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犬を通して仲を深めたという、かまぼこ君の飼い主さんと玉木さん。2家族にもたらした変化とは?
目次
- 飼い主よりご近所さん? 玉木さんが大好きな、コッカプーのかまぼこ君
- 散歩にドライブ、墓参りも!? 週3以上会う、家族同然の「かまたま」
- まるで東京のおじいちゃん! 愛犬が結んだ、飼い主とご近所さんの絆
- 「今が人生で一番、心が穏やか」愛犬が教えてくれた、本当の幸せと“心の余白”
- 「こんな人生になると思わなかった」ご近所犬が導いた“人生の最終章”
- 飼い主と矢野さんと玉木さん。笑いの絶えない、かまぼこ君との日常
飼い主よりご近所さん? 玉木さんが大好きな、コッカプーのかまぼこ君

1枚の写真に映る、仲睦まじい様子のワンちゃんと男性。まるで長年連れ添った愛犬と飼い主さんのようですが……実はこのふたり、ただのご近所さんなんです。
ワンちゃんは、コッカプー(アメリカンコッカースパニエルとトイプードルのミックス犬)のかまぼこ君(4歳)。そして、男性はかまぼこ君の飼い主・矢野さんのご近所に住む玉木さんです。
飼い主ではないにも関わらず、かまぼこ君は玉木さんのことが大好き。玉木さんのお家やお庭で遊ぶのが、かまぼこ君の楽しみだそう。週に3,4回は玉木さんのご自宅に来訪しているとのこと。そして、玉木さんの家で遊んだ直後でも「また行く!」とばかりに引き返そうとするほど、懐いているのです。

(玉木さん)「かまちゃんは、親友でもあり、孫みたいなものです」
ご近所さんという垣根を越え、もはや家族同然となった「かまたま」コンビ。
なぜこれほどまでに仲良くなれたのでしょうか? そして、かまぼこ君の存在は、飼い主・矢野さんと玉木さんの人生にどんな変化をもたらしたのでしょうか?
かまぼこ君の飼い主・矢野やすこさんと、ご近所さんの玉木さんに話を伺いました。

散歩にドライブ、墓参りも!? 週3以上会う、家族同然の「かまたま」
かまぼこ君と玉木さん、通称「かまたま」コンビの日常は、お散歩だけにとどまりません。
玉木さんのお家やお庭で遊んだり、時にはドライブに出かけたりと、濃密な時間を共に過ごしてきました。出会ってから約3年の間で育まれた強い絆は、かまぼこ君の「格別」な懐きぶりに表れています。
(矢野さん)「約束は特にせず、晴れていて時間に余裕があれば、玉木さんのお宅に寄らせてもらっています。だから、週に3回くらいは会っていますね。かまぼこは私との散歩だと自分の行きたい方へグイグイ進むのに、玉木さんとの散歩のときは、ちゃんと歩調を合わせて、ときどき玉木さんを振り返りながら歩くんですよ(笑)。以前、一緒にドッグランにも行ったことがありますが、かまぼこにとっては、玉木さんとのお散歩が一番楽しいみたいです」

玉木さんのお家やお庭は、かまぼこ君にとってお気に入りの場所。普段は少しツンデレなかまぼこ君も、玉木さんの前ではすっかり甘えん坊になります。
(玉木さん)「遊びに来ると、まず『かまちゃん、今日も可愛いね』って可愛がるんです。でも、私たち大人が他の話で盛り上がっていると、『かまってよ!』と文句を言いっているかのようにすねるんですよ。それがまた可愛くてね。嫉妬したり不満そうな顔をしたり、表情が本当に豊かで、人間と同じように考えているんだろうなと思います」

(矢野さん)「かまぼこは外面がよくて、他のご近所さんにはちゃんと『待て』や『おすわり』をしたり、遠慮がちに甘えたりするんです。でも、玉木さんにはやりたい放題で、一度玉木さんのそばに行くと離れようとしないんです。きっと、自分を思いっきり甘やかしてくれる、優しいおじいちゃんみたいな存在に思ってるんでしょうね。散歩や遊んだ帰りも必ず玉木さんの家に寄りたがって、もはや、かまぼこの実家みたいになっています(笑)」

玉木さんと一緒に昭和記念公園へドライブしたり、お互いの誕生日を祝ったりと、たくさんの思い出を重ねてきた「かまたま」コンビ。最近では、鎌倉にある玉木さんのお父様のお墓参りにも、かまぼこ君を連れて一緒に行ったのだそう。
その関係は、家族以外の何物でもありません。


(玉木さん)「かまちゃんは、親友であり孫のような存在です。先日、うちに来客があったときも、うっかり『うちの孫です』と紹介してしまいました(笑)。それに、私が子どものころに飼っていたエアデールテリアの『エス』君にもどことなく似ていてね。縁を感じずにはいられないんですよ」
矢野さんは、そんな日々の「かまたま」コンビの微笑ましい様子をSNSで発信しています。すると、フォロワーからは驚きと共感の声が。
「最近、『お孫ちゃんとおじいちゃんみたい!』とか『気を許してるのが伝わる!』というコメントが増えてきたんです。他の人から見ても、本当に家族みたいに映っているんだなと感じて、嬉しくなりましたね」

まるで東京のおじいちゃん! 愛犬が結んだ、飼い主とご近所さんの絆
家族のように仲が良いのは、かまぼこ君と玉木さんだけではありません。以前は近所付き合いをほとんどしなかった飼い主の矢野さんも、かまぼこ君のおかげで玉木さんとはご近所さん以上の関係に。そのきっかけは、2人が住む地域の「ワンちゃんコミュニティ」でした。
(矢野さん)「かまぼこが生後5カ月のころから、夫が近所のワンちゃんコミュニティに顔を出すようになりました。何かの目的で作られたわけではなく、公園にワンちゃん連れが自然と集まるようになって、それが習慣になったようなコミュニティで。多いときには20頭以上のワンちゃんが集まることもあるんです」
旦那様に勧められ、矢野さんも次第にコミュニティへ足を運ぶように。そんなある日、犬友さんに「素敵なバラが咲いている家があるから、見に行こう」と誘われたのが、玉木さんの家だったのです。

(矢野さん)「玉木さんの家は、近所では有名な『バラ屋敷』と呼ばれていて。いつも玉木さんが綺麗にお手入れされていて、バラだけでなく、桜や柚子も見事なんです。家の前を通ると、庭にいる玉木さんが気さくに話しかけてくれたり、お茶菓子や収穫した柚子をくれたり。そのお人柄もあり、自然とワンちゃん連れが集まるようになって、玉木さんの庭でバラを観ながらお茶会をするというのも日常になっていたんです」
初めて玉木さん宅を訪れたとき、かまぼこ君も矢野さんも揃って少し人見知りしていたそう。しかし、何度か通ううちにかまぼこ君がすっかり玉木さんに懐きました。その愛らしい交流を目の当たりにして、矢野さん自身の心も徐々に解きほぐされていきました。

(矢野さん)「最初は『今、チャイムを押しちゃっていいのかな』とか『お邪魔じゃないかな』なんてためらっていたのですが、かまぼこと玉木さんの仲が深まるにつれて、私もすっかり遠慮がなくなってしまって(笑)。今では何も気を遣わずにチャイムを鳴らせるようになりました。玉木さんは面白い話をたくさん聞かせてくれるし、一緒にいると居心地がいい。何より、玉木さんが可愛くて癒されるんですよね(笑)。かまぼこと玉木さんが関わる様子を見ると、本当に心が洗われます。私も玉木さんと過ごす時間が大好きなんです」
かまぼこ君をきっかけに、矢野さんと玉木さんの交流も深まり、今では誕生日会やクリスマス会、BBQなど、他の犬友さんたちも巻き込んで季節ごとのイベントを楽しむように。時には、かまぼこ君抜きで矢野さんと玉木さん2人で"デート"に出かけることもあるそうです。

(矢野さん)「玉木さんは私にとって、まるで『東京のおじいちゃん』のような存在。もう1つ家族ができたような感覚です。実は私、昔からおじいちゃんっ子で、実の祖父が大好きだったんです。玉木さんに安心感を抱くのも、どこか祖父と似ているからかもしれません。かまぼこにも私の安心感が伝わっているからこそ、異常なまでに懐くようになったんでしょうね」
一方、玉木さんも、矢野さんに対して特別な想いを抱いています。
(玉木さん)「やすこちゃん(矢野さん)といると娘に近いような感覚を覚えますね。子育ての一番大変な時期は経験せずに、可愛いところだけを味わわせてもらっているようで、ご両親に申し訳ないですが(笑)。この歳になると、なかなか若い世代の方と関わる機会なんてありませんから、こんな素敵な出会いをいただいて本当にありがたい限りです」
かまぼこ君がいなければ、生まれなかったかもしれないこの深い絆。玉木さんは、ワンちゃんを介した人付き合いの良さを、こう語ります。
(玉木)「地域の人とうまくやっていくには、あまりお互いに深入りしすぎないことも、時には大切だと思うんです。その点、ワンちゃんがいると、自然と愛犬の話が中心になって、あまり個人的な、立ち入った話にはなりにくいでしょう。何の仕事をしているとか、家族構成がどうだとか、そういう情報を共有しないからこそ、人に先入観を抱かせることなく、ほど良い距離感で人と接することができる。そういう意味で、このワンちゃんコミュニティは、地域社会にとって良い役割を果たしているんじゃないですかね」
「今が人生で一番、心が穏やか」愛犬が教えてくれた、本当の幸せと“心の余白”
かまぼこ君を迎えて約4年。かまぼこ君の存在は、矢野さんの人との関わり方、そして人生観そのものに大きな変化をもたらしました。

(矢野さん)「以前は、ご近所さんとすれ違っても挨拶程度で、深い付き合いはありませんでした。でも今はかまぼこのおかげで、違う世代の方ともワンちゃん抜きで挨拶や会話をするのが当たり前になりました。今のこの生活を数年前の私が見たら、相当驚くと思いますね(笑)」
かまぼこ君、そして玉木さんと過ごす時間は、矢野さんの価値観にも影響を与えました。
(矢野さん)「私はもともとせっかちな性格で、以前は仕事が休みの日でも、映画を観たり、美術館に行ったり、何か予定を詰めておかないと時間がもったいない、と思っていたんです。でも、かまぼこや玉木さんと出会って、“心のゆとり”が生まれたんですよね。特別なことをしなくても、かまぼこが玉木さんと幸せそうに過ごしているのを見るだけで、これで十分幸せなんだって。今ではどんなに嫌なことがあっても、ふたりを見ると『まあいいっか』って思えるんです」
かまぼこ君や玉木さんと出会い、心に余白が生まれた矢野さん。その結果、働き方も週5勤務の会社員から、柔軟に働くことができるフリーランスに変えたといいます。それは、人生で本当に大切にしたいものが明確になったからでした。
(矢野さん)「今までは毎日必死で働いて、休みの日も何かをインプットしようとして、生き急いでいたなって思うんですよね。今は、かまぼこが健康で幸せでいてくれたら、それでいい。働き方を変えたのも、私の中で優先したいものを守るためです。かまぼことたくさんの時間を過ごせて、かまたまの面白いやり取りに日々笑わせてもらって、今が人生で一番、心が穏やかな時間だなと思いますね」
「こんな人生になると思わなかった」ご近所犬が導いた“人生の最終章”

そして玉木さんも、かまぼこ君と出会ったことで、嬉しい変化がたくさんあったといいます。
(玉木さん)「やすこちゃんが、私とかまちゃんとのやり取りにテロップを付けてSNSに投稿してくれるんですが、それが面白くてね。それを見るのが、かまちゃんと遊んだ後の、もう1つの楽しみになっています」
矢野さんのSNSでは、かまぼこ君と同じくらい、玉木さんも人気者。「玉木さん、可愛い!」「癒される」といったコメントが、日々たくさん届いています。
(玉木さん)「この間なんか、散歩していると見知らぬ若い女性から『もしかして、玉木さんですか?』って声をかけられてね。まさか、こういう世界があるとは思いもしませんでした。ただ、『可愛い』という言葉には、なんとも不思議な気持ちになりますね。最近の若い方は何に対しても可愛いと言うでしょう。だから、私がどのジャンルの『可愛い』に分類されるのか、よく分からないんですよ(笑)」
(矢野さん)「それは、シンプルな『可愛い』ですよ。だってどう見ても可愛いですもん(笑)。玉木さんの奥様も、『昔は厳しい雰囲気で、どちらかというと引っ込み思案だったのが、かまちゃんと出会ってからはそんな雰囲気が1ミリも感じられないくらい、柔らかくなった』っておっしゃってましたよ」

玉木さんは、今年で87歳。かまぼこ君と出会ってからの3年間は、玉木さんの心身にも良い影響を与えているようです。
(玉木さん)「一般的に、この歳になるとどうしても人との関わりが減ってきて、地域の中で孤立したような生活になってしまう人も少なくありません。そんな中で、かまちゃんややすこちゃんと出会えたおかげで、社会と繋がる道ができたように感じています。世代を超えて人と交流ができたり、かまちゃんとの時間のように、何か1つのことに夢中になれたりするというのは、私の人生においてかけがえのない幸せです」
かまぼこ君との出会いをきっかけに、より活動的になり、笑顔が増えた玉木さん。その感謝の気持ちを、嬉しそうに語ってくれました。
(玉木さん)「歳を取ると、ワンちゃんを迎えることは難しいでしょう。でも、こうやってかまちゃんを始め、たくさんの近所のワンちゃんに囲まれて生活ができて、まるでワンちゃんと暮らしているような気分になるんです。まさかこの年齢になって、こんなに賑やかで楽しい毎日を送れるようになるとは思っていませんでした。かまちゃん、そしてやすこちゃんのおかげで、私の人生は思いがけない素敵な最終章を迎えています。本当に、素晴らしい出会いに感謝していますね」

飼い主と矢野さんと玉木さん。笑いの絶えない、かまぼこ君との日常
ワンちゃんがいると、年齢や立場といった垣根を飛び越えて、人と人との間に心地よい関係が生まれることがあります。 かまぼこ君が繋いだ、矢野さんと玉木さんの絆はまさにその実例といえるでしょう。
そんなかけがえのない日々を過ごす2人に、これからの願いを聞いてみました。

(矢野さん)「とにかく、かまぼこと玉木さんに一日でも長く、元気でいてもらいたい。当たり前のように散歩して、一緒にくつろげる時間が何よりも幸せで他に変えられない時間なんです。この時間がなるべく長く続くことを願っています」
(玉木さん)「私も、この穏やかで平和な毎日がこのまま続いてくれれば、他に望むことはありません」
取材中も、矢野さんの膝の上でじっと玉木さんを見つめていたかまぼこ君。その傍らでは、矢野さんと玉木さんが冗談を交わしながら話しており、笑い声が絶えませんでした。血の繋がりはなくとも、家族のように温かい絆が、そこにはありました。
かまぼこ君が繋いだ、この思いがけない素敵な出会い。これからも、矢野さん、かまぼこ君、玉木さんの毎日は、きっとたくさんの笑いと癒しにあふれ、愉快な日々として続いていくことでしょう。