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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
犬は人間と同じように呼吸が異常に増える過呼吸を起こすことがあります。心配が不要な一過性のものから、一刻を争う病気やケガまで原因はさまざまです。今回は、そんな犬の過呼吸についてchicoどうぶつ診療所の所長である林美彩先生に解説していただきます。
目次
- 犬の過呼吸とはどんな状態のこと?
- 犬の過呼吸の原因とは?
- 犬の過呼吸の原因として考えられる病気とは?
- 過呼吸になりやすい犬種は?
- 犬の過呼吸と逆くしゃみの違いは?
- 犬が過呼吸になった場合の対処法は?
- 過呼吸になっている犬を病院へ連れて行くタイミングは?
- 犬の過呼吸の予防法は?
犬の過呼吸とはどんな状態のこと?
犬の過呼吸は、人間と同じように興奮や緊張によって呼吸数が増加している状態です。そのほかにも、運動や循環器の疾患、犬種の特徴(短頭種など)によって、過呼吸が起きることがあります。犬の呼吸数は、小型〜中型犬の場合は1分間に約20〜30回、大型犬の場合は10〜15回が目安です。この回数を大きく上回っているときや、見るからに呼吸が荒いとき、口を開けて呼吸をしているときなどは、過呼吸になっている可能性があります。
犬の過呼吸の原因とは?
犬の過呼吸の原因は多岐にわたります。日常生活で起こるような、ふとしたことも原因になり得ますので、注意しておくようにしましょう。
病気によるもの
呼吸器の疾患、特に喉に炎症があるときは過呼吸が起こりやすい状態です。気管支炎や肺炎も注意が必要です。
臓器のトラブル
心臓など、循環器の異常が過呼吸を引き起こすことがあります。
過度な運動によるもの
運動することによって酸素と二酸化炭素のバランスが崩れ、呼吸が速くなります。体温調整も兼ねた生理現象の一環であり、適度な運動量の場合は徐々に落ち着いていきます。
異物の誤飲
誤食によって気道が塞がれると、呼吸がしにくくなって呼吸が乱れるようになります。これは、普段の呼吸では使用しない筋肉を使って、一生懸命に呼吸をしている状態です。完全に気道が塞がれてしまうと命に関わるため、一刻も早く動物病院を受診しましょう。
ストレス、興奮
緊張や興奮、恐怖、不安など、精神的なストレスが原因で自律神経が乱れ、呼吸が速くなることがあります。怖い、不安などのネガティブな感情だけではなく、「楽しい」「嬉しい」などのポジティブな感情が高まった場合も、興奮しすぎて過呼吸が起こる可能性があります。
怪我
怪我の痛みによる刺激で呼吸が早くなり、過呼吸を引き起こすことがあります。
犬の過呼吸の原因として考えられる病気とは?
病気が原因となり、過呼吸が引き起こしてしまうことがあります。その病気によるリスクをしっかりと理解し、事前に何らかの手を打てるようにしておきましょう。
気管支炎
細菌やウイルス、寄生虫などの感染や、環境中の有害な物質の刺激やアレルギーなどが原因で気管支に炎症が起こります。呼吸の刺激で咳が出るようになり、悪化すると過呼吸や呼吸困難につながってしまいます。
肺炎
肺炎は、ガス(酸素と二酸化炭素)を交換する肺胞に炎症が起きる病気です。普通に呼吸をしていてもガス交換が十分に行われないため、どんどん空気を取り込もうとして呼吸が速くなり過呼吸が起こります。
気管虚脱
空気の通り道である気管がつぶれたり歪んだりする病気です。呼吸時に空気がスムーズに流れず、咳やゼーゼーと音がする呼吸、過呼吸などを引き起こします。
肺気腫
肺胞が弾力を失い空気の循環が悪くなる病気で、過呼吸や呼吸困難が生じます。
僧帽弁閉鎖不全症
心臓の左心房と左心室の間にある弁(僧帽弁)が変形する病気です。血液が逆流し、体内の酸素と二酸化酸素のバランスが崩れ、呼吸困難になってしまいます。
心筋症
心臓の筋肉の収縮する力が落ち、体内の血液が循環しにくくなるため、酸素不足に陥りやすくなります。
熱中症
犬は呼吸で体温調節を行っているため、熱中症で上がった体温を下げるために呼吸が速くなります。また、熱中症によって血液の循環が減少する循環不全に陥り、過呼吸につながることもあります。
鼻腔狭窄
鼻孔狭窄鼻の内部にあたる鼻孔が狭くなる状態。空気が通りにくく、多少の運動でも息が上がってしまいます。
咽頭炎や喉頭麻痺
喉の麻痺や炎症が起こると、空気を十分に取り込めなくなり、呼吸に支障をきたすことがあります。
てんかん
てんかんは脳内の神経細胞に不具合が生じる病気です。体をコントロールしにくくなることがあり、呼吸の調節が困難になって、息が荒くなったり、過呼吸を起こしたりすることがあります。
肺水腫
肺の中に水が溜まる病気です。肺胞が押しつぶされ、過呼吸や呼吸困難が見られることがあります。
過呼吸になりやすい犬種は?
フレンチブルドッグやパグ、ボストンテリア、シーズーなどの鼻が短い短頭種は呼吸困難や過呼吸になりやすい傾向があります。短頭種は鼻孔狭窄にもなりやすく、特に呼吸器の病気に注意が必要です。また、肥満傾向の犬は気管が脂肪で圧迫されて過呼吸が起こりやすくなります。
犬の過呼吸と逆くしゃみの違いは?
過呼吸は口でも息をしていますが、短頭種におこりやすい逆くしゃみは、鼻から息を吸い込みすぎている状態です。鼻だけで息をすっているのか、口でも息をしているのかをチェックして見分けましょう。
犬が過呼吸になった場合の対処法は?
もし、犬が過呼吸に陥ってしまった場合はどのような対処をすれば良いでしょうか。焦らなくても良いように以下の対処法をしっかりと押さえておきましょう。
鼻を軽く押さえる
数秒呼吸を止めると呼吸が落ち着く事があります。しかし、逆効果の場合もあるため、多用しない方がいいでしょう。
マッサージ
背中を軽くなでて落ち着かせます。ただし、方法を誤ってしまうと、こちらも逆効果になる場合がありますので、何となくマッサージをするのはやめておきましょう。
周りの危険な物をどかす
過呼吸になると、痙攣したり、意識がもうろうとして、いつもと違う動きをしたりする恐れがあります。ケガをしないように周囲の物を片付け、安全なスペースを確保しましょう。
過呼吸になっている犬を病院へ連れて行くタイミングは?
健康状態に問題がなく、興奮状態や適度な運動で呼吸が上がっている程度なら心配はありません。しかし、以下のような症状が出た場合は、速やかに動物病院で受診したほうがよいでしょう。
咳
生理的な咳き込み程度なら問題はありません。しかし、咳が長時間続くと酸素不足を起こし、臓器が働かなくなってしまいます。
嘔吐
嘔吐物が気管に入り、閉塞や誤飲性肺炎を引き起こす恐れがあります。
よだれ
生理現象の範囲を超えたよだれには注意が必要です。熱中症や中毒の恐れがあり、よだれを誤飲し、誤嚥性肺炎につながることがあります。
倒れこむ
過呼吸で犬が倒れた場合、意識がもうろうとしており、極めて危険な状態です。また、倒れた衝撃で打撲や骨折などのケガをする可能性もあります。
体の震え、痙攣
一時的な体の震えは問題ありませんが、長時間続いているときや、意識がないときは非常に危険ですので、すぐに動物病院を受診してください。
意識の消失
脳内神経の異常が考えられます。いち早く動物病院を受診しましょう。
チアノーゼ
過呼吸や呼吸困難で、犬の舌が青や紫になっていたらチアノーゼのサイン。血中の酸素が減って、命に関わる状況かもしれません。
病院に連れて行くときの注意点
症状を起きている時の動画を撮影し、その時間や直前に食べたものなどをメモしていきましょう。また、今までかかった病気や、現在飲んでいる薬などがあれば、受診時に伝えるといいでしょう。