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作家、獣医師。15歳の時に書いた第44回講談社児童文学新人賞佳作を受賞し、作家デビュー。一方、麻布大学大学院獣医学研究科で博士号を取得、獣医師としても活躍。
2022年6月1日から、改正動物愛護管理法が施行され、犬と猫のマイクロチップ装着・登録が義務化されました。背景には、阪神淡路大震災で多くの犬猫が迷子になった過去があります。迷子になった犬猫が飼い主のもとに戻るために重要なマイクロチップの必要性や装着方法、法律に基づいた変更点などを詳しく解説してきます。
目次
- 犬猫マイクロチップって何?
- 犬猫へのマイクロチップ導入普及の経緯
- 犬猫マイクロチップの仕組み・読み取り方
- 犬猫にマイクロチップを装着させる方法と費用
- 犬猫マイクロチップの読み取り方
- 犬猫マイクロチップの情報の登録方法
- 2022年6月「改正動物愛護管理法」の施行で犬猫マイクロチップの装着・登録が義務化
- 犬猫マイクロチップに関する飼い主の手続き
- 【ケース1】法改正後にペットショップなどからペットを迎え入れた場合
- 【ケース2】犬猫マイクロチップは装着済みで、民間の登録団体に登録をしている場合
- 【ケース3】犬猫マイクロチップが未装着の場合
- 犬猫マイクロチップ装着のメリットとデメリット
- 犬猫マイクロチップを装着する際の注意点
- いざと言うときに愛犬を守る、犬猫マイクロチップの装着の有無
犬猫マイクロチップって何?
マイクロチップは、直径1〜2㎜、長さ8〜12㎜の円筒形の電子標識器具です。鉛を含まず、体に悪影響を及ぼさない素材でできたカプセルの中にICチップなどが入っています。
犬猫では、皮下にこのマイクロチップを直接埋め込み、個体識別に利用されています。体への害もほぼなく、適切に装着し、装着後の登録を行えば、首輪のように外れる心配もないので、確実に個体識別が可能です。
犬猫へのマイクロチップ導入普及の経緯
日本にマイクロチップが導入されてから20年以上経ちますが、はじめは「異物を体に入れる」ということに対する抵抗感も強く、あまり普及しませんでした。
マイクロチップへの関心が高まったのは、1995年の阪神淡路大震災がきっかけでした。地震により逃げ出し、迷子になってしまった犬猫の飼い主探しはとても大変でした。
その後本格的なマイクロチップ普及活動が行われ、2002年には「動物ID普及推進会議」(AIPO)が設立し、2021年度末には累計約300万頭が登録しています。(動物ID情報データベースシステムより)
犬猫マイクロチップの仕組み・読み取り方
マイクロチップ内のICチップには、15桁の番号が電子的に記録されており、その番号は一つずつ異なるため、個体識別が可能です。現在登録が認められている、ISO規格のマイクロチップは国際的な規格であるため、海外に行っても互換性があります。始め3桁が国コード、続く12桁が国内識別コードとなっています。
犬猫にマイクロチップを装着させる方法と費用
マイクロチップの装着は、獣医師もしくは愛玩動物看護師(2023.4より国家資格化)が行わなければなりません。装着費用は動物病院によって異なりますが、数千円〜1万円程度です。希望する場合は、事前に動物病院に問い合わせをした方がよいでしょう。
マイクロチップは「インジェクター」と呼ばれる専用の埋め込み器を使って動物の皮下に埋め込みます。インジェクターの先には、通常の注射より少し太めの針がついており、この針の中にマイクロチップが入っています。そして、注射を打つ要領で皮下に装着します。装着時の痛みは普通の注射と同じくらいだといわれており、通常は装着時に鎮痛や麻酔などは行いません。
犬や猫は、首の後ろの皮膚の下にマイクロチップを埋め込みます。マイクロチップは金属製ですので、MRI検査を受ける際は干渉してしまいます。そのため、肩甲骨の間よりすこしお尻側、背骨に触れないように真ん中よりやや左寄りに装着することが推奨されています。
犬は、生後約2週間から装着が可能です。ペットショップやブリーダーから犬を購入する場合、マイクロチップはすでに装着されていますので、自分で動物病院に行って装着する必要はありません。知らずに重複してマイクロチップを埋めると干渉してしまうので、注意しましょう。
犬猫マイクロチップの読み取り方
マイクロチップは、専用リーダー(マイクロチップ読み取り器)で読み取り可能です。
リーダーから発信される電波を受けると、ICチップが起動し、データを発信します。これをリーダーが受信すると、リーダーのディスプレイ部分にマイクロチップの番号が表示される仕組みです。
マイクロチップ自体は電源を必要としないため、充電や電池交換の必要はありません。耐久性は30年程度と言われており、今後犬猫の長寿化が進んだとしても、皮下に埋め込まれたマイクロチップは原則的に一生涯交換する必要はありません。
犬猫マイクロチップの情報の登録方法
マイクロチップの装着後に飼い主が登録していなければ、いざというときに役に立ちません。マイクロチップ装着済みの犬猫を譲り受けたら、原則30日以内で変更登録の手続きをしてください。
犬猫マイクロチップに登録する内容
- マイクロチップの識別番号
- 所有者情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレス など)
- 動物情報(名前、品種、毛色、生年月日、性別、狂犬病予防法登録番号(犬) など)
登録には、マイクロチップ装着後、獣医師が発行する「マイクロチップ装着証明書」が必要ですので、忘れずにもらいましょう。
データベースへの情報登録が完了すると、「登録証明書」が発行されます。この証明書にはマイクロチップの15桁の番号や登録の際に設定した暗証番号が記載されています。
この登録証明書を大切に保管し、住所変更などした際には忘れずに、また登録変更を行いましょう。
ちなみに、この指定登録機関のデータベースにアクセスできるのは、個人情報保護の観点から、行政機関に限られています。そのため、所有者不明の犬猫を保護し、動物病院に持ち込んでも、識別番号の読み取りはできますが、データベースを検索して持ち主を割り出すことはできません。動物病院で読み取った識別番号を、指定登録機関に連絡し、指定登録機関で検索してもらう必要があります。
指定登録期間のコールセンターは、朝の8時から夜の8時までしか空いていませんので、夜中の対応はできません。
2022年6月「改正動物愛護管理法」の施行で犬猫マイクロチップの装着・登録が義務化
動物愛護管理法が改正され、ペットの犬や猫にマイクロチップの装着・登録を義務づける改正動物愛護管理法が2022年6月1日に施行されました。
この法改正には、迷子や災害時に逃げてしまった犬猫が飼い主の元に戻れる可能性を高めたり、飼い主の意識向上により動物の遺棄などの無責任な行動を抑制したりする狙いがあります。
改正動物愛護管理法での犬猫マイクロチップにおける変更点
- 犬猫等販売業者へのマイクロチップの装着、情報登録の義務化
- マイクロチップを装着した犬猫を譲り受けた者については、変更登録の義務化
- 環境大臣による指定登録機関の指定
つまり、ブリーダーやペットショップなどの動物愛護法に定められた「犬猫等販売業者」は、6月以降に新しく生まれた犬猫に対して、マイクロチップを装着・登録をしなければいけない、というものです。
マイクロチップの装着が販売者の義務になった一方で、犬猫を譲渡(販売)した飼い主に対しては、「犬と猫のマイクロチップ情報登録」への変更登録が義務づけられました。
これまでは、マイクロチップを装着したあとの登録も獣医師やペットショップが代行することが多く、「マイクロチップが入っているかどうかわからない」という飼い主も多かったのですが、改正後は情報の変更を「飼い主自らで登録すること」が義務になりました。登録は、オンラインで手続きが可能です。オンライン申請では1回300円、用紙での申請では1回1,000円の登録手数料がかかります。
また、登録先にも指定ができました。改正後は環境省管轄の「犬と猫のマイクロチップ情報登録」への登録が義務づけられています。
先述したとおり、これまでは民間登録団体「動物ID普及推進会議」(AIPO)への登録が主流でした。しかし、この法改正を機に、環境省管轄の「犬と猫のマイクロチップ情報登録」への登録が必要となります。
犬猫マイクロチップに関する飼い主の手続き
2022年6月1日より以前から犬や猫と暮らしていた飼い主や、これから飼おうと検討している方など様々な人がいるでしょう。今回の改正動物愛護管理法でどのように影響するのか、それぞれ以下よりご確認ください。
【ケース1】法改正後にペットショップなどからペットを迎え入れた場合
今後、ペットショップやブリーダーから犬や猫をお迎えする場合、マイクロチップの装着と登録は飼い主の義務となります。
マイクロチップは装着済みのことがほとんどですので、購入後はすみやかに指定登録機関に登録を行いましょう。ペットショップやブリーダーがすでに登録している場合も、飼い主自身による登録変更が義務ですので注意してください。
【ケース2】犬猫マイクロチップは装着済みで、民間の登録団体に登録をしている場合
指定登録機関への登録は義務ではありませんが、民間の登録団体に登録していても、国のデータベースに自動的にデータが引き継がれることはないので注意しましょう。団体間のデータベースに互換性はありません。万が一のことを考えると、指定登録機関にも登録しておくのが安心です。
指定登録機関への登録には、マイクロチップを装着していることを証明できる書類が必要となります。動物病院やペットショップなどから受け取った「マイクロチップ装着依頼書」「装着完了届」などが「マイクロチップ装着証明書」の代わりとみなされますので、登録の際は手元に用意しましょう。犬の入手から時間が経っている場合には、証明書を紛失したりマイクロチップ識別番号が分からなくなっていたりすることも多いでしょう。
「マイクロチップ装着証明書」を紛失した場合には再交付も可能ですが、オンライン申請で200円の手数料がかかります。マイクロチップ識別番号だけなら、読み取り機を持っている動物病院に行けば簡単に調べてもらうことが可能です。
【ケース3】犬猫マイクロチップが未装着の場合
2022年6月1日より以前に犬を入手し、すでにペットとして飼われている犬に関しては、マイクロチップの装着は努力義務となっており、装着しなくても法律的には違反ではありません。しかし、環境省では、すべての犬猫へのマイクロチップの装着・登録を推奨しています。
また、動物愛護管理センターや保護団体から譲渡されたり、知り合いから無償で譲り受けたりした場合も、マイクロチップ装着は努力義務です。装着しなくてもペナルティはありません。ただし、マイクロチップを装着した場合には、30日以内に飼い主自ら指定登録機関へ登録することは「義務」となっているので注意してください。
もしマイクロチップが装着されているかわからない場合には、動物病院で読み取り機を当ててもらい、確認しましょう。
犬猫マイクロチップ装着のメリットとデメリット
マイクロチップの最大のメリットは、皮下に埋め込むため、千切れたり取れたりなくしたりする心配がないということです。例えば災害時に首輪がちぎれてしまったとしても、登録さえしてあれば、情報を辿り飼い主まで連絡を取ることが可能です。
また、マイクロチップは小さいため、体への負担が少なく、電池切れの心配もないため、半永久的に使えます。
デメリットはほぼありませんが、稀に頭部のMRIを撮影する際に干渉したり、入れる場所が悪くて背骨の突起に触れてしまい不都合が生じたり、といった場合があります。どうしても必要であれば摘出手術を行うこともありますが、非常に稀なケースです。
犬猫マイクロチップを装着する際の注意点
犬猫マイクロチップ装着に際し、飼い主が気をつけなければならないこととして、下記の3点が挙げられます。
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- 装着は獣医師または獣医師の指示を受けた愛玩動物看護師に行ってもらうこと
- 装着した際にもらう「登録証明書」をなくさず保管すること
- マイクロチップを装着した場合、必ず飼い主自身で登録を行うこと
前述しましたが、すでに飼育していたり、譲り受けた犬猫の場合、マイクロチップ装着は義務ではありません。しかし、マイクロチップを装着したら、登録は飼い主の義務になるので注意しましょう。
いざと言うときに愛犬を守る、犬猫マイクロチップの装着の有無
愛犬や愛猫へのマイクロチップ装着に対し、「埋め込むのは怖い」と思われている方もまだまだ多いと思います。装着時の痛みは普段の注射とあまり変わらないと言われていますが、心配な場合は、不妊手術など麻酔をかけるタイミングで獣医師に依頼するのも良いでしょう。
犬は狂犬病の鑑札を常に身に付けることが義務ではありますが、忘れてしまったり、家にいて首輪をしていないときに脱走することもあるでしょう。マイクロチップ装着の痛みは一度だけです。その後の愛犬の一生を守るためにも、装着を検討されてはいかがでしょうか。
ちなみに、狂犬病は農水省が管轄しており、狂犬病の登録をしても、環境省管轄である「犬と猫のマイクロチップ情報登録」に自動的にマイクロチップ登録番号が登録されるわけではありません。引っ越しの際も、別々に登録変更手続きが必要なので注意しましょう。
また、すでにマイクロチップ装着、登録が済んでいる場合でも、2022年6月以前に登録した場合は、『AIPO』などの民間団体に登録していることがほとんどです。今後は「犬と猫のマイクロチップ情報登録」への登録がメインとなり、実際に迷子の犬がいた場合、まずは「犬と猫のマイクロチップ情報登録」に問い合わせることが予想されます。これを機会に、「犬と猫のマイクロチップ情報登録」への登録もおすすめします。