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作家、獣医師。15歳の時に書いた第44回講談社児童文学新人賞佳作を受賞し、作家デビュー。一方、麻布大学大学院獣医学研究科で博士号を取得、獣医師としても活躍。
動物病院には、獣医師だけでなく、診療の補助を行う動物看護師がいます。2023年春に「愛玩動物看護師」が国家資格化されました。今までの動物看護師とは、どう違うのでしょうか?
「愛玩動物看護師の仕事に興味があるけど、具体的にどんなことをするのかわからない」という方や、「これまでの動物看護師さんと、どう違うのかわからない」という飼い主さんに向けて、解説します。
目次
- 動物看護師って何? どんな仕事をしてる?
- 「愛玩動物看護師法」に基づき、「愛玩動物看護師」が国家資格化。いつから?
- 国家資格化した愛玩動物看護師の主な業務
- 愛玩動物看護師が国家資格化した背景
- 愛玩動物看護師の国家資格化による飼い主へのメリット
- 愛玩動物看護師の国家資格化による動物病院へのメリット
- 従来の動物看護師と愛玩動物看護師、獣医師の違い
- 愛玩動物看護師の具体的な仕事内容
- 愛玩動物看護師の活躍の場
- 愛玩動物看護師になるには? 資格取得の流れ
- 愛玩動物看護師の社会的地位が向上? 国家資格化から考える獣医療業界への影響
動物看護師って何? どんな仕事をしてる?
いままで、動物病院で診療の補助業務にあたるスタッフは、「動物看護師」といった名称で呼ばれてきました。
従来の動物看護師の主な業務内容は
- 受付
- 入院動物のお世話
- 病院内の清掃
- 獣医師の診察する際の動物の保定 など多岐にわたっていました。
特に資格は不要で、動物関係の専門学校を卒業した人に限らず、学生アルバイトでも、同じような業務を担うことができました。
しかし2019年6月に「愛玩動物看護師法」が制定され、2023年春から、「愛玩動物看護師」として働くために、国家資格の取得が必要になりました。その法改正の詳細と変化についてお伝えしていきます。
「愛玩動物看護師法」に基づき、「愛玩動物看護師」が国家資格化。いつから?
2019年6月に施行された「愛玩動物看護師法」により、「愛玩動物看護師」という国家資格が新たに誕生。
「愛玩動物看護師法」制定の流れ
令和元年/2019年 6月21日:「愛玩動物看護師法」成立
令和元年/2019年 6月28日:「愛玩動物看護師法」公布
令和4年/2022年 5月1日:「愛玩動物看護師法」の全面施行
令和5年/2023年 2月19日:第1回愛玩動物看護師国家試験
令和5年/2023年 4月1日:初の「愛玩動物看護師」が誕生
この法改正により、国家資格を持つ人しか、「愛玩動物看護師」と名乗れなくなりました。また、“動物看護師”などの「愛玩動物看護師」に似た名称の使用も禁止となりました。
愛玩動物看護師は、今まで病院スタッフが行っていた業務に加え、「診療の補助」業務が新たにできることになりました。詳細は後述します。
今年、2023年2月19日(日)に全国7箇所で初めて愛玩動物看護師の国家試験が行われました。受験者数は20,798人、合格者数は18,481人、合格率は88.9%でした。
この日は、現在動物病院で動物看護職として勤務しているスタッフのほとんどが試験を受けに行ったため、スタッフ不足によりお休みにした動物病院もみられました。
国家資格化した愛玩動物看護師の主な業務
愛玩動物看護師法では、愛玩動物看護師の業務について3つ明記しています。
愛玩動物看護師の業務
- 診療の補助
- 愛玩動物の看護
- 愛護・適正飼養に関する助言等
愛玩動物看護師法は、農林水産省と環境省の2つの省により管理されています。
つまり、獣医師免許や獣医療を管轄している農林水産省が「診療の補助」と「愛玩動物の看護」を、環境省が「愛護・適正飼養に関する助言等」を主に管轄します。
このように2つの省が包括的に管理することで、より業務の適正化が図れるでしょう。以上において、愛玩動物看護師という資格が、従来の動物看護師の延長線上にある資格ではなく、動物に関わる“新たな資格”であることを示しています。
愛玩動物看護師が国家資格化した背景
近年、犬や猫などのペットが家族の一員と考えられるようになり、飼い主の意識も高まってきました。それに伴い、獣医療への期待が高度化、多様化しています。
また、多頭飼育問題などの、動物の不適切な飼育もあとを絶ちません。周囲の環境や人の健康に被害を与えることもあります。そのため飼い主には、しつけなどの適切な飼育管理が強く求められるようになってきています。
このような社会の変化を受け、獣医師に加え、ペットにかかわる新たな専門資格の必要性が高まり、2019年6月「愛玩動物看護師法」が新たに制定されました。
愛玩動物看護師の国家資格化による飼い主へのメリット
愛玩動物看護師という新たな国家資格が誕生し、いままで獣医師が行なっていた診療業務の一部を「診療の補助」として愛玩動物看護師も担うことができるようになりました。
愛玩動物看護師も診療の補助に携わることで、飼い主さんとのコミュニケーションが充実します。飼い主さんは、インフォームドコンセント(十分な説明と同意)を得ることができ、より安心して診察を受けられるようになるでしょう。
また、獣医師の業務負担軽減にもつながるため、動物病院内の混雑が緩和し、待ち時間が短くなる可能性があります。
たとえば今までは、いつも変わらない定期的な点滴通院でも、獣医師による処置が必要なので診察を待つ必要がありました。しかし今後は、獣医師の指示があれば愛玩動物看護師でも点滴が可能になるため、待ち時間が短くなる可能性があります。
愛玩動物看護師は採血も可能なので、春に行われるフィラリア検査もできるようになります。ただし、ワクチン接種は獣医師が行う必要があります。
愛玩動物看護師の国家資格化による動物病院へのメリット
愛玩動物看護師が診療業務の一部を行うことができるようになったため、獣医師にしか行うことができない診断や手術などに、獣医師が集中することが可能になりました。
動物病院での業務が分担され、獣医療体制が整うことで、さらに高度で充実した獣医療の提供につながることが期待されています。
動物看護師が従来行ってきた入院動物の管理・服薬指導・栄養管理指導などの「愛玩動物の看護」は、今後も資格を持たないスタッフでも行うことができます。しかし国家資格化を機に愛玩動物看護師の優位性・専門性が高まり、資格取得者は、これまで以上の活躍が期待できます。
また、新たな動物看護業務として、愛玩動物看護師による往診や訪問介護、自宅でのリハビリテーション、高齢者などへの飼育支援などが増えました。
今後は獣医師による遠隔診療とも合わせ、愛玩動物看護師が主役として活躍できるような、新たな診療スタイルや業態が生まれるかもしれません。
従来の動物看護師と愛玩動物看護師、獣医師の違い
今後動物病院には、獣医師、愛玩動物看護師、そして国家資格を持たないスタッフが働くことになります。
この三者の関係は、歯科医療におけるスタッフの関係と似ています。
歯科医院では、歯科医師と歯科衛生士(国家資格)、そして資格が不要の歯科助手の三者がいます。歯科医師が診断、治療を主体的に行い、歯科衛生士は歯科医師の指示を受け、歯石除去やホワイトニングなどの歯科診療補助行為を行うことができます。資格のない歯科助手は、患者の口腔内を触ることはできません。ただし、曖昧な部分も多く、どこまで歯科衛生士が診療補助行為を行うかは、歯科医院によって異なります。
動物病院でも、同じようになっていくことが考えられます。
獣医師が診断・治療・手術などを行い、愛玩動物看護師は獣医師の指示を受け、投薬・採血などの補助業務ができるようになりました。その他の、民間資格のみを所持している方や、資格を持たないスタッフは、愛玩動物看護師のお手伝いや受付業務などをすることになります。
「愛玩動物看護師」とひとくちにいっても、個々の知識・技術レベルは異なります。採血することが許可されたからといって、全国の愛玩動物看護師全員が同じレベルですぐに採血できるわけではありません。知識量にも偏りがあるでしょう。そのため、現場の獣医師は、個々の愛玩動物看護師の知識・技術レベルを客観的に評価し、適切な指示を与える必要があるといえます。
愛玩動物看護師の具体的な仕事内容
愛玩動物看護師は、先ほど記したように「診療の補助」業務が新たにできることになりました。
「診療の補助」と聞くと、いままでどおり獣医師の診察の手伝いをするようなイメージをされるかもしれませんが、実際には、獣医師の診療業務を一部実施することを意味します。
これにより、愛玩動物看護師は、これまで獣医師にのみ許可されていた診療行為の一部も行えるようになりました。
【愛玩動物看護が行える診療行為の一例】
- 輸液剤の投与
- 採血
- マイクロチップ装着
- カテーテル留置
- 投薬
- 心肺蘇生
診療の補助の具体的な例を一つ挙げて、比較してみましょう。
入院動物が下痢をした場合の対応
1.獣医師のみが診療行為を行える従来の流れ
スタッフが獣医師に報告→報告を受けた獣医師が下痢止めの注射を打つ
2.愛玩動物看護師の処置の流れ
スタッフが獣医師に報告→報告を受けた獣医師が、具体的な薬剤名と投与量を愛玩動物看護師に指示→指示を受けた愛玩動物看護師が、入院動物に薬剤を注射を打つことが可能
一方以下のように、誤るとペットに危害が生じるおそれがあるものは、引き続き獣医師による実施が必要です。
- 診断
- エックス線撮影等における放射線の照射
- ワクチン接種
- 愛玩動物の身体への影響が大きい医薬品の投与 など
しかし、使用可能な薬物の詳細などは明かされておらず、現場の獣医師の判断によって愛玩動物看護師の仕事の範囲は変わりそうです。
診療の補助・愛玩動物の看護 入院動物の世話 |
窓口業務 | 飼い主への問診 飼い主への説明・相談(ワクチン、フィラリア予防等) |
処置業務 | 動物の保定 患部処置(洗浄・消毒、包帯) 内用薬の投与 外用薬の塗布 輸液剤の注射 歯科処置の補助 マイクロチップの装着及びリハビリテーションの補助 |
検査業務 | 検体(血液、尿、便、粘膜スワブ、体表組織等)を採取し、検体検査 生理検査(心電 図、心音図、超音波検査) |
エックス線検査業務 | 検査準備及び必要な放射線防護措置を講じた上での 保定 |
入院業務 | 入院動物への給水・給餌 病状の観察 輸液・酸素吸入ラインの管理 |
手術業務 | 麻酔時のモニター管理や獣医師の具体的な指示に基づき麻酔量 の調整等 |
救急救命業務 | 獣医師の具体的な指示に基づき心肺蘇生処置を行う |
文書管理業務 | 獣医師が即応できない場合等においては、獣医師があらかじめ定めた手順書に従い、心肺蘇生処置を行うことも可能 |
文書管理業務 | 動物看護記録の作成、適切な管理など |
施設管理業務 | 診察機器、診察器具などの施設の衛生管理(滅菌・消毒) |
愛護・適正飼養に関する助言等 |
保健衛生支援 | 動物の日常のお手入れ(グルーミング・爪切り・歯磨きなど)に関する指導・助言 |
適正飼養指導 | しつけ教室を開催し、適切な社会化を促すなど、動物の共生に必要な基本的なしつけを指導 |
動物介在活動の支援 | 動物介在教育(AAE)、動物介在活動(AAA)、動物介在療法(AAT)への指導・助言 |
介護支援 | 動物飼育困難者(高齢者など)への飼育支援 |
被災動物支援 | 被災動物適正飼養のための支援 |
栄養管理指導 | 健康増進のための食事指導、ライフステージに合わせた栄養管理 |
愛玩動物看護師の活躍の場
飼い主に対する日常のケアやしつけ、飼養管理指導なども動物病院では大切な仕事の一つです。
環境省が関わる愛護・適正飼養指導として、愛玩動物看護師の業務内容にも定められています。今後はこういった分野でも、指導的な立場として愛玩動物看護師が活躍していくでしょう。
また、愛護・適正飼養指導には動物病院における日頃のお手入れやしつけについての助言・指導だけでなく、高齢者施設等でのセラピー活動や、動物飼養困難者への飼育の支援に貢献する様々な活動も含まれています。
今年の4月に誕生したばかりの資格ですので、まだまだ時間はかかるとは思いますが、今後は愛玩動物看護師がこういった施設でも活躍していく可能性があります。
愛玩動物看護師になるには? 資格取得の流れ
愛玩動物看護師になるには、年に1回行われる国家試験を受験し、合格する必要があります。また国家試験の受験資格には3つのルートがあります。
愛玩動物看護師試験の受験資格を得るためのルート
1.通常ルート
愛玩動物看護師を養成する4年制大学の卒業、もしくは都道府県知事が指定する養成所で3年以上、必要なカリキュラムを習得することによって受験資格を得ることができます。
その他、大学や養成所の既卒者・在学者・動物看護業務従事者には、法の施行から5年間のみ、以下2ルートの特例制度が設けられています。
2.大学や養成所の既卒者・在学者
「認定動物看護師教育コアカリキュラム2019」と同等以上の教育を修めている大学や養成所の既卒者・在学者は、2027年4月末日までに講習会を修了することで、国家試験の受験資格が得られます。
3.動物看護業務従事者
動物看護の業務の実務経験が5年以上ある人は、2027年4月末日までに講習会を修了し、予備試験に合格すると、国家試験受験資格を得られます。
実務経験は、動物病院での勤務のほか、ペットショップ、ブリーダー、老犬・老猫ホーム、動物訓練施設、動物展示施設などでの勤務も対象となります。週1日以上の勤務実態があれば期間として計算でき、5年間実務経験が連続している必要はなく、通算で大丈夫です。
ただし、上記に該当する人でも、2027年を過ぎてしまうと、受験資格を得ることができなくなってしまうので注意が必要です。
一度でも、国家試験受験資格を得れば、期限はありません。また、国家試験に落ちた場合も、受験資格は失効しませんので、翌年再受験が可能です。該当者は期日前までに受験資格を得ておくことをお勧めします。
愛玩動物看護師の社会的地位が向上? 国家資格化から考える獣医療業界への影響
当院にも、4月から2名の愛玩動物看護師が新たに誕生しました。実際に現場で診療を行う獣医師の実感として、業務内容や診療の形態が劇的に変わったとはまだ言えません。
当院は普段、獣医師2名、愛玩動物看護師2名体制で受付や入院管理を含めた日々の診療業務を行っています。
たとえば採血を例に取ると、動物が動かないように押さえる「保定」をする人と採血者の2名が採血時に必要になります。病院スタッフが多ければ、愛玩動物看護師を含むスタッフ2名で採血が行えますが、当院には人的余裕がないため、従来通り愛玩動物看護師が保定、獣医師が採血、というパターンにならざるを得ません。
また、4月に国家資格を取得し、採血が可能になったとは言え、いきなり獣医師と同じレベルで採血ができるわけではありません。当然、練習が必要です。しかし、動物病院は、狂犬病・フィラリア予防のため、4月〜6月が繁忙期にあたります。春は愛玩動物看護師の採血などの「診療の補助業務」のトレーニングをする余裕がない、というのが現状です。
スタッフの数が多い大規模の動物病院や、この春に備えてトレーニングを行っていた病院では、すでに愛玩動物看護師の活躍の場は広がっていることでしょう。
今後は、愛玩動物看護師のどんどんトレーニングも進むでしょうし、愛玩動物看護師向けの専門的なセミナーも増えるかもしれません。それに従い、愛玩動物看護師に任せられる仕事も増えてくると思われます。
獣医師もそうですが、資格は取って終わりではありません。資格を持って働きながら、勉強をし続け、自分の価値を磨いていくことが大切です。現状では、動物病院スタッフは、勤務体系や怪我が多いといった勤務内容や、給与面の厳しさから、数年で離職してしまう方も多いです。
しかし今回の国家資格化を機に、愛玩動物看護師の社会的地位が向上し、愛玩動物看護師として生涯働けるようになることを願います。