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犬雑貨のネットショップ「RUMKA(ルンカ)」代表。ペットロスの経験から、オリジナルのリードを作り始める。EC通販の他、全国のペットサロンで販売中。
みなさんは愛犬に使っているリードについてどのくらい考えたことがありますか?
『犬にとって、リードは命綱』当たり前のことですが、毎日使っていると忘れてしまいがちですよね。
そんななか、10年以上リードに向き合い、少しでも安全性を高めるための研究をし続ける方がいます。犬雑貨のネットショップ「RUMKA(ルンカ)」代表の戸田さんです。
戸田さんは愛犬の交通事故死という、とても悲しい出来事をきっかけに、もう一度犬と散歩を楽しみたいという想いからリード制作に取り組み始めました。
「SNSで注意喚起の投稿をしても、ほんの一瞬、みんなのタイムラインに表示されて終わりです。しかしこのように安全に特化した商品を作れば、それを売り続けることでメッセージを発信し続けることができます。」
リードでペットの交通事故を減らしたい、そしてペットロスに苦しむ飼い主さんを減らしたい、という想いで、リードを作り続ける戸田さん。「犬との出会いが、今の私を作ってくれた」と前向きに語ります。
一度は散歩恐怖症になってしまった戸田さんを救った『事故を起こさないリード』とは? 「えげつなく光るリード」って何?
戸田さんの人生を変えた出会いと出来事をもとに、リードへのこだわりを聞きました。
目次
- 愛犬の交通事故を乗り越え、「まさか」に備えたリードの使い方に
- 事故を起こさない犬のリードを作り、飼い主へ注意喚起を発信
- 夜の愛犬の散歩でも安心な「えげつなく光るリード」を開発
- 愛犬の安全を願う飼い主のために、同じ目線で寄り添う
- 犬は人生の先輩。犬に学びながら、犬とともに歩んでいきたい
愛犬の交通事故を乗り越え、「まさか」に備えたリードの使い方に
——事故で亡くなった愛犬のかんた君は、どんな子だったのですか?
戸田さつきさん(以下、戸田):ミニチュア・ダックスとミニチュア・ピンシャーのミックスで、知り合いのブリーダーさんのところから、我が家にやってきた子でした。
事故で亡くなった2012年3月当時、かんたはまだ2歳で、元気いっぱい。おバカ可愛い性格で、私にべったりの甘えん坊でしたね。
——不意の事故だったのでしょうか。
戸田:散歩の途中に首輪が外れてしまったかんたは、走り出して車にはねられ、命を落としてしまいました。
犬の安全管理や事故防止には人一倍気を配っているつもりでしたし、首輪やリードもそれなりにこだわって選んでいました。かんた自身も呼び戻しができる子でした。にもかかわらず、事故は起こってしまったのです。
——つらかったですよね……。
戸田:はい。ものすごく、自分を責めました。
もし、あの首輪を選ばなかったら、あの時間帯に散歩に行かなかったら……。そもそも、私がかんたを家に迎えなければ事故に遭うこともなかったのではないかと思い悩み、これは本当にいけないことですが、一時は自死まで考えてしまうほどの罪悪感にさいなまれました。
——そんなにも追い込まれてしまっていたのですね…。
戸田:はい。何とか前向きな気持ちになることができたのは、もう1頭の愛犬・めいの存在があったからです。
でも、なかなか以前の生活には戻れませんでした。「また首輪が外れて、めいまで死んでしまったらどうしよう」と思うと、ものすごく怖くて、めいの散歩に行くこともままなりませんでした。
——トラウマになってしまいますよね。どのようにしてもう一度散歩に行けるようになったのですか?
戸田:悩んだ末に思いついたのが、首輪とハーネスを同時に使うこと。それぞれにリードをつけるダブルリードスタイルにすることで「万が一、首輪が外れてもハーネスをつけていれば大丈夫」と少し安心できました。
——外れないように防止するのではなくて、もしもの時に備える対策ですね。
戸田:そうです。物はどうしても形状が変わってしまうことがあります。首輪やリードの金具の劣化も否めません。なので、“リードの使い方を変える”ことの方が重要だと思いました。
——でも、リードを2本持って歩くのって大変ですよね。
戸田:そうなんです。重いし、2本のリードが絡まってしまって大変でした。でも、首輪だけで散歩に行くのはどうしても不安で…。
そこで考えに考えた末に、思いついたのが1本で首輪とハーネスの両方に付けられるリード。今RUMKAで販売している「さくらんぼリード」の原型となったリードでした。
事故を起こさない犬のリードを作り、飼い主へ注意喚起を発信
——「さくらんぼリード」とはどのようなものでしょうか?
戸田:リードの先端がさくらんぼのように2本に枝分かれしていて、1本は首輪に、もう1本はハーネスに付けられるようになっているんです。
——すごく良いアイデアですね!
戸田:ただ思いついたのはよかったのですが、ここからが大変でした。なにせ、私は不器用でお裁縫は苦手でしたし、ミシンすら持っていませんでした。そこで、相談したのが、犬を通じて知り合った友人のはるみさんでした。
——はるみさんはどのような方でしょう?
戸田:かんたの事故のことも知っていたはるみさんは裁縫が得意。私のリクエストに応えてリード作りを手伝ってくれただけでなく、ご自宅に私のミシンを置かせてくれ、不器用な私に根気強く、ミシンの使い方を教えてくれました。
今のRUMKAがあるのは、はるみさんのおかげです。
——素敵なご友人ですね。しかしはるみさんが手伝ってくれたとはいえ、リード作りが初めてのなかで、どのように制作を進めたのですか?
戸田:素材メーカーや金具メーカーに直接電話しました。リードの制作工程なども全くわからなかったので、実際に材料を取り寄せて、メーカーさんに教えてもらいながら作りました。
——行動力がすごいですね!
戸田:なんとか出来上がった最初のリードは、今になって思うと、機能は問題ないにしても、見た目はすごく不格好でした(笑)。
——そんなにまでしてご自身でリード作りをしようと思ったのはなぜでしょう?
戸田:『事故を起こさないリード』を作ってみたくなった、というのが大きいです。
もっとも、当初は商品化するつもりはなく、とりあえず自分が納得できるまで作ってみようと思っていました。一つの区切りとして完成させられたら、かんたの事故に対して気持ちの整理がつけられるかなって。
——リード制作に打ち込むことで、かんたくんの事故と向き合われたのですね。
戸田:はい。ただ次第に、試作の過程を綴ったブログを読んでくださった方から「私も欲しい」「売って欲しい」というお声をいただいたのに背中を押され、商品化に挑戦することになりました。
——ご自身のつらい実体験をもとに入念に考えて作られたリードなので、気になる気持ちもわかります。
戸田:いくら私がSNSなどで「私は交通事故で犬を失ったから、みんな気を付けてね」というメッセージを投稿しても、ほんの一瞬、みんなのフィードに表示されて終わりです。
しかしこのように商品を作れば、それを売り続けることでメッセージを発信し続けることができます。そこに意義があると思い、販売することに決めました。
——なるほど。販売することで、持続的な注意喚起につながるのですね。
戸田:とはいえ、皆さんの愛犬の命を守るアイテムを作るわけですから、いい加減なものは作れません。
素材や金具のメーカーさん、獣医師さんやブリーダーなど、いろいろな人にアドバイスをもらって改良を重ね、かんたの事故から7か月後の2012年10月に「さくらんぼリード」の発売が実現しました。
それぞれ違うリードを3本組み合わせています。肩掛けにしてみると、両手がふさがっていても問題なく使うことができるので、多頭飼いの飼い主さんなどにもオススメです。
——リードの金具にもこだわっていると伺いました。
戸田:はい。実は、一般的なリードには首輪との相性が悪い金具=鉄砲ナスカンが使われていることが多いんです。
かんたは交通事故に遭う前にも、何度かリードが外れてしまったことがありました。これは、ふとした拍子に、首輪に使われているDカンという金具が鉄砲ナスカン(首輪の金具)のレバーを下げてしまうのが原因です。
——なるほど、そうなんですね。
戸田:犬の安全を守るためには、首輪には鉄砲ナスカンよりも、レバーナスカンという金具の方が向いていると思いました。
一方、ハーネスは鉄砲ナスカンとの相性がばっちり。そこで、RUMKAでは鉄砲ナスカンとレバーナスカンの両方を1本のリードに取り付け、首輪とリードの両方に繋げられるように工夫しています。