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こころ鳳ペットクリニック、大阪どうぶつ夜間急病センター所属。小動物臨床に従事。犬猫をはじめ、鳥類、爬虫類、両生類、霊長類など様々な小動物の診療・手術執刀を行う
鼻ぺちゃ犬は、ユニークで愛嬌のある表情が魅力です。鼻ぺちゃ犬は「短頭種」と呼ばれる身体的特徴のある犬のため、飼育の際は注意すべきポイントもあります。
そこでこの記事では、鼻ぺちゃ犬の特徴や代表的な犬種、飼育の際の注意点について解説します。
目次
- 「鼻ぺちゃ犬」ってどんな犬?
- 鼻ぺちゃ犬の特徴
- 鼻ぺちゃ犬の犬種
- 鼻ぺちゃ犬を飼う際の注意点
- まとめ
「鼻ぺちゃ犬」ってどんな犬?
愛嬌のある表情が魅力的な鼻ぺちゃ犬は、犬の中でも「短頭種」と呼ばれるタイプです。犬は頭の形状によって「長頭種」「中頭種」「短頭種」の3タイプにわけられます。
長頭種とは、頭蓋骨の長さよりもマズル(目元から鼻先、口の部分)が長いタイプです。中頭種は頭蓋骨とマズルの長さが同程度、短頭種は頭蓋骨よりもマズルが短いタイプを指します。
鼻ぺちゃ犬は、頭蓋骨よりもマズルが短い短頭種に該当するため、鼻が低くキュートで愛嬌のある表情が特徴的です。
鼻ぺちゃ犬の特徴
「鼻ぺちゃ犬」と呼ばれる短頭犬には、愛くるしい容姿はもちろん、鼻が低いことによるさまざまな特徴があります。詳しく見ていきましょう。
鼻が低く表情が愛らしい
鼻ぺちゃ犬は、その愛称のとおり、鼻が低く愛らしい表情に見えることが1番の特徴です。長い鼻をもつ長頭種の犬種は、鼻がシュッと突き出しており、凛々しい姿が印象的です。
シェパードやボルゾイなどが、その代表的な犬種です。それに対してマズルが短い短頭種の鼻ぺちゃ犬は、顔に丸みがあるため、愛嬌のあるユニークな表情に見えることが大きな魅力と言えるでしょう。
目がクリクリと大きい
鼻ぺちゃ犬は、目がクリクリと大きく見えます。犬種によっては、目がやや飛び出しているように見える場合もあります。
これは、短頭犬と長頭種の「頭蓋骨の形状」の違いによるものです。
短頭犬の頭蓋骨は、長頭犬の頭蓋骨に比べて形状が丸く上にせり出していて、さらに、鼻部分の長さが短くなっています、そのため、眼球がおさまるくぼみ部分が小さくなり、眼球が前に飛び出して見えるのです。
顔にしわが寄りやすい
鼻ぺちゃ犬は、口や目、鼻の周りの皮膚にしわが寄りやすいことも特徴のひとつです。このしわが鼻ぺちゃ犬特有の愛嬌のある表情を演出してくれますが、しわに汚れが溜まりやすいといったデメリットもあります。
そのため、毎日のお手入れでは顔のしわの中まできれいに汚れを拭き取り、清潔な状態を保つことが大切です。
フガフガとした呼吸音がある
鼻が低い鼻ぺちゃ犬は、鼻の穴や気道が狭くなりやすく、呼吸の際に「フガフガ」といった音を出したり、寝ている際に「ブーブー」というようないびきをかいたりすることがあります。
こうした呼吸音やいびきは、鼻ぺちゃ犬の特徴のひとつであるため、過度に心配する必要はありません。
しかし、呼吸をする際に苦しそうな様子がある、いびきがだんだん大きくなってきた、などの気になる症状がある場合は、病気の可能性もあるため、早めに獣医に相談しましょう。
鼻ぺちゃ犬の犬種
大きな目と愛嬌のある表情が魅力の鼻ぺちゃ犬ですが、具体的にはどういった犬種が鼻ぺちゃ犬に該当するのでしょうか。
ここからは、鼻ぺちゃ犬と言われる代表的な犬種について紹介します。
ブルドッグ
ブルドッグは、イギリス原産の犬種です。ずんぐりとした体格としわの多いユニークな表情が特徴的で、中型犬に分類されます。
強そうな見た目ですが、愛情深く忠誠心が強い犬種のため、飼い主に忠実です。性格は明るく陽気で、鼻ぺちゃ犬らしい愛嬌たっぷりの表情やしぐさを見せてくれるでしょう。
フレンチ・ブルドッグ
フレンチ・ブルドッグは、フランス原産の犬種です。ブルドッグよりも体が小さく、顔のしわは少なめで、小型犬に分類されます。
体格が小さいわりに力が強く、がっちりとしており、好奇心旺盛な性格です。社交的で活発、遊び好きであり、飼い主に甘える一面もあります。
パグ
パグは、中国原産の犬種です。小型犬ですが、体格は筋肉質で引き締まっており、しわの多い顔が特徴的です。
非常に愛嬌があり性格も安定しています。大きな目と垂れた耳が、鼻ぺちゃ犬らしい愛らしさを際立たせています。
シー・ズー
シー・ズーは、チベット(中国)原産の犬種です。大きな目と豊かな被毛が、愛嬌がある中にも気品のある雰囲気を醸し出しています。
被毛が伸びるタイプなので、さまざまなカットを楽しめるのも魅力のひとつ。カットスタイルによっては、キュートな印象にもなる犬種です。理解力が高く、活動的で友好的な性格ですが、甘えん坊な一面もあります。
ペキニーズ
ペキニーズは、中国原産の歴史のある犬種です。古くは紀元前の始皇帝の時代から宮廷で愛育されていたとされています。
顔周りの被毛がライオンのたてがみのように長い小型犬で、性格は怖いもの知らずで飼い主に忠誠心を持っています。飼育初心者の方でもお世話しやすい犬種でしょう。
ボストン・テリア
ボストン・テリアは、ブルドッグとブル・テリアによって作出されたアメリカ原産の犬種です。快活な性格で理解力と知性が高く、活動的です。
鼻ぺちゃ犬でありながら、どこか聡明さを感じるキリッとした表情も、ボストン・テリアの魅力でしょう。
ボクサー
狩猟犬にルーツのあるボクサーは、ドイツ原産の犬種です。やや低めの鼻に筋肉質な体格が特徴的。
鼻ぺちゃ犬の中でも、愛らしさより高潔な凛々しさを感じる中型犬です。勇敢で忠実、穏やかな性格のため、家庭犬としても適しています。
狆(チン)
日本原産の犬種であり、江戸幕府第5代征夷大将軍、徳川綱吉の時代には、江戸城で愛育されていたと言われている歴史のある犬種です。
豊かな被毛に覆われていて、愛らしさとともに優美で気品のある雰囲気が魅力の小型犬です。利口でおとなしい性格で、鼻ぺちゃ犬らしい愛嬌も兼ね備えています。
鼻ぺちゃ犬を飼う際の注意点
鼻ぺちゃ犬と呼ばれる短頭犬を飼育する際には、以下のポイントに注意しましょう。
目のケガ、トラブルに注意する
鼻ぺちゃ犬は、目が大きく、鼻と同じくらいの高さまで突出している犬種もいるため、目のケガには注意が必要です。飼育環境では、顔の位置にぶつかりやすいものを置かないように意識しましょう。
また、鼻ぺちゃ犬は、目のケガだけではなくドライアイや角膜炎、角膜潰瘍といった目の病気になりやすいという特徴があります。目の充血や過剰な目やになどの発生があれば、早めに獣医に相談しましょう。
熱中症になりやすい
鼻ぺちゃ犬と呼ばれる短頭犬は、口腔内の面積が狭く、唾液による熱の蒸発が十分にできない場合があります。そのため、体温が上がりやすく、熱中症になりやすいと言われています。
熱中症を予防するためには、エアコンなどで生活空間の適切な温度を保つとともに、こまめな水分補給や直射日光の遮断などを心がけましょう。
顔周りの汚れをケアする
鼻が低い鼻ぺちゃ犬は、食事の際に口周りや鼻周りの被毛が汚れやすくなります。また顔にしわが多い犬種であれば、被毛だけではなくしわの中にも汚れが溜まります。
こうした顔周りの汚れを放置していると、皮膚トラブルや目のトラブルのリスクが高まるため注意が必要です。食事後は、顔周りの被毛をきれいにケアしましょう。
また、顔にしわの多い犬種であれば、水で濡らした柔らかいガーゼやコットンなどで、しわの中の汚れも優しく拭き取ります。さらに、定期的なシャンプーで、被毛や皮膚のしわの中の汚れまで丁寧に洗い落としましょう。
短頭種気道症候群に注意する
鼻が低く鼻孔が狭くなりがちな鼻ぺちゃ犬は「短頭種気道症候群」を発症するリスクがあります。短頭種気道症候群とは、空気の通り道が狭くなり、呼吸が正常に行えなくなる呼吸器疾患です。
短頭種気道症候群になると、呼吸をする際に「ズーズー」「ブーブー」「ガーガー」といった呼吸音がして、呼吸が苦しそうになります。さらに、症状が悪化すると、呼吸困難や運動後の失神などのリスクも高まるため、呼吸音に違和感がある場合は、早めに獣医に相談しましょう。
航空会社の制限が多く、飛行機での旅行が難しい
鼻ぺちゃ犬は、高温多湿の状況では気道が狭くなり、興奮すると呼吸障害に伴う熱中症のリスクが高まってしまいます。そのため、高温多湿になる夏場は、航空会社によっては短頭犬の機内での預かりを中止しているケースもあります。
鼻ぺちゃ犬との旅行をする際は、航空会社の制限を必ず確認し、愛犬が安全に移動できる方法を検討することが大切です。
不自然な短頭犬の繁殖に対する倫理的な問題
本来、犬はマズルが長い状態が自然な姿です。しかし近年、短頭犬のかわいらしい容姿の人気が高まっており「人為的にマズルが極端に短い短頭犬を作り出す」という無理な繁殖が問題視されています。
短頭犬はそのマズルの短さから、健康的な問題も抱えていることも事実です。またフレンチブルドッグやパグの赤ちゃんの頭部はとても大きいため、母犬の産道を通ることが難しく、自然分娩ではなく帝王切開での出産が原則となっています。
こうした背景を受けて、オランダでは2020年に、一定の要件を満たさない短頭犬の繁殖が法律で禁止されました。かわいらしい容姿が魅力の短頭犬ですが、こうした倫理的な問題があることも理解しておくことが大切です。
まとめ
鼻ぺちゃ犬とは、短頭種という頭蓋骨よりもマズル(目元から鼻先、口元)の長さが短いタイプの犬を指します。愛らしい表情が魅力で、フレンチ・ブルドッグやパグ、シー・ズーなどが代表的な犬種です。
愛嬌がありユニークな印象の鼻ぺちゃ犬ですが、飼育の際は目のケガや熱中症、顔周りの汚れによる皮膚トラブルに注意しましょう。
また、鼻ぺちゃ犬は「短頭種気道症候群」という呼吸がしにくくなる病気にかかりやすいため、呼吸に違和感があれば早めに動物病院を受診してください。