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こころ鳳ペットクリニック、大阪どうぶつ夜間急病センター所属。小動物臨床に従事。犬猫をはじめ、鳥類、爬虫類、両生類、霊長類など様々な小動物の診療・手術執刀を行う
一人暮らしをする中で犬との暮らしを夢見るものの、毎日のお世話を考えて諦めている方も多いでしょう。一人暮らしで犬を飼うにはもちろん相当の覚悟が必要ですが、犬が過ごす環境を整えた上で、お世話をこまめに行うことができれば十分に飼育可能です。この記事では、一人暮らしの方が犬を迎えるために必要な準備や費用を解説します。一人暮らしの方がお迎えする犬を選ぶときのポイントも紹介していますので、参考にしてください。
目次
- 一人暮らしで犬を飼うのに必要な心構え
- 一人暮らしでも犬と暮らせる住まいの条件
- 犬を飼うためにかかる費用
- 一人暮らしの住まいに迎える犬の選び方
- 一人暮らしで犬を迎える前の準備
- まとめ
一人暮らしで犬を飼うのに必要な心構え
まずは犬を飼うために必要な覚悟について、具体的に解説します。
一生涯面倒をみなければならない
一般社団法人ペットフード協会が実施した「令和4年 全国犬猫飼育実態調査」によると、犬の平均寿命は14.76歳です。その間に仕事や住む場所、ライフスタイルが変わったとしても、毎日散歩やごはんなどのお世話を欠かさず行う必要があります。犬が寿命をまっとうするまで、医療費やフード代として必要な安定した収入と、お世話の時間を確保しつづけるという覚悟を決めた上で迎え入れましょう。
しつけが必要
一人世帯は、アパートやマンションといった集合住宅に住んでいるケースが一般的です。集合住宅では他の住人と同じエントランスや廊下を使って出入りしますし、室内の音も伝わりやすいことから、戸建住宅と比べると近隣トラブルに繋がりやすい傾向にあります。他の住人の理解を得るためにも、戸建住宅以上にしつけをしっかりと行うことが大切です。
十分な散歩の時間の確保が必要
犬にとって毎日の散歩は欠かせません。散歩は1日2回に分けて行うのが理想的ですので、朝はこれまでより早く起きる必要がありますし、どんなに仕事で疲れていても帰宅後に散歩に連れ出します。毎日朝晩の散歩時間を確保するために、場合によっては生活サイクルを大幅に見直す必要もあるでしょう。
気軽に外泊ができない
二人以上の世帯とは違って、一人暮らしではいざという時に気軽に頼れる同居人がいません。飼い主さんが旅行や出張などで外泊するためには、ペットホテルを手配したり、知人に預かるよう頼んだりと事前の準備が必要です。急な体調不良により入院したり、災害の影響で帰れなくなったりといったやむを得ないケースも考えられますので、いざと言うときに頼れる相手を探しておきましょう。
緊急時は仕事を休まなければならない
犬がケガをしたり病気にかかったりなどして、通院や自宅での看病が必要になった場合、頼れるのは飼い主さんただ一人です。また、高齢の犬は人間と同じように、自力での排泄が難しくなったり、寝たきりになって床ずれを起こしたりします。そうした場合は犬の健康を最優先で考えて、仕事や学校を休んだり、予定をキャンセルしたりする必要があります。
犬が体調を崩すと急な出費が発生
犬は人間と違って健康保険が適用されませんので、医療費が高額になります。体調不良や怪我などをした際は、医療費が一度で数十万円に上ることも珍しくありません。また、健康に過ごしていたとしても、狂犬病やフィラリアなどを予防するためのワクチン接種が必要です。経済的、心理的な負担を減らすためにも、ペット保険の加入も検討しましょう。
また、犬を飼う心構えを持つためには、犬の行動心理カウンセラーStan Rawlinsonさんが1993年に発表した「犬の十戒」が参考になります。犬の視点で飼い主さんに語りかけるように書かれていて、「犬の十戒」をモチーフにした映画も作られました。以下の記事で解説していますので、ぜひ目を通してみてください。
一人暮らしでも犬と暮らせる住まいの条件
一人暮らしで犬と暮らす場合、どんな環境を整えたらいいのでしょうか。ここでは、犬が暮らすのに適した住環境について紹介します。
そもそも犬にとって幸せな住環境とは
犬にかぎらず動物にとって幸せな住環境を理解するためにまず知ってほしいのが、1960年代のイギリスで生まれた「動物福祉の5つの自由」です。犬に苦痛を感じさせないために、最低限守るべきことが示されています。
1. 飢えと渇きからの自由
新鮮な水と十分な栄養が与えられている
2. 不快からの自由
適温で、自然な体勢で横たわったり身を隠したりできる
3. 痛みと疾病からの自由
怪我や病気になりづらく、いつでも適切な治療が与えられている
4. 恐怖や苦悩からの自由
過度な精神的苦痛を感じる状況に置かれていない
5. 正常な行動を表出する自由
本来の生態に即した行動を取れる環境が与えられている
この「5つの自由」から考えると、一人暮らしの家で犬を室内飼いするには、飼い主さんが外出している間も換気を十分に行い、エアコンを使って快適な温度を保つことが大切です。また、犬は音や光に恐怖を感じるため、交通量が多い幹線道路沿いや繁華街の中にある物件は避けたほうがいいでしょう。
ペット可の物件
賃貸や分譲マンションのような集合住宅の場合、契約内容にペット飼育の可否が記載されています。ペット可物件であれば、他の住人もペットを飼っている可能性も高いでしょう。中には防音対策がされていたり、傷がつきにくい壁紙が使われていたりするケースもあります。ペット不可の物件で犬を飼った場合は、強制退去させられる可能性があるので、お迎えする前に契約内容を必ず確認しましょう。
玄関、キッチン、浴室への行き来を制限できる間取り
住まいの中で犬への危険性が高いのは、玄関、浴室、そしてキッチンです。玄関はドアを開けた隙に脱走するリスクがありますし、浴室は水を張ったままの浴槽に溺れたりシャンプーなどの薬剤を舐めてしまったりする可能性があります。キッチンでは、ネギ類やチョコレートといった犬の体に害のある食べ物を拾い食いするかもしれません。そうした犬にとって危険があるエリアに出入りできないよう、ドアやゲートなどでスペースを区切ってください。ワンルームのように玄関やキッチンとの境がない間取りの物件は避けた方がいいでしょう。
十分な収納スペース
家の中が整理整頓されていないと、留守中に犬がいたずらするかもしれません。とくに歯の生え変わり期は歯茎がムズムズするのを解消するために、床に落ちているものや家具などを噛む傾向にあります。また、人間の食べ物や犬のフードを手の届く場所に置いていると、勝手に食べてしまいます。食べたものの種類や量によっては体調不良や肥満の原因にもなるでしょう。そうした事態を避けるためにも、備え付けのクローゼットや、犬が開けられない収納家具などが必要です。
犬を飼うためにかかる費用
犬を飼うためには、お迎えする際にかかる初期費用だけでなく、寿命をまっとうするまでフードや医療費などが継続的にかかります。ここでは、犬の飼育にかかる費用や、必要なアイテムをまとめました。
犬を飼育するのにかかる費用は?
初期費用は犬をお迎えする方法によって異なりますが、カインズではケージ、犬用食器、トイレシーツなど、はじめて犬を飼うのに必要なグッズをまとめたセットを9,800円(税込)で販売中です。また、犬をお迎えした後は、継続して以下のような費用がかかります(一般社団法人ペットフード協会「令和4年 全国犬猫飼育実態調査」より)。
超小型犬 | 小型犬 | 中型犬、大型犬 | |
フード代 | 3,076円/月 | 3,960円/月 | 5,207円/月 |
おやつ代 | 1,446円/月 | 1,638円/月 | 2,221円/月 |
トリミングなどのケア費用 | 4,146円/月 | 3,543円/月 | 4,013円/月 |
動物病院の医療費 | 4,301円/月 | 4,258円/月 | 6,626円/月 |
その他(ペット保険、犬用雑貨、おもちゃ、衣類など) | 5,875円/月 | 5,242円/月 | 5,611円/月 |
合計 | 13,461円/月 | 13,422円/月 | 17,259円/月 |
犬を飼ううえで必要なアイテム
犬を飼ううえで必須のアイテムは以下の通りです。
• 食器、水入れ
• トイレトレー、ペットシーツ
• ドッグフード、おやつ
• ケージ、サークル
• おもちゃ
• 掃除用品
• 首輪、リード
• ブラシ、歯磨き用品、シャンプー類
• キャリーバッグ など
また、自宅に不在の時間が多い人は、ペットカメラやスマートリモコン、自動給餌機などを購入しておくと安心です。
一人暮らしの住まいに迎える犬の選び方
一人暮らしで犬を飼う場合の、犬種選びのポイントを紹介します。
体のサイズが住まいに合っているか
「動物愛護管理法」によると、犬を飼うのに必要な最低限の寝床スペースとして【体長の2倍×体長の1.5倍×6倍】が必要だと推奨されています。たとえば国内で人気の高いトイ・プードルの場合、自由に過ごせるスペースが1.2㎡あれば飼育可能だといえます。中型犬である柴犬の場合、2.8㎡あれば飼育可能です。一方で、大型犬のゴールデン・レトリーバーは、8.1㎡のスペースが必要とされています。
小型犬や中型犬であれば、家の中に最低でも1〜2畳分のスペースを用意できれば飼育できます。大型犬は4.5畳程度のスペースが必要なので、犬専用の部屋がないと飼育は難しいでしょう。
性格が穏やか
警戒心が強い犬は周囲の音などに反応して吠えやすく、近隣トラブルに発展する可能性があります。性格が穏やかな犬種であれば、安心して留守を任せられるので、犬種選びの参考にしてください。小型犬であれば、トイ・プードルやボストン・テリア、シー・ズー、マルチーズなどは比較的穏やかでおとなしい性格をしています。
毛が抜け落ちにくい
犬には、被毛が2層になっている「ダブルコート」の犬種と、1層のみの「シングルコート」の犬種がいます。ダブルコートは年に2回換毛期があり、換毛期には抜け毛が非常に多くなるため掃除が大変です。また、換毛期の被毛は毛玉ができやすく、そのままにしていると皮膚炎を発症してしまう可能性があるため、入念なブラッシングを行う必要があります。一方で、シングルコートの犬種は換毛期がないため、こうしたお手入れの手間を抑えることが可能です。
一人暮らしで犬を迎える前の準備
迎えたい犬が決まったら、迎える日に向けて準備を進めましょう。
近くに連れて行ける動物病院を探しておく
犬を迎える前に、自宅近くの動物病院を探しましょう。事前に見つけておくことで、迎え入れたあとスムーズにワクチンを接種できますし、体調に変化が見られた場合にもすぐに相談できます。緊急時に備えて、救急対応を行なっている動物病院も探しておくといいでしょう。
もしものときの預け先を確保する
どんなに犬に対する責任感を強く持っていても、不慮の事故や急病などにより、どうしてもお世話ができなくなる可能性も考えられます。そうした緊急事態に備えて、犬のお世話を任せられる人に合鍵などを渡しておくか、一時的に預けられるペットホテルなども探しておきましょう。
留守中の飼育環境を整える
現在の住まいがペット可物件でなければ、まず引越しを検討しましょう。ハード面だけでなく、室内の環境を整えることも大切です。ケージやペットシート、食器、リードなどのグッズを買い揃えて、犬が届く範囲に人の食べ物や齧られたら困るものなどを置くのは避けましょう。収納場所がなければ、収納用品を購入する必要があります。
まとめ
一生面倒を見る責任を持って、犬を飼うのに適した環境を用意できれば、一人暮らしでも犬を飼うことは十分に可能です。いくら犬を可愛く思う気持ちがあっても、毎日お世話しつづけるのは簡単なことではありません。抜け毛の少ないシングルコートの犬種や、性格がおだやかで信頼関係が築きやすい犬種がおすすめです。近隣に住む家族や友人を頼りながら、犬との楽しい毎日を過ごしてください。