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北海道大学獣医学部共同獣医学課程修了。一次診療施設にて勤務。現在は米国Purdue大学にて客員研究員として勤務。日本獣医画像診断学会所属
愛犬が口を大きく開けてハアハアと速く呼吸をする場合、運動時や興奮時、体温調節が原因であれば、生理現象なので心配はいりません。ただし、ストレス・怪我・誤飲・病気が原因であれば、注意が必要です。中には、早急に動物病院を受診しなければならない場合もあります。日頃から愛犬の呼吸に注目しておくことで、呼吸の異変にいち早く気づき、落ち着いて適切な対処をすることができます。そのため、正常な呼吸数や測り方、原因と対処法を解説します。
目次
- 犬の正常な呼吸とは
- 犬の呼吸が速くなる理由
- 犬の呼吸が速い場合の病気
- 犬の呼吸が速い場合の対処方法
- まとめ
犬の正常な呼吸とは
1分間の正常な呼吸数
愛犬がリラックスしている平常時の呼吸を、正常な呼吸と定義します。平常時は、口を閉じて鼻でゆっくり呼吸している状態です。呼吸数は、愛犬の胸が膨らんでから元に戻るまでを1回とカウントします。
1分間の正常な呼吸数は、覚醒時であれば小型犬では25回前後、大型犬では15回前後が、平均的な数値です。また睡眠時であれば10〜20回前後が平均的な数値です。一般的に、小型犬は大型犬より呼吸数が多くなります。子犬の場合も成犬より呼吸数が多くなります。正常な呼吸数は個体差による違いも大きいため、これらの数値はあくまで参考値となります。大切なのは、普段から愛犬の呼吸数を数えておき、愛犬の正常な呼吸数を知っておくことです。それにより些細な変化にも気づきやすくなります。
いずれも1分間で20回未満であれば正常な呼吸数だと考えて問題ありません。注意が必要なのは、1分間に30回を超えている場合です。呼吸器や心臓の病気にかかっている可能性があります。1分間に40回を超える場合は「ハァハァ」や「ゼーゼー」といった音が聞こえ、異常だとハッキリわかるほど、呼吸が速く荒くなっているでしょう。
呼吸の測り方
まず、愛犬がリラックスしている状態か睡眠時に測定してください。散歩や運動をした直後、遊んだばかりの興奮時、室温が高い場所で測ることは避けましょう。呼吸数が上がってしまうので正常な呼吸数とは言えません。またいつも同じ条件で測定することも重要です。
呼吸数は、愛犬の胸や腹が膨らんで元に戻ったら1回とカウントします。軽く手を当てて数えれば、呼吸に伴う上下運動がわかりやすいでしょう。また、愛犬の鼻の前に手鏡をかざし、鼻から出る息で鏡が曇る回数を数える方法もおすすめです。
呼吸を測る際、1分間ずっと数え続ける必要はありません。たとえば、20秒間数えて、その数値を3倍にすれば1分間の呼吸数となります。「何回だっけ?」とわからなくなりにくいので、効率的に正しい呼吸数を測ることができます。
ちなみに1分間の正常な心拍数は、70〜160回ほどです。子犬は成犬の2倍近い心拍数があります。心拍数の測り方は、後足の付け根にある動脈に、指先を2~3本当てて、ドクドクと脈打つ回数を数えます。こちらも1分間ずっと数え続ける必要はありません。20秒間の脈を数えて、その数値を3倍にすれば1分間の心拍数を測ることができます。
犬の呼吸が速くなる理由
運動
人間と同様に、犬も激しい運動をした後は、呼吸が速く荒くなります。これは、運動で消費した酸素をできるだけ早く補給するための生理現象なので心配はありません。
ストレス
興奮・恐怖・緊張・不安などの精神的なストレスを感じている場合は、交感神経が優位になるため、一時的に呼吸が速くなります。ストレスの原因がなくなると呼吸は正常に戻ります。
ケガ
ケガにより痛みがあるときや細菌の感染があるときは、呼吸が速くなります。飼い主に触られて嫌がるような場所がないか、傷ができて出血している場所がないかを確認しましょう。
誤飲
おもちゃなどの異物が喉や食道に詰まってしまうと、口や鼻で呼吸ができなくなる場合があります。まったく呼吸ができなくなってしまった場合は早急に命に関わります。そうなった場合は、早急に動物病院を受診して異物を取り除いてもらってください。
病気
呼吸器疾患や心臓疾患といった病気が考えられます。異常に呼吸が速い場合は命に関わる疾患の可能性があります。早めに動物病院に相談しましょう。
体温調節
暑さを感じているときに汗をかいて体温を下げることができない犬は、呼吸によって体内の熱を逃がして体温を調整しますので呼吸が速くなります。こちらも運動後と同じ生理現象なので、安静にしていれば次第に落ち着きます。ただし、熱中症の可能性もありますので、異常を感じた場合はすぐに動物病院に相談しましょう。
◆熱中症について
普段から愛犬の体温を手で感じておくと、体温の異常を見分けるための参考になります。呼吸が速くなったときに犬の身体に触ると、いつもより熱く感じられることがあります。
熱中症の場合は、体温調節を呼吸でまかないきれないため、犬の体温が異常に高くなります。また嘔吐や下痢、意識障害など呼吸が速い以外の症状が出ることも多々あります。熱中症は対処が遅れると命に関わるため、いつもと様子が違うと感じた場合は様子を見ずに動物病院に相談しましょう。
熱中症になりやすい犬種は、短頭種のフレンチ・ブルドッグやブルドッグです。特に暑さに弱い犬種とされ、短頭種のお預かりサービスをNGにしている航空会社もあります。また毛色が黒っぽい犬や、寒い地域原産のアラスカン・マラミュートやシベリアン・ハスキーなどのダブルコートの犬は、熱がこもりやすいため注意が必要です。愛犬がこういった犬種の場合は愛犬にとって快適な室温に調節してあげることが重要です。
犬の呼吸が速い場合の病気
病気によって呼吸が速い場合もありますので、器官別に考えられる病気について解説します。
鼻の病気
鼻炎など、鼻の内部で炎症が起きる病気です。鼻が詰まり息がしにくくなると酸素が取り込みにくくなって呼吸が速くなったり、口で呼吸するようになります。原因は「細菌感染」「ウイルス感染」「アレルギー」「異物混入」「腫瘍」などです。
喉の病気
「短頭種気道症候群(たんとうしゅきどうしょうこうぐん)」など喉の奥で起こる病気です。
特にパグやブルドックなどの短頭種は、複数の呼吸器疾患を同時に抱える短頭種気道症候群が原因で、呼吸数が多くなる傾向があります。動物病院で適切な処置をしてもらえば呼吸困難は軽減しますが、呼吸困難の状態が長く続くと酸素が不足して危険な状態になります。
また喉の筋肉の麻痺や炎症、腫瘍などによっても空気の通り道が遮断され、呼吸がしにくくなる場合があります。
気管の病気
感染性の疾患や気管虚脱、気管の腫瘍等により空気が通りにくくなり、呼吸が速くなる場合があります。
例えば「犬伝染性気管気管支炎」は伝染力の強い病気で、急性の呼吸器感染症を原因とした咳が出ます。乾性の咳が一般的ですが、タンが絡んだような咳に変わることがあります。
免疫力がついてない子犬に発症することが多く、苦しそうに前足を突っ張って「ハァハァ」と呼吸をするのが特徴です。発症した犬との接触により、近くにいる他の犬に感染する可能性があります。ワクチン接種による予防が可能なので、体質や健康状態に問題がなければ必ず接種するようにしましょう。
心臓の病気
心疾患によって心臓がうまく動かなくなった結果、肺水腫という病気になることがあります。
肺水腫は、酸素交換を行う肺胞や肺を支える部分に液体成分が溜まり、肺が機能不全に陥る病気です。肺に液体が溜まると呼吸がしづらくなり、呼吸困難になることがあります。重症化すると突然死も起こり得る病気です。特に心臓疾患のある犬には注意が必要です。この他、心臓にフィラリアが寄生して、循環不全や肺への影響で呼吸が速くなる場合があります。予防薬で対策を取ることができます。
肺の病気
細菌感染や食べ物を誤嚥してしまうことで肺に炎症を引き起こし、「肺炎」を起こす場合があります。肺炎の症状は、気管支炎や鼻炎よりも重く、急激に症状が悪化して治療を行っても死に至ることがあります。早めの対応が必要な緊急疾患です。
胸の病気
心不全・腫瘍・感染症などによって、胸の中に水が溜まってしまう「胸水」が代表的です。呼吸しても肺に水が溜まっているためうまく膨らまず、呼吸困難になってしまいます。
重度になると呼吸困難から死亡することもありますので、超音波ガイド下で胸部に針を刺し、緊急的に胸水を抜去する必要があります。胸水がたまっていると、通常では息切れしない場面でも、呼吸が速くなります。
呼吸が速くなるような疾患の多くは、早期発見・早期治療が重要です。日頃から「疲れやすくないか」「安静時にも呼吸が速くなっていないか」「呼吸が浅く元気がなくなっていないか」などに注意して観察しておきましょう。
犬の呼吸が速い場合の対処方法
愛犬の呼吸が速いときに、それが正常なのか異常なのかを見分けるのは難しい場合もあります。日頃から愛犬の呼吸状態をよく観察し、異常な呼吸を早めに見つけられるようにしておきましょう。また舌の色が変化していたり、表情が苦しそうな場合は緊急事態のサインです。呼吸の異常は命に直結する場合も少なくないため、安易に様子を見ず、迷ったらまず動物病院に相談しましょう。
すぐに動物病院を受診した方がいい症状
◆長時間、口をあけて「ハァハァ」と呼吸をしている
◆運動や興奮もしていないのに息が荒い
◆ゼーゼー、ヒューヒューなど呼吸音の異常がある
◆舌の色が青や白、あるいは紫色をしている
◆胸が大きく上下して、苦しそうに息をしている
◆横になって眠らず荒い呼吸をしている
◆おすわりの状態で上を向き荒い呼吸をしている
◆じっとして動かない
◆伏せができない
◆横になれない
◆咳が止まらない
◆呼びかけに反応しない
◆泡や水っぽいものを吐く
まとめ
呼吸の変化は、愛犬の不調に気づきやすい症状です。平常時や運動時の呼吸に日頃から注目しておけば、病気が原因の際にいつもと様子が違うことにいち早く気づくことができます。重症化する前に動物病院に連れていけば、愛犬も苦しまずに済みます。飼い主さん自身も「早く気づいて良かった」と安心できるでしょう。