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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
愛犬が散歩中に強く引っ張ってくる場合、強く注意してやめさせようとする方も多いでしょう。犬の特性を理解したうえで、正しくトレーニングすると引っ張り癖が早く改善する可能性があります。そこでこの記事では、散歩中にリードを引っ張る理由や放置するリスク、トレーニングのコツなどについて詳しく解説します。
目次
- 犬が散歩中に引っ張る理由
- 犬の引っ張り癖を放置するリスク
- 犬の引っ張り癖を直す方法
- 引っ張り癖を直すしつけのコツ
- まとめ
犬が散歩中に引っ張る理由
散歩のときに犬がリードをぐいぐいと引っ張ることには理由があります。引っ張るのをやめさせる場合、まずは犬の気持ちを理解することが大切です。犬が散歩中にリードを引っ張る理由について詳しくみていきましょう。
好奇心に駆られている
好奇心が強い犬は、気持ちのおもむくままに行動することで結果的に飼い主をぐいぐいと引っ張る場合があります。初めての道やスポットを通ったときにだけぐいぐいと引っ張る場合は、好奇心に駆られていることが理由と考えられるでしょう。好奇心は犬の性格によるもののため矯正することは難しいものの、なるべく引っ張らないようにトレーニングすることは可能です。
危険を感じて逃げようとしている
犬は人間よりも優れた嗅覚を持つため、飼い主が気づいていない匂いから危険を察知して逃げようとする場合があります。また、実際には危険ではなくとも、何らかの原因で恐怖を感じて逃げようとする場合も少なくありません。例えば、少し離れたところで犬がこちらを見て吠えずに威嚇しているだけでも、犬によっては逃げようとします。この場合、飼い主は犬が何に危険を感じたのかが理解できず、他の理由でリードを引っ張っているのだと思い込むこともあるでしょう。
飼い主との距離感がわからない
犬は飼い主との距離を確認しながら歩きますが、何らかの原因で飼い主との距離感をつかめない場合は、意図せずにリードを引っ張ってしまうことがあります。特に、伸縮リードを使っている場合は注意が必要です。飼い主との距離が変わってもリードの感触が同じままのため、気づかないうちに離れてしまい、結果的にリードを引っ張ります。
飼い主との距離が離れすぎている
犬は、近くに飼い主がいないと「自由に歩いて良い」と認識することがあります。考えられる原因は、飼い主がリードを長くしすぎていることです。飼い主との距離が離れて犬が自由に動いた結果、リードを引っ張ってしまいます。長めのリードは右手でリードの犬に近い部分を持ってU字のようにたるんだ状態になるよう距離をコントロールし、左手でリードの余りの部分を持つようにしましょう、常に1メートル程度の距離を保つことがポイントです。
また、飼い主との距離が離れすぎていると、急に自転車や人が飛び出してきたときに対応できず事故につながりやすくなるため、リードの長さは常に意識しましょう。
犬の引っ張り癖を放置するリスク
犬が引っ張るのをやめないからといって放置すると、犬の健康に悪影響が及ぶほかさまざまな危険性が高まります。引っ張り癖を放置するリスクについて詳しくみていきましょう。
犬の首に負担が掛かる
首輪にリードを装着している場合、リードを引っ張ると頸椎(けいつい)や気管に大きな負担がかかり、ケガや事故の原因になる可能性があります。また、首輪の種類や長さによっては、犬と飼い主が引っ張り合ったときに抜けてしまう可能性も否定できません。もちろん、ハーネスにリードを装着している場合も、身体へ大きく負担がかかり、脱げてしまうリスクがあります。
力ずくで言うことを聞かせようという考えでは、結果的にケガや事故につながるうえに信頼関係に悪影響を与えるでしょう。犬も飼い主も散歩を楽しめるように、犬が引っ張らないようにトレーニングすることが大切です。
信頼関係が身につかない
犬がリードを引っ張って我先に走る場合、自分が主導権を持っていると考えている可能性があります。信頼関係を築いていないと、トレーニングが進まなくなったり、散歩中に事故が起きるリスクが上がったりします。犬を守るためにも、散歩中に好きな方向へリードを引っ張らせるのではなく、信頼関係を構築できるように引っ張り癖を改善させることが大切です。
事故にあうリスクが高まる
犬にリードを強く引っ張られた拍子に、飼い主の足がもつれて転倒してしまい、犬も飼い主もケガをする恐れがあります。また、リードから手を離してしまい、犬が飛び出して車や自転車、人とぶつかる可能性もあるでしょう。さらに、興奮した犬が人を噛んでしまう可能性も考えられます。
事故にあうと、犬はもちろん相手にも大きな迷惑がかかってしまうため、引っ張り癖を放置することは非常に大きなリスクです。引っ張り癖を直すのは飼い主だけではなく犬のためでもあることを念頭に置いて、改善に向けてトレーニングしましょう。
犬の引っ張り癖を直す方法
犬の引っ張り癖は性格も関係していますが、多くは犬が元々持っている習性に原因があります。習性を理解したうえで適切なトレーニングを続けると、引っ張り癖は少しずつ改善するでしょう。
犬の引っ張り癖を直すときにやってはいけないのが、強く注意してやめさせようとすることです。犬が引っ張るのには理由があるため、言葉で注意したところで効果はありません。そればかりか信頼関係が崩れてしまい、トレーニングがうまく進まなくなる恐れもあります。犬が自ら引っ張るのをやめるように、正しい方法でトレーニングすることが大切です。
引っ張り癖がひどい場合は、プロにトレーニングを依頼することも検討しましょう。その場合も、飼い主と犬の間で信頼関係を築くことが重要なため、ドッグトレーナーに教わった方法で飼い主自身が普段からトレーニングを行いましょう。トレーニングを継続することで引っ張り癖が少しずつ改善する可能性があります。やり方を誤ると改善するのが難しいので、コツを押さえて取り組むことが大切です。
引っ張り癖を直すしつけのコツ
引っ張り癖を直すためには、リードの持ち方を工夫したうえで、引っ張るのをやめるよう犬に伝える必要があります。コツを押さえることで、比較的短期間で引っ張り癖が直るでしょう。それでは、引っ張り癖を直すトレーニング方法について詳しく解説します。
リードの持ち方を工夫する
リードの持ち方を工夫することで、犬と適切な距離を保ちやすくなります。リードを正しく持つ手順は次のとおりです。
- 犬の横に立った状態でリードを持った腕を下にたらし、犬の頭から40~50cm程度のところにリードの結び目を作ります。この結び目がリードの安全な長さの目印です。
- リードの先端部分の取っ手を親指にかけて、もう片方の手でリードの中腹部分を持ちます。
- 空いている手でリードの目印部分を持ち、リードの先端部分を持っている手の手のひらに折りたたむように握ります。親指以外の指でリードを握りましょう。
- 目印を小指の直下まで引き上げて長さを調節し、手のひらからたれているリードをしっかりと持ちます。
この持ち方によって、犬との適切な距離を保ちやすくなります。また、飼い主が歩くたびに手を振ったとしても、リードの長さが変わらないので、犬の体に不必要なテンションがかからず快適に歩くことが可能となります。そのため、飼い主との距離感が原因でリードを引っ張ってしまうときに効果的です。
犬が引っ張ったら立ち止まる
散歩中に犬がリードを引っ張ったら立ち止まりましょう。そうすることで、リードを引っ張るのが良くないことだと理解してもらえる可能性があります。飼い主が立ち止まると犬はそれ以上進めなくなるため、飼い主の方を見て様子をうかがうでしょう。このとき、リードがゆるんでくるので、少しでもゆるんだらその瞬間に「よし」と声をかけて歩き始めます。
このトレーニングを続けることで、犬はリードを引っ張ると進めなくなり、ゆるめると歩けるようになると理解します。犬がリードを引っ張らずに歩けているときは、しっかり褒めてあげましょう。言葉で褒めるだけではなく、小さなおやつを与えて「良いことをした」と認識できるように促してあげてください。
方向を変えて主導権が人間にあることを示す
犬がリードを引っ張りそうになったら、180°方向を変えて来た道を引き返します。そうすると、リードを引っ張っても行きたい方向に行けないことが伝わり、引っ張るのをやめるようになるでしょう。なお、大きくUターンすると遠心力で犬を抑えることができなくなるため、ゆっくりとUターンしてください。
また、直接犬の目を見つめる行為は、犬の世界では一般的に挑戦的な行為または脅威と解釈されることが多いです。特にトレーニング中や犬が興奮している状態では、これは犬を不必要に挑発する可能性があります。飼い主が自信を持って、目的を持って行動することが重要です。
自信に満ちた態度は、犬に対して「私は今自信をもっている。だから私を信頼してついてきて良いよ」というメッセージを伝えます。もし飼い主が犬の目を見つめると、犬が指示を出すのを待っているか、または犬の反応に対して不安を感じているかのように犬が解釈する可能性があります。目線は合わせないようにしましょう。
アイコンタクトを意識する
リードを引っ張って歩く犬は、飼い主のことを気にしていない傾向にあります。まずは、飼い主に意識を向けてもらうためにアイコンタクトを取りましょう。立ち止まった状態で名前を呼び、こちらを向いたら小さなおやつをあげます。慣れてきたら、歩いているときに名前を呼んで、こちらを向いたらおやつをあげましょう。
これを繰り返すと自発的にこちらを見るようになるので、そのときにしっかりと褒めてあげます。自発的な行動を褒めるとトレーニングがスムーズに進み、アイコンタクトを取ることが習慣づきやすくなります。
まとめ
犬がリードを引っ張る原因は、好奇心によるもの、危険を感じて逃げようとしている、飼い主との距離感がわからないなどです。
これらの原因を解消するためのトレーニングを行うことで、リードを引っ張る癖が少しずつ改善するでしょう。
トレーニングでは犬に注意するのではなく、理解を促す形で進めていくことが大切です。
ただし、すべての犬がこの方法に反応するわけではありません。そのため、他の訓練法(例えば、引っ張り始めたら完全に立ち止まる、またはおやつを用いたポジティブリンフォースメント)も併用すると効果的なことがあります。また、犬がリードを気にせずにのびのびと遊べる場所であるドッグランを楽しむのもおすすめです。
今回、解説した内容を参考に、犬の引っ張り癖の改善を目指しましょう。