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ますだ動物クリニック院長、国際中医師
引き取り先を探している保護犬を、家族の一員としてお迎えしたいと考えることはありませんか? しかし「保護犬を引き取るにはどうすればいいの?」「必要なものや条件などはある?」などの疑問を抱えている人も多いでしょう。
今回は、保護犬の引き取り方法や引き取る流れ、引き取りの条件や費用について詳しく解説します。保護犬のしつけのポイントや心構えについても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
- 保護犬とは
- 保護犬の引き取り方
- 保護犬を引き取るための条件
- 保護犬の引き取りに必要なもの
- 飼い主として保護犬を迎える前に知っておくべきこと
- まとめ
保護犬とは
保護犬とは、保健所や動物愛護センター、動物愛護団体に保護されて引き取り先を探している犬のことです。おもに迷い犬や飼育放棄された犬、野犬などが、保護犬としてこうした施設や団体に保護されています。
保護犬は長期間にわたり飼い主が見つからないと、最悪の場合、殺処分されてしまう可能性もあります。そのため、保護犬を引き取ることは、動物の殺処分の削減につながる動物愛護活動の1つといえるでしょう。
保護犬の引き取り方
保護犬を引き取り、飼い主になるための方法には以下のようなものがあります。
- 保健所から引き取る
- 譲渡会や飼い主募集イベントで引き取る
- 飼い主募集サイトを利用する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
保健所や動物愛護センターから引き取る
飼い主や引き取り先がない犬は、行政が運営する保健所で保護されるのが一般的です。保健所では、保護された犬を一時的に収容しますが、一定期間引き取り先が見つからないと、行政機関である「動物愛護センター」に移送されます。
動物愛護センターでは、保護犬の新たな飼い主を探す活動を実施しています。そのため、動物愛護センターから、直接保護犬を引き取ることも可能です。また、動物愛護センターの設置がない地域では、保健所から直接保護犬を引き取ることもできます。
<保健所・動物愛護センターから引き取る流れ>
1. 保健所や動物愛護センターで受付をする
2. 保護犬を受け入れるための講習を受ける
3. 保護犬と対面し希望の犬を見つける
4. 譲渡決定、手数料を支払い引き取る
譲渡会や飼い主募集イベントで引き取る
保健所や動物愛護センターで保護されている犬は、動物愛護団体が引き取る場合もあります。動物愛護団体とは、動物の虐待や遺棄の防止、動物の殺処分の削減、動物の福祉の向上などを目的に活動する民間団体です。動物愛護団体では、保護犬の新しい飼い主を探すための譲渡会やイベントを積極的に開催しています。
<譲渡会や飼い主募集イベントで引き取る流れ>
1. 譲渡会や飼い主募集イベントを予約する
2. 譲渡会や飼い主募集イベントで受付を行い、条件を確認する
3. 保護犬を受け入れるための講習を受ける
4. 会場で保護犬と触れ合い、希望の犬を見つける
5. 譲渡申し込みをして、審査を受ける
6. 審査に通過した場合はトライアルに進む
7. トライアル期間を経て正式に譲渡決定、譲渡費用を支払い引き取る
飼い主募集サイトを利用する
飼い主募集サイトとは、保護犬の情報が公開されているWebサイトです。飼い主募集サイトでは、さまざまな団体が保護犬の飼い主を募集しています。飼い主になりたい人は、会員登録などを行い、サイト上で希望の犬を探すことができます。
<飼い主募集サイトを利用する流れ>
1. 飼い主募集サイトに登録する
2. サイト上で希望の犬を探す
3. 申し込みを行い、条件などをすり合わせる
4. 条件が合えば譲渡決定、譲渡費用を支払い引き取る
飼い主募集サイトを利用した場合でも、引き取り前に保護犬と触れ合う時間やトライアル期間が設けられるケースもあります。
保護犬を引き取るための条件
保護犬を引き取る場合、適切な飼育ができるかどうかが審査されるため、さまざまな条件をクリアする必要があります。保護犬の引き取りを希望する場合は、少なくとも次の条件を満たしているかどうか、事前によく検討しておきましょう。審査基準は保護施設や団体によって様々ですが、重視されやすい項目を紹介します。
飼い主の年齢
飼い主募集では、18歳以上60歳未満(または65歳未満)といった年齢制限が設けられているのが一般的です。これは、飼い主が責任をもって飼育できる成人であるか、もしくは、引き取り後も長期的に飼育が可能な年齢であるかなどが問われるためです。
飼い主の経済力
保護犬を引き取ると、日々の食費や消耗品費、さらに病気やケガによる医療費などの費用が発生します。犬の飼育にかかる費用をまかなえる経済力がないと、保護犬を引き取っても飼育が困難になり、再び手放される可能性もあります。そのため、飼い主に経済的な余裕があることも条件の1つになっているのです。
家族全員の同意
飼い主となる家族全員が、保護犬をお迎えすることに同意していない場合、引き取ったあとにトラブルに発展する可能性があります。保護犬を引き取る際は、必ず家族全員の同意を得ましょう。
また、単身者の場合、自宅を不在にする際に代わりに世話する家族がいないため、保護団体の中には「単身者不可」を条件にしているケースもあります。
飼い主の住居環境
飼い主の住まいがマンションなどの集合住宅の場合、ペットの飼育が許可されていることが絶対条件になります。さらに、希望する保護犬が大型犬であれば、飼育に必要なスペースを確保できるかなども問われます。
保護犬の引き取りに必要なもの
引き取り方法によって異なりますが、保護犬を引き取る際は一般的に以下のものが必要になります。
- 本人確認書類
- 印鑑
- 筆記用具
- キャリーバッグ
- 譲渡費用
引き取り時には、飼い主の本人確認書類が必要です。また、誓約書に署名、捺印をしたり講習を受けたりするため、印鑑や筆記用具を持参しましょう。さらに、保護犬を連れて帰るためのキャリーバッグを用意し、中にペットシートなどを入れておくと安心です。
譲渡費用は、保護施設や保護団体によって異なりますが、2~8万円前後が一般的です。また、保健所や動物愛護センターから直接引き取る際は、譲渡費用ではなく登録料や手続き手数料を支払います。
飼い主として保護犬を迎える前に知っておくべきこと
保護犬の飼い主になることは、動物愛護活動の1つです。動物愛護とは、動物の命の尊厳を守り、動物を不必要に殺したり苦しめたりすることのないように接し、その生態や習性を理解して適切な管理を行うことです。
ペットとしてかわいがるだけではなく、保護犬となった背景を理解し、生涯を共にする覚悟が必要になるため、次の点について十分に理解しておきましょう。
しつけ(トレーニング)が大変な場合もある
犬を飼育する際は、適切なトレーニングが必要です。ただし、保護犬の場合、保護に至った背景によっては、人に対して強い警戒心を抱いていたり、恐怖心から攻撃的な性格になったりする犬もいます。
たとえば、飼育放棄されていた犬や虐待を受けていた犬などは、人に対して強い警戒心を抱いていることもあるでしょう。また、保護に至った経緯がわからない犬も少なくありません。
そうした保護犬の場合、飼い主との信頼関係を築くのに時間がかかり、トレーニングが大変になる可能性があります。信頼関係を築くためには、まず譲渡の際にその犬の性格や特徴、苦手なことをわかる範囲で聞いておきましょう。気長に向き合い、根気強くトレーニングを行うことが重要です。
また、プロのペットトレーナーに相談しながらトレーニングを行う方法もあります。
ただし、すべての保護犬のトレーニングが大変というわけではありません。すでに適切なトレーニングを受けていても、何らかの事情で飼い主が飼育できなくなってしまった保護犬もいます。保護犬の背景や性格、年齢などを考慮しながら向き合うことが大切です。
飼育環境が整っていることが必須
保護犬を迎えるためには、ケージを設置する場所や室内で犬と遊べる場所、犬が落ち着いてくつろげる場所など、十分なスペースを確保することも欠かせません。
また、一人暮らしの方が単身者応募可の保護犬をお迎えする場合は、万が一自分が自宅を離れなければならない際に、信頼できる預け先があるかなども確認しておきましょう。
飼育のためには費用がかかる
犬を飼育するためには、ケージやキャリーバッグ、生活グッズなどの用意に数万円の費用がかかります。さらに、日々のフード代や医療費などを考慮すると、一般的には毎月1万円前後、年間10万~12万円前後の費用が発生します。また、犬の体調が急変した場合は、夜間救急の診察や手術などの急な出費もあるでしょう。
シニア期にかけては、人間と同様に嚥下機能や足腰、視力などが弱り、フードの変更や介護が必要になることも少なくありません。飼い主に経済的な余裕がない場合、飼育が困難になり、再び保護が必要になるといった結果にもなりかねません。
保護犬をお迎えする際は、長期的な支出も考慮したうえで、判断することが大切です。
まとめ
保護犬の引き取り方法には「保健所や動物愛護センターから引き取る」「譲渡会や飼い主募集イベントで引き取る」「飼い主募集サイトを利用する」といった方法があります。また、保護犬の飼い主になるためには、飼い主の年齢や飼育環境、経済事情、家族全員の同意など、さまざまな条件があるため、事前に細かく確認しておきましょう。
保護に至った経緯によっては、人に対する恐怖心や攻撃性が強い犬もいます。保護犬の背景や性格などを理解したうえで、焦らずじっくりとトレーニングを行い、信頼関係を築くことが大切です。
保護犬をお迎えする際は、動物愛護の精神を忘れずに、ご自身が飼い主として長きにわたって一緒に過ごせるかどうかも慎重に判断しましょう。