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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
犬を飼う際に、見た目のかわいさだけでなく、自分のライフスタイルとその犬の特性があっているか見極めることが非常に重要です。飼う前に犬の特性をよく知り、準備をすることで飼い主も犬も安心して生活することができます。今回は、ヤマザキ動物看護大学准教授で獣医師の茂木千恵先生に教えていただいた、一般的に初心者でも飼いやすいと言われている犬種や自分のライフスタイルにあった犬種の選び方、犬を迎えるにあたって必要な準備や心構えなどを解説していきます。
目次
- そもそも飼いやすい犬って存在するの?
- 一般的に初心者でも飼いやすいと言われている犬種とは?
- 犬を迎える際に確認しておきたい心構えとは?
- 飼い主のライフススタイルにあった犬を選ぶ際のチェックポイントとは?
- 犬を迎える前に必要な準備とは?
- どこから犬をお迎えすればいいの?
そもそも飼いやすい犬って存在するの?
基本的に、どんな犬種でも必ず手間はかかるため、いわゆる「飼いやすい犬」はいません。犬を飼うことは、飼い主にとって十数年にわたって継続して担うべき大きな責任となります。犬は定期的な散歩、給餌、お手入れ、ヘルスケア、しつけトレーニング、そしてたくさんの愛情が必要です。しかし、犬種によって必要なケアのレベルは異なります。そのため、飼い主の性格によっては他の犬よりお世話をしやすい犬種はあるでしょう。お世話をしやすい犬の特徴としては、以下の3つがあげられます。
メンテナンスが少なくて済む
トリミングなどのグルーミングをほとんど必要とせず、毎日2、3回の短い散歩で満足できる犬です。もちろん、犬にはそれぞれの癖や欲求があるので、彼らが何を必要としているのか十分な理解が必要です。
散歩欲求が大きくない
あまり運動を必要としない犬種とは、毎日の短い散歩で欲求不満にならず健康維持できる犬のことです。もちろん、肥満にはなりやすくなるので食事管理は必要になります。また、毎日の飼い主とのコミュニケーションが少ないと、信頼関係がうまく作れません。同じ部屋にいても疎遠になってしまったりする可能性があるので、一緒に遊ぶ時間は積極的に作ってくださいね。
気楽な性格
新しい環境に戸惑わない、警戒しない、不安を感じにくいといった性格の犬種のことです。忙しい家庭や、特に子どもがいる家庭では、気楽で穏やかな性格の犬は、飼いやすいと感じられるでしょう。
一般的に初心者でも飼いやすいと言われている犬種とは?
犬を飼うのが初めての場合、犬を選ぶ時に見た目のかわいさで選びがちです。ですが、犬にはそれぞれ特性や個性があり、初心者でも飼いやすい犬種とそうでない犬種があります。ここでは、一般的に初心者でも飼いやすいと言われている犬種とその特徴をご紹介します。
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
順応性が高くおおらかです。噛み癖や無駄吠えが少なく、散歩欲求が大きくないので初心者向きと言えます。欠点として太りやすい、心臓病の素因を持っていることがある、過度に運動すると呼吸困難に陥るリスクがある、などが挙げられるため、過度な運動を控える必要があります。
ミニチュア・ダックスフンド
順応性が高く、飼い主に友好的です。1日数回の短時間の散歩と、自宅での遊び時間で運動欲求を発散させられます。適切な訓練を行って、たくさんのおもちゃがあれば、1日数時間は留守番することができます。
フレンチ・ブルドッグ
家族への愛情が深く、他の犬とも友好的で、穏やかな性格です。股関節に負担がかかりやすいので、散歩は少なめでも大丈夫です。
チワワ
マンションやアパートでも飼いやすい大きさの犬種です。運動は、1日数回の適度な散歩を取り入れましょう。また、チワワは自立心がありマイペースなため、しつけトレーニングは欠かせません。同居犬とも仲良くすごしやすいという一面もあります。
ヨークシャー・テリア
訓練性能は高く、飼い主への愛情も強いです。日頃の運動は、短時間の散歩を数回で済ませることができます。抜け毛は少ないものの、毛が絡まりやすいため毎日のブラッシングは欠かせません。
マルチーズ
頭が良くてしつけがしやすい、物事に機敏に反応しやすいなどの特徴があります。室内運動でも運動量をまかなえますが、ストレス解消のため適度な散歩は必要です。長毛なので毎日ブラッシングしてあげましょう。また、飼い主への愛情が強いため、幼い子どものいる家庭には不向きかもしれません。
パピヨン
活発で賢く、ドッグスポーツや訓練競技にも向いている性格です。ただ、暑さ寒さに弱い、物事に過敏に反応しやすいなどの一面もあります。また、定期的なブラッシングが必要な犬種です。
ミニチュア・シュナウザー
頭が良く、しつけやすい傾向にあります。また、警戒心が強いので、番犬向きと言えるでしょう。ただし、一方で吠え声のコントロールが必要です。また、毎日数回の散歩は必須になります。ブラッシングもこまめに行いましょう。
イタリアン・グレーハウンド
素早く走ることで有名な犬種ですが、多くの運動を必要としません。散歩は、毎日朝晩30分ずつ程度で十分です。また、短い被毛なのでお手入れが最小限でOK。簡単に落ち着きやすい性格ですが、小さな生き物を獲物とみなすと急に追いかけようとするかもしれない点は注意が必要です。
パグ
警戒心があまりなく、無駄吠えが少ない犬種です。よく寝ていることが多く、太りやすいので適切な運動量の確保が必要になります。抜け毛があるため、こまめなブラッシングが大切です。また、パグは短頭種なので呼吸器が弱いことがあります。
ビションフリーゼ
服従訓練が得意で、人には優しく、犬に対しては遊び心があり、明るい性格です。散歩は毎日30分程度で満足します。愛情が強いため、留守番は苦手です。独りの時間を作らないよう気をつけてあげましょう。
ラブラドール・レトリバー
人に対して非常に友好的で、訓練性能も高いです。ただし、しつけやトレーニングは欠かせません。体格が大きく、運動欲求が満たされないと破壊行動が起こりやすいので注意してください。毎日の十分な散歩時間を確保しましょう。また、飼育するのに適切なスペースが必要になります。
ゴールデン・レトリバー
人への友好性が高く、穏やかで明るい性格です。また、訓練性能も高いため、しつけやトレーニングの成果が出やすいのも特徴です。毎日の十分な散歩時間の確保が必要になります。また、体が大きいため、飼育するのに適切なスペースを用意してあげましょう。
犬を迎える際に確認しておきたい心構えとは?
一般的に初心者でも飼いやすいと言われている犬種を紹介しましたが、では実際に犬を迎える際に、どのような心構えが必要なのでしょうか。以下にまとめましたので、どういった点を確認すればいいのか見ていきましょう。
住宅がペットを飼える物件か
賃貸の場合には、ペットを飼える物件とそうでない物件があります。自分の住んでいる物件がペットを飼えるものかどうかを確認しましょう。ペット不可の物件で隠れて犬を飼うことは違法です。
自分や家族に動物アレルギーはないか
動物アレルギーがあるかどうかは、事前に検査することでわかります。飼った後にご家族が発症してしまい、飼育を放棄せざるを得なくなるのは避けましょう。また、毛が抜けづらい犬種や被毛の無い犬種を選ぶことで、アレルギーの症状が緩和されることもあります。
吠え声などのしつけができるか
しつけは、犬が人と一緒に生活する上で大切なルールです。家庭内でのルールを飼い始める初期に行うことで、スムーズに習慣作りができます。飼い始めの時期は、特に犬に時間を割いて向き合う余裕が必要です。
毎日犬の世話にあてる時間があるか
毎日朝晩の散歩は欠かせません。また、ブラッシング、食事の調整、歯磨きや耳掃除などの健康管理。犬を飼うことによって奪われる自由時間は少なくありません。
犬にかかる費用をまかなう経済的余裕があるか
犬を迎える前に、食事代や病院代など犬の生活に必要な費用を大まかに計算し、検討しましょう。また、特定の犬種は遺伝性疾患を起こしやすいとして知られています。治療費などは生涯に渡って必要となることもあるため、将来的な資金計画を持っておくことも必要です。
いつでも犬を優先できるか
犬のために我慢していると思うことがあれば、それはいずれ破綻します。犬と一緒にいることを心から喜んで優先できる方にこそ飼い主になってもらいたいものです。
飼い主のライフススタイルにあった犬を選ぶ際のチェックポイントとは?
いわゆる「飼いやすい犬」というのは、本当のところ存在しません。ですが、自分のライフスタイルにあった犬種を選べば、飼い主も犬もストレスなく一緒に暮らすことができます。自分のライフスタイルにあった犬を選ぶ際に、どういったポイントを押さえればいいのか見ていきましょう。
犬の大きさ
飼育するスペースによっておすすめできる体格が異なります。大型犬は、ある程度の広さの平坦なフロアが必要です。また、大型犬はフードにお金がかかるだけでなく、散歩する際に筋力も必要となります。小型犬は、大型犬に比べれば、飼育スペースの広さは必要ありません。ただ、小型犬は環境の変化の影響を受けやすいため、健康管理に気くばりが必須です。そのため、フードも品質に気を付けて病気予防に努めましょう。
犬の個性
犬は近代になって、熱心なブリーダーの努力の成果で、見た目だけでなく性格も個性的な犬種が多く作られました。そのため、子犬時代と成犬になってからでは随分と印象が変わってくることもあるでしょう。そのため、純血種の利点は、将来成犬になった時にどのような性格になるのかが、ある程度予測できる点になります。自分が飼ってみたいと思っている犬種が元々どんな役割の犬だったのか、どんな特徴があるのかをよく調べて、自分のライフスタイルに合うかどうか考えてから迎え入れましょう。チェックしておくべきことを以下にまとめましたので参考にしてみてください。
【犬を迎える前にチェックしておくべきこと】
・よく吠えるかどうか
・抜け毛の量
・体臭
・しつけがしやすいかどうか
・必要な運動量
自分が犬と何をしたいのか?
犬と一緒にたくさんお出かけしたい、ドッグカフェで愛犬と一緒にまったりしたい、ドッグスポーツを一緒にやりたい、など犬とどんなことをしたいのか具体的にイメージしてみましょう。その要望に合う犬種を探すとスムーズです。
住環境
近くに散歩できる場所があるか、動物病院があるか、車を持っているか、ペットシッターやドッグホテルがあるか、など犬を迎える前に自分の住環境がどうなっているのか確認してみてください。例えば、移動手段が電車のみだった場合、現実的に大型犬を飼うことは難しいでしょう。人と犬では求めている環境が違います。犬目線で自分の住環境を見直してみましょう。
生活リズム
犬と暮らすにあたって、犬とどれぐらい一緒にいられるのかを考えてみましょう。共働きで自宅に誰もいない状況であれば、犬は一人で過ごす時間が多くなります。長時間の留守番は犬にとって良いことではありません。自分の生活リズムと犬との時間を照らし合わせて、犬を迎え入れる際の判断をしましょう。
家族の協力は得られるか
家族で誰が散歩に時間を取れるのか、散歩に行ける人の年齢によって飼える犬種やサイズも変わってきます。例えば、子どもや高齢の方には、大型犬の散歩は難しいでしょう。また、犬を飼うということは十数年に渡る長い時間がかかります。家族のライフステージもその都度変わっていくものです。十年後の自分たちが犬のお世話をできるかどうかも、あわせて考えましょう。
犬の年齢
子犬じゃないと飼い主になついてくれないということはありません。成犬、老犬はすでにしつけが完成されているため、新たに教える手間が少ないのです。また、子犬と比べて食事間隔も空けられます。そのため、飼い始めにまとまって時間を取れないという方は、成長した犬を引き取るというのも選択肢の一つです。
周囲の人のアドバイスを聞く
実際に犬を選び始めると当事者は冷静ではいられなくなるものです。友達や近所の獣医師、ドッグトレーナーなど、客観的で平等な他者のアドバイスを聞いてみましょう。
犬を迎える前に必要な準備とは?
犬を迎えるにあたって、事前に準備しておくべきものをご紹介します。
飼育スペースの確保
トイレ、サークル、ハウスなどを準備して、犬が安全で快適に過ごせるスペースを確保しましょう。
犬の飼育グッズの準備
・首輪
首輪は家に着いたらすぐに着けましょう。急に犬の行動を止めたりする時に、体を直接掴むよりしっかりと持てますし、犬の体を傷付ける心配もありません。また、犬鑑札を取り付けるのに首輪が最適です。
・サークル、ハウス
犬の居場所を限定し、落ち着かせやすくするのに必須です。サークルとその中にハウスを用意します。小型犬の場合、ハウスはペットキャリーで代用してもかまいません。
・トイレ
家に着いたら、すぐにトイレトレーニングを始める必要があります。それまで飼われていたところで使っていたトイレシーツをもらってくると、トイレが分かりやすく失敗しません。失敗させないためには、トイレの周りをサークルで囲うと良いです。
・ベッド・マット
犬はうつらうつらとした浅い眠りが多く、長い睡眠時間が必要になります。快適に眠れるベッドやマットがあると、自分の居場所として気に入るのも早いでしょう。汚れてもすぐに丸洗いできるものがおすすめです。
・食器
フードや水を入れる食器を用意しましょう。犬のサークル内のハウスで与えることで、一層その場所を気に入ります。また、活発な犬の場合は、フードをお皿に入れて与えるより、仕掛けおもちゃの中に分けて入れてそこから食べさせるようにしてください。すると、お皿から食べるより時間がかかって、満足しやすくなります。かまってあげられないときは、いたずら防止にフード入りおもちゃを与えるのも良いでしょう。
・リード・ハーネス類
毎日の散歩やお出かけの際に、リードやハーネスを付けることが法律で決められています。ワクチンのスケジュールによっては、散歩をするのがしばらく先になるという場合もあります。その際も自宅内でリードを付けて歩く練習を始めましょう。
・フード
犬の年齢、健康状態、アレルギーなど犬に合わせたフード選びをしましょう。獣医師やペット栄養管理士など、専門家のアドバイスを聞きながら選ぶと安心です。
・ペット用防災グッズ
災害時に備えた、犬のためのストックと安全対策は欠かせません。食べ慣れたフードや飲み水は最低3~5日分の用意が必要と考えましょう。
おもちゃ
屋内飼育の犬は慢性的に運動不足です。かまってあげられないとき、留守番、遊びの道具としておもちゃはとても役立ちます。引っ張りっこ、振り回す、壊す、かじるといった狩りの模倣につながる形状は犬が大好きになりやすいです。
空調設備を整える
犬を飼うにあたって、空調設備は重要です。また、夏場のエアコンは必須。室内での熱中症や脱水を防ぐためにも、犬にとって快適な温度が保てるようにしておきましょう。
床の素材によっては対策が必要
床が滑りやすいと犬の足腰に負担がかかります。マットを敷くなど、滑りにくい工夫をしましょう。また、階段がある場合は勝手に上り下りするのも怪我の原因になります。その際は犬用のゲートを用意しましょう。
室内犬を飼うにあたっての情報収集
ネットや書籍などで、情報は手軽に入手できるようになっています。こまめにチェックして家族で話し合い、犬を飼う前にシュミレーションすることも大切です。
どこから犬をお迎えすればいいの?
ペットショップは扱っている犬にも、そして飼育員にも質に大きな開きがあります。必ず複数の店舗を回り、疑問点ができるだけ少ない店舗を候補として選びましょう。また、家に迎え入れる準備、飼育に関する知識などが整ってからペットショップなどへ向かいましょう。その日に衝動的に連れて帰ることを避けるためです。
保護犬は、過去の飼育歴が不明な場合があり、一緒に暮らしていく中で発見する驚きもあるでしょう。ドッグトレーナーや獣医師に、すぐに相談する準備を整えてから迎えてください。また、全員の里親希望者が必ず犬を迎えられるわけではないので、条件をよく調べたり書類を準備したりしてから連絡を取りましょう。