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酪農学園大学獣医学群獣医学類卒業後、動物病院勤務。小動物臨床に従事。現在は獣医鍼灸師の資格を得るために鍼灸や漢方を用いた中医学による治療を勉強中
ハムをはじめ、ソーセージやベーコンなどの加工肉は、犬の体に悪影響を与える食材です。少量であれば危険な症状が出る可能性は低いですが、中毒や肥満、アレルギーなどのリスクがあるので、与えるのは絶対にやめてください。誤食してしまった場合は、すみやかにかかりつけの動物病院に相談しましょう。
今回は、犬に加工肉を与える危険性や、誤食時の対処法について解説します。犬の味覚や、加工肉以外の要注意な食材も紹介しますので、愛犬の食事管理の参考にしてください。
目次
- 犬がハム(加工肉)を食べると危険な理由
- もし犬がハムを誤食してしまったら?
- ハム風の犬用おやつならあげてもOK!
- ハム以外にも注意!塩分量が多い食材
- まとめ
犬がハム(加工肉)を食べると危険な理由
犬用おやつのジャーキーから「犬は肉が好き」というイメージがあるかもしれません。しかし、ハムやソーセージ、ベーコンといった人間用の加工肉は犬にとって大変危険な食品です。ここではまず、加工肉が犬の体にもたらすリスクを紹介します。
塩分過多
犬の1日の塩分摂取量は、体重5kgあたり0.18gが目安です。過剰な塩分を摂取した場合は、体に害を及ぼします。症状が出る目安となる塩分摂取量は、次の通りです。
・ 中毒症状のリスクがある摂取量:2〜3g/体重1kg
・ 命に関わるリスクがある摂取量:4g/体重1kg
なお、ハムをはじめとする加工肉の食塩含有量目安は以下のようになっています。
・ ロースハム:0.5g/1枚(20g)
・ ウィンナーソーセージ: 0.3g/1本(15g)
・ ベーコン:0.2g/1枚(15g)
この数値をもとに、チワワやポメラニアン、トイプードルといった体重5kg未満の超小型犬種を例にして、体に影響が出る加工肉の摂取量を考えてみましょう。体重5kg未満の犬は、ハムやベーコンを1枚、またはソーセージを1本誤食しただけで、推奨されている1日の塩分摂取量を超えてしまいます。
さらに、ロースハムの誤食が原因で中毒症状が出る目安は400g(20枚以上)、致死量は800g(40枚以上)です。お歳暮で定番になっているブロック状のハムは350gほどですので、もしも1個まるごと食べてしまった場合は塩分中毒を引き起こす可能性があります。
肥満
ロースハム1枚(20g)あたりには、塩分以外にも以下のような栄養素が含まれています。
・ エネルギー:42kcal
・ 脂質:2.9g
・ コレステロール:12mg
人間にとってハムはヘルシーな食材かもしれませんが、同じ量の栄養素でも、体の小さい犬は人間よりも大きく影響を受けます。ハムに含まれるカロリーは犬にとって多すぎるため、体重増加に繋がる可能性があるでしょう。
犬にとっての適切なカロリー摂取量は、体重や年齢、避妊・去勢手術をしているかどうかによって変わってきます。たとえば体重が5kgの成犬(避妊・去勢済み)の場合、1日に必要なカロリーは374kcalが目安です。ロースハムたった1枚でも、1日の摂取カロリーの11%を占めてしまいます。1日の食事内容によってはカロリーオーバーになりますし、継続的に摂取してしまうと肥満に繋がるでしょう。
添加物の摂取
ドッグフードやおやつにも、ロースハムに使われるような添加物が含まれています。しかし、犬用の食品では添加物の含有量の上限が「ペットフード安全法」という法律で次のように決められています。
・ エトキシキン(酸化防止剤) 75μg/g
・ BHA・BHT(酸化防止剤) 150μg/g
・ 亜硝酸ナトリウム(発色剤) 100μg/g
一方で、ロースハムに含まれる添加物の量は、商品によって変わってきます。とくにBHAは発がんリスクがある成分だという説も唱えられていて、健康に悪影響をもたらす可能性も否定できません。
食物アレルギーの可能性
犬にも食物アレルギー(食物過敏症)を持つ個体がいます。アレルギー症状が報告されている食材はハムの原料である肉類や卵、穀類などが多く、どの食材にアレルギーがあるかは犬によって異なります。人間と同じように、まったくアレルギーのない犬もいれば、いくつもの食材でアレルギー症状が出る犬もいます。
はじめて口にする食材はアレルギーがあるかどうか分かりませんので、一度にたくさん食べることでアレルギー症状が強く出てしまうかもしれません。食物アレルギーが起きると、強い痒みや皮膚炎、下痢などの症状が見られます。そうした苦しい思いを犬にさせないためにも、ハムを意図的に与えるのは絶対に止めましょう。
もし犬がハムを誤食してしまったら?
料理中に床に落ちてしまったハムを犬が食べたり、食卓に料理を並べている途中で盗み食いしたりと、犬がハムを口にしてしまったら、飼い主はどう対処したらいいのでしょうか。ここでは、犬がハムを誤食した場合の飼い主の対応や、自宅でできる応急処置について紹介します。
中毒症状があればすぐ病院へ
嘔吐や下痢などの中毒症状を起こしている場合は、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。犬に塩分中毒の症状が見られる場合は、獣医師が血中のナトリウム値を検査して、点滴を行うことで治療します。食物アレルギーでアナフィラキシー・ショックを起こした場合にも、点滴による薬剤投与や、呼吸を確保するための気管挿管などを実施します。
症状がなくても病院に相談
犬がロースハムに含まれる塩分により、嘔吐や痙攣、意識喪失といった緊急性の高い症状を起こす目安とされている量は、超小型犬であってもブロック状のハム1個分です。それほど大量のロースハムを食べ切ることは稀なので、誤食してしまったものの症状が出ないケースも多いでしょう。しかし、症状が出てなかったとしても、過剰な栄養素を摂取したことで犬の体には負荷がかかっています。動物病院に相談して、食事の与え方を調整するのが理想的です。
応急処置として水を飲ませる
診察の時間を待つあいだ、飼い主にできる応急処置も場合によってはあります。動物病院に連絡した際に医師から水を飲ませるように伝えられたら、指示に従って水を飲むように促しましょう。水は新鮮なものを与えてください。ただし、犬が水を飲みたがらない場合は無理して与える必要はありません。犬に無理のない範囲で、治療までの時間を楽に過ごせるように支えてあげましょう。
ハム風の犬用おやつならあげてもOK!
犬にハムを与えるのは絶対にNGですが、犬用おやつにはハムのような見た目をした商品もあります。犬の健康に良いササミ肉をハム風の見た目に加工したもので、犬用として販売されていますので与えても問題ありません。犬にハムを与えたい場合は、人間用のロースハムではなく、こうしたおやつで代用できます。ハム風のおやつは、トレーニングや留守を任せるときのご褒美として与えるといいでしょう。
ただし、与える量には注意が必要です。おやつの量は1日の摂取カロリーの10%程度が適切だと言われていますので、他のおやつも含めてカロリーが上回らないよう調整しましょう。また、はじめて与えるときは食物アレルギーがあるか確認するために、ちぎって少量だけ与えるようにしてください。
犬は肉・魚に含まれるアミノ酸で「うま味」を感じる
ハム風のおやつは、もし人間が食べても美味しさを感じられないほど薄味で作られています。食塩をはじめ、人間が料理を美味しくするために使う調味料は、犬にとって悪影響を与えるものばかりだからです。「犬は食事を楽しめていないんじゃ」と心配になる飼い主もいるかもしれません。
しかし、犬も人間と同じように、肉や魚に含まれるアミノ酸(グルタミン酸)からうま味を感じているという研究結果が出ています。そのため、比較的食いつきのいいウェットフードやおやつだけでなく、ドライフードからもうま味を感じている可能性が高くなっています。こうした理由により、「人間から見て美味しそうに見えないごはんばかり食べて可哀想だから」と味の濃い人間の食べ物を与える必要はありません。
ハム以外にも注意!塩分量が多い食材
ハム以外にも塩分量が多く犬の体に毒となる可能性がある食材はたくさんあります。
食材 |
目安量 |
食塩含有量 |
|
魚肉加工品 |
たらこ |
1腹(60g) |
2.8g |
いか塩辛 |
10g |
0.7g |
|
塩じゃけ |
1切れ(50g) |
0.9g |
|
魚肉ソーセージ |
1本(120g) |
2.5g |
|
焼ちくわ |
小1本(60g) |
1.3g |
|
蒸しかまぼこ |
小1枚(100g) |
2.5g |
|
梅干し |
1個(8g) |
1.8g |
|
チーズ(プロセスチーズ) |
1個(25g) |
0.7g |
|
パン(食パン) |
8枚切れ1枚(40g) |
0.5g |
|
干物 |
さんまのみりんぼし |
1枚(50g) |
1.8g |
ちりめんじゃこ |
10g |
0.7g |
※出典:塩分含有一覧表|京都市立病院
魚肉加工品
「たらこ」や「いか塩辛」「塩じゃけ」など人間が食べても塩辛く感じる食べ物は、イメージと違わず食塩含有量が多くなっています。また「魚肉ソーセージ」や、魚のすり身を使った「ちくわ」「かまぼこ」などのあっさりした味の練り物にも、じつは食塩がたくさん含まれているのも覚えておきましょう。
梅干し
渋く酸っぱい風味の梅干しにも、塩分が多量に含まれています。犬は食べ物を丸呑みする習性があり、種を飲み込んで食道につまったり、嘔吐・下痢などを起こしたりするリスクもあるため、犬にとってとても危険な食材です。梅干しと同じくご飯のお供である「こんぶの佃煮」「味付けのり」「のりの佃煮」なども塩分がたくさん含まれていますので注意してください。
チーズ
チーズは発酵熟成する過程で塩分が使われている食材です。とくにパルメザンチーズ、ゴーダチーズ、ブルーチーズ、カマンベールチーズなどのハード系のチーズは食塩量が多くなっています。これらのナチュラルチーズをもとに作られるプロセスチーズにも、多量の塩分が含まれているため誤食に気をつけてください。
パン
バターをたっぷり使って作られるパンも、じつは塩分量が多い食材です。食パンやフランスパンなどの日持ちがするパンは、とくに塩分量が多くなっています。毎朝パンを食べる習慣がある方は、目を離した隙に食べられないように目を光らせておきましょう。
干物
干物は食塩を使って旨味を引き出しているため、塩分を含んでいる食材です。とくにサンマのみりんぼしや、ちりめんじゃこなどが塩分を多く含む食材として代表的なので、食卓に出す際は犬が口にしないよう注意しましょう。
まとめ
加工肉の中でもハムは、とくに塩分量が多い食材です。ほかにも魚肉加工品や梅干し、チーズ、パンなど、塩分が多い人間の食べ物はたくさんあります。犬は塩分を過剰摂取すると中毒症状を起こすため、与えるのは絶対にやめてください。
また、ハムは塩分中毒以外にも、肥満や食品アレルギー、添加物による影響など、犬にとってリスクが高い食材です。毎日のフードやおやつで十分旨味を感じていますので、「犬と一緒にハムを楽しみたい」という方はハム風のおやつで代用してみてください。