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作家、獣医師。15歳の時に書いた第44回講談社児童文学新人賞佳作を受賞し、作家デビュー。一方、麻布大学大学院獣医学研究科で博士号を取得、獣医師としても活躍。
犬の抜け毛にお悩みの飼い主さんも多いのではないでしょうか。実は、換毛期がある犬とそうでない犬もいます。換毛期の仕組みや、適切な換毛期対策などを詳しく解説します。
目次
- 犬の毛が生え換わる理由
- 犬の換毛期の時期はいつ?
- 毛が生え換わるのはどんな種類の犬?
- 換毛期があるダブルコートの代表的な犬種
- 換毛期がないシングルコートの代表的な犬種
- 【犬の換毛期対策1】ブラッシングをこまめに行う
- 【犬の換毛期対策2】レーキング(抜毛処理)をする
- 【犬の換毛期対策3】シャンプーの前に必ずブラッシングをする
- 【犬の換毛期対策4】愛犬に服を着せる
- 抜け毛対策で犬のサマーカットは危険? 注意すべき理由
- 犬の換毛期の注意点
- 「抜け毛」は愛犬の皮膚のトラブルのサインかも?
犬の毛が生え換わる理由
犬の毛には、暑さ・寒さや紫外線から体を守ったりする機能があります。定期的に被毛が生え換わり、暑さや寒さに適した被毛に換わる犬種もいます。
どんな犬でも、毛は定期的に抜けて、生え換わっています。ただし、品種によって生え換わりのスピードが違います。
毛の生え換わりは、毛周期によって決まります。毛は一定の周期で成長し、抜けるという成長サイクルがあり、このサイクルを毛周期とよびます。
毛周期は、「成長期」「退行期」「休止期」の三つのステージからできています。
- 成長期:毛が決められた長さまで成長する時期
- 退行期:毛が成長が止まる時期
- 休止期:毛が抜け落ちて、新しい毛を作る準備をする時期
トイプードル やシーズーなどの犬種は、多くの毛が「成長期」の状態であるため、抜け毛が少なく、伸び続ける毛が多いため定期的にカットが必要になります。
犬の換毛期の時期はいつ?
一般的には、春季と秋季に毛が生え換わります。暖かくなってくると、冬毛から夏毛に、寒くなってくると夏毛から冬毛に変わっていきます。
ただし実は、具体的な時期はあまりわかっていません。その頃になると、犬種によっては、抜け毛の量がグッと増えるので、「あぁ、生え換わりの時期なんだな」と気づく方が多いのではないでしょうか。
お住まいの地域によっても換毛期の時期にズレは生じますが、私の住む愛知県では、3月に入り暖かくなってきた途端、換毛期が始まった柴犬を多く見るようになりました。
毛が生え換わるのはどんな種類の犬?
しかし、すべての犬の毛が春季と秋季に抜け代わるわけではありません。換毛期がない犬種もいます。
犬は犬種ごとに、シングルコートかダブルコートの二つのタイプに分かれます。
ダブルコートと呼ばれる犬は、被毛が二重構造になっています。
太くてしっかりしており、皮膚を保護する役割の上毛をオーバーコート、柔らかく保温・保湿する役割の下毛をアンダーコートと呼びます。オーバーコートとアンダーコートの両方をもつダブルコートの犬は春季と秋季に換毛期があります。
冬場は保温・保湿効果のあるアンダーコートがしっかりと生え、あたたかくなるとアンダーコートは薄くなり、夏の暑さにそなえます。
シングルコートの犬は、オーバーコートしかありません。季節ごとにごっそり抜ける、ということはなく、1年を通じて少しずつ生え換わります。
換毛期があるダブルコートの代表的な犬種
ダブルコートの代表的な長毛種は
- ポメラニアン
- ゴールデンレトリーバー
- シェットランドシープドッグ です。
ダブルコートの代表的な短毛種は、柴犬などが挙げられます。
なお、チワワ やダックスフンドは、ロングコート(長毛)とスムース(短毛)がいますが、どちらもダブルコートなので換毛期があります。
換毛期がないシングルコートの代表的な犬種
シングルコートの代表的な長毛種は
- プードル
- ヨークシャーテリア
- マルチーズ
- シーズー です。
シングルコートの代表的な短毛種は
- フレンチブルドッグ
- ビーグル
- イタリアングレーハウンド などが挙げられます。
先述した通り、長毛種は成長期毛が多いため、毛が伸び続け、抜け毛が少ない代わりに、定期的なカットが必要になります。また、短毛種は、毛が短いため成長期が短く、その分抜け毛の量が多いです。年間通して抜け毛が多いのが特徴です。
【犬の換毛期対策1】ブラッシングをこまめに行う
どんな犬種でも定期的なブラッシングは必要ですが、特に春先の換毛期にはふわふわのアンダーコートがどんどん抜けて絡まりやすくなります。毛玉になって皮膚トラブルにつながることもあるため、いつもよりまめにブラッシングをする必要があります。
ブラッシングする際は、おやつなどのご褒美を使うとよいでしょう。一度に長時間行おうとすると嫌がったりブラシをかんだりすることもあるので、短時間でも毎日行うことが重要です。
ブラシは犬種や毛質によって使い分ける必要があります。
犬用ブラシの種類の特徴と適切な使い方
・スリッカー
針金のようなピンがたくさん生えています。
毛玉になった毛をほぐしたり、抜け毛を取り除く際に使います。ブラシの先端を皮膚に押し付けると痛がることもあるので使うのにコツがいります。まずは飼い主さんの腕に当ててみて、痛くない力加減を調整しながらブラッシングをしましょう。
おすすめの犬種:シュナウザー・プードルなど
・ピンブラシ
ピン先が丸くなっており、皮膚を傷つけることがないブラシです。ブラッシングに慣れていない飼い主さんにも、おすすめです。
ドラッグストアなどで売っている人間用のヘアブラシも使えます。丸洗いできる構造のものを探すと良いでしょう。
おすすめの犬種:柴・ポメラニアン・ラブラドール・レトリーバーなど
・コーム
金属製の櫛です。もつれた毛や毛玉をほどいたり、トリミングの仕上げに使われます。
毛玉をひっぱると痛がるので、力加減には気をつけましょう。
おすすめの犬種:シュナウザー・プードル・コリーなど
・獣毛ブラシ
タヌキや豚の毛が使われており、被毛の保護や艶を出す効果があるとされています。
おすすめの犬種:ドーベルマン・ダックスフンド(スムース)など
・ラバーブラシ(シリコンブラシ)
ゴム素材で出来ていて、抜け毛やあかを取り除くのに便利なブラシです。
長毛種は表面がすべってしまい、あまり向かないことが多いです。
おすすめの犬種:パグ・イタリアングレーハウンドなど。
参考文献:愛玩動物看護師の教科書第6巻 緑書房 2022年 に加筆修正
【犬の換毛期対策2】レーキング(抜毛処理)をする
換毛期には、ブラッシングの他に、レーキングもおすすめです。
レーキングは、レーキングナイフという特別な道具を用いて、生え換わりの時期にこれから抜ける予定のアンダーコートをあらかじめ先に抜いてしまう、という方法です。
トリミングサロンによっては、行っていないところもありますので、希望の場合は事前に問い合わせをした方が良いでしょう。当院のトリミングサロンでは、換毛期のダブルコートの犬種にレーキングをおすすめし、大変好評です。
特に普段のお手入れが難しく、アンダーコートが多くて皮膚トラブルになりがちな柴犬や、被毛が多く、サマーカットにすると生えてきにくいポメラニアンなどにはとくにおすすめです。
レーキングナイフの扱いにはコツがいりますので、サロンにお任せするのが無難です。普段は家でシャンプーしている子も、春と秋の二回だけでもレーキングとシャンプーをサロンに任せてみるのもよいですね。
【犬の換毛期対策3】シャンプーの前に必ずブラッシングをする
換毛期の犬にシャンプーをする場合には、必ず先にブラッシングをしましょう。ブラッシングをしないままシャンプーをすると、乾かすときに抜けるはずのアンダーコートが絡まって大変なことになります。
濡れた毛は毛玉になりやすく、大きな毛玉ができてしまうとバリカンで刈らないといけないこともあります。
ブラッシングが難しい場合は、換毛期にシャンプーをするのは避けたほうが良いかもしれません。
【犬の換毛期対策4】愛犬に服を着せる
家に毛が散らばるのを防ぐため、服を着せるのも有効かもしれません。ただしその場合、服を定期的に脱がせてブラッシングすることが必須条件です。
服とこすれると毛玉は余計にできやすくなるので、着せっぱなしはやめましょう。
抜け毛対策で犬のサマーカットは危険? 注意すべき理由
抜け毛が気になるからとサマーカットにされる方もいらっしゃいますが、ダブルコートの犬種をサマーカットにするのはあまりおすすめしません。
そのあとに伸ばそうと思ったときに、オーバーコートがうまく伸びないことがあります。
手術などでバリカンで毛を刈ったのち生えてこないといった「毛刈り後脱毛」という病気もあるくらいです。2〜3年待てば通常元通りに生えてきますが、サマーカットする際は「もしかしたら生えてこないかもしれない」というリスクを承知で行いましょう。
また、被毛には紫外線や汚れなどから皮膚を守る、という役割もあります。犬の皮膚は人間の皮膚の1/3ほどの厚さしかありませんので、安易に毛を刈るのはそういった意味でもおすすめできません。
犬の換毛期の注意点
換毛期には、アンダーコートが毛玉にならないように気をつけましょう。毛玉の下の皮膚は通気性が悪くなり、トラブルにつながりやすいです。
当院では、蒸れが原因で皮膚の状態が悪化しているダブルコートの犬がいたら、レーキングをし、一度サロンでしっかり洗っています。
また、秋から冬にかけて乾燥が続くと、皮膚は乾燥してきます。薄い白いじわが下腹部に見える場合は、皮膚が乾燥していると考えて良いでしょう。
ブラッシング中にフケが多い、縦じわがある、などの乾燥のサインに気づいたら、保湿などのケアをしっかり行いましょう。
「抜け毛」は愛犬の皮膚のトラブルのサインかも?
抜け毛が多い、と思っていたら病気だった、ということもあります。
特に高齢になると、ホルモン病でも毛が薄くなったり、腰回りの毛が左右対象に抜けたり、尻尾の毛が抜けてねずみのしっぽのようになったりすることもあります。
- 前年までの換毛期のシーズンが終わっても抜け毛が多い
- アンダーコートだけでなくオーバーコートも抜け始めた
- 毛玉ができて皮膚が赤くなっている
いつもの換毛期とは違った、病的なトラブルを感じたら早めに病院を受診しましょう。