更新 ( 公開)
北海道大学獣医学部共同獣医学課程修了。一次診療施設にて勤務。現在は米国Purdue大学にて客員研究員として勤務。日本獣医画像診断学会所属
人間の子どもの歯と同じように、子犬の歯も乳歯から永久歯に生え替わります。しかし、子どもと子犬とでは歯の形も口の中の構造も異なるため、歯の生え替わりについて気をつけなければならない注意点があります。知らないままでいると、歯周病などのリスクが大きくなります。それを防ぐために、子犬の乳歯が永久歯に生え替わる時期の注意点と対処法を解説します。
目次
- 犬の乳歯と永久歯
- 犬の乳歯が生え替わる順番
- 犬の乳歯が生え替わる際の注意点
- 犬の乳歯が生え替わる時期のポイント
- もし乳歯遺残や歯周病になった場合
- まとめ
犬の乳歯と永久歯
乳歯から永久歯に生え替わるタイミング
犬の乳歯は全部で28本、永久歯は全部で42本です。乳歯は生後20日ごろから生え始め、生後5~8週目までに生え揃います。生え揃った乳歯は、生後4か月ごろから抜け始め、一般的には生後7か月ごろまでに永久歯に生え替わります。
乳歯と永久歯の見分け方
乳歯と永久歯の違いは、本数・見た目・歯と歯の間隔です。見た目が小さくて細く先がとがっているのが乳歯、太くしっかりとしていて先端が丸みを帯びているのが永久歯だと見分けられます。また、乳歯は永久歯よりも本数が少なく、サイズも小さいので、歯と歯の間隔が広くなるのも特徴です。他にも、生え方から永久歯を見分ける方法もあり、上あごの犬歯は乳歯の前方に、他の永久歯は乳歯の内側に生えてきます。
犬の乳歯が生え替わる順番
28本の乳歯の構造は「切歯12本」「犬歯4本」「前臼歯12本」「後臼歯0本」です。42本の永久歯の構造は「切歯12本」「犬歯4本」「前臼歯16本」「後臼歯10本(乳歯にはない上顎4本と下顎6本)」と臼歯の数が大幅に増えます。
以下の順番で、乳歯から永久歯に生え替わります。
1. 下あごの切歯
2. 上あごの切歯
3. 下あごの前臼歯と後臼歯
4. 上あごの前臼歯と後臼歯
5. 下あごの犬歯
6. 上あごの犬歯
切歯(せっし)とは
前歯にあたる部分で、食物を噛み切る役割を果たします。動物では門歯(もんし)と呼ばれることもあります。
犬歯(けんし)とは
すべての歯の中で最も長く先端がとがっている歯で、食物や獲物を固定する役割を果たします。
前臼歯(ぜんきゅうし)とは
前歯・犬歯と、後臼歯(人間でいう奥歯)間にある歯で、食物を引き裂いたり固定したりする役割を果たします。
後臼歯(こうきゅうし)とは
人間の奥歯と同じように、すりこぎ状になっており、食物をすりつぶす役割を果たします。
犬の乳歯が生え替わる際の注意点
普段より口を動かしたり噛んだりする
生え替わりの時期は歯茎がかゆくなるなどの違和感を覚え、普段とは違う行動をすることがあります。たとえば、口をクチャクチャと動かしたり、ものを噛んだり、歯や歯茎を家具にこすりつけたり、前足で触ろうとしたりなどです。長時間噛んで遊べるおもちゃを与えることで対処することもできます。おもちゃがないと、布製品や家具、飼い主さんの腕や足を噛んでしまいますので注意が必要です。
また、生え替わりが終わるとかゆみも治まりますが、噛みぐせがついてしまうと大人になってからも癖が残ってしまうことがあります。この時期に噛んでいいものと噛んではいけないものを正しく教えてあげることが大切です。
多少の出血や痛みがある
乳歯が抜ける際の出血はすぐ止まる場合が多いので心配はいりません。ただし、出血が若干多いと感じる場合は、ガーゼで抑えたり、犬に噛ませたりして、止血する方法もあります。もし5分以上出血が止まらない場合は、血が止まりにくい病気の可能性がありますので、早めに動物病院に連れていってください。
なお、歯の生え替わり時期は、多少の痛みが出る場合もあります。ハミガキに慣れているのに口のまわりを触ると嫌がったり、口を気にしている様子が見られたりしたら、痛みを感じているかもしれません。痛みが問題になるケースはほとんどありませんが、痛みに敏感な子の場合はご飯を食べるのをためらうことがあるかもしれません。しばらくすれば痛みは自然と落ち着くので心配しなくてもよいでしょう。
なかなか食欲が戻らない場合は、他の原因も考えられるので動物病院を受診することをおすすめします。
犬の乳歯が生え替わる時期のポイント
ハミガキの練習を始める
犬では人間よりも歯石が付着しやすいことが知られており、若いうちから歯周病を発症する場合があります。そのため、歯周病予防のためにも、できるだけ早い段階でハミガキに慣れさせることが重要です。
子犬のうちはいろんなことを柔軟に受け入れることができますので、乳歯の生え始めといったなるべく早い段階からハミガキに慣れさせましょう。子犬をお迎えしたら、住環境に慣れたタイミングでスタートしてみるのがおすすめです。乳歯の生え替わりの時期は歯茎から血が出てしまう場合もあるので、乳歯がおおむね生え変わってから練習し始めるとよいでしょう。
ただし、いきなり歯ブラシを当てて磨いてしまうと犬は驚いてしまいます。ハミガキをする前に口を触られることに慣れさせることがポイントです。以下の順序で焦らず数週間にわたって、段階的に慣れさせることをおすすめします。
特に口元を触られることを嫌がる犬は少なくありません。歯磨きは毎日無理なく続けられることも大切なので、愛犬のペースに合わせて少しずつ慣れさせていきましょう。
▼味つきのハミガキペーストやジェルを舐めさせる
無理なくペーストやジェルを舐めてくれるように、愛犬が好きな味を探します。
▼口元にタッチする
口元を触ってすぐにおやつを与えれば、口元を触られると良いことがあると学んでくれます。
▼唇・歯茎・歯と段階的にタッチする
唇をめくって褒めておやつ、歯茎にタッチしておやつ、歯にタッチしておやつと段階を踏みます。
▼口の中に指を挿入する
少し奥まで指を挿入し、すぐにおやつを与えます。
▼歯磨きシートで歯を磨く
指の挿入に慣れてきたら、指に歯磨きシートやガーゼを巻き付けて、歯の表面を拭う動作に慣させます。
▼歯ブラシに慣れさせる
歯ブラシを歯茎にあてておやつ、歯にあてておやつ、歯の表面を磨いておやつという流れで進めます。
乳歯が抜けているか確認する
「乳歯が残っていないか」「永久歯はきちんと生えてきているか」「歯並びに異常はないか」などに注目して口の中を確認しましょう。特に小型犬では犬歯の乳歯が抜けないまま永久歯が生えてきてしまうことがあります。このような状態になると乳歯と永久歯の隙間に汚れがたまりやすく、歯周病になりやすくなります。また乳歯は永久歯と比べて細く脆いため、折れて感染を起こす場合もあります。このように残ってしまった乳歯は麻酔下で抜歯することもあるので、かかりつけの動物病院と相談しましょう。このような歯のチェックはハミガキの際に行うと良いでしょう。
安全なものを噛ませる
生え替わり時期は、歯茎がかゆくなるので、身のまわりにある物を噛んでしまいます。食べ物以外の物を誤って飲み込んでしまうと危険ですので、歯茎のかゆみを緩和できるおもちゃやガムを与えてください。乳歯は細く折れやすいため、固すぎるおもちゃは与えない方が良いでしょう。歯や歯茎を傷つけないやわらかくて弾力のあるゴム製のおもちゃを用意することをおすすめします。ただし、誤飲の危険があるような小さいおもちゃは与えず、大きく飲み込めないサイズのものを与えるとよいでしょう。布製のおもちゃも噛みちぎって飲み込んでしまう場合があるので避けた方が無難です。また初めて使うおもちゃを与える際は念のため飼い主さんの目の届く範囲で遊ばせると安心です。
普段より遊ばせて気を紛らわせる
生え替わりの時期は、しばらく口内の違和感が続きますので、落ち着きのない様子がみられます。生え替わりが終わるまでの一時的なものですが、飼い主さんとしてはできるだけストレスを解消してあげたいところだと思います。口内の不快感から気を紛らわせてあげることはできますので、いつも以上に遊んであげる時間や散歩の時間を長めに取ると良いでしょう。
もし乳歯遺残や歯周病になった場合
「犬歯が二重に生えている!」と驚く飼い主さんは珍しくありません。これは、永久歯と乳歯が同じところに生えてしまっている状態です。自然に抜ける場合もありますが、なかなか抜けない場合もあります。このように、乳歯が抜けきらないうちに永久歯が生えはじめ、口の中に乳歯が残った状態を「乳歯遺残」と言います。乳歯遺残になると、乳歯が永久歯の成長を邪魔したり、永久歯が正しい場所に生えず口内を傷つけてしまったりする場合があります。また、歯並びやかみ合わせも悪くなり、歯垢や歯石が溜まりやすくもなります。
歯垢や歯石は、雑菌の塊です。歯周病などの病気を引き起こす原因となりますのでご注意ください。ちなみに、歯垢が歯石に変わるスピードは人間の5倍です。3~5日で歯垢が歯石になってしまうため、成犬の8割は歯周病にかかっていると言われています。
歯周病は、歯肉がはれる歯肉炎や口臭を引き起こす歯周炎、歯のグラつきといった様々な病気の原因です。重症化すると、鼻炎を起こしたり下顎が骨折したり、目の下がはれる根尖膿腫が起こったり、歯周病菌が血液で運ばれて心臓・肝臓・腎臓など内臓の病気を引き起こす危険があります。
もし、永久歯が生え始めて2週間ほど経っても乳歯が抜けなかったり、生後7か月を過ぎても乳歯が残っていたりする場合は、動物病院に相談しましょう。乳歯を抜く場合は麻酔下で処置をしますが、去勢・避妊手術と同じ麻酔下で処置できる場合もあるので、去勢・避妊手術を検討している場合は動物病院と相談して時期を調節してもらうとよいでしょう。
まとめ
一般的に犬は口の中を触られることを好みませんが、飼い主さんが口の中のケアをしてあげなければ、将来歯周病や虫歯などの口内トラブルを起こす可能性が高くなります。歯のトラブルは健康を損ねる原因となりますので、乳歯のときからハミガキに慣れさせて、毎日歯の様子をチェックするようにしましょう。愛犬にできるだけ長生きをしてもらって、幸せな暮らしを続けていくためにも、歯のケアは大切なことです。