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ますだ動物クリニック院長、国際中医師

愛犬が口を大きく開けてハァハァと速く呼吸をするのはパンティングと呼ばれます。運動時や興奮時、体温調節が原因であれば、生理現象なので心配はいりません。
ただし、元気そうに見えていても苦しそうな呼吸の他、ストレス・ケガ・誤飲・病気、熱中症が原因であれば、注意が必要です。中には、早急に動物病院を受診しなければならない場合もあります。
日頃から愛犬の呼吸に注目しておくことで、呼吸の異変にいち早く気づき、落ち着いて適切な対処をすることができます。
そのため、正常な呼吸数や測り方、原因と対処法を獣医師の増田国充先生監修のもと、詳しく解説していきます。
目次
- 犬の呼吸が速いときはどうしたらいい?動物病院を受診したほうがいい症状・様子を見るときの対処方法はある?
- 犬の呼吸が速い場合に考えられる病気
- 犬の正常な呼吸数とは?1分間に40回、50回は異常?
- 犬がハァハァするのはなぜ?犬の呼吸が速くなる理由
- 暑さで犬の呼吸が速いときに役立つ犬用グッズ
- まとめ
犬の呼吸が速いときはどうしたらいい?動物病院を受診したほうがいい症状・様子を見るときの対処方法はある?
愛犬が呼吸を速くしていると、飼い主としては不安になるものです。
しかし、その呼吸が一時的なものなのか、緊急性を伴うものなのか、すぐには判断がつかないことも少なくありません。そのため、普段から愛犬の正常な呼吸状態を観察し、異変に早く気づけるようにしておくことが大切です。
ここでは、動物病院を受診したほうが良い症状、呼吸が速い場合にまず行うべきこと、そして様子を見ても良いケースについて詳しく解説します。
すぐに動物病院を受診した方が良い症状
愛犬の舌が青紫色や白っぽくなっている、苦しそうな表情をしているといった症状は、緊急性が高いサインです。呼吸の異常は命に直結する場合も少なくありません。以下に挙げる症状が見られる場合は、安易に様子を見ず、迷わず動物病院を受診しましょう。
- 長時間、口をあけて「ハァハァ」と呼吸をしている
- 運動や興奮もしていないのに息が荒い
- ゼーゼー、ヒューヒューなど呼吸音の異常がある
- 舌の色が青や白、あるいは紫色をしている
- 胸が大きく上下して、苦しそうに息をしている
- 横になって眠らず荒い呼吸をしている
- おすわりの状態で上を向き荒い呼吸をしている
- じっとして動かない
- 伏せができない
- 横になれない
- 咳が止まらない
- 呼びかけに反応しない
- 泡や水っぽいものを吐く
受診の際には、以下を準備するとスムーズです。
- 呼吸状態をスマホで撮影した動画(異常な状態を獣医師に正確に伝えるため)
- 最近の治療歴や服薬履歴
- 最後に食べたものや時間
- 吐瀉物があれば拭き取ったペットシーツごとビニール袋で包み持参
また、移動中も愛犬がリラックスできる姿勢を保ち、車で移動する際は常に新鮮な空気を取り入れるなど、なるべくストレスを与えないよう配慮することが大切です。
犬をうつ伏せにして呼吸を楽にさせる
愛犬の呼吸が速くて苦しそうに見える場合、まずは呼吸を楽にさせる姿勢を取らせることが重要です。多くの場合、うつ伏せの姿勢が最適で、肺への圧迫が少なく呼吸しやすくなります。顎の下にタオルや小さな枕を置いて高さを調節してあげるのも効果的です。
横向きや仰向けは肺が圧迫される可能性があるため避けましょう。また、室温が適切であることも大切です。室内ではエアコンを利用して快適な環境を整え、屋外では木陰や風通しの良い場所で休ませてください。
様子を見てもいいケース
愛犬が運動後や興奮状態のときに呼吸が速くなることはよくあります。これらの場合、犬を静かな場所で休ませ、室温を快適に保つと、通常は数分以内に正常に戻ります。このようなケースでは、特に受診の必要はありません。しかし、安静にしても呼吸が速いままであったり、他の異常が見られたりする場合は要注意です。
特に、呼吸が速い原因が不明な場合や、呼吸の状態が次第に悪化していく場合は、様子を見るのではなく、早急に病院に相談しましょう。事前に獣医師へ症状を伝えた上で指示を仰ぐと安心です。
犬の呼吸が速い場合に考えられる病気
病気によって呼吸が速い場合もあります。ここからは器官別に考えられる病気について解説します。
鼻の病気(細菌感染、アレルギー、腫瘍など)
鼻炎など、鼻の内部で炎症が起きる病気です。鼻が詰まり息がしにくくなると酸素が取り込みにくくなって呼吸が速くなったり、口で呼吸するようになったりします。原因は「細菌感染」「ウイルス感染」「アレルギー」「異物混入」「腫瘍」などです。
喉の病気(短頭種気道症候群など)
「短頭種気道症候群(たんとうしゅきどうしょうこうぐん)」の原因の一つに、喉が原因となるものがあります。
特にパグやブルドックなどの短頭種は、複数の呼吸器疾患を同時に抱える短頭種気道症候群が原因で、呼吸数が多くなる傾向があります。動物病院で適切な処置をしてもらえば呼吸困難は軽減しますが、呼吸困難の状態が長く続くと酸素が不足して危険な状態になります。
また喉の筋肉の麻痺や炎症、腫瘍などによっても空気の通り道が遮断され、呼吸がしにくくなる場合があります。
気管の病気(気管支炎、気管虚脱、気管の腫瘍など)
感染性の疾患や気管虚脱、気管の腫瘍などにより空気が通りにくくなり、呼吸が速くなる場合があります。
例えば「犬伝染性気管気管支炎」は伝染力の強い病気で、急性の呼吸器感染症を原因とした咳が出ます。乾性の咳が一般的ですが、タンが絡んだような咳に変わることがあります。
免疫力がついてない子犬に発症することが多く、苦しそうに前足を突っ張って「ハァハァ」と呼吸をするのが特徴です。発症した犬との接触により、近くにいる他の犬に感染する可能性があります。ワクチン接種による予防が可能なので、体質や健康状態に問題がなければ必ず接種するようにしましょう。
心臓の病気(肺水腫、僧帽弁閉鎖不全症、心筋症など)
心疾患によって心臓がうまく動かなくなった結果、肺水腫という病気になることがあります。
肺水腫は、酸素交換を行う肺胞や肺を支える部分に液体成分が溜まり、肺が機能不全に陥る病気です。肺に液体が溜まると呼吸がしづらくなり、呼吸困難になることがあります。重症化すると突然死も起こり得る病気です。特に心臓疾患のある犬には注意が必要です。この他、心臓にフィラリアが寄生して、循環不全や肺への影響で呼吸が速くなる場合があります。予防薬で対策を取ることができます。
犬の心臓病で最も多く見られる僧帽弁閉鎖不全症や、心筋に異常が起こり心臓の機能が低下する心筋症でも、進行するとパンティングや呼吸困難の症状が現れます。
肺の病気(肺炎など)
細菌感染や食べ物を誤嚥してしまうことで肺に炎症を引き起こし、「肺炎」を起こす場合があります。肺炎の症状は、気管支炎や鼻炎よりも重く、急激に症状が悪化して治療を行っても死に至ることがあります。早めの対応が必要な緊急疾患です。
胸の病気(胸水など)
心不全・腫瘍・感染症などによって、胸の中に水が溜まってしまう「胸水」が代表的です。胸腔に水が溜まり肺が拡張できなくなるため、呼吸困難になってしまいます。
重度になると呼吸困難から死亡することもありますので、超音波ガイド下で胸部に針を刺し、緊急的に胸水を抜去する必要があります。胸水がたまっていると、通常では息切れしない場面でも、呼吸が速くなります。
呼吸が速くなるような疾患の多くは、早期発見・早期治療が重要です。日頃から「疲れやすくないか」「安静時にも呼吸が速くなっていないか」「呼吸が浅く元気がなくなっていないか」などに注意して観察しておきましょう。
熱中症
熱中症の場合も呼吸が速くなります。普段から愛犬の体温を手で感じておくと、体温の異常を見分けるための参考になります。呼吸が速くなったときに犬の体に触ると、いつもより熱く感じられることがあります。
熱中症の場合は、体温調節を呼吸でまかないきれないため、犬の体温が異常に高くなります。また嘔吐や下痢、意識障害など呼吸が速い以外の症状が出ることも多々あります。熱中症は対処が遅れると命に関わるため、いつもと様子が違うと感じた場合は様子を見ずに動物病院に相談しましょう。
熱中症になりやすい犬種は、短頭種のフレンチ・ブルドッグやブルドッグです。特に暑さに弱い犬種とされ、短頭種のお預かりサービスをNGにしている航空会社もあります。また毛色が黒っぽい犬や、寒い地域原産のアラスカン・マラミュートやシベリアン・ハスキーなどのダブルコートの犬は、熱がこもりやすいため注意が必要です。愛犬がこういった犬種の場合は愛犬にとって快適な室温に調節してあげることが重要です。
犬の正常な呼吸数とは?1分間に40回、50回は異常?
愛犬の異常に早く気付くためには、普段から正常な呼吸状態を観察しておくことが大切です。ここでは犬の正常な呼吸数や呼吸の測り方について詳しく解説します。
平均値は小型犬で25回前後、大型犬は15回前後
愛犬がリラックスしている平常時の呼吸を、正常な呼吸と定義します。平常時は、口を閉じて鼻でゆっくり呼吸している状態です。呼吸数は、愛犬の胸が膨らんでから元に戻るまでを1回とカウントします。
1分間の正常な呼吸数は、覚醒時であれば小型犬では25回前後、大型犬では15回前後が、平均的な数値です。また睡眠時であれば10〜20回前後が平均的な数値です。一般的に、小型犬は大型犬より呼吸数が多くなります。子犬の場合も成犬より呼吸数が多くなります。老犬の場合は1分間に30回を超えるかどうかが異常の疑われる目安となります。
正常な呼吸数は個体差による違いも大きいため、これらの数値はあくまで参考値となります。大切なのは、普段から愛犬の呼吸数を数えておき、愛犬の正常な呼吸数を知っておくことです。それにより些細な変化にも気づきやすくなります。
いずれも1分間で20回未満であれば正常な呼吸数だと考えて問題ありません。注意が必要なのは、1分間に30回を超えている場合です。呼吸器や心臓の病気にかかっている可能性があります。1分間に30回を超える場合は「ハァハァ」や「ゼーゼー」といった音が聞こえ、異常だとハッキリわかるほど、呼吸が速く荒くなっているでしょう。
安静時に1分間で40回を超える場合は、肺水腫などの呼吸不全が疑われるため注意が必要です。さらに、寝ているときに呼吸が速い場合は、何らかの病気が隠れている可能性があるため、普段と異なる点がないか観察し、犬の様子を獣医師に相談することをおすすめします。
呼吸の測り方
まず、愛犬がリラックスしている状態か睡眠時に測定してください。散歩や運動をした直後、遊んだばかりの興奮時、室温が高い場所で測ることは避けましょう。呼吸数が上がってしまうので正常な呼吸数とはいえません。またいつも同じ条件で測定することも重要です。
呼吸数は、愛犬の胸や腹が膨らんで元に戻ったら1回とカウントします。軽く手を当てて数えれば、呼吸に伴う上下運動がわかりやすいでしょう。また、愛犬の鼻の前に手鏡をかざし、鼻から出る息で鏡が曇る回数を数える方法もおすすめです。
呼吸を測る際、1分間ずっと数え続ける必要はありません。たとえば、20秒間数えて、その数値を3倍にすれば1分間の呼吸数となります。「何回だっけ?」とわからなくなりにくいので、効率的に正しい呼吸数を測ることができます。
ちなみに1分間の正常な心拍数は、70〜160回ほどです。子犬は成犬の2倍近い心拍数があります。心拍数の測り方は、後足の付け根にある動脈に、指先を2~3本当てて、ドクドクと脈打つ回数を数えます。こちらも1分間ずっと数え続ける必要はありません。20秒間の脈を数えて、その数値を3倍にすれば1分間の心拍数を測ることができます。
犬がハァハァするのはなぜ?犬の呼吸が速くなる理由
犬の呼吸が速くなる原因は病気やケガなどのほか、運動や暑さといった生理現象によるものなどさまざまあります。
運動
人間と同様に、犬も激しい運動をした後は、呼吸が速く荒くなります。これは、運動で消費した酸素をできるだけ早く補給するための生理現象なので心配はありません。呼吸が長時間速いままであったり、他の異常が見られたりする場合は注意が必要です。
暑い(体温調節)
暑さを感じているときに汗をかいて体温を下げることができない犬は、呼吸によって体内の熱を逃がして体温を調整しますので呼吸が速くなります。こちらも運動後と同じ生理現象なので、安静にしていれば次第に落ち着きます。ただし、熱中症の可能性もありますので、異常を感じた場合はすぐに動物病院に相談しましょう。
ストレス
興奮・恐怖・緊張・不安などの精神的なストレスを感じている場合は、交感神経が優位になるため、一時的に呼吸が速くなります。ストレスの原因がなくなると呼吸は正常に戻ります。
ケガ
ケガにより痛みがあるときや細菌の感染があるときは、呼吸が速くなります。飼い主に触られて嫌がるような場所がないか、傷ができて出血している場所がないかを確認しましょう。
誤飲
おもちゃなどの異物が喉や食道に詰まってしまうと、口や鼻で呼吸ができなくなる場合があります。まったく呼吸ができなくなってしまった場合は命に関わります。そうなった場合は、早急に動物病院を受診して異物を取り除いてもらってください。
病気
呼吸器疾患や心臓疾患といった病気が考えられます。異常に呼吸が速い場合は命に関わる疾患の可能性があります。早めに動物病院に相談しましょう。
老犬の場合
老犬はちょっと動いただけでも息が上がりやすくなることがあります。息が荒いのは正常な生理現象であることも多いのですが、一方で体に異常が起きている可能性も否定できません。正常か異常かを見分ける方法として、安静時や寝ているときなどに1分間の呼吸数を数えてみてください。30回を超えている場合は病気が疑われるため、かかりつけの獣医師に相談しましょう。
暑さで犬の呼吸が速いときに役立つ犬用グッズ
暑い季節には、愛犬の呼吸が速くなる原因のひとつとして、熱中症が挙げられます。愛犬を暑さから守るために、お散歩やお出かけ時に便利な保冷剤入れや給水器、ペット用カートなどのアイテムを活用するのがおすすめです。また、自宅ではクールマットやひんやりクッションを取り入れることで、快適な環境を整えられます。次に、具体的なおすすめグッズをご紹介します!
※売り切れや取り扱い終了の場合はご容赦ください。
※店舗により取り扱いが異なる場合がございます。
※一部商品は、店舗により価格が異なる場合があります。
※上記商品は獣医師の監修外です。
まとめ
犬の呼吸が速い場合、それが正常な生理現象か異常のサインかを見極めることが重要です。
運動後や興奮時など一時的な場合は心配いりませんが、舌の色が変わる、苦しそうな表情をしている、安静にしても呼吸が落ち着かない場合は緊急性があるため、すぐに動物病院に相談しましょう。
また、普段から愛犬の呼吸状態を観察し、異常を早期に発見できるよう備えることが大切です。
夏場には熱中症対策として、クールマットや給水器などの便利な犬用グッズを活用して、愛犬が快適に過ごせる環境を整えましょう。