更新 ( 公開)
札幌市、平岡動物病院の院長。主に呼吸器、整形、眼科、歯科の外科とエキゾチックアニマル診療を中心に力を入れている。趣味は娘と遊ぶこと。
アロエは「医者いらず」と言われるほど、人間にとって健康効果や美容効果のある食べ物として親しまれています。しかし、犬にとってアロエは中毒症状を起こす有害なものです。
アロエが使われたヨーグルトやゼリーを誤食した際も安全性が気になるでしょう。このほか、スキンケアで使っているアロエエキス配合のクリームを塗った手やシャンプーを愛犬がなめてしまって心配になっている飼い主さんもいらっしゃるかもしれませんね。今回は、アロエに含まれる有害な成分、誤食による健康への影響や対処法を解説します。
目次
- アロエは犬にとって危険な食材
- アロエが含まれている代表的な製品
- 犬に健康被害をもたらすアロエの成分
- 犬がアロエを食べた場合の対処法
- まとめ
アロエは犬にとって危険な食材
アロエは、南アフリカ共和国からアラビア半島まで広く分布する多年生多肉植物です。紀元前のエジプトやギリシャなどで利用が確認され、日本には鎌倉時代に伝来したと言われています。
現在、アロエの種類は世界中で約500品種以上あり、主に食用と観賞用にわけられて流通しています。代表的なものは、食用のアロエベラや鑑賞用のキダチアロエをはじめ、観賞用のアロエサポナリアやアロエ不夜城などの品種です。アロエは葉の中に水分を蓄えており、その99%が水分でできています。野菜と比較してミネラルが豊富なので、熱中症対策としても利用されています。
アロエは人間にとって有用な植物ですが、犬にとっては中毒症状を起こす危険な成分が含まれています。アロエを食べたり触ったりすることで、嘔吐や下痢、胃炎、腎炎などの症状を引き起こします。特に犬へ危険をもたらすのはアロエの苦み成分で、猫やハムスターなど他のペットにとっても有害です。なお、妊婦さんや授乳中のママも過剰摂取に注意が必要だとされています。
部屋の中に観賞用のアロエを置いている方は、吊り下げたりするなど犬の届かないところに移動することをおすすめします。また、樹液や葉にも注意をしなければなりません。茎や葉が折れていたり、葉が落ちていたりしないかを日常的にチェックしてください。
アロエ以外の観葉植物にも注意
実は、アロエさえ移動すれば大丈夫というわけにもいきません。観葉植物を愛する方は、いくつかの観葉植物をまとめて置かれているのではないでしょうか。犬にとって有害な植物は、なんと数百種類以上もあると言われています。特に観葉植物の中には、犬に対して毒性を持つものが多いとされています。中には噛むだけで命が危険にさらされるほどの毒性を持つ観葉植物もあります。犬は好奇心から観葉植物を噛んでしまいますし、犬を連れて遊びにいった先のお宅やお庭に置いてあるかもしれません。飼い主さんが犬に危険な観葉植物を把握することで配慮してあげてください。
<犬に有害な観葉植物>
- ポトス(ポトスを噛むと口の中に炎症が広がり、発熱や吐き気などの症状が出る)
- ポインセチア(口の中に炎症が起きて吐き気や下痢の症状が出る。小型犬は命を落とす場合も)
- ユリ科の植物(ユリ、ヒヤシンス、チューリップなどは噛むと腎機能に深刻なダメージが出る場合も)
- アイビー(噛むと嘔吐や下痢、口や目の痛みといった症状が出る)
アロエが含まれている代表的な製品
アロエは食品だけでなく、スキンケア用品やシャンプーなどにも含まれています。犬の中毒症状を回避するためにも、まずはアロエが含まれて可能性がある製品について知りましょう。
気をつけたい食品
「アロエ入りのヨーグルト」「アロエ入りのヨーグルトソース」「アロエ入りのゼリー」「アロエはちみつ漬け」「アロエジュース」「アロエサプリメント」「アロエ缶詰」「アロエ入りのプロテイン」「アロエ酢」など、アロエが含まれている食べ物として様々な商品が販売されています。
結論としては、犬用以外の食品は与えないでください。人間用に味付けがされている時点で、犬の健康に良くありません。床やテーブルに落とした食べこぼしや食べた後の容器を舐めてしまうこともありますので、取り扱いには注意が必要です
美容用品にも注意
アロエエキスが含まれた「美容液」「化粧水」「乳液」「クリーム」「シャンプー」「コンディショナー」「ボディソープ」といった美容用品やスキンケア用品を愛用されている飼い主さんも多くいらっしゃるのではないでしょうか。多くの成分が相互に作用して美肌に効果を発揮することがわかっており、紫外線による表皮細胞のダメージを抑制する効果も明らかになっています。
アロエ美容用品を愛用されている方にとっては手放せないアイテムかもしれませんが、それらを愛犬が舐めてしまう可能性もあります。愛犬のためにできれば使用を避けてください。なお、犬用に販売されているアロエ用品は有毒成分が取りのぞかれていますので、犬が使う分には問題ありません。実際に、犬用のシャンプー、サプリメント、イヤークリーナー、歯磨き粉など多彩な商品が販売されています。
犬に健康被害をもたらすアロエの成分
アロエには「ビタミン類」「ミネラル類」「アミノ酸類」「酵素類」など200種類もの成分が含まれています。その中で、犬にとって有害なアロエ成分は以下の通りです。
サポニン
「サポニン」は、アロエの苦味成分です。抗酸化作用がありますので、人間が体内に取り込んだ場合は活性酵素を取り除いて老化を防いだり、免疫力をアップさせたりする効果を発揮します。しかし、犬は胃腸が強くないため、下痢や嘔吐、腸の炎症を引き起こします。また、サポニンはスキンケアとして発泡作用に優れ、汚れを落とすことから「天然の界面活性剤」として活用され、シャンプーなどに使われています。犬用のシャンプーにもアロエ由来のものがありますが、これはサポニンなどの有害成分が取り除かれて販売されていますのでご安心ください。
バルバロイン
アロエの樹液の中に含まれる「バルバロイン」という成分は、犬にとっては下剤のようなものです。人間が適量を摂取することに関しては優れた整腸作用を発揮しますが、犬が摂取すると下痢を引き起こしてしまいます。下痢は楽観視されがちですが、長く続くと脱水症状を起こしますのでとても危険です。下痢が続く場合は獣医師に早めに相談しましょう。また、サポニンと同じように、嘔吐や腸の炎症の原因となります。
アントラキノン
「アントラキノン」はバルバロインと同じく、下剤のような作用があります。こちらも犬が摂取すると下痢や嘔吐、胃腸炎を引き起こす原因となります。人間ですら多量に摂取すると下痢をしてしまう成分ですので、犬は少しの量を摂取しただけでも体調を壊してしまうため注意が必要です。
上記の「サポニン」「バルバロイン」「アントラキノン」によって下痢や嘔吐が続くと、犬は脱水症状になります。さらに中毒症状が悪化すると、腎炎にかかって血尿などの症状が見られます。また、血液中のヘモグロビンが破壊されて貧血を起こすこともありますので、愛犬がアロエを口にしないようくれぐれもご注意ください。
犬がアロエを食べた場合の対処法
犬がアロエや、アロエ成分が含まれている製品を誤食した場合、自分で対処せず早急に獣医師へ相談することが大切です。ここでは、犬の誤食に気づいた場合の対応方法についてまとめました。
すぐに動物病院に連れていく
中毒症状は、摂取した有毒成分の量や個体の体質によって、症状や症状が出るまでの時間や重症度が異なります。時間が経過してしまうと、中毒成分が体内に吸収され症状が重くなってしまいます。いずれにせよアロエは中毒症状を起こすことがわかっていますので、誤食に気づいたらすぐに動物病院を受診してください。
動物病院に行く前に電話で連絡を入れて愛犬の様子を伝えておくと、応急処置のアドバイスをもらえますし、診療もスムーズに進みます。「犬種」「体重」「年齢」「既往歴」「飲んでいる薬」「いつどれくらいの量のアロエを食べたのか」「どんな症状がどのぐらいの時間続いているのか」などの情報を整理して、獣医師に愛犬の様子を具体的に伝えるようにしましょう。
もし、まだかかりつけの動物病院を決めていない場合は、緊急時に冷静に対応できるよう、近所の動物病院を調べておくと安心です。なお、夜間や休診日で近所の動物病院を受診できない場合がありますので、その際に連れていける24時間対応の動物病院や動物救急救命センターを決めておくこともおすすめします。
無理に吐き出させない
もし、口の中にアロエが残っている場合は、愛犬がびっくりしないように騒いだりせず冷静に取り除いてください。すでに飲み込んだアロエを自宅で無理に吐かせることは絶対にやめましょう。喉に詰まらせたり、気管に入ったりするため、かえって危険です。
なお、口コミサイトなどで、いろいろな吐かせ方が紹介されていますが、誤った情報が散見されるため安易に行わないでください。たとえば「塩を大量に飲ませる」という対処法が見られますが、塩を大量に飲ませて吐かなければ高ナトリウム血症を発症して死亡する場合があります。「オキシドールを飲ませる」といったことも健康被害を受ける恐れがあります。「身体をゆさぶる」といった行為も、愛犬の命を危険にさらしますので絶対にやめましょう。
アレルギー症状にも注意
アロエでアレルギー症状が出る犬もいます。下痢や嘔吐のほか、皮膚がかゆくなって皮膚炎となる場合もいます。アレルギーの場合はアロエに身体が接触しただけでも皮膚が赤くなって、蕁麻疹が出たりすることがあります。そうした症状が見られたら、すぐに動物病院に連れていきましょう。もし、愛犬が何にアレルギーを持っているか調べてもらったことがないのであれば、動物病院に連れていって詳しいアレルギー検査をしておくと良いでしょう。
まとめ
アロエのように人に良い効果を与える食品でも、犬にとって有毒なものは少なくありません。まったく悪気がなくても、知らないというだけで愛犬の健康に悪影響をもたらしてしまいます。愛犬がつらい目にあっている姿、ましてや自分の責任となれば、飼い主の心の痛みは耐えがたいものになると思います。愛犬をアロエの危険と接触させないベストな方法は、アロエの観葉植物やアロエ関連の食べ物、アロエエキスが入った美容用品を家の中に置かないことです。どうしても使いたい場合は、愛犬の届かないところに保管するなど、取り扱いに気をつけましょう。