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兵庫ペット医療センター東灘、獣医皮膚科学会、VET DERM TOKYO 皮膚科第1期研修医
犬の皮膚病は、非常にたくさんの種類があります。皮膚病は動物病院での受診数が多い症例であり「皮膚がかゆい」「皮膚が赤い」「皮膚が硬くなる」「毛が抜ける」「フケが出る」「皮膚がべたつく」「皮膚からカビのような臭いがする」などと症状もさまざまです。数ある皮膚病の中で、皮膚が黒くなるものがあります。今回は、皮膚が黒くなる皮膚病や症状、治療方法を解説します。
目次
- 犬の皮膚が黒くなるのはどのような状態か
- 犬の皮膚が色素沈着で黒くなる病気
- ノミの寄生が原因の場合
- 犬の皮膚が黒く汚れている場合
- まとめ
犬の皮膚が黒くなるのはどのような状態か
犬の皮膚が黒くなっているのは、皮膚が色素沈着を起している状態です。色素沈着は皮膚のメラニン色素が大量に作られて、皮膚に沈着して起こる黒ずみのことです。また、毛穴に角質や皮脂腺からの分泌物が溜まって黒く見える状態のことを「面皰(めんぽう)」と言います。
犬が色素沈着を起こして皮膚が黒くなる皮膚病は、たくさん種類があります。代表的なものは「皮膚の炎症後変化(感染症・アレルギー・脂漏性皮膚炎など)」「内分泌疾患」「腫瘍性疾患」「脱毛症」などが挙げられます。面皰を形成する皮膚病で代表的なものは「感染症(犬ニキビダニ症・皮膚糸状菌症)」「内分泌疾患」です。今回はこれら皮膚が黒くなる皮膚病について解説します。また、ノミの寄生や汚れの場合についても紹介します。
犬の皮膚が色素沈着で黒くなる病気
犬の皮膚に色素沈着を引き起こす代表的な皮膚病の、症状と治療方法を紹介します。
皮膚の炎症後の変化
表在性膿皮症
ブドウ球菌による皮膚の細菌感染症です。最初に赤いブツブツが皮膚にでき、菌が増殖すると赤いブツブツがニキビのような見た目に変わります。症状が進行すると、ニキビのようなものが破れて縁だけが残った状態に変化し、炎症が治まると中心部の皮膚が黒く変色する仕組みです。治療方法は、抗生剤の内服や塗り薬、シャンプーによる皮膚のスキンケアなどがあります。
食物アレルギー
食物アレルギーは、食べものが原因で発症するアレルギーです。犬の食物アレルギーの原因はタンパク質が代表例で、ドライフードを揚げる時に使用される油でアレルギーを起こすこともあります。食物アレルギーは非常に強いかゆみを引き起こし、皮膚が赤黒くなります。
治療としては、アレルギーを起こす食材が含まれていないフードに切り替えてください。新しいフードに身体が慣れていないので下痢をしてしまうことがあります。アレルギーなのか、消化系の不調なのか判断できるように、少しずつ切り替えるようにしましょう。新しいフードを与える割合は、1~2日目に25%、3~4日目は半分の50%、5~6日目に75%、7日目で100%が目安です。
犬アトピー性皮膚炎
環境アレルゲンや食物アレルゲンに対するIgE抗体の増加を伴う炎症とかゆみが生じる「アレルギー性皮膚疾患」です。外部の刺激から皮膚の内側を守る皮膚バリア機能が低下していることで発症します。好発種は、柴犬、シー・ズー、フレンチ・ブルドッグ、ラブラドール・レトリーバー、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアなど。
最初は赤みなどの皮疹やかゆみが出ます。慢性化すると皮膚が色素沈着を起したり、皮膚が厚くなってしわや溝がくっきりと現れた苔癬化を起したりします。治療方法は、内服薬や皮膚のバリア機能を補修するフードやサプリメントで栄養補給をします。また、シャンプーや保湿剤でのケアを続けて再発を防止します。
脂漏性皮膚炎(マラセチア皮膚炎)
皮脂の分泌が多すぎると、それをエサにするマセラチアが増殖して皮膚に炎症を起こします。初期症状は皮膚の赤みやべたつきで、慢性化すると皮膚が黒くなって象のように分厚いゴワゴワした皮膚に変化します。
脂漏性皮膚炎になると皮膚のターンオーバーのサイクルが短くなって、フケが出やすくなります。治療方法はシャンプーなどで適切に皮脂をコントロールすることです。皮膚の炎症やかゆみが強い場合は、ステロイドや免疫抑制剤を用いて皮膚の炎症を抑えます。
皮膚糸状菌症
皮膚糸状菌は犬だけでなく、人にも感染する人獣共通感染症です。菌を持っている動物にさわったり、菌に汚染された土やほこりを触ったりすると感染します。皮膚糸状菌が皮膚に入って炎症を起こし、炎症が慢性化すると皮膚が黒く変化していきます。
皮膚糸状菌の治療には内服薬として抗真菌薬が使用されますが、肝臓に負荷をかけることがあります。そのため、使用前と使用中の肝酵素値のモニタリングも行います。また、感染が一部分である場合は、塗り薬のみで完治することもあります。また、皮膚糸状菌は毛に感染しますので、感染している被毛と周囲の毛を刈ることで、感染拡大を防ぐことができます。
内分泌疾患
甲状腺機能低下症
甲状腺もしくは脳の異常で、甲状腺ホルモンの血中濃度が低下することで発症します。鼻筋・横腹・陰部周囲・尾部などに「色素沈着」「脱毛」「フケ」「べたつき」などの症状が見られます。皮膚のバリア機能の低下により、マラセチア皮膚炎やニキビダニ症などの二次感染を併発している場合が多いようです。
また、「体重が増える」「元気がない」などの全身症状も見られます。動物病院では、甲状腺ホルモン剤を投薬して血中のホルモン濃度を上昇させることで治療します。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
腎臓のそばにある副腎から分泌するホルモンが過剰に出て、身体に悪影響を与える病気です。症状が進行すると免疫力が低下し、皮膚炎や膀胱炎にかかりやすくなったり、糖尿病などの病気を併発したりします。副腎から分泌されるステロイドが関与する自然発生型と、外から投与されるステロイド(内服薬や塗り薬など)が関与する医原性型があります。
症状は「対称性の脱毛がある」「毛穴に分泌物が溜まって黒く見える」「皮膚が薄くなる」「カルシウムの代謝が異常になってリン酸カルシウムが皮膚に沈着する(石灰沈着)」といったものです。また、「たくさん水を飲んでたくさんおしっこをする」「食欲が増加する」「口を開けてハアハアと荒い呼吸をする」「お腹がふくれる」などの症状が見られます。治療方法は、医原性型クッシングではステロイドを休薬し、自然発生型クッシングは内服治療でステロイドホルモンの合成を抑制する方法や外科治療、放射線治療などがあります。
性ホルモン失調症
去勢や避妊をしていない犬に発生する病気です。オスは睾丸腫瘍による男性ホルモンの過剰分泌、メスは卵巣の機能異常による女性ホルモンの過剰分泌が原因となります。代表的な症状は、「脱毛」「色素沈着」などです。また、「発情周期の乱れや消失」「乳頭が腫れる」「睾丸や前立腺が腫れる」といった症状が見られることもあります。治療方法は、避妊・去勢手術を行うことです。
腫瘍性疾患
悪性黒色腫(メラノーマ)、良性黒色腫(メラノサイトーマ)
どちらもメラニンを作る細胞であるメラノサイトが増殖し、腫瘍化したものです。どちらの腫瘍もメラニンをたくさんつくるため、皮膚が黒っぽく見えます。メラノーマは悪性度の高い腫瘍で、頭、前足後足、包皮、口腔内、口唇、爪の周囲などにできます。治療方法は、外科手術です。腫瘍から根を張るように広がっていくため、外科手術で広範囲を切除します。メラノサイトーマはポツンとした黒色の腫瘍です。頭や身体など広範囲にできますが、転移の可能性が少ないため、外科手術での完治が期待できます。
脱毛症
アロペシアX
進行性の両側対称性脱毛症で、摩擦の起きる首輪の下、太ももの裏側、会陰部から毛が抜けはじめ、徐々に頭や手足を除くほぼ全身の毛が抜けます。また、毛質が硬く乾燥したものに変わる場合もあります。皮膚は乾いて黒くなる色素沈着や面皰が見られます。好発種はポメラニアン、白いトイプードル、キースホンド、チャウチャウ、サモエドなど。治療方法は、まだ確立されていません。避妊・去勢手術、内服薬、サプリメント、入浴、フードの変更といった治療が試されています。
パターン脱毛症
主に生後半年〜1年ほどの犬に発症する脱毛症です。小さいうちに発症するので、飼い主が気づかない場合もあります。パターン脱毛症では、耳、首、お腹、しっぽの毛が抜けます。好発種は、ミニチュア・ダックスフンド、チワワ、ミニチュア・ピンシャー、イタリアン・グレーハウンド、ボストン・テリアなどです。治療方法は確立していませんが、体内リズムを調整する薬で発毛が認められたようです。
ノミの寄生が原因の場合
ブラッシングをしている最中に、黒い粒のようなものが毛の中から浮いてきた場合は、ノミの糞である可能性があります。つまり、犬にノミが寄生しているということです。ゴミか糞か判別する方法は、黒い粒をティッシュにとって水を垂らして潰してみること。ノミの糞であればティッシュに血が滲んで赤茶色っぽい色がつきますので、肉眼でもよくわかります。ノミのやっかいなところは、犬も人間もノミに刺されると、激しいかゆみが生じることです。皮膚炎などを引き起こす可能性もあります。刺された跡も、なかなか消えません。
また、身体が小さい犬は大量のノミに吸血されると貧血になります。さらには、犬が身体を舐めてノミが口の中から入ると瓜実条虫がお腹の中で成長してしまい、下痢や嘔吐を引き起こします。被害が大きいのでノミはすぐに駆除しましょう。
犬の皮膚が黒く汚れている場合
皮膚の黒ずみが病気の症状ではなく、汚れが付着しているだけの可能性もあります。シャンプーやベビーオイルなどで汚れを落とせる場合もありますが、なかなか汚れが落ちずに無理に落とそうとすると犬の皮膚を傷めて炎症を起こしてしまいます。その場合は、動物病院へ連れていき、毛穴や皮脂のしつこい汚れを綺麗に落とせる洗浄器具で洗ってもらうことをおすすめします。
まとめ
皮膚病で悩んでいる犬はとても多いようです。皮膚が黒くなる皮膚病は種類が多く、原因も症状も治療方法もそれぞれ異なります。皮膚病ではなく、ノミや汚れの場合もありますが、悪性腫瘍の可能性も考えられます。愛犬の皮膚に異常を感じたら、できるだけ早く動物病院に連れていって正確な診断をしてもらってください。