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バーニー動物病院千林分院分院長。ペット薬膳管理士、中医学アドバイザー。動物病院でペットの診療にあたる傍ら犬猫の手作りご飯教室や問題行動のカウンセリングを行う。
ニキビダニ症は、別名・毛包虫症とも呼ばれる皮膚疾患です。ニキビダニは健康な犬の皮膚にも存在していますが、何らかの理由で過剰に増えてしまうことで、皮膚のかゆみ、フケや脱毛など、さまざまな症状を引き起こします。この記事では、ニキビダニ症の症状や病院に連れて行くタイミング、治療法などをバーニー動物病院千林分院の堂山有里先生監修のもと、詳しく解説していきます。
目次
- 犬のニキビダニ症はどんな病気?
- 犬のニキビダニ症の症状は?
- 犬のニキビダニ症の原因は?
- ニキビダニ症になりやすい犬は?
- 犬のニキビダニ症の治療法は?
- 犬のニキビダニ症の予防法は?
- ニキビダニ症は人間や他の犬にうつる?
犬のニキビダニ症はどんな病気?
ニキビダニ症は、犬の毛穴に寄生するニキビダニ(毛包虫)によって発症する炎症性の皮膚疾患です。ニキビダニは健康な犬の皮膚にも住み着いており、宿主の免疫力である程度活動が抑えられているかぎり、皮膚に害を及ぼすことはありません。しかし、ストレスや体調不良などによって免疫機構がうまく働かなくなり、ニキビダニが過剰に増殖してしまうと、皮膚に炎症が起こり、赤み、脱毛、などさまざま症状が現れます。
犬のニキビダニ症の症状は?
ニキビダニ症は、毛穴で多量に増えたニキビダニを追い出そうとして、皮膚の防御反応が働くことで、毛穴や毛に関連したさまざまな症状を引き起こします。代表的な症状としては、以下の通りです。
赤み
毛穴やその周囲の皮膚で炎症が起きて赤くなったり、ブツブツと赤く盛り上がったりする症状が現れます。
脱毛
ニキビダニ症の代表的な症状のひとつです。毛穴でニキビダニが過剰に増殖することで毛が抜けてしまいます。脱毛は目の周りなど顔から始まり、局所的に起こることが多いでしょう。
フケ
過剰に増殖したニキビダニを毛穴から押し出そうとする働きにより、フケが発生することがあります。フケとともにニキビダニが排出される仕組みです。
強いかゆみ
感染したニキビダニの種類や症状の重症度のほか、皮膚に存在する常在菌による二次感染の有無などによっては、強いかゆみが出ることがあります。ただし、かゆみは必ず生じるわけではなく、ニキビダニ症はかゆみのない脱毛で始まることも多いです。
色素沈着
ニキビダニ症が重症化したり、慢性化したりすると、皮膚が黒く変色し、ゴワゴワと分厚く象のような皮膚(象皮症)になることもあります。
丘疹
ニキビダニ症になった皮膚で二次的な細菌感染が同時に起きると、膿を溜めた丘疹ができることもあります。
赤みやフケ、色素沈着、脱毛、丘疹などを「発疹」と呼びます。発疹が出やすい場所としては四肢や顔のほか、背中や全身に出ることも。ニキビダニは毛穴で増えるので、毛穴に一致した発疹が見られたら、ニキビダニ症を疑いましょう。
病院に連れて行くタイミングは?
ニキビダニ症は症状や程度もさまざまなので、病院を受診するべきなのか迷う飼い主も多いかもしれません。基本的に、以下のような様子や症状の進行が見られたら病院に連れていきましょう。
- 皮膚に赤みがあり、しきりに舐めたり、かいたりしている
- 食欲が低下し、元気がなく熟睡できない
- 毛が抜ける範囲が広がってきた
- 皮膚が黒くなってきた
犬のニキビダニ症の原因は?
犬がニキビダニ症を発症する詳しいメカニズムはまだ解明されていません。ただ、直接的な原因としては、ニキビダニが過剰に増えることだと考えられています。先にも触れたとおり、ニキビダニは正常な犬の皮膚にも存在し、健康な状態であれば増えすぎることはありません。しかし、免疫力が低下すると過剰に増殖してしまいます。
免疫力の低下は、栄養不足や加齢などさまざまな理由によって起こります。ほかにも、発情や妊娠、感染症の影響、ホルモン疾患による免疫機構の崩壊、腫瘍や特定の種類の薬による免疫抑制作用などが原因となることもあります。
ニキビダニ症になりやすい犬は?
ニキビダニ症は、ライフステージごとに発症のしやすさやその理由が変わってきます。ニキビダニ症になりやすい犬について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
子犬の場合
皮膚のバリア機能が未発達なため
子犬は皮膚のバリア機能が未発達のため、免疫機構がうまく働かずにニキビダニの増殖を抑えられないことも多く、その分、発症のリスクが高くなります。
環境の変化によるストレス
母犬から離され、ペットショップや新しい家庭に迎えられることは、子犬にとって大きなストレスです。そのストレスが免疫力の低下や自律神経の乱れを起こし、ニキビダニ症の発症につながると考えられます。
他の寄生虫感染の可能性
子犬がかかりやすい消化管の寄生虫感染などによって免疫力が低下していると、ニキビダニ症が発症しやすくなるでしょう。
栄養不足
食事量の不足によって発育が十分でないことも、発症の一因となる場合があります。
成犬の場合
発情期
発情期にはホルモンの作用などで免疫力が低下するため、発症のリスクも高まります。
妊娠中
妊娠中には、摂取した栄養が胎児を育てるために使われることで栄養不足に陥ったり、ホルモンバランスが変化したりします。その結果免疫力が低下し、発症しやすくなると考えられるでしょう。
手術後
手術後は、手術により受けた身体への負担が原因となって免疫力が低下するため、発症しやすくなります。
免疫抑制剤を飲んでいる
アレルギー疾患のコントロールのために免疫抑制剤などを飲んでいると、免疫力が落ちて常在菌や寄生虫の感染が起こりやすくなります。そのため、ニキビダニが多量に発生し、ニキビダニ症を発症することも。
シニア犬の場合
基礎疾患がある
基礎疾患がある老犬は、体力や免疫力が低下しやすいため、ニキビダニ症も発症しやすくなります。
老化
加齢によって身体の老化が進むと、体力が衰えて免疫力も低下する分、発症リスクが高まるでしょう。
犬のニキビダニ症の治療法は?
ニキビダニ症の治療は、発疹の広がり方や年齢などを考慮して選択されます。発疹が局所的な場合は外用薬での治療が優先となるでしょう。全身に広がっている場合は、外用薬と注射薬、あるいは駆虫薬を併用することが多いです。二次的な細菌感染がある場合は同時に抗生物質の投与も行います。具体的な治療法について詳しく見ていきましょう。
注射や薬で駆除薬を投与
注射の場合、イベルメクチンやドラメクチンといった注射薬を複数回投与して治療します。投薬については、近年、ノミ・マダニの内服薬がニキビダニの治療に効果があることが分かり、ニキビダニ症の治療薬は大きく変化しました。月に1回の飲み薬でかなりのニキビダニ症の症状が軽減します。薬にかかる費用は、犬の体重によって変わりますが、5kg程度の犬なら1回で2,000〜3,000円程度です。
シャンプー療法
ニキビダニは、皮脂やフケを栄養として毛穴に生息しています。毛穴の洗浄効果が期待できるシャンプーで丁寧に洗い、毛穴や皮膚を清潔に保つことで症状を改善していくこともあるでしょう。シャンプー剤は1本3,000円程度です。
抗菌薬の投与
毛穴で二次的な細菌感染が起きると膿が出たり、カサブタができたりすることも。こうした症状が見られ、細菌感染の併発が疑われる場合は抗菌剤を投与して治療します。抗菌薬は、小型犬で2,000〜3,000円程度と考えられるでしょう。
食事療法
症状を改善していくために、油分の多い食事を避けることも治療法として有効です。
ニキビダニ症はどれくらいで治る?
ニキビダニ症は、比較的治癒しやすい病気なので、通常であれば1ヶ月~数ヶ月程度で治ります。ただし、全身性の場合はもう少し時間がかかると考えましょう。1歳未満の子犬が発症した場合は、特に治療をしなくても時間の経過とともに自然治癒することもあります。一方、高齢犬が発症した場合は、ホルモン異常や免疫力が低下するような疾患が根本にあることがほとんどなので、まずは元となっている疾患の治療を行うことを優先することが多いです。しかし、元の疾患のコントロールが難しい場合は、残念ながら完治が望めないケースもあるでしょう。
犬のニキビダニ症の予防法は?
ニキビダニ症を発症しないよう、日頃から予防を心がけることも大切です。予防法としては、以下のような方法が考えられます。
清潔な環境を保つ
ニキビダニは皮脂をエサとするので、肌に直接触れるものはこまめに洗濯し、清潔に保つことが予防につながります。
ストレスを与えない
ストレスは免疫力を低下させる原因のひとつです。日頃から、快適に過ごせる室内環境を整えたり、飼い主とのスキンシップの時間を作ったりして、愛犬がストレスのない生活を送れるようにしてあげましょう。
食事管理
栄養バランスの取れた良質な食事を与え、免疫力や皮膚の抵抗力を高めることも予防につながります。
ニキビダニ症は人間や他の犬にうつる?
犬のニキビダニ症は、基本的に人間や他の動物にはうつらないとされています。海外でニキビダニ症が飼い主にうつったという症例も報告されていますが、非常にまれなケースです。ちなみに日本での感染例の報告はありません。