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北海道大学獣医学部共同獣医学課程修了。一次診療施設にて勤務。現在は米国Purdue大学にて客員研究員として勤務。日本獣医画像診断学会所属
犬は年齢を重ねると足腰が弱くなります。やっとのことで立ち上がり、段差を避け、ふらふらと歩くようになります。やがて歩くことを嫌がり、ついには寝たきりになってしまうことが多いようです。また、関節疾患を患うと足腰の痛みが原因で寝ていることが多くなりますし、循環器疾患などで疲れやすくなることもあります。寝たきりになった愛犬には、できるだけ楽な姿勢で寝かせてあげたいと思う飼い主さんも多いでしょう。リラックスできる姿勢は、犬によっても、身体の状態によっても異なるため、愛犬に合った姿勢を知ることが大切です。そこで、犬にとって楽な姿勢や、寝たきりになった愛犬にとって楽な姿勢について解説します。
目次
- 犬の寝姿の意味
- 注意が必要な寝方
- 寝たきりの犬に気をつけるポイント
- まとめ
犬の寝姿の意味
「仰向け」は信頼・服従の証
仰向けはヘソ天とも呼ばれ、とてもリラックスしている状態です。もしくは相手に完全に屈服し、抵抗する気がないことを表現している姿勢と言われています。お腹は本来犬の急所であり、それを相手に見せつけることで相手を信頼している気持ちや逆らう気がないことを示しています。すっかし気を許した姿に飼い主さんも幸せな気持ちになるのではないでしょうか。
熟睡できる「横向き」
横向きは足を開放できるため、犬にとって楽な姿勢です。リラックスできる環境で休むときに見られます。うつ伏せと比較するとすぐに立ち上がることができないため、警戒心を解いた寝姿だと言われています。うつ伏せで寝始めて、いつのまにか横向きになっているいることが多いため、熟睡しているときの姿勢だと言えるでしょう。足をバタつかせるしぐさを見せることもあり、「どんな夢を見ているのかな」と飼い主さんもあたたかい気持ちになったことがあるのではないでしょうか。
寒いときは「丸くなる」
頭としっぽを近づけて丸くなる寝姿は、犬の一般的な睡眠姿勢です。丸くなった姿がアンモナイトに似ていることから「ワンモナイト」という呼び名もついています。丸くなって寝るのは、主に「寒い」というサインです。丸くなることで体温を逃さないようにしています。また、寒さを強く感じている場合は、しっぽで鼻を隠しますので、室温を調整しましょう。人間の背丈では快適な室温でも、床に近い犬の背丈では寒いと感じることがあります。また、不安を感じている際にも、急所であるお腹を隠すために丸くなって寝ることがあります。飼い主さんや新しい住環境に慣れるまでは、丸くなる寝姿がよく見られるかもしれません。
暑いときは「うつ伏せ」
うつ伏せは、夏の暑いときによく見かける楽な姿勢です。冷たいフローリングや日陰のコンクリートに毛が少ないお腹をぴたりと密着させることで体温を下げています。また、不安やストレスを感じて警戒している場合も、うつ伏せの姿勢を取ります。何かあったときにすぐに立ち上がって走ることができる姿勢ですので、安心はしていないでしょう。警戒している方向に顔を向けてうつ伏せになっていることからも熟睡できていないと考えられます。
注意が必要な寝方
横向きになって呼吸が乱れている
もし、ハアハアと呼吸が荒く乱れている場合は注意が必要です。暑い日であれば熱中症にかかっている可能性がありますし、病気が原因で呼吸がしにくくなっている場合もあります。特に顔つきがいつもと違って苦しそうであったり、舌の色が紫がかっているような場合は緊急事態です。いつものリラックスした横向きの寝姿と違うと感じた場合は迷わず動物病院へ連絡して判断を仰ぎましょう。
伏せの姿勢でお尻だけを持ち上げている
前足を伸ばし、お尻だけを持ち上げているポーズで寝ているときは、膵炎などが原因で激しい腹痛を感じている可能性があります。膵炎とは膵臓で炎症が起きて、腹痛・嘔吐・下痢・食欲不振などを起す病気です。進行すると、腹膜炎や多臓器不全を起こして死に至る場合もあります。元気がなかったり、呼吸が荒かったり、熟睡できずに何度も寝場所を変えている様子が見られたら、できるだけ早く動物病院に連れていきましょう。
寝ているときに何らかの症状が出ている
寝ているときの様子は、日常的にチェックするようにしましょう。平常時の様子がわかっていれば、寝ているときの異変に気づきやすくなります。たとえば「痙攣している」「発作を起こしている」「顔がひきつっている」「呼吸が早く荒い」「姿勢を何度も変える」「寝る場所を何度も変える」「意識が朦朧としている」などの諸症状に気づいたら、すぐに動物病院に相談しましょう。苦しそうな様子を見ると「すぐに起こさなければ」と思うかもしれませんが、触ってほしくないという理由で飼い主さんに噛みつく場合がありますのでご注意ください。
寝たきりの犬に気をつけるポイント
楽な寝方を知る
愛犬のいつもの寝方は、楽な寝方です。基本的に、その姿勢で寝かせていれば問題ありませんが、痩せている子が寝たきりになってしまった場合は後述する床ずれに注意しましょう。愛犬が寝たきりであれば、細かい好みまで把握して、より楽に眠れるように工夫することをおすすめします。たとえば、身体の右側を下にする、左側を下にする、まくらを敷いて頭の位置を高くする、ベッドの縁に寄りかかるなどです。
床ずれに気をつける
愛犬が寝たきりの場合は、床ずれに注意しなければなりません。特に痩せている子で骨がごつごつと出っ張っている場合はその部分で床ずれが起きやすくなります。床ずれの初期は、毛が折れて薄くなり、皮膚が赤くなります。その後、皮膚の表面が水ぶくれのようになってキズがつき、ジュクジュクした液体が染み出します。ここまでの進行は早く、皮膚の下で懐死が起こる場合もありますので予防が大切です。
横向きは楽な姿勢ですが、平たんに寝かせたままだと皮膚が擦れたり、圧迫されたりして、床ずれを起します。たとえば、上半身の下に何かを敷いて、上半身を浮かせるように寝かせれば、ほほ・肩・前足の床ずれを防ぐのに効果的です。市販されている頭や身体の下に敷く床ずれ防止用の高反発マットやU字型のクッションなどを利用しても良いでしょう。また、同じ姿勢を続けさせないこともポイントです。
飼い主さん自身も寝るときは、何度も姿勢や身体の向きを変えているのではないでしょうか。愛犬にとっても同じ姿勢を続けるのは辛い場合もあるので、2~3時間ごとに寝返りを打たせてあげてください。
定期的に確認する
愛犬がぐっすり寝ているときにも、定期的に状況を確認しましょう。「何か異変はないか」「呼吸が荒くなっていないか」「横になったまま足を動かして移動していないか」「移動した際に皮膚をこすって怪我をしていないか」「発作や痙攣を起こしていないか」などを確認してください。異常を感じた場合はすぐに動物病院に相談して判断を仰ぎましょう。
清潔に保つ
愛犬が寝たきりになったら、毎日のケアですっきりキレイな状態を保ちましょう。寝床で排泄をするのに備えて、床ずれ防止マットの上に防水シートやペットシーツを敷くことで、身体が汚れないようにします。
排泄したら、すぐにペットシーツを交換してください。身体のサイズに合った吸水体の良いおむつを着用しても良いですが、皮膚がかぶれないように注意しましょう。排泄物をしっかりすばやく吸収しますので、汚れる範囲が少なく済みます。
また、顔やお尻のまわりは、ウェットティッシュや蒸しタオルなどで拭いてください。お尻の毛を短くカットしておけば、清潔な状態を保ちやすくなります。
なお、匂いがつきやすいタオルや毛布もこまめに洗濯をして、愛犬が気持ちよく過ごせる環境をつくってあげましょう。
まとめ
愛犬がリラックスして横たわる様子や気持ち良さそうに寝息を立てている姿は、飼い主さんにとってずっと見つめていたくなる光景ですよね。何気ない姿勢や寝姿は犬の体調を知ることができる重要なバロメーターでもありますので、いつもと違う様子はないかも観察して、異変の早期発見に努めましょう。