公開
転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

大型犬が転勤族の家の前に捨てられていた……!
捨て犬を家族に迎え、少しずつ形を変えていく家族の日々。
森田めぐみさんと、愛犬・レイルくんとの10年を振り返っていきます。毎月第2・第4水曜日更新
目次
- 仔犬の新しい家族探し
- 仔犬・ナツちゃんの新しい家族探しへの希望
- 仔犬・ナツちゃんの飼い主候補たち
- 大切に繋いだ小さな命。妥協せずに探した
- ナッちゃんと過ごした夏の終わり
仔犬の新しい家族探し
仔犬を迎えるとしたら、あなたはどこから探し始めるだろうか。
やっぱりペットショップ?
迎えたい犬種が決まっていたらブリーダーさんを探すのも良いかもしれない。
あとは、そう。やはり飼い主探しのサイトではないだろうか。

預かり犬から、晴れて正式に我が家の子となったナツだったが、私はその日を待って新しい飼い主を探すことに決めていた。転勤族の我が家に、レイル(フィラリアの治療中)がいるだけでも大変なのに、さらにもう1匹……となると、きちんと面倒を見られるのか、とても自信が持てなかったのだ。
まず、友人や知人を介して、犬を迎えたい人がいないか周囲に調査してみることに。
自慢じゃないが、私は友人がとても少ない。あっという間に聞き終えたのだが、良い答えは返ってこなかった。
ひとりだけ、「近所で飼ってもいいという人がいる」という話を持ってきたので、これ幸いと会いに行ってみると、「犬は家の中で飼うもんじゃない」と強く主張され、破談に終わってしまった。
仔犬・ナツちゃんの新しい家族探しへの希望
引き取ってくれるなら誰でもいい、というわけではない。ナッちゃんには一生幸せに暮らしてもらいたい。私は、「条件を明確にして探さねばならない」と気を引き締め直し、飼い主探しのサイトに登録をすることにした。
車で送って行ける範囲でないと困るため、住所を関東近郊に絞り、登録を進めていくと、「高齢者は可か」「ひとり暮らしは?」「結婚していないカップルは?」と次々とチェック項目が現れる。
高齢者は……絶対ダメではないけれど、ナッちゃんは大きめの中型犬くらいにはなりそうだし、運動量が必要なので、ここはなしにしておきましょうか。
ひとり暮らしの場合、イタズラ大好き期のため長時間の留守番は現状難しそう。これは不可かな。
結婚していないカップルは、関係を解消することになってしまったときに、きちんとお世話を継続してくれるかがポイントだ。そのへん、ちゃんとしてる人たちかどうか、私の目は見極められるのか自信がない。ごめん不可で。
ペット可の住宅で室内飼いをしてくれて、仲の良いご家族で、終生お世話をしていただくため健康なかたが望ましい。知らない人とやり取りをするので、ある程度はフィルターをかけておかないといけないと判断した。
写真、よし。説明文、よし。募集要項……うん、これでいきましょう!
ポチッとクリックすると、サイトの最新情報にナッちゃんの写真がアップされた。
ナッちゃんの家族、無事に決まりますように! 私は、祈りながらノートパソコンを閉じた。
仔犬・ナツちゃんの飼い主候補たち
翌朝、メールをチェックしようと携帯を開くと……。
おおぉぉ! “飼い主に応募がありました“という文言が何件も並んでいる。
ナッちゃん、良かったね! きっとこの中に家族になる人がいるよ!
1件ずつ、メールをチェックしていく。
番犬にしたいとおっしゃったかた(ナッちゃんには無理そう。あとそれ、もしかして外飼いなんじゃない……?)とか、めちゃくちゃ遠いところからダメ元でご連絡をくださったかた、ギャル文字のメッセージで、意思の疎通が難しかったかた(私がもう少しギャル文字に造詣があれば良かったんだけど、ごめんな……)たちを選択肢から減らしていくと、2組の家族に絞られた。
ここからは先着順かな、と先に名乗りを上げてくださった、私たちと同世代のご夫婦とメッセージのやり取りをする。
ご結婚されて1年、犬を迎えたくて探しているのだと言うが、トライアルなどについてお話しているうちに、奥さまに妊娠がわかったばかりだということが判明。
すごく良いかただと思うのだけれど、悪阻の時期とかご出産後、めちゃくちゃ大変じゃないだろうか。
一旦、回答をお待ちいただき、もう1組のかたに連絡をしてみる。
こちらは40代のご夫婦。お子さんはもう大きいそうで、ご夫婦揃ってサーフィンがご趣味とのこと。「犬と一緒にサーフィンがしたいんです」とおっしゃる。
一緒に楽しく暮らしてくださるなら全然良いのだが、ナッちゃんとサーフィンがいまいち結び付かず、やはり即答は出来なかった。
大切に繋いだ小さな命。妥協せずに探した
夜、帰宅した夫と飼い主候補について話し合う。
名乗りを上げてくださるかたに対して、選ぶような形になりおこがましい気もするが、大切に繋いだ命だ。しばらく一緒に暮らして、愛情もある。ここは妥協しなくても良いところだと、夫と頷き合った、ちょうどその時。
私の携帯電話に新しいメッセージが届いた。
“飼い主に応募がありました“。
添付のURLから詳細を確認すると、若い女性からだった。
亡くなったご両親が所有していたペット可のファミリー向けマンションに引越してきたところだと言う。海外赴任をしているお兄さんも近く帰国し、一緒に暮らすそうだ。
想定していた新しい飼い主とは、ちょっと違う。
けれど、メッセージの文面が誠実で、このかたならお任せしたいかも……と思えた。
「このメッセージの人、どうかな」
夫に見せると、「うん、この人だね」と頷く。
ナッちゃんの家族は、この人だ。
早速、連絡を取り、我が家に会いに来てもらう日取りを決める。
数日後、やって来たのは20代半ばの物静かな女性だった。
子どもの頃から、ご家族で犬を飼っていたそうで、接し方も慣れたもの。ナッちゃんも尻尾をブンブン振っている。
彼女と相談し、お兄さんが帰国するタイミングで、トライアルに進むことを決めた。
ナッちゃんと過ごした夏の終わり
彼女の家へ送り届ける日、キャリーに入れられたナッちゃんの周りをくるくる回って、レイルがキュンキュン鳴く。
トライアルとはいえ、ナッちゃんはもう我が家には戻らないだろう。レイルは、もしかするとそれを分かっているのかしら。
我が家からそう遠くない、東京の東側。
ゆったりと流れる川を渡ると、彼女の住むマンションがあった。
ナッちゃん、これからはこの川沿いを散歩出来るのか……。うん、いいね、すごく良い暮らし!
玄関でキャリーを開けると、ナッちゃんはリビングに向かって飛び出した。
リビングの向こうのテラスまで駆け抜け、はしゃぐナッちゃん。はじめからこの家の子だったように馴染んでいる。
夫とふたり、ウルッとしつつ家に帰ると、留守番のレイルがしょんぼりした顔で待っていた。
またいつものメンバーに逆戻り。ナッちゃんがいた夏は楽しかったね。
ナッちゃんは、新しいお家で新しい素敵な名前をもらった。
きっと我が家での暮らしを忘れて、新しい家族とたくさん幸せな思い出を作るのだろう。
私たちのことは全部忘れてしまっても、時々、レイルのことだけは思い出してくれたらいいな、と私は今も思っている。
