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明石むかい動物病院院長。獣医麻酔外科学会、獣医がん学会。
迷い犬を見つけたら、すぐにでも保護をして飼い主を探してあげたいと思う方は多いのではないでしょうか。慌てて保護しようとして噛まれる恐れもあるため、正しい保護の方法について確認しておくことが大切です。
この記事では、迷い犬を見つけたときの対応方法をテーマに、保護方法や連絡先、保護できないときの対応などについて詳しく解説します。
目次
- 見つけた迷い犬を保護する方法
- 飼い主の連絡先が分かった場合の対処方法
- 迷い犬の飼い主が分からない場合の連絡先
- 迷い犬を保護できなかったら?
- 殺処分を避けたい場合はどうすればいい?
- 迷い犬にさせない工夫も必要
- 迷い犬を見つけたら慌てずに保護しましょう
見つけた迷い犬を保護する方法
迷い犬を保護する場合、慎重に行動することが重要です。迷い犬は不安や緊張状態にあることが多く、身を守るために噛むことがあります。したがって、保護の際は噛まれないように特に気をつけなければなりません。迷い犬を保護するときのポイントについて詳しく見ていきましょう。
噛まれないように注意する
迷い犬に噛まれないように、顔を正面から見ずに目を見つめることは避け、ゆっくりとした動作を心がけましょう。また、手を犬の方へ突き出さないようにし、安心感を持てるように振る舞うことが大切です。無理に捕まえようとすると、逃げたり噛まれたりする恐れがあります。
時間をかけて保護する
迷い犬に近づく際は、静かに接近します。急に駆け寄ったり叫んだりすると脅威と感じられてしまい、噛まれるリスクがあります。たとえ犬のほうから近づいてきたとしても、すぐには触らずに時間をかけて慣れさせることが大切です。
おやつを見せて近づくように促すことも有効ですが、どのような犬かわからないため、無理におやつを取られる恐れもあります。喜び、怒りといった感情の激しい変化をさせないように、自然に近づいてくるように促しましょう。
保護した迷い犬は安全な場所につなぐ
犬を保護したら、安全な場所に連れて行きましょう。迷い犬を安全な場所に連れて行くためにリードを使用します。これにより、犬が逃げたり危険な状況に陥ったりするのを防ぎます。自宅に連れて帰る場合は、感染症予防の観点から自身のペットとの接触を避け、まずは獣医師の診察を受けることが大切です。
また犬にはフードと水を提供しましょう。特に、迷ってから長時間が経過している場合、栄養と水分が大きく不足しているため、速やかに与える必要があります。ただ、迷い犬が安心できる場所を提供しなければ、食事をしない可能性があります。静かで安全なスペースを用意し、犬がくつろげるようにしましょう。
飼い主の連絡先が分かった場合の対処方法
首輪に取り付けられた迷子札をチェックし、飼い主の電話番号を確認します。迷子札に記載された電話番号に電話をかけて、飼い主に迷子犬が見つかったことを伝えます。飼い主と連絡を取り、引き渡し方法や場所を取り決めましょう。
公共の場所や警察署、動物保護施設などが良い選択肢です。安全のため、個人の自宅での引き渡しは避けた方がよいでしょう。飼い主に引き渡すまで、迷子犬を安全な場所で保護し続けます。食事や水を提供し、犬が快適に過ごせるようにしましょう。
迷い犬の飼い主が分からない場合の連絡先
迷子になっていると思われる犬や猫で、飼い主への連絡先等が全くわからない場合は、保健所、自治体(動物愛護センターや動物保護センター等)、交番、警察署(拾得物届をする)に連絡します。
自宅や知人宅でしばらく保護ができる場合でも、警察や各自治体への連絡はしてください。なお、保護期間については自治体によって異なるため一概には言えません。
迷い犬の飼い主の連絡先が不明な場合の連絡先について詳しく見ていきましょう。
保健所
保健所は、迷子の動物や負傷した動物を一時的に収容し、必要な医療ケアを提供します。迷子の犬の場合、犬の鑑札や狂犬病予防注射済証がついている場合は、飼い主の元へ帰すサポートを行います。
保健所は、収容している動物の情報を公開し、飼い主が見つけやすいように努力しますが、トレーニングや譲渡会といったそれ以上の対応は行いません。
一部の保健所では、保護された動物が一定期間収容された後、都道府県内の動物愛護センターに移送されます。ここでは、動物たちは新しい飼い主を見つけるための譲渡会が定期的に行われるため、新しい飼い主が見つかる可能性があります。
また、犬のしつけ相談やしつけ教室などの教育プログラムも提供され、飼い主と犬の適切な関係を築くための支援を行っています。
近年、多くの動物愛護センターが「殺処分ゼロ」を目指す取り組みに基づき、譲渡会をはじめとするサポートを提供しています。
警察
飼い犬と思われる迷子犬を保護した場合、まずは警察署に遺失物拾得届を提出しなければなりません。これは、犬が迷い犬であることを正式に報告する手続きであり、この手続きを怠ると刑法254条の占有離脱物横領罪に問われる恐れがあります。
また、警察に以下の特徴を伝えることで、飼い主が見つかりやすくなります。
1. 犬種と色、その他の特徴
2. 性別
3. おおよその年齢(わからなくても問題ありません)
4. 犬を保護した場所と時間
5. 首輪の装着状況、首輪の特徴
6. 保護した人の名前と連絡先
警察が預かってくれるかどうかは、地域や警察署によって異なります。そのため、警察署に迷子犬の情報を提供し、警察の指示に従うことが重要です。
迷い犬を保護できなかったら?
迷い犬は、必ず保護すべきとは限りません。噛まれるリスク、安全な場所で保護できないケースなどを考慮すると、保護せずに飼い主が見つかるように対応するのも1つの方法です。迷い犬を保護できなかった場合の対応方法について詳しく見ていきましょう。
保健所や警察に必ず連絡する
迷子の犬や猫を見つけた場合、地元の保健所に直ちに連絡しましょう。保健所は迷子動物の収容や情報提供を行う機関です。
また、迷い犬が飼い犬と思われる場合、警察署にも連絡しましょう。首輪や識別情報がない場合でも、警察に報告することが重要です。警察は遺失物拾得届を受け付け、必要な手続きについて案内してくれます。
保健所と警察は、いずれも迷い犬を見つけた地域を管轄するところに連絡することが大切です。
SNSで情報を共有する
迷い犬専門の情報サイトやSNSに情報を投稿し、飼い主からの連絡を待つのも1つの方法です。迷い犬の特徴、写真、保護場所と日時などを共有します。この情報は他のユーザーや愛犬家と共有されるため、飼い主が見つかる可能性が高まります。
Facebook、X(旧Twitter)、Instagramなどの一般的なSNSプラットフォームを活用して、迷子犬の情報を広めることもできます。専用のハッシュタグを使って投稿し、他のユーザーと情報を共有しましょう。地域の愛犬家や動物愛護団体が積極的に情報を拡散してくれることがあります。
また、他のユーザーやフォロワーに拡散をお願いするメッセージを添えましょう。拡散すればするほどに、飼い主が見つかる可能性が高まります。
なお、犬が見つかった場合や新たな情報がある場合、投稿を修正して最新情報を提供し続けることが大切です。
殺処分を避けたい場合はどうすればいい?
近年は保健所や動物愛護センターで殺処分をなくすために、迷い犬の譲渡、返還に向けて賢明に活動しています。そうした努力の積み重ねで、殺処分ゼロを達成している自治体もあります。そうした事情は理解しつつも、飼い主のもとに帰れない迷い犬を心配する方もいるでしょう。
殺処分を避けるための有効な方法の1つは、自身が迷い犬の里親になることです。動物愛護センターや保護団体は、里親探しをサポートしており、保護した人自身も里親になれる可能性があります。健康状態の確認や、里親になる方法、プロセスについて詳しい情報を得ることができます。
また、殺処分を避けるために、動物愛護センターや保護団体に寄付したりボランティア活動で支援したりするのも1つの方法です。自ら里親を探すのも1つの方法ですが、里親に相応しい人物かどうかの判断が難しいため、動物愛護センターや保護団体に任せた方がよいでしょう。
迷い犬にさせない工夫も必要
なるべく迷い犬にさせないための工夫も必要です。例えば、次のような取り組み方があります。
◆ マイクロチップの装着
マイクロチップは犬の身体に埋め込む小さなデバイスで、飼い主の連絡先情報を含みます。迷子になった場合、保護施設や獣医がマイクロチップを読み取り、識別番号をもとに日本獣医師会に問い合わせを行い、データベースから飼い主の情報を取得できます。マイクロチップの装着は犬の迷子予防に効果的です。
◆ 迷子札と鑑札
犬の首輪には迷子札と鑑札(登録証)を装着しましょう。迷子札には飼い主の連絡先情報が記載され、鑑札には犬の登録情報が含まれています。迷い犬が見つかった際に飼い主との連絡をスムーズに行うのに役立ちます。なお、鑑札票及び狂犬病注射済票の装着は法律で義務付けられていますので、必ず装着するようにしましょう。
◆ ハーネスや首輪の点検
犬のハーネスや首輪は定期的に点検しましょう。緩んだり壊れたりしていないか確認し、必要に応じて新しいものに交換してください。首輪が取れる可能性がある場合、アンクルリード(首輪とリードが連結されたもの)を使用することも検討しましょう。
◆ 玄関前に犬用ゲートの設置、ロックの徹底
玄関からの急な飛び出しでの事故や脱走を防ぐため、玄関前に犬用ゲートを設置し、定期的に点検をしましょう。ゲートはまたがずに都度開閉し、しっかりと締めて確実にロックがかかっていることを確認します。完全に固定ができているか、取り付け部に緩みやガタツキがないか、ゲートの近くに踏み台になるようなものを置いていないか、定期的に点検をしましょう。
◆ ダブルリードの使用
ダブルリードは首輪を2つ、もしくは首輪とハーネスを併用し、それぞれに1本ずつリードをつなぐ方法です。何らかのトラブルで片方の首輪やハーネスが外れてしまっても、もう片方がつながっているため、逃げ出すのを防げます。特に、小型犬やリードをすぐに引っ張ってしまう犬種に適しています。
迷い犬を見つけたら慌てずに保護しましょう
迷い犬は緊張していることから、普段はおとなしくても人を噛むことがあります。慌てず、ゆっくりと時間をかけて保護をしてあげてください。保護した後は、元の飼い主または新しい引き取り手が見つかるように専門機関とうまく連携しましょう。
犬好きであれば自宅で保護したくなる方もいるかもしれません。しかし、保護した犬に問題行動が出たり狂犬病の予防接種をしていなかったりという場合もあります。
また、保護したもののマンションなどで犬を保護できない環境や、保護した犬が吠えて近所トラブルになる、家族にアレルギーがあるといった可能性も考えられます。
そのため、迷い犬を保護したら、基本的には警察や保健所、動物愛護センター、地元の保護団体、ドッグトレーナーなどのプロに相談するようにしましょう。
なお、自宅での保護は自己責任となるため、犬の行動にも問題がなく、動物病院で感染症の疑いがないことや健康状態も良好であることを確認した上で、決断した方が良いでしょう。