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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
犬がおしり歩きを頻繁にしているときは、犬にとって何かしらのストレスが原因となっていることが考えられます。おしりに違和感を持つことで起こす行動として、考えられる原因と対処法を知り、愛犬の健やかな日常を取り戻しましょう。
目次
- 犬がおしり歩きをする原因
- 犬のおしり歩きで考えられる病気
- 犬がおしり歩きをしたときにチェックするポイント!危険なサインとは?
- 犬のおしり歩きの対処法
- まとめ
犬がおしり歩きをする原因
「犬のおしり歩き」とは、犬がおしりを床にこすり付けてスリスリと歩く様子のことです。飼い主にとっては、どこか愛らしく感じる仕草ですが、犬がこのような動きをするときは、おしり周りに何らかのストレスを抱えている可能性があります。
おしり歩きの原因としては、「かゆみ」「違和感」などさまざまな理由が考えられます。詳しく見ていきましょう。
*その他、犬のおしりのトラブルに関して気になる人はこちらの記事もおすすめ
>犬が頻繁におしりを舐める理由とは?考えられる病気と病院に行くべき異変のサインについて解説します!【獣医師監修】
かゆみ
肛門やおしりの周りにかゆみがあるときに、犬はおしり歩きをします。特に、トリミングでおしり周りの毛をバリカンで刈った後は、皮膚が刺激されてかゆみが出ることが多くあります。
他にも、寄生虫に寄生されると、おしりに強いかゆみが出て、おしりをスリスリしながら歩いたり、おしりを引きずったりする仕草をするようになります。
なお、かゆみを伴う皮膚トラブルは、カビやハウスダスト、花粉など環境中の特定物質によって引き起こされる環境アレルギーの影響も大きいとされています。まれに食物アレルギーによっても、かゆみなどのアレルギー反応が生じる場合があります。
違和感がある
肛門周りの違和感も、おしり歩きの原因の一つです。犬には肛門の左右に肛門腺といわれる袋状の器官「肛門嚢(こうもんのう)」があります。肛門嚢には肛門腺でつくられた独特の匂いがする分泌物が入っており、肛門嚢に液体が溜まりすぎると、その違和感からおしり歩きをするようになります。
最近は、トリミングの際に、液体が溜まりすぎないよう肛門腺絞りを依頼する飼い主も多いですが、なかには肛門腺を絞ったあとの違和感で、おしりを気にするケースもあります。
しかし、肛門腺絞りはコツがあり、無理にやるとその刺激で余計にお尻周りを痛がることがありますから、難しい場合はトリミングサロンや動物病院でやってもらいましょう。
肛門腺が溜まっている
上記の通り、肛門嚢に分泌物が溜まると、犬はおしりの周りに違和感を覚えます。通常は、排便時に排泄物と一緒に出たり、驚いたときなどに無意識に飛び出たりするのですが、自然に排出できずに分泌物が溜まってしまう場合があります。
特に、排出する力が弱い小型犬や老犬などは注意が必要です。うまく排出できず、分泌物が肛門嚢に溜まりすぎると、犬は不快を感じておしりを舐めたり、床に肛門をこすりつけたりするようになります。
便の異常
排泄後におしりを床に擦りつけているときは、便の異常も考えられます。便秘により便が硬くなり、肛門が切れている可能性があります。
また、下痢を繰り返すことで肛門付近が荒れてしまっていることもあります。このような仕草をしていたら、便の状態をチェックすることが大切です。
犬のおしり歩きで考えられる病気
犬がおしり歩きをしているときは、思わぬ病気が潜んでいることがあります。具体的には、どのような病気が考えられるのか、主な病気を解説します。
おしりの皮膚炎
おしり周りの皮膚が炎症を起こすと、かゆみや違和感が出ます。皮膚炎を起こす原因としては、トリミング時のバリカンによる刺激や、繰り返す下痢、オムツをしている犬は、こまめに交換していないなどが考えられます。
また、アレルギー性皮膚炎や脂漏症などの皮膚の病気によって、かゆみやおしり周りが赤くなるといった症状が出ることがあります。悪化すると痛みが強くなり、触ろうとすると犬が嫌がって、怒るようになる場合もあります。重症化しないうちに、外用薬や内服薬で早めに治療しましょう。
肛門嚢炎
肛門嚢炎は、肛門嚢に細菌が感染して起こる病気です。肛門腺の分泌物は正常時は茶色や黒ですが、肛門嚢炎になると黄色や緑色になることがあります。
肛門腺が溜まりすぎると発症リスクが高くなるため、定期的に肛門腺絞りを行って、予防することが大事です。治療は、肛門腺絞りをして、肛門嚢を洗浄し、細菌感染を起こさないよう抗菌薬を使用します。
肛門嚢破裂(肛門腺破裂)
肛門嚢に分泌物が溜まったまま放置すると、袋が破裂してしまいます。この状態を肛門嚢破裂と言います。おしりからの出血、おしりの横に穴が開いて膿が出るなどの症状を伴います。痛みが強いことも特徴で、犬にとっては大きなストレスになります。
治療は破裂部分を洗浄して、外用薬を使用します。症状がひどい場合は、内服薬を併用することもあります。
瓜実条虫の寄生
犬に寄生する条虫で有名なのが「瓜実(うりざね)条虫」です。瓜実条虫はノミの体内にいる寄生虫で、グルーミングなどのときに犬がノミを飲み込むことによって消化管に寄生されます。
瓜実条虫は「片節」というかけらが連なった形状が特徴で、ちぎれた片節がおしりから出てくるときに強いかゆみを起こします。治療は駆虫薬の服用と、ノミの駆除を同時に行います。
犬がおしり歩きをしたときにチェックするポイント!危険なサインとは?
愛犬がおしり歩きをしていることに気づいたら、すぐに受診した方がいいのか、しばらく様子を見ても大丈夫なのか、確認すべき3つのチェックポイントを紹介します。
肛門周辺の異常を確認
犬がおしり歩きをするときは、肛門周辺になんらかの違和感を覚えている可能性が高いです。肛門付近に赤みやかぶれ、腫れがあるかどうかを、まずは確認しましょう。
特に、出血しているときは、肛門嚢が破裂している可能性があります。そのまま自然に治癒することはありませんから、出血があれば早めに動物病院で検査を受けましょう。
頻度や状況を確認
おしり歩きをしている頻度や状況を注意深く確認します。肛門腺絞りをした直後で、頻繁におしりを擦りつけていなければ特に問題はありません。この場合、肛門腺絞りの刺激が原因で、違和感が消えれば自然におしり歩きはしなくなるでしょう。
ただし、数日経ってもおしり歩きが続く場合は、どれくらい続いているか、1日何回くらいおしり歩きをしているかをチェックし、犬がかゆがっている場所や気にしている部分を特定することも重要です。
排泄時やおしりを触ろうとしたときの様子
おしりの皮膚炎などがあると、その痛みから犬は普段とは異なる反応をします。排泄時に痛がる、おしりを触ろうとすると嫌がる、逃げる、怒るといった仕草をするということは、重い症状がある証拠です。このような様子が見受けられれば、早めに動物病院を受診しましょう。
犬のおしり歩きの対処法
犬がおしり歩きをしていたら、飼い主はどのように対処すればいいのでしょうか。愛犬にとっても病気の早期発見、早期治療が重要ですから、日頃から正しい対処法を身に付けておきましょう。
肛門腺を絞る
定期的に肛門腺絞りを実施することが、おしり歩きの予防につながります。肛門腺絞りとは、肛門嚢に溜まってしまった不要な分泌液を人の手で排出することです。
先ほども触れましたが、不要な分泌物を自分で排出できる場合はよいのですが、肛門括約筋の力が弱い小型犬や老犬などは、自然排出は難しく、肛門嚢に液体が溜まりやすくなります。自分で排出できない犬の場合は、病気の予防のためにも、1~2カ月に1回程度、定期的に肛門腺を絞ることを習慣化しましょう。
ただし、肛門腺絞りにはコツがあり、無理にやると犬が痛がって、触らせないことがあります。自宅でできない場合は、動物病院やトリミングサロンなどに依頼して、専門家に任せしましょう。
肛門腺の絞り方についてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事もおすすめ!
>犬の肛門腺は絞った方がいい?正しい絞り方と普段のお手入れについて解説【獣医師監修】
便の調子を整える
便秘や下痢が続いている場合は、人間と同じで食事の内容を見直す、お薬を与えるなどして、便の調子を整えてあげることが大切です。
便秘の場合は、ドックフードに水分を取り入れるなどして、便の硬さを調節できます。水溶性食物繊維は大腸内で水分を保持できるので、便が柔らかくなります。
下痢の症状が長く続いているようなら、獣医師に整腸剤など症状に合った薬を処方してもらいましょう。
なお、犬の下痢を改善するためには、お腹への負担を軽減して休ませてあげることが大切です。消化に配慮したフードを混ぜる、柔らかく煮たキャベツやさつまいもなど不溶性食物繊維の多い野菜を食事に混ぜるなど、選択肢の一つとして、素材や調理方法を工夫してみるのも良いでしょう。
動物病院で検査をする
かゆみや痛み、炎症などの原因が肛門の内側にある場合は、目には見えないため、動物病院の受診が必要です。
また、腸管内に寄生虫がいるかどうかは、便検査を受ければ判明します。おしり歩きが続いている、1日何回もおしり歩きをするなど、気になる点があるときは、動物病院で検査を受けましょう。
まとめ
犬のおしり歩きは、犬が痛みやかゆみなどのストレスを抱えているサインです。ご紹介したように、おしり歩きの原因はさまざまですが、なかには発見が遅れると重症化する病気もあります。犬にとっての違和感や不調の原因は何なのか、症状や行動をよく観察し、獣医に正しく伝えることが病気の早期解決や早期発見につながります。
犬がおしりを気にする仕草をしていたら、「大丈夫だろう」と自己判断せず、早めに動物病院に相談しましょう。