転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

雨上がりの日曜日。
ボランティアの女性ふたりと一緒に、プニプニがやって来た。
プニプニがいる保護団体は、飼い主が決定するまでご自宅で預かる、“預かりボランティア“さんと、犬たちをトライアルやお見合い、譲渡会場へと送迎する“送迎ボランティア“さんがいらっしゃるそう。
おふたりとも、プニプニの個性を理解していて、信頼関係がしっかりある様子。今、こんなにも愛されているのに、我が家にやって来るのが果たして彼の幸せなのだろうかとすら思い、その疑問を口にしてみると、プニプニと一緒に暮らすボランティアさんは、今はあくまで仮の住まいで、本当の家族が見つかることが彼の幸せなのだと断言した。
その瞬間もプニプニは、一緒に暮らすボランティアさんに体を預け、甘えている。
目次
- 「この子の幸せ」を引き受けるということ
- あの日から止まっていた時間が、また動き出す
「この子の幸せ」を引き受けるということ
プニプニと彼女のような関係を、私たち家族が築いていけるのだろうか。
プニプニにとってのよりどころとなる存在を、私が引き離してしまうことにはならないのだろうか。
不安が、自分の心の奥底に沈殿しているのを感じながら、ボランティアさんたちからお話を伺う。
一緒にいる夫と娘は、もう気持ちが決まっている様子だ。
娘は、会った瞬間に「可愛い!」と言い、今も散歩のことなどを質問しているし、夫もラグの上で寝転がるプニプニのことを微笑んで見つめている。
雑談を挟みながら、1時間に及ぶ説明を聞き終え、ボランティアさんたちの人柄に触れ、こういうことを“ご縁“と言うのかな、と思った。
子犬の時に保護されて、1歳を迎えるまで、一生を共にする家族を待っていたプニプニ。
子犬と一緒に暮らすのは、とんでもなく大変なことだ。健康管理やトイレの躾、散歩の訓練。
1年間もの間、大切に育ててくれた彼女のバトンを私たち渡してくださることに感謝し、これから責任を持ってプニプニの一生を引き受けたい。
説明が終わり、「問題がなければトライアルに移れますが、どうしますか?」という問いに、夫、娘と目を合わせ、全員で頷いた。
「ぜひ、うちの子に迎えたいと思います」
私の答えに、ボランティアのおふたりは「ありがとうございます。よろしくお願いします」と、大きな笑顔を見せた。
あの日から止まっていた時間が、また動き出す
説明がひと通り終わったあとは、プニプニと短い散歩をしてみることに。
保護犬は、個体差はあるものの臆病な子が多いらしく、大きな音など、何らかの刺激で驚き、脱走してしまう話をよく聞く。野犬となると身体能力も高く、一度逃げ出すと捕まえるのは困難なうえ、交通事故の危険や、他者に怪我をさせてしまうかもしれない不安もある。
プニプニがいる団体では、脱走防止のため、ダブルリードで散歩することを、事前に伝えられていた。

首輪に付けたリードと、ハーネスに付けたリードの2本。さらに、ハーネスの方を腰のベルトに繋ぐ。リードを手にすると、プニプニは散歩に行くことを理解し、飛び上がった。
お試しなので、レイルの体調が下降して、長い散歩が出来なくなった頃に歩いた短いコースを行く。

最後に娘がレイルとこのコースを歩いた時、途中でうずくまってしまったレイルを、車を出して迎えに行き、そのまま病院へ直行したのだ。
すぐに重い病気であることがわかり、散歩は禁止に……。あの日以来、私たちがこの道を歩くことはなくなり、実に2年ぶりだった。
この道を別の子と歩く日が来るなんて、あの時は思ってもみなかった。
私とリードを交代した娘が、はしゃぐプニプニを見て笑い声をあげ、私の10メートル先を軽やかに歩いて行く。
やわらかく形を変えていく、家族の輪郭を思う。レイルがいた時と少し違う、新しい家族のかたちが、これからきっと作られていくのだ。











