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往診専門るる動物病院、TNRののいちアニマルクリニック 所属。小動物臨床15年、往診による一般診療、終末期医療、オンラインでの診療や相談にも積極的に取り組む。
愛犬の問題行動が増えたり、不安そうにしたりなどの傾向が出はじめたら「分離不安」かもしれません。今回は、分離不安の症状や予防法、治し方を詳しく解説します。早めに予防や対処をして、愛犬が安心して暮らせる環境を目指していきましょう。
目次
- 犬の分離不安となりやすい環境とは?
- 分離不安の症状
- 分離不安の主な原因
- 分離不安を予防するメリットと予防方法
- 分離不安の治し方・トレーニング方法
- まとめ
犬の分離不安となりやすい環境とは?
犬の分離不安とは、不安障害の一つで「分離不安障害」とも呼ばれます。その名前のとおり、犬が飼い主と離れると不安を感じ、精神的にも肉体的にも負荷がかかってしまうのが分離不安の特徴です。犬以外の動物も分離不安になる可能性はありますが、犬の場合は飼い主が見えなくなると極度の不安を感じて鳴きつづけたり、粗相をしたりなどの目立った行動が見られます。犬の分離不安は思いもよらないことで発症することもあるため、原因がわからないケースもあるようです。しかし、基本的には、飼い主の努力で改善できる軽度な不安症である場合がほとんどだといわれています。
ひとりの時間を好む傾向がある犬であっても、飼い主の性格や飼育環境によって分離不安を引き起こす可能性があります。たとえば、飼い主が犬に干渉しすぎたり、依存傾向にあったりして不安な感情で過ごすことが多い場合は、その不安な感情が愛犬にも影響を及ぼし、分離不安を引き起こすこともあるのです。
分離不安の症状
分離不安の症状には、次のようなものが見られます。
- 飼い主が側から離れると長時間吠えたり、粗相をしたりする
- 自分の体をなめつづける
- 自分の脚やしっぽを傷になるまで噛む
- 家具などを破壊する
- 嘔吐や下痢、大量のよだれを出す
- 床や地面を掘りつづける
- ケージや家から脱走しようとする
- 飼い主の後ろをずっとついて回る
分離不安になっているかどうかを判断する基準として、これまでと違う様子が見られたら愛犬の行動を注意深く観察する必要があるでしょう。とくに注意深く観察したいのが、飼い主が外出しようとしたときや、留守番をしたあとの行動です。飼い主が外出しようとしたときに愛犬がそわそわした様子で外出を阻止しようとしたり、帰宅後にお漏らしやおもちゃ以外のものを破壊したりする行動が見られるときは、分離不安の可能性があるかもしれません。
分離不安の主な原因
分離不安になる原因には犬の性格や飼い主の性格、接し方などがあげられますが、ほかにも次のようなことが原因となる可能性があります。
- 環境の変化
- 小さい頃の長時間の留守番
- 加齢による身体機能の衰え
環境の変化
犬も人間と同様に、環境の変化によって精神的に不安定になることがあります。たとえば引っ越しをはじめ、過ごす部屋の変更やリフォームなども分離不安の原因にあるといわれています。ただし、そういう場合は環境に慣れると落ち着く可能性があるため、少し様子を見ながら対処する必要があるでしょう。また、赤ちゃんの誕生や同居するペットが増えるなど、家族構成の変化が原因で分離不安の症状が出るケースもあります。
小さい頃の長時間の留守番
母犬から離れたばかりの子犬はただでさえ不安な状態のため、飼い主が短時間いなくなるだけでも鳴きつづけることがあります。そのため、子犬期に飼い主が長時間留守番をさせた場合、分離不安の症状が現れることもあるでしょう。ただし、分離不安を防ぐために愛犬を構いすぎたり、留守番をほとんどさせなかったりすると、かえって分離不安を引き起こす原因につながる可能性もあります。そのため、愛犬の性格を考慮しながら接することが大切です。
加齢による身体機能の衰え
加齢によって目や耳などの感覚器官が衰えると、不安を感じやすくなるといわれています。また、犬も人間と同様に加齢とともに認知症を発症するリスクが高まります。認知症によって分離不安の症状が出ることもあるため、生活リズムや食事のリズムがあきらかにおかしい場合は、かかりつけの獣医師に相談してみてください。認知症以外にも病気や病気による痛みが原因で分離不安の症状が出ることもあります。
分離不安を予防するメリットと予防方法
犬は精神的に自立していると、落ち着きがあり温厚で物事に動じにくく、災害時なども一緒に避難しやすいというメリットがあります。また、自分で判断して行動ができるため、ストレスを抱えづらいのも犬の大きな利点といえるでしょう。ここでは犬の年齢にあわせて自立できるような方法を紹介します。分離不安を予防するためにもぜひ参考にしてみてください。
信頼関係を築く
愛犬との間にしっかりと信頼関係があり、愛犬が快適に暮らせる環境づくりができていれば、買い物や仕事などで長時間の外出が多くても、留守中に分離不安の症状が出ないこともあります。また、愛犬のストレスが溜まらないように散歩に加えてドッグランなど、十分な運動量を確保してあげるのも大切なポイントです。たとえば室温に気を配るなど、愛犬がのびのびと暮らせる環境を整えてあげることで、少しずつ留守番に慣れる練習をおこなうのがおすすめです。
動物病院のパピーパーティー(パピークラス)に参加する
犬は生後一定期間、親や兄弟姉妹と一緒に健康的に過ごすことで成長後も精神的に安定しやすくなるといわれています。そのため、愛犬を迎える時期を見極めるのも分離不安を予防する方法の一つです。
また、動物病院ではパピーパーティー(パピークラス)を実施しているところもあります。パピーパーティー(パピークラス)は、子犬とその飼い主同士が集まり、犬と飼い主が実践的に犬の知識やコミュニケーション能力を身につけることを目的とした場です。分離不安の予防にもつながるため、地域のパピーパーティー(パピークラス)の情報を収集してみてください。くわえて、かかりつけの獣医師へ定期的に愛犬について相談することで、愛犬と飼い主が楽しく暮らすために役立つ情報が得られるでしょう。
分離不安の治し方・トレーニング方法
愛犬に分離不安の症状が見られる場合、飼い主の努力によって症状が改善するケースも少なくありません。愛犬に気になる行動が見られるようになったら、次のような対処法やトレーニング方法を実践してみるのも一つの方法です。
行動療法を試してみる
分離不安には行動療法などのトレーニングも効果的といわれています。次の2つのトレーニングを参考に、分離不安の改善を目指してみるのもいいでしょう。
- 声かけをおこなわずに部屋を出て、少ししたら戻ることを繰り返す。最初はその時間を数十秒ほどからはじめ、毎回同じ時間ではなく、戻るまでの時間に変化をつけるなどする。
- 外出をする際に声をかけたりせず、「ひとりになる」と犬に構えさせないまま外出する。その後帰ってきて犬が興奮していたら、落ち着くまで待ってから相手をする。
ここで注意しておきたいポイントとして、離れるときに声をかけないことと、戻ってきたときに興奮していても構いすぎないことです。飼い主が特別な対応をせずに落ち着いて対処することで、愛犬は留守番を特別なことだと認識しにくくなります。
ほかにも、自宅の部屋のなかで愛犬が入れないスペースを用意して、離れる時間を少しずつ増やしてみるのも一つの方法です。ベランダやキッチンなど、お互いに顔が見える距離であれば、愛犬がそのスペースに入れなくても不安を感じる心配がありません。そのため、顔が見える距離感からはじめ、慣れてきたら短時間外出してみるなど、段階を踏んでひとりにする状態に慣らしていくのがおすすめです。
犬の知識を増やして食事や運動などに気を配る
愛犬の分離不安に適切な対処をするためには、犬に関する知識を増やし、愛犬のサインを見逃さないように、注意深く目をかけてあげることが大切です。分離不安の問題行動のなかには、ご飯の量や質、運動量が関係するケースもあります。愛犬の体重や健康状態、好みなどをあらためて確認し、見直してみるのも一つの方法です。またほかにも、留守番で飼い主と離れることに不安を感じているのではなく、留守番時の環境に不満を感じている可能性も考えられます。留守番時に安全に遊べるおもちゃがあるかなど、愛犬が楽しめるような留守番の環境づくりを心がけてみましょう。
しつけ教室やトレーナーなど専門家に相談する
分離不安症が軽度の場合は、行動療法を根気強くつづけることで改善する例があります。しかし、重度である場合や病気が原因の不安症である場合は対策をおこなってもなかなか改善しない可能性があります。また、分離不安の症状は早めにトレーニングすることで早期改善につながるケースも多いです。不安症の度合いによっては自己判断でトレーニングを進めるよりも、行動療法を専門としたトレーニング教室やドッグトレーナーに相談するのがおすすめです。
まとめ
親や兄弟姉妹と離れて暮らす犬は、不安を抱えてしまうことがあります。また、飼い主が頻繁に外出をし、愛犬に留守番をさせたりすることで分離不安の症状が現れるケースも少なくありません。しかし、ほとんどの場合、分離不安の症状は快適な生活環境を整え、信頼関係を築いてトレーニングをしていくことで改善するといわれています。愛犬に分離不安の症状が出ている場合は、いまいちど現状の環境を見直してみましょう。もし分離不安についての症状で気になる点があれば、早めにかかりつけの獣医師に相談してみてください。