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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
犬を飼いたいSさんがペットショップと譲渡会に行ってきました。
目次
- 憧れのトイプードル。どこでお迎えする?
- 飼いたい犬と、飼える犬はイコールじゃない!
- 犬を迎えるために自身のライフスタイルを整理する
- 初めての譲渡会で保護犬と面会
- 可愛いだけれは飼えないけど、尊い犬との暮らし
憧れのトイプードル。どこでお迎えする?
最近では、無意識にペットショップに入って、わんちゃんを眺めている自分に気がつくこともあるSさん。目がいくのはトイプードルです。もこもこした毛質が、たまらなく可愛いなと思って見てしまいます。
そんなSさん、今日はホームセンターのペットショップに来ました。ショップ内の展示にはかわいいトイ・プードルがいます。「やっぱりかわいいな」
ショップ定員さんに言って抱っこさせてもらうと、もこもこに包まれた小さな体に、Sさんは心を掴まれてしまいました。ただ、犬を飼うということには責任がつきもの。冷静な自分もいます。
そもそも犬を飼うにはどんな準備が必要なのか、イメージできていませんでした。そこで、獣医師の茂木千恵先生に聞いてみることにしました。
飼いたい犬と、飼える犬はイコールじゃない!
Sさんのような人が、”飼う前に考えておくべきこと”として何があるのか、茂木先生に伺いました。ぜひチェックしてもらいたい事として、先生は以下のようなポイントを挙げてくれました。
必要な飼育スペースを確保できますか?
大型犬には当然、ある程度の広さの平坦なフロアが必要です。小型犬はそれに比べて飼育スペースに広さは必要ありませんが、小型犬は環境の変化の影響を受けやすいため、健康管理への気くばりが必須です。
犬の性質とライフスタイルは合っていますか?
自分が気になっている犬種が元々どんな役割の犬だったのか、どんな特徴があるのかを調べた上で、自分のライフスタイルに合うかを考えてみましょう。純血種であれば、将来成犬になった時にどのような性格になるのかをある程度予測できます。犬の性質として具体的に以下の点をチェックしてみましょう。
【犬を迎える前にチェックしておくべきこと】
- よく吠えるかどうか
- 抜け毛の量
- 体臭の有無
- しつけのしやすさ
- 必要な運動量
犬と一緒にどんなことがしたいですか?
迎えた犬とどんなことをしたいと思っていますか。たくさん遠出したい、ドッグランで他のわんちゃんと遊ばせたい、ドッグスポーツを一緒にやりたいなど具体的にイメージしてみましょう。犬種それぞれに”見合った環境”があります。自分が「したいこと」と、飼いたい犬種に求められるものにギャップがないように合わせる必要があります。
一緒にいられる時間はどのくらいありますか?
1日、1週間の中で犬とどれぐらい一緒にいられるでしょうか。共働きで自宅に誰もいない状況であれば、犬は独りで過ごす時間が多くなります。長時間の留守番は犬にとって良いことではありません。自分の生活リズムと犬との時間を照らし合わせてみましょう。
家族の協力は得られますか?
家族で誰が散歩の時間を取れるのか、主に散歩に行ける人の年齢はどれくらいでしょうか。主な飼育者の年齢によって飼える犬種やサイズも変わってきます。犬を飼うことは十数年に渡る長い時間を要します。家族のライフステージもその都度変わっていくなかで、十年後の自分たちが犬のお世話をできるかどうかも、あわせて考えましょう。
迎える犬の年齢は適切ですか?
子犬じゃないと飼い主になついてくれないということはありません。成犬、老犬はすでにしつけが完成されていて、新たに教える手間が少ない場合もありますし、子犬と比べて食事間隔も空けられます。飼い始めの時期にまとまって時間を取れないという方は、成長した犬を引き取るというのも選択肢の一つです。
周囲の人のアドバイスを聞きましょう
実際に犬を選び始めると当事者は冷静ではいられなくなるものです。友達や近所の獣医師、ドッグトレーナーなど、客観的で平等な他者のアドバイスを聞いてみましょう。
飼い主も犬もストレスなく一緒に暮らすためにも、自分の住環境、ライフスタイル、家族の意向などを一度整理した上で、そのライフスタイルにあった犬種を選ぶという視点が必要ということがよくわかりました。
犬を迎えるために自身のライフスタイルを整理する
茂木先生から、チェックすべきポイントをもらったSさん。改めて各ポイントについて考えてみました。朝は何時に出勤して何時に帰宅するのか。愛犬を留守にする時間がどれくらいなのか、お散歩にいける時間がどの程度あるのか。
犬の飼育スペース
Sさんの場合、都内のマンションに夫婦で住んでいます。マンションは小型犬ならOKというルールになっているので、小型犬のトイ・プードルであれば問題はなさそうです。また部屋にもスペースは確保できています。
飼いたい犬の性質とライフスタイル
トイプードルについてSさんが知っている事といえば、
- 茶色のもこもこの毛がかわいい
- 人懐っこい感じがいい
- サイズも小さくて飼いやすそう
その程度のものでした。改めて、トイ・プードルという犬種を調べるとトイ・プードルは、撃ち落とされた水辺の鳥を泳いで拾い集める「鳥獣犬」がルーツ。その後、小型化され中でも最も小さい体格なのがトイ・プードルです。
平均寿命は約15歳、機敏で活発な性質、高い知性を持っています。定期的な運動習慣がないと欲求不満となり問題行動につながります。お迎えしたその日からしつけを始めるのが理想とされています。
この特性を考えるとやはり、しつけの時間としっかりお散歩する時間を取れることが大事になりそうです。
犬と一緒にしたいこと
車を所有していないこともあり、遠くにお出かけというよりは、まず近場でのお散歩を何より楽しみたいと思っていました。
犬と一緒にいられる時間
Sさん夫婦は共働きで、お互いの休日も異なります。Sさん自身ももっぱらリモートワークがメインとなっていて、今後も続きそうです。平日も概ね自宅で仕事をしているので、わんちゃんと過ごせる時間は長くとれそうです。
家族の協力
奥さんも犬を飼うことには前向きなので、実家で犬も飼っていたこともあり、大変な一面も含めて世話やしつけに対してはSさんより理解しているものがあるようです。
迎える犬の年齢
しつけはSさんとしては不安もありますが、やはりパピー期から育ててみたいというように考えていました。奥さんが飼った経験もあることから、子犬を迎えたいと考えていました。
また、それ以外にも
✔️自分や家族に動物アレルギーはないか
✔️犬にかかる費用をまかなう経済的余裕があるか
といった点を改めて確認することも必要です。Sさん奥さんともに動物アレルギーはありませんでした。
初めての譲渡会で保護犬と面会
さて、茂木先生のチェック項目を通じて改めて「自分が飼いたい犬種」と「飼える犬種」について理解を深めたSさん。もう1点、”犬の迎え方”についても考えてみました。トイ・プードルを迎える際の選択肢は、ペットショップだけではありません。なんとなく認識があった保護犬についても、譲渡会の会場に足を運んで実際に見てみることにしました。
初めて訪れた譲渡会の様子は?
譲渡会の会場には、約20頭のわんちゃんがいました。スタッフの方に話を伺うと、この譲渡会にいるわんちゃんのほとんどは、ブリーダーの繁殖引退犬ということでした。
年齢的には6〜7歳がメイン。この会場では毎月1度譲渡会が開催されており、約20頭が参加、大体10頭くらいの里親さんが決まるそうです。譲渡する際には里親希望の方と面談をして、そのわんちゃんにマッチしているかをスタッフの方が見極めます。(譲渡の際の条件は主催する団体によって異なります)
里親さんになるのはどんな人が多い?
里親になる人は、子育てが一段落して時間の余裕ができてきたご夫婦が多いのだとか。また、わんちゃんを最期まで世話することを考えると、むしろパピーから飼うより、ある程度成長した子を迎える選択をするシニアの方も多いそうです。
ふと譲渡会で見かけた犬が、自分が昔飼ってた犬に重なり、運命を感じてお迎えしたといった方もいらっしゃるようです。団体さんとしてはなにより「最期まで見てくれる方」に引き渡したいと考えていらっしゃいました。
譲渡会に参加しているトイ・プードルと面会
個別に仕切られたサークル内で、譲渡会に参加していたトイ・プードルと面会させてもらったSさん。その横では、里親さん候補の方とわんちゃんとのお見合いが次々に行われていました。どの候補の方もわんちゃんを見る目は優しく、きっと大事にしてくださるんだろうなとSさんも実感できました。
Sさんは、譲渡会に参加することで、犬をお迎えするのはペットショップだけではないということ、また、里親さんを探している犬がたくさんいるという現実を改めて知ることができました。
可愛いだけれは飼えないけど、尊い犬との暮らし
自分のライフスタイルと犬種の特徴、そしてお迎える際の選択肢など、色々と考えたSさん。Sさん夫婦とこれから迎えるわんちゃんの暮らしがどんなものになるのか・・楽しみです!
犬を飼う際には「可愛い」という気持ちはもちろん大切ですが、命を預かる以上、飼い主としてわんちゃんを幸せに過ごさせてあげる責任がうまれます。そして、一緒に過ごす時間は長いものになります。お互いにとって幸せな時間にするため、飼う前にご自身と家族含めたライフスタイルを見直して、飼いたい犬種が本当に飼える犬種なのかという事を考えたいですね。