い・食後すぐの運動などが指摘されていますが、根本的な原因がはっきりしないこともあります。
早めに処置をしないと命を落とす危険性が高いため、一刻も早く動物病院を受診する必要があります。
眼瞼内反症(逆さまつ毛)
眼瞼内反症とは、まぶたが内側に巻き込まれ、まぶたの縁が眼球に接している状態のことをいいます。命にかかわるような重篤な病気ではないものの、常にまつ毛が眼球に接することで、眼球表面への刺激が慢性的に続くことになります。
その結果、目の痛みや角膜潰瘍などを引き起こしやすくなるため、見つけ次第早めに治療を開始することが大切です。
土佐闘犬による咬傷事件
とても残念なことですが、これまでに土佐闘犬による多くの咬傷事件が起きています。
世話をしていた飼い主の男性が檻の中で噛み殺されてしまった――。
海岸で土佐闘犬に襲われた女性が溺死してしまった――。
このように「犬に噛まれてケガをした」という程度では済まされない深刻な事故や事件が、土佐闘犬によって引き起こされている現状があります。こうした咬傷事件により、土佐闘犬の凶暴なイメージが強調されているのは間違いなさそうです。
しかし、これらの咬傷事件の多くは放し飼いや脱走など、飼育管理が徹底されていなかったことが原因であると指摘されています。飼い主が土佐闘犬の性質を正しく理解し、そのうえできちんと管理できていたら、これらの事件・事故は防げたのかもしれません。
土佐闘犬を「特定犬」に指定している自治体
現在、土佐闘犬は以下の自治体で条例に基づく「特定犬制度」の対象に指定されています。
- 茨城県
- 水戸市
- 札幌市
- 佐賀県
特定犬制度とは?
日本では、動物愛護管理法によって人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれがある動物とその交雑種を特定動物とし、愛玩動物として飼育することが禁止されています。しかし、特定動物の中にペットとして飼育されている犬や猫は含まれていません。
そのため、人に危害を加える恐れのある犬や、咬傷事故が起きた際に深刻な事件になる可能性が高い犬種を自治体の条例で指定し、注意喚起がされているのです。
一般的な犬はつないで飼うことを基本としていますが、特定犬は檻の中で飼い、さらには特定犬である旨の標識(ラベル)を掲示するように求められています。
土佐闘犬を飼育するうえで飼い主が果たすべきこと
土佐闘犬は自治体によっては「特定犬」に指定されている犬種です。そのため、特定犬に指定されていない地域で飼育するにしても、気をつけるべきことがあります。
- 土佐闘犬を飼育することについて、近隣住民の理解を得る
- 囲まれている頑丈な檻を用意し、その中で土佐闘犬を飼育する
- 子犬の頃からしっかりトレーニングし、適切な社会化を促進させる
- ストレスがたまらないよう、毎日の適切な運動を欠かさない
- 散歩をさせる時間帯やルートに配慮し、近隣住民に不安を与えないように配慮する
- 脱走対策を万全にして、不測の事態が起きないようにしっかり管理する
土佐闘犬は素晴らしい犬種ですが、闘犬としての気質を考えると、やはり一般的な犬と同じように飼うことは困難といえるでしょう。そのうえで土佐闘犬と暮らすのであれば、飼い主には「土佐闘犬の飼い主」として果たすべき責任があるはずです。
土佐闘犬という犬種の本当の魅力は、飼い主が責任を持って飼育をしてこそ、周囲に正しく伝わっていくのではないでしょうか。
まとめ
土佐闘犬は現在の四国犬をベースとして、さまざまな種類の犬が交配されて作り上げられた犬種です。そのため、小さめの大型犬から超大型犬まで、サイズ一つをとってもかなり個体差の大きな犬種といえるでしょう。また、基本的には大型犬らしく比較的穏やかな性格の持ち主といえますが、闘犬としての気質が色濃く残っています。
そのため、ひとたび咬傷事故が起きてしまうと、深刻な事態に陥ることも。そういった経緯から、人に危害を加える可能性のある「特定犬」に指定している自治体もあります。
土佐闘犬は魅力的な大型犬ですが、一般的な犬と同じ感覚で飼育することはおすすめできません。地域の中で愛される犬に育てるには、一般的な犬種に比べてより近隣の理解を得ることが求められます。そのためにも日々のトレーニングをきちんと積み重ね、土佐闘犬との信頼関係を正しく築くことがなによりも大切です。