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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
2019年に改正され、施行から1年が経った「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法/動物愛護管理法)」。ペットショップや自治体が対象となる改正が主ですが、一般の飼い主も知っておくべき内容もあります。そもそも動物愛護法とはどんなものなのか、改正で何が変わったのか。獣医師の茂木千恵先生監修のもとわかりやすく解説します!
目次
- そもそも動物愛護法って何?
- 2019年に「改正動物愛護法」が成立
- 一般の飼い主が知っておくべき改正点は?
- 改正後の動物愛護法をふまえて、普段の愛犬との生活で意識すること
- 動物愛護法の改正によって、ペットサロンやペットホテルはどう変わる?
そもそも動物愛護法って何?
正式には「動物の愛護及び管理に関する法律」といい、動物愛護法/動物愛護管理法などと略して呼ばれています。名前の通り、動物の虐待禁止と不適切な飼育の防止について定められている法律です。
具体的には、飼い主が動物の所有者として動物がその命を終えるまで適切に飼養すること(終生飼養)の責任について明記されています。動物が問題や疾患を悪化させる前に適切に治療したり対処したりすることで、心身ともに健康な状態で飼い続けることが求められます。
アニマルウェルフェアの 「5つの自由」
「アニマルウェルフェア」とは、動物の立場に立ち、人間が動物に対して与える痛みや苦痛を最小限に抑え、飼育されているすべての動物の生活の質を高めようという考え方のこと。現在、このアニマルウェルフェアの考え方の基準として「5つの自由」というものがあります。これを守ることが、動物を心身ともに健康な状態に維持する秘訣です。
1. 飢えと渇きからの自由
その動物にとって適切で、十分な栄養がとれる食事を与えられているか。衛生的な水を常に飲める状態か。
2. 不快からの自由
その動物の習性や生態をふまえ、適切な環境で飼育されているか。衛生的で安全な場所であるか。
3. 痛み・傷害・病気からの自由
病気やケガを防ぐために日常から健康管理がされているか。痛みや外傷が見えた場合、適切に診療・治療されているか。
4. 恐怖や抑圧からの自由
その動物が身体的・心理的に苦痛を感じていないか。ストレスがかかっていると思われる場合、原因の解決ができているか。
5. 自然に行動できる自由
その動物が自分の意思で自由に行動するための空間・環境が整っているか。群れか単独か、習性に合わせて飼育されているか。
2019年に「改正動物愛護法」が成立
2019年6月に動物愛護法が改正され、2020年6月1日から施行されました。この改正により、法律を守らない人に対して行政が厳しく対応できるようになり、同時に飼い主への指導も厳しくなりました。改正による大きな変更点は次の3点です。
動物の飼育環境に対して自治体が指導できるようになった
道府県知事は、動物が飼育されている生活環境が損なわれている場合に、その事態を発生させている人に対して改善するように指導や助言を行うことができるようになりました。
また、動物の飼い主に対して動物を飼育する周辺環境などに関する報告を求めたり、自治体として立入検査を行ったりすることも可能です。つまり、不適切な飼い方をしていると自治体が認めた場合、その飼い方について指導が入ることになります。
動物に会う前にもらい受けることができなくなった
ビジネスとして動物を販売するペットショップをはじめ、動物を預かるペットホテル、訓練するトレーナーやスクールなどは、「第一種動物取扱業者」と呼ばれています。
今回の改正で第一種動物取扱業者は、動物を販売する際に購入者に対して現物確認・対面説明をすることが義務付けられました。そのため、遠方のブリーダーやペットショップといった販売者から、飛行機や船などを経由して飼い主がもらい受けることができなくなりました。動物をもらい受けるには、実際に養育されている場所を訪れることが強く勧められます。
ペットショップで飼育される頭数の上限が設けられる
「数値規制における具体的制限」は、これから施行される予定のものです。どういうことかというと、繁殖業者やペットショップにおいて従業員1人あたりの飼育数の上限が設けられます。繁殖用の犬は15匹まで、猫は25匹まで、ペットショップなどで販売する犬については従業員1人あたり20匹、猫は30匹が上限です。
また、犬の体格に合わせて運動するためのスペースの下限を設け、そのスペースに一日のうち一定時間以上放す必要があることも盛り込まれます。現状では約8割の施設で規制数以上の飼育がされていると想定されており、数値規制における具体的制限が施行されることで行き場のなくなる犬猫を生み出さないために4年間の経過措置が前提となっています。
一般の飼い主が知っておくべき改正点は?
改正の内容には、自治体やペットショップだけでなく一般家庭で犬を飼っている飼い主が知っておくべきこともあります。愛犬家として覚えておきましょう。
動物虐待罪が厳罰化された
残念なことに軽率な動機から動物を虐待する悪質なケースが後を絶ちません。今回の改正では、動物虐待罪を厳罰化しました。ペットの殺傷に対する罰則を「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」から「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」に引き上げ、動物を捨てたり虐待したりする行為は犯罪であることを強調しています。
適正飼養が困難な場合の繁殖防止が義務化された
犬猫の飼い主は、動物が繁殖して適正に飼育できなくなると予想される場合、繁殖防止のために避妊・去勢手術などの防止策をすることが義務付けられました。多頭飼いによる飼育環境の崩壊を防ぐために、オス・メスの両方を飼育している家庭はいずれかを避妊・去勢するよう指導されることもあり得るでしょう。
犬猫にマイクロチップを装着することが義務化された
ブリーダーなど繁殖業者には、犬猫へのマイクロチップ装着を義務付けられました。これは、動物を最期まで適切な環境で飼育する責任が誰にあるのかを明確にし、安易な飼育放棄を阻止することが目的です。
一般の飼い主には義務化されていませんが、犬猫の迷子防止のためにも装着が推奨されています。マイクロチップを装着済の犬を飼育する場合は、一般の飼い主であっても自治体にナンバーを登録しなければなりません。
生後56日齢以内の犬猫を購入できなくなった
幼齢動物の販売制限が設けられ、生後8週未満の子犬のもらい受けができなくなりました。生後3~12週までの社会化期にはさまざまな人や犬に出会ったり環境に慣れさせたりする必要がありますが、8週を過ぎないと家庭に引き取れないようになったので、愛犬の社会化のためになるべく急いで引き取る必要があります。
また、一部例外もあります。国の天然記念物に指定されている柴犬、紀州犬、四国犬、北海道犬、甲斐犬、秋田犬の6種類の日本犬に関しては、繁殖家から飼い主に直接販売する場合に限り、生後49日を超えればもらい受けることができます。これは日本犬が洋犬と比べて成長が早いことを配慮したものです。
改正後の動物愛護法をふまえて、普段の愛犬との生活で意識すること
現在の動物愛護法には、飼い主が普段から意識したい飼育のポイントも明記されています。当たり前のことにも聞こえますが、どれも愛犬と飼い主が安全に楽しく暮らすために必要なことです。
災害時に備える
地震や火災、台風といった非常災害時には、地域で指定されている避難先に行く場合もあるでしょう。避難時に適正に犬を管理するためのクレートや非常食などの準備を日頃からしておくことが肝心です。
いざ非常災害が発生したときは、速やかに愛犬を保護して二次被害が起きないように努めてください。犬の安全が確保できる避難場所はあらかじめ探しておくといいですね。実際に避難する場合は、できるだけ犬と一緒に行動できるよう段取りをしましょう。
放し飼いをしない
自分が所有している土地や建物、かつ他の人に迷惑や危害が及ばない場所でない限り、犬を放し飼いするのはいけません。散歩中、コンビニやスーパーの前にあるドッグポールに犬をつないで待機させる場合も、犬が決して道路や通路に出られないように気をつけましょう。
犬の健康に必要な運動量を確保する
散歩やドッグランに連れて行くことで、犬の健康を維持するために必要な運動量をしっかり確保してあげましょう。運動する際には、他の人や犬に迷惑がかかることがないように、場所や時間帯にも配慮できるとベターです。犬が突発的な行動をとっても飼い主が対応できるように、「おすわり」「待て」などの号令を聞ける程度の最低限のしつけも行ってください。
愛犬の最期まで一緒にいる
犬に限らず動物の命は、私たち人間と同じく尊いもの。愛犬の命が尽きるまで愛情をもって守ることが飼い主の責任です。やむを得ない理由で犬を飼育し続けることができなくなったときは、犬にとって快適な環境で安全に飼育できる人に譲渡するよう努めること。都道府県などに引き取りを求めても、安易な理由では引き取り拒否される可能性があるということも理解しておきましょう。
動物愛護法の改正によって、ペットサロンやペットホテルはどう変わる?
ペットサロンやペットホテルなどの第一種動物取扱業者では、数値規制が設けられます。現状の飼育頭数が違法にならないよう、従業員数の調整や施設の拡充、運動スペースの確保などの対応が急がれています。さらに今回の改正では、動物の販売業に携わる人員の教育や過去の経歴に関しても細かな規制が入ります。これは、動物福祉が進んでいる海外の繁殖施設の水準に近づけようとするのが目的です。
今後は、生まれた子犬の教育の質をいかに高められるかという点がブリーダーの質の判断基準になってくるかもしれません。幼いうちから愛情のこもったケアと適切なルール教育がされることで、心身ともに健康な状態で新しい家庭に迎えられるでしょう。
これから犬をお迎えしようと考えている人は、ブリーダーに飼育の様子を見学させてもらうのもおすすめ。どのようなケアとしつけを受けて育てられているか、信頼できるスタッフが見守っているか、自分の目で確認することが大切です。
取材協力:
ペットライフサポート Free(フリー)
オーナー・プログルーマー・ドッグトレーナー 服部まゆみさん
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。