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ぎふ動物行動クリニック院長、NPO法人人と動物の共生センター理事長。年間100症例以上の問題行動を診察。動物行動の専門家として、ペット産業の適正化に取り組む。
高齢社会でも「自分が飼えなくなっても、最後まで責任を持ちたい」という気持ちに応える仕組み『ペット後見』について知っておきましょう。
目次
- ペット後見とは?
- ペット後見の具体的な取り組み
- ペット後見の仕組み
- ペットの飼育費用の遺し方を決める
- ペット飼育の受け入れ先を決める
- ペットの見守り・緊急対応してくれる人を決める
- 最後までペットの飼育で責任を持つ形は様々
ペット後見とは?
超高齢化社会の中、高齢の飼い主さんが、急な入院や要介護になったり、突然死去されることでペットを飼えなくなってしまうケースが社会問題となっています。
「入院や死亡で飼えなくなってしまうかもしれない。もし、自分が飼えなくなった時、それでもこの子に対する責任を果たしたい」
そうした思いを持つ飼い主さんの声に応える取り組みが「ペット後見」です。
ペット後見とは、飼い主が入院や死亡などにより、万が一ペットを飼えなくなる事態に備え、飼育費用、飼育場所、支援者をあらかじめコーディネートしておくことで、飼えなくなった場合にも、最後まで飼育の責任を果たすための取り組みの総称を指します。
ペット後見の具体的な取り組み
私が代表を勤めるNPO法人人と動物の共生センターでは、「ペット後見互助会とものわ」というサービスを行っています。
とものわでは、将来飼えなくなるかもしれないと考える飼い主の皆さんから個別相談を受け、飼育費用を遺す方法や、緊急時の対応方法や連絡網、保護・譲渡の方法を定めた終生飼育契約書を取り交わし、いざという時に備えられる枠組みを提供しています。
ペット後見の仕組み
ペット後見では、飼い主のいざという時に駆けつけ、動物を保護し、新しい飼い主を探すという活動を行います。これを成立させるには、以下の3つの要素をあらかじめ決めておかなければなりません。
- 飼育費用の遺し方を決める
- 飼育の受け入れ先を決める
- 見守り・緊急対応してくれる人を決める
これらは単独では成立しません。飼育費用の遺し方だけ決まっていても、飼育の受け入れ先がなければ動物の行先がありません。飼育費用の遺し方を決めて、飼育の受け入れ先も決めていたとしても、緊急時に対応してくれる人がいなければ、動物の保護ができません。
これらの要素について、飼い主とじっくり相談し、飼い主それぞれの事情や居住地に合わせて、取り決めた契約書を作っておくことが、ペット後見の肝となる部分です。
ペットの飼育費用の遺し方を決める
ペット後見を成立させる一つ目の要素は、飼育費用の遺し方を決めることです。飼育費用の遺し方には、主に以下の5つの方法があります。
生前に財産を贈与して、ペットのお世話を頼む「負担付生前贈与」
負担付生前贈与とは、金銭等の財産を贈与する代わりに、一定の債務を負担する贈与契約です。ペットの世話をすることを条件に金銭を贈与する場合がこれにあたります。
負担付生前贈与は、口頭での契約も可能ですが、トラブルにならないようにするために、契約書を作成した方が良いでしょう。
信頼できる親族等に財産管理を託す「民事信託」
信託とは、財産を所有している委託者が、受託者に対して一定の目的をもって財産の管理や処分を任せる行為を指します。信託には、商事信託と民事信託があり、商事信託は信託報酬を得る目的で業としておこなうもの、民事信託は報酬を目的としない家族などが受託者になるものを指します。
ペット後見では、ペットの飼い主が委託者となり、受託者は信託財産を飼育費用として活用しペットの飼育を行います。民事信託は、家族や信頼できる友人など受託者を頼める人がいることが条件となります。
財産を遺贈する代わりに、ペットのお世話を頼む遺言「負担付遺贈」
遺贈とは遺言によって財産を贈与することを指します。負担付遺贈とは、一定の債務を負担することを条件にした遺贈を指します。遺贈を行うためには遺言を作成しておく必要があります。遺贈する相手は、個人でも法人でも可能です。
ペット後見で負担付遺贈を使う場合は、ペットを飼育することを条件に財産を譲る旨を記した遺言を作成することになります。遺言は公正証書(※)にして、公証役場で保管することで、遺言が適正に執行されやすくなります。
※公正証書とは……個人又は会社その他の法人からの嘱託により、公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書のこと
家族や友人にペットの飼育費用を遺す「少額短期生命保険」
少額短期生命保険により、飼育費用を遺すこともできます。スマイル少額短期生命保険のペットのお守り保険は、万が一飼えなくなった時の保障を行うことを目的に開発された保険で、入院時の入院給付金や、死亡保障・重度障害補償が受けられます。
死亡保障の受取人は、家族だけでなく、あらかじめ指定した友人を指定することができるため、ペットの飼育を頼む友人に飼育費用を遺すことができます。一方、法人や事業者が死亡保障を受け取ることはできないという問題点があります。
生命保険信託
生命保険信託は、生命保険と信託契約を合わせた仕組みです。ペット後見互助会とものわでは、プルデンシャル生命・プルデンシャル信託が提供する生命保険信託を利用して必要な飼育費用を遺せるようにしています。
生命保険信託では、生命保険金を信託財産として、受益者に交付することができます。但し、プルデンシャル生命・プルデンシャル信託の生命保険信託では、受益者に指定できる法人は、認定NPO法人など、公益性の高い法人に限られるため、飼育費用の受取ができる法人が限られるという問題点があります。
ペット飼育の受け入れ先を決める
飼育の受け入れ先を決めることは、飼育費用の遺し方以上に飼い主さんが気になる点だと思います。いくらお金を遺しても、適切な飼育管理をしてもらえないのであれば、飼育費用を遺した意味がありません。
信頼できる受け入れ先を決めるためには、飼い主さん自身が動く必要があります。以下の受け入れ先をあたってみるようにしましょう。
まずは親族
私が相談を受ける時も、意外や意外、親族に相談されていない方もいらっしゃいます。親族が飼育してくれるのであれば、様々な面で一番スムーズです。相談できる親族がいない場合は別ですが、まずは親族に相談してみましょう。
友人知人
ダメ元でも、一度友人知人に話をしてみるのもよいでしょう。ただ、友人知人となると同世代が多いでしょうから、万が一の際に託すことを考えると、一世代下の友人知人にあたってみると良いでしょう。
お世話になっているペット事業者
次に、お世話になっているトリミングサロンやトレーニングスクールなど、ペットホテルを営んでいるペット事業者の方にお願いできるか聞いてみましょう。ペット後見に理解のある事業者であれば、話は早いでしょう。
老犬老猫ホーム
老犬老猫ホームにお願いするということも選択肢の一つです。老犬老猫ホームの場合、普段お世話になっているペット事業者と違い、日頃から面識がない場合も少なくないでしょう。見学に行くなど、信頼関係を築く努力をしていくことが大切です。
犬猫保護団体
保護団体出身の元保護犬猫の場合は、出身の団体がペット後見の取り組みに前向きであれば相談に乗ってくれるかもしれません。『飼うなら最期まで』ということが前提で譲渡されていると思いますし、受け入れスペースにも限りがあるでしょうから、団体の状況に合わせて相談するようにしましょう。
ペットの見守り・緊急対応してくれる人を決める
飼育費用の遺し方、いざという時の受け入れ先が決まったら、見守り・緊急対応をしてくれる人を確保しましょう。
緊急対応が可能な人とは、家まで来て、動物を預かって移動させてくれる人と考えると良いでしょう。自分が救急車で運ばれたあと、動物が家に取り残されてしまっては、ペット後見の意味がありません。緊急保護をお願いできる人を確保しておく必要があります。
こうした対応を行ってくれる人はペットシッターです。ペットシッターを利用したことがない方も多いかと思いますが、いざというときにいきなり知らない人に家に来てもらうのは心配な面もあります。ペットシッターとの関係こそ、日常的に築いておくべきものです。
お近くのペットシッターの方に実際に日常の世話をお願いしてみて、人柄や、動物を扱う技術を確認しておくことが大切です。
最後までペットの飼育で責任を持つ形は様々
ペットの飼育に対して「最後まで責任を持つ」ことは基本的な飼い主の姿勢です。
ペット後見は、「自分が飼えなくなっても、最後まで責任を持ちたい」という気持ちに応えるための仕組みです。ペット後見が広がり、多くの事業者が参加することで、多くの飼い主が安心してペットとの生活を送れるようになるはずです。
これから先、ペット後見の輪が広まり、誰もが当たり前に、もしも自分が飼えなくなった時に備える社会になっていければと考えています。
「ペット後見互助会とものわ」だけがペット後見ではありません。全国にはNPO法人や、行政書士等が、ペット後見に取り組んでいます。ペット後見ポータルサイト「ペット後見.jp」では、全国でペット後見に取り組む事業者の紹介を行っています。
ペット後見を利用したい飼い主の皆様へ
ペット後見を利用したい飼い主の皆様に対応する為に、全国の事業者と連携し、ペット貢献ポータルサイト「ペット後見.jp」を運営しています。相談されたい方は、こちらのサイトから、各事業者もしくは本部にご連絡ください。
▶︎https://pet-kouken.jp/
ペット後見の取り組みに参加したい事業者の方へ
社会全体で、ペット後見への取り組みを加速していかなければならないと思います。ペット後見の取り組みを加速させるべく、月1回の勉強会(事業者向け)を開催しています。この仕組みを広めたいという皆様のご参加をお待ちしております。
▶︎https://pet-kouken.jp/meeting/