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北海道大学獣医学部共同獣医学課程修了。一次診療施設にて勤務。現在は米国Purdue大学にて客員研究員として勤務。日本獣医画像診断学会所属
犬のいる暮らし。想像しただけで、顔がほころんでしまうほどの幸せを感じるのではないでしょうか。ちょこちょこと足をすばやく動かして歩く姿。首をかしげる姿。しっぽを全力で振って喜ぶ姿。そのどれもがかわいらしいですよね。でも、一緒に暮らすとなるとお世話が大変です。毎日散歩をしなければなりません。フード代や医療費もかかります。歳をとれば認知症などの病気になるかもしれません。それでも15年近くの長きにわたり、変わらない愛情を注ぐことはできますか? 当記事を読んだ後に「家族に迎えたい」と思えたら、犬のベストパートナーになれるかもしれません。
目次
- 犬を飼う前に考えるべきこと
- 犬を飼う前に準備すること
- 犬を飼う上で必要なこと
- 犬の困った行動の対応方法
- まとめ
犬を飼う前に考えるべきこと
飼い主としての心構え
“命を預かる覚悟”が最大の心構えです。それは犬の生涯を通しての覚悟でなければなりません。犬全体の平均寿命は14.65歳(参考:一般社団法人ペットフード協会「令和4年 全国犬猫飼育実態調査」)。これだけ長い年月を家族の一員として幸せにする覚悟が大切であり、これ以降に続く記事を読んだあとに“覚悟が変わらないかどうか”を自問自答してみてください。それでも犬を家族として迎えたいと思うのであれば、飼い主としての心構えができている人と言えるでしょう。
犬にとっての幸せ
犬を飼う前に「犬にとっての幸せとは何か」を考えることも大切です。参考として「動物福祉の5つの自由」を紹介します。これは1960年代の英国において提唱された家畜に対する動物福祉の理念です。現在では、家畜のみならず、ペット動物・実験動物などあらゆる人間の飼育下にある動物の福祉の基本として、国際的に認められています。英国では動物福祉法2006の第9条「福祉を保障するための動物の責任者の義務」として「5つの自由」を「動物のニーズ」として条文に書いています。これから紹介する「5つの自由」を最低限守ったうえで楽しみや心躍る体験をさせてあげることが犬にとっての幸せであり、飼い主にとっての責任です。
- 飢えと渇きからの自由
健康を維持するための栄養的に十分な食物が与えられている。
清潔な水がいつでも飲めるようになっている。
- 不快からの自由
自由に身体の向きを変え、自然に立ち、楽に横たわる環境がある。
清潔で静かな環境で気持ちよく休み、身を隠すことができる。
炎天下の日差し、雨風や騒音を防ぐ環境にある。
キツすぎる首輪や怪我をする突起物があるなど、苦痛をもたらす環境ではない。
- 痛みと疾病からの自由
病気にならないように普段から健康管理や予防をしている。
痛みや外傷、疾病の兆候があれば十分な獣医医療を施すことができる。
- 恐怖や苦悩からの自由
恐怖や不安、精神的苦痛で多大なストレスがかからない。
ストレスがあれば原因を確認し、的確に対処できる。
- 正常な行動を表現する自由
本来の生態や習性に従った自然な行動が行える空間や環境が与えられている。
群れで生活する動物は同種の仲間と生活でき、単独で生活する動物は単独で生活できる。
犬を飼うメリット
犬は自分や家族を癒し、笑顔や元気をくれるパワーの源です。犬のかわいらしいしぐさや行動をきっかけに、家族との会話も増えていきます。また、決まった時間に食事や散歩などのお世話をしますので、規則正しい生活が実現しますし、運動不足の解消効果もあるでしょう。犬と飼い主さんの関係だけにとどまらず、散歩コースで会う他の飼い主さんとの交流が広がることも犬を飼うメリットです。
犬が暮らせる条件
前述の「動物福祉の5つの自由」にあるように、犬を飼うためには犬にとって快適な環境を整えることが条件となります。「持家やペット可の賃貸物件といった犬が飼える住宅があること」「フード代や医療費などを払える経済力があること」「ケージ・トイレ・リード・おもちゃなどの飼育道具を準備できること」「散歩ができる体力やルートがあること」「家族の賛同があること」は最低限の条件と言えるでしょう。
犬を飼う前に準備すること
どんな犬を飼うかを決める
犬種ごとに、性格・性質・大きさ・販売価格・診療費・保険料などの違いがあります。殺処分を減らしたいという希望をお持ちなら、保護犬を引き取るという選択もあるでしょう。いずれにせよ「どんな性格の犬と暮らしたいのか」「自分のライフスタイルと犬の特性が合っているか」「フード代や診療費の予算」などを踏まえて、犬種を選ぶことをおすすめします。
住環境を整える
犬種が決まったら、どのぐらいの大きさに成長するのかを踏まえてケージ・トイレ・リード・食器・おもちゃなどを揃えます。特に、大型犬はケージやトイレも大きくなるため、それを設置するスペースを確保しなければなりません。また、走り回って遊べる広さも必要です。なお、足腰が弱っている高齢の保護犬をお迎えする場合は、行動範囲に段差をなくすスロープを設置するといったバリアフリーの環境づくりを心掛けましょう。
動物病院を調べておく
「食欲がない」「歩きたがらない」「お腹をくだす」「誤飲」「呼吸が荒い」といった症状が見られた場合は、すぐに動物病院に相談しましょう。様子を見ているうちに症状が悪化したり、一刻を争う重病にかかっていたりすることがあります。いつもと違う様子に気づいたらすぐに動物病院に連れていけるように、評判が良い近所の動物病院を調べておけば、冷静に対応できます。
名前を付ける
愛犬の名前を繰り返し呼ぶことで、信頼関係が芽生えていきます。飼い主さんが呼びやすくて気に入る名前を付けたいですよね。たとえば、犬と出会ったときのエピソードや性格の特徴など、愛犬ならではの事柄を踏まえ考えると愛着が持てる名前になります。また、「犬が覚えやすい短い名前」「トレーニングの号令と混同しない名前」も良いでしょう。なかなか思いつかなければ、犬種・毛色・名前ランキングをヒントに考えてみることをおすすめします。
犬を飼う上で必要なこと
しつけ
犬は噛む習性のある生き物です。人間のように手を使えないので、犬は物をくわえて運びますし、おもちゃを噛んでストレスを発散します。ただ、とがった犬歯で人間が怪我をする可能性もありますので、人間社会のマナーを教えなければなりません。そのためにも、正しいトレーニング方法を覚えて対処しましょう。
衛生的な食事と水
食事と水は、犬の健康維持に欠かせません。ですが、「お腹がすいたら勝手に食べるだろう」などと考えて、食事や水をいつまでもおきっぱなしにするのは考えものです。不衛生な食事や水を摂ると、お腹を壊すだけでなく、感染症のリスクも生じます。毎日食器を洗い、新鮮なお水と食事をあげましょう。またおきっぱなしのスタイルでは食事量を把握しにくくなります。愛犬の体調管理のためにも食事量は一定に管理し、全部食べているか、食べすぎてはいないかなどしっかり確認しましょう。
散歩
人間同様、犬にとって散歩はストレス解消やリフレッシュにつながります。また、散歩中は様々な人や動物と接する時間です。外の世界に慣れていくうちに社会性が育まれ、近所の人や犬とコミュニケーションを取ることができるようになっていきます。また、愛犬は飼い主さんと出掛けることが大好きですし、ドッグカフェなど愛犬が好きな場所に連れていってあげれば、喜びも信頼度も高まります。
遊び
犬にとって遊びは大事です。飼い主さんとのスキンシップがうれしい遊びになります。レトリーバーやダックスフンドなど狩猟が得意な犬種は、ボールやフリスビーを投げてキャッチさせる遊びが大好きです。ボーダーコリーやコーギーなど家畜をまとめる仕事をしていた賢い犬種は、体力と知力を満たせる複雑なおもちゃを与えると満足します。犬種によって必要な運動量や遊びの時間は異なります。愛犬を退屈させないようしっかりと遊びの時間を作ってあげましょう。
健康管理
愛犬の健康管理には、「ワクチン接種」「寄生虫予防」「避妊と去勢手術」「健康診断・血液検査」「体重管理・ダイエット」「歯石除去」などが挙げられます。また、自宅でも「食べたフードの量」「うんちやおしっこの状態」「歯の状態」「体重の増減」「体型」などをチェックすることで健康管理ができます。毎日観察していれば、愛犬の異変にいち早く気づくことができるようになるでしょう。
お手入れ
犬種を問わず、犬の健康を守るためには、全身をお手入れして清潔に保つグルーミングやトリミングが必要です。また、耳掃除・爪切り・歯磨き・肛門腺絞り・マッサージ・ブラッシング・シャンプーを習慣にすることで、身体の異変にいち早く気づくことができるようになります。
犬の困った行動の対応方法
吠える
主に恐怖心や警戒心から来る行動です。吠えることで、苦手なものや怖いものを撃退できると学習すると吠えぐせがついてしまうので注意してください。吠えぐせを治すトレーニング方法は、吠えなかったら適切に褒めることです。「インターフォンの音」「来客」「散歩ですれ違った人や犬」に対して吠えなかったら積極的に褒めましょう。
噛む
犬にとって噛むことは自然な行為です。ただし、洗濯物を噛んだり、人の手を噛んだりする場合があります。トレーニングをせずに放置すると「噛んでも良いもの」と勘違いさせてしまいます。子犬の頃からしっかりと噛んではいけないものを教えるようにしましょう。
粗相
人間のように言葉で気持ちを伝えられない犬は、行動で感情を表現します。トイレトレーニングが終わっているのに犬が粗相をする場合は何らかの感情を伝えようとした行動です。たとえば「環境が落ち着かない」「不安」「かまってほしい」といった精神的な理由が考えられます。シニア犬の場合は、老化や病気によって粗相をしている可能性もあります。トイレトレーニングをする際には、愛犬が落ち着いて排泄できる場所を選んで始めましょう。また、愛犬の感情を汲みとって対処することも大切です。粗相した場合に注意したり、叩いたりすると、飼い主さんの目が届かない場所で排泄する可能性もあるため逆効果になります。犬が失敗しない環境を整え、できたら褒めてあげることを心がけましょう。
まとめ
犬は犬種だけでなく、個体によっても性格が異なります。お迎えした犬をよく観察していれば、どういう性格で、どんなことが好きで、どんなことが嫌いか、わかってくると思います。また、しぐさや声のトーンで犬のきもちを察して行動すれば、犬の期待に応えることができるようになるでしょう。犬と信頼関係を築ければ、一層かわいらしい姿を見せてくれると思います。