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ぎふ動物行動クリニック院長、NPO法人人と動物の共生センター理事長。年間100症例以上の問題行動を診察。動物行動の専門家として、ペット産業の適正化に取り組む。
日本各地で頻発する災害。今、私たちに求められるペットとの避難行動とは?
目次
- ペットと災害に備えるために
- ペット同行避難と同伴避難のちがい
- ペットとの避難は、ストレスの少ない「分散避難」がおすすめ
- ペットの避難。自宅が安全なら、自宅を優先しよう
- ペット同伴が可能な避難所の必要性
- ペットとの防災のために、飼い主ができることとは?
ペットと災害に備えるために
東日本大震災や熊本地震のような大規模な地震災害に加え、地球温暖化の影響から数十年~百年に一度と言われるような大雨による豪雨災害が多発しています。コロナ禍によって、避難所に人が集まることが憚られるようになり、私たちに求められる避難行動も変化しています。
そして、災害時に被災するのは人だけではありません。ペットも一緒に被災します。そして、ペットを守れるのは飼い主だけです。皆さんは、ペットを連れて、避難することができるでしょうか?
ペット同行避難と同伴避難のちがい
2011年、東日本大震災では、警戒区域内に取り残された動物が餓死したり、野生化してしまう問題が発生しました。この経験は、災害時に避難する時は、動物も一緒に連れていく事の必要性を浮き彫りにし、環境省が「同行避難」の原則を呼びかける契機になりました。
しかし、2016年の熊本震災では、同行避難を行ったものの、避難所でペットの入室を断られるなどの問題が発生し、同行避難と同伴避難の違いを周知・理解する大切さが浮き彫りになりました。
同行避難とは、「ペットと共に、危険な場所から安全な場所に移動を伴う避難をすること」を指します。同行避難=「ペットと共に避難所に行くこと」と勘違いしている方も多くいらっしゃいますが、避難先は避難所に限られるものではありません。ペットを伴って、親類友人知人の家に避難する、車中避難を行うことも、避難先が異なるだけで同行避難です。
一方、同伴避難とは、「避難所の敷地内でペットを飼養管理しながら避難生活を送ること」を指します。避難所の敷地内でペットを飼養管理するとは、同室で過ごすことを表すものではありません。小学校の施設が避難所になる場合、屋外のテント、体育館の軒先、体育館倉庫、プールの更衣室等がペット用の居場所になり、人の生活スペースとは分かれる場合が少なくありません。人とペットが同じ部屋で過ごせる同室同伴避難ができる避難所は、多くはありません。
ペットとの避難は、ストレスの少ない「分散避難」がおすすめ
近年では、避難=避難所と考えず、避難所に集中して人が集まってしまう状況をできるだけ避け、分散して避難しようという考え方が主流になってきています。新型コロナウイルス感染症の蔓延により、その考え方が一層協調されるようになりました。このように、一カ所に集中するのではなく、様々に分散して避難することを「分散避難」と呼びます。
ペットとの避難でも、「分散避難」は重要です。知らない人、知らない動物に囲まれ、知らない環境で過ごすことは、人にもペットにも強いストレスを与えます。非日常のストレスは、心身に影響を与え、食欲不振、下痢、嘔吐などの身体症状や、震え、過剰な鳴き声・吠え、落ち着かないといった行動の問題を発生させることがあります。
避難の第一目標は、人とペットの「安全」を確保する事ですが、第二に「安心」を確保することも重要です。そのためには、知らない場所に避難するのではなく、普段から行ったことのある知っている場所・馴れている場所への避難が優先されます。
そうした意味からも、普段から付き合いのある親類・友人・知人の家や、ペットも泊まれる宿等に、ペット連れで遊びに行くことは重要です。
ペットの避難。自宅が安全なら、自宅を優先しよう
災害=避難と考えがちですが、避難とは、あくまでも難を避けることであり、危険な場所から安全な場所に移動することを指します。つまり、自宅が危険でなければ、自宅に留まることが最善です。
災害による自宅の危険度を知るためのツールが「ハザードマップ」です。ハザードマップには、水害による想定される浸水の程度や、震災による液状化の危険性、土砂災害の危険性等が記載されています。自宅の危険度を把握することで、適切な避難行動を選択することができます。
もし、自宅に危険が及ぶ可能性があるのなら、早めに避難できるように準備をしておくべきです。逆に自宅が安全な場所にあるのなら、自宅から移動する必要はありませんね。災害によってはライフラインの寸断が起こる可能性もありますが、そうした事態に備えて、備蓄を行っておくことで、乗り越えることができます。また、備えをすることで、危険な地域に住む親族や友人の避難先になれるかもしれません。
避難する方も、受け入れる方も、飼い主同士が支え合って、互いの家に避難し合える関係を、日常的に構築しておくことも大切なことです。
ペット同伴が可能な避難所の必要性
先進的な自治体では、ペット同伴専用の避難所が設置されるなど、取り組みは徐々に進みつつあります。しかしながら、まだまだ、多くの自治体、避難所では、ペット同伴避難への備えは十分ではありません。
ペットの飼い主の中でも、車を使える世帯は、車で遠方に避難することができ、様々な避難の選択肢を持つことができます。一方、ペットを飼っていても、車を持っていなかったり、高齢で独居の方だったり、避難所以外の避難先の選択肢を作れない方もいらっしゃいます。
こうした方が、災害時に「ペットがいるから…」と、避難をためらい、被災してしまうことはあってはならない事です。しかし、実際のところ、私が運営する動物避難所においても、「地元の避難所がペットNGだから避難できない高齢者がいるので、動物だけ預けられないか?」という相談をいただくことがあります。この方は、浸水した経験のある家にお住いの方で、特に早めの避難が必要な方でした。
飼い主にとって、ペットは家族の一員であり、ペットの避難を人の避難と切り離して論じることはできません。ペットの避難を可能にする事は、ペットのための避難ではなく、誰一人取り残さない避難のために、解決しなければならない課題と言えます。
一方で、避難所には、動物が苦手な方、動物アレルギーの方、吠え声や臭いに敏感な方、動物と一緒に過ごすことが難しい障害を持たれた方も利用されることがあります。ペットの飼い主としては、同室同伴避難できるようになってほしいと願う半面、ペットがいることで他の方の避難を妨げてしまわぬようにしなければなりません。
災害時、誰一人取り残さない避難を実現するために、ペットを飼っている人も、ペットを飼っていない人も、互いの存在を尊重し合えるようなルール作りが必要です。
ペットとの防災のために、飼い主ができることとは?
ペットを飼っている人も、ペットを飼っていない人も、誰もが安心して避難できる社会に向けて、私たち飼い主ができることは何でしょうか?
非常用持ち出し袋を用意する事?
災害用備蓄をそろえる事?
ペットの写真や、防災手帳を作る事?
もちろんそれらも大切ですが、最も大切なことは「平時から、社会に受け入れられ、応援される、マナーの良い飼い主とペットになる」ことではないでしょうか。
仮に、避難所に犬と一緒に同伴避難したとしても、吠えたり騒いだりせず、キャリー・クレートの中で落ち着いていられて、清潔で、ワクチン・ノミダニ予防などしっかりした犬と飼い主であれば、周囲の方も受け入れ安くなります。逆に、吠え声がうるさく、常に落ち着かず、不潔で、ワクチン・ノミダニ予防などしていなければ、迷惑に思われる可能性は高くなります。
また、平時から、散歩の際にご近所の方に挨拶をすることも大切です。顔と顔のみえる関係があるからこそ、災害時に支え合うことができます。○○さんちの犬ってことが分かるだけで、周囲としても受け入れやすくなります。
災害時に備えて特別なことが必要なのではなく、日ごろから、適正飼育をする、しつけと社会化、適切なケアと予防医療を行っておくことが、災害時にも大いに役に立ちます。ペットは家族の一員であると同時に社会の一員です。その意識をもって、模範となるような飼い主になることが、一番大切な事ではないかと思います。