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アメリカ獣医行動学会会員、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表。問題行動の治療を専門とし臨床に携わる。
犬を車に乗せているとき、落ち着きがなくなったり、あくびをしたり、吠えたりしていることはありませんか? それは犬が車酔いをしているサインかもしれません。犬が車酔いをする原因や、車酔いのサインと症状、車酔いの対処法などについて、「ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets」代表で獣医師の石井香絵先生に解説していただきます。
目次
- 犬も人間と同じように車酔いをする
- 犬が車酔いする原因は?
- 車酔いしやすい犬種はある?
- 犬が車酔いしたときの症状やサインは?
- 犬が車酔いをしないようにするための予防策
- 犬が毎回車酔いをするときは獣医師に相談を
犬も人間と同じように車酔いをする
犬も人間と同様に車酔いをします。犬にも人にも、耳の奥には平衡感覚を司る三半規管と前庭があります。車の急な方向転換や振動が繰り返し起こると平衡感覚が乱れ、目から入る情報とズレが生じ、自律神経が失調。その結果、車酔いになってしまうのです。
犬が車酔いする原因は?
犬が車酔いをする原因には平衡感覚の乱れの他、心理的な理由が原因のものがあります。
三半規管が揺れることにより平衡感覚が乱れる
犬が車酔いをするのは、揺れによる平衡感覚の乱れが原因です。犬の耳の奥には三半規管と前庭という器官があり、どちらも平衡感覚を司っています。車が激しく揺れたり、方向転換や停車などの振動が繰り返し起こったりすると、脳にある平衡感覚の中枢と神経が乱れて車酔いが起こります。
過去の体験がトラウマになっている
子犬の頃は身体機能が整っておらず、揺れにより車に酔ってしまうことが多いようです。過去に乗車して嫌な思いをしたり、体調を崩したりした経験があると、その記憶を思い出して酔ってしまうこともあります。まだ車に乗ったことがない場合は初めの印象が大切です。まずは、大好きなおもちゃで誘い、一緒に遊んだりおやつを食べさせたりするなどして慣れさせていきましょう。停車した状態から、少しずつドライブの時間を伸ばして楽しいことができるという印象をつけてあげてください。
車内の匂い
犬はとても嗅覚がすぐれているため、匂いに敏感です。車の中にはタバコや芳香剤、香水、食べ物、ガソリンなどさまざまな匂いが混在していて、車酔いを誘発する可能性があります。犬は人工的な匂いが苦手なので、できるだけ車内を換気し、刺激になるものは置かないよう配慮しましょう。
骨格の問題
肉食動物である犬の目は顔の前についていて、目の前の目標をしっかり捉えることができます。その反面、視野は狭く、左右を流れる横の動きには弱い傾向にあります。そのため、車から見える横に流れていく景色に慣れず、酔ってしまう犬もいるのです。
車酔いしやすい犬種はある?
一概に「この犬種だから車酔いしやすい」という傾向はありません。ただし、体質・気質の違いから車酔いになりやすい、なりにくいといった個体差はあるでしょう。例えば、神経質な犬は一度車酔いを経験すると、その経験を思い出し、車に乗るたびに不安になります。車が止まった状態でも、よだれが出たり、ハーハーと息が荒くなったりしてしまう犬もいます。個々に合った対応を心がけてあげてください。
犬が車酔いしたときの症状やサインは?
犬の車酔いの程度によって、症状やサインに違いがあります。重度の症状やサインを見せたときは、車を停めて休ませてあげましょう。
軽度の車酔いの症状・サイン
軽度の車酔いではこのような症状が現れます。
- クンクン鳴く
- あくびをする
- 落ち着きがない
- よだれを垂らす
- 首を項垂れて目がうつろになる
軽度の場合は外見だけで判断できることが多いです。クンクン鳴く、あくびをする、落ち着きがない、よだれを垂らす、首をうなだれて目がうつろになるなど、不快な状況を示すものの嘔吐はせずにいられる状態です。いつもと異なるしぐさが見られたら要注意です。
重度の車酔いの症状・サイン
重度の車酔いではこのような症状が現れます。
重度の場合は震えたり、何度も嘔吐をしたり、ぐったりとしてしまう場合が多いです。万が一、吐いてしまった場合は、車を停めて休ませてあげましょう。口周りをきれいにしてあげたり、換気をしたりして様子を見てください。
犬が車酔いをしないようにするための予防策
犬が車酔いをして辛い思いをしないよう、飼い主ができる予防策をご紹介します。
車に乗る直前はごはんを食べさせない
人間が食べたり飲んだりした直後にジェットコースターなどに乗ると気分が悪くなることがありますよね。これは犬も同様で、胃に食べ物が入った状態で体が揺れると、吐き気を感じることがあります。乗車する2~3時間前は食事を控えるか少なめに調節すると、車酔いを防げます。
クレートに入れて移動する
車内ではサイズが少し小さ目のクレートに犬を入れ、車の進行方向に向けて置いてあげると、犬は安心することができます。クレートに犬をいれて移動することだけでも安全を確保できるので、子犬の頃からクレートトレーニングをしておくとよいでしょう。クレートに慣れているのに車酔いしてしまう場合は、天井がなくて顔を出せるドライブボックスのほうが酔わない犬もいます。また、クレートがどうしても苦手な犬には、犬用のシートベルトを使うことも1つのアイデアです。
丁寧な運転を心がける
急ブレーキ、急発進、急カーブなどを繰り返されれば、普段は車酔いしない犬でも酔ってしまいます。極力、体に振動が伝わりづらい運転を意識しましょう。
こまめに換気と休憩をとる
休憩を適度にとりながら、外の空気を吸ってリフレッシュさせると、犬は車酔いしづらくなります。休憩の際は車内をよく換気し、犬の車酔いがひどくなる前に再度休憩をとってあげることが理想です。
ストレスフリーの状態にする
「車に乗る=嫌いな病院に行く」など嫌な経験を過去にしている場合、ストレスから車酔いすることもあります。車に乗るといいことがある、楽しいことがあるなど、ポジティブなことと乗車を結びつけてあげることも、車酔いの軽減につながります。車内で家族が隣に座って声をかけてあげるだけでリラックスできる犬もいます。
車内の匂いをできるだけなくす
犬は人工的な匂いが苦手です。刺激の強い匂いのものは持ち込まず、移動中に購入した場合は、換気をするなど工夫をしてください。
短い距離のドライブで車に慣れさせる
犬がどれくらいの時間乗車していると車酔いになるかを事前に把握し、車酔いをしない距離のドライブを計画しましょう。酔う前に目的地に到着し楽しく過ごす乗車経験を繰り返すと、心理的な車酔いを軽減することができます。
犬が毎回車酔いをするときは獣医師に相談を
車酔いがひどい場合は、獣医師に相談することも1つの手段です。動物病院で処方される酔い止めの多くは鎮静剤であり、服用すると眠気で外刺激を感じにくくなるもので、長時間のドライブに向いています。しかし、近所に出かけるレベルでは使うことが難しいため、薬を使用しない酔い止め防止策を動物病院で聞いてみるのもおすすめです。
車酔いをして吐いてしまう犬には、車に乗る10分前に、車内にエッシェンシャルオイルを1~2滴ほどたらしたティッシュペーパーを配置する方法をおすすめしています。ペパーミントやユーカリは吐き気を軽減し、グレープフルーツやオレンジは健胃作用があるため、ミックスして使うと効果的です。
第2稿:2021年4月20日更新
初稿:2020年9月5日公開