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かどのペットクリニック院長。皮膚科や小児科、産科分野に興味があり、特にこれらの分野は院内の診療の中でも力を入れている。
初めて子犬を家に迎え入れ、ご飯を与えたときになかなか食べてくれないと心配になるものです。飼育初心者だと何が悪いのかわからず、思い悩んでしまうことも少なくないでしょう。成長期の子犬は成犬と比べて体力も少ないため、ご飯を食べない状態をそのまま放っておくのは危険です。そうした不安を解消するため、今回の記事では子犬がご飯を食べないときの原因や対処法について、かどのペットクリニック院長、葛野莉奈先生に解説していただきます。
目次
- 子犬へのご飯のあげ方
- 子犬がご飯を食べない原因と対処法は?
- 子犬がご飯を食べない場合、病院へ連れていくかどうかの見極めポイントは?
- 子犬のフードを選ぶときの注意点
- 子犬がご飯を食べないとき、人間の食べ物をあげてもいい?
子犬へのご飯のあげ方
子犬は、環境の変化からくる緊張や何かしらへの恐怖心、おいしい食べ物欲しさからのストライキなど、様々な精神的な要因でご飯を食べないことがあります。そうした状況に直面したときのためにも、まずは、子犬への適切なご飯の与え方を知っておくことが大切です。
子犬にはどんなご飯を与えればいいの?
ドライフード
ドライフードは水分を含まないため、胃で膨れて満腹感を得やすい食事です。しかし、小型犬の子犬は特に顎や歯が小さいため、粒の大きさによっては噛み砕くときに食べづらさを感じて、食べなくなってしまうことがあります。その際は、ぬるま湯でふやかして、やわらかくしてから与えてあげるとよいでしょう。ドッグフードに含まれる栄養は熱に弱く、熱湯を使うと栄養素が破壊されてしまうため、30〜40℃ほどのお湯を使うのがおすすめです。
ウェットフード
ウェットフードは水分や脂肪分などによって風味を感じやすく、ドライフードよりも好んで食べてくれる子犬が多いと言えるでしょう。ウェットフードは水分を多く含む食事のため、子犬に与えると自主的に水を飲む量が少なく感じられることがあるかもしれません。水分摂取量が極端に不足していないかも、注意して観察しましょう。一方、嗜好性が強いので偏食になりやすく、商品によっては独特な柔らかい食感を作り出すための成分や、新鮮な色味を与える着色料など、添加物が使われているものもあります。子犬に与える場合は、健康への安全面に注意し、栄養バランスに偏りが出ないように心がけることが大切です。
ペットショップと同じフードを与えなくてはダメ?
子犬を家に迎え入れる以前に食べていたフードと同じものを、その後もずっと与え続けなくてはいけないということはありません。ただ、いきなりフードを変えるとお腹がびっくりしてしまい、消化器の症状につながる場合があります。最初のうちは、ペットショップなどで与えられていたフードに新しいフードを混ぜ込み、少しずつその割合を増やしていくとよいでしょう。また、お腹がゆるい状態が続いたり、太りやすくなったりするなどの異変が見られるようであれば、フードの切り替えを検討した方がよいかもしれません。犬の成長に伴い、体質(太りやすさや皮膚のデリケートさなど)の特徴がわかってくることが多いので、体質に合わせたフードを選んであげるのがおすすめです。
ご飯の与え方や適正な回数
月齢が低いころは、硬いものは避け、フードをふやかして与えるのがよいでしょう。離乳食は、水分を多く含んだご飯から始めて、徐々に硬くしていくのが一般的です。家に迎えたばかりの場合は、その時点でどの程度の硬さのご飯を与えていたのかをペットショップやブリーダーなどに確認してみてください。まずは、それと同じ硬さから始めて、徐々にふやかす時間を短くするなどしていくことをおすすめします。
ご飯を与える適切な回数は、胃の大きさや低血糖へのなりやすさなども関係してきますが、月齢が低いうちは基本的に1日3~4回に分けて与えましょう。その後は、体重や体の成長の程度をかかりつけの動物病院の医師に見てもらいながら、成犬と同じ1日2回への切り替えを検討していきます。
子犬がご飯を食べない原因と対処法は?
ここからは、子犬がご飯を食べないとき、どのような原因が考えられるのかを詳しく見ていきましょう。原因に応じた対処法もあわせて紹介します。
原因1:生活環境の変化による不安やストレス
子犬は環境の変化で不安やストレスを感じやすいです。特に、新しい家に迎え入れられたばかりの頃は不安定になりやすく、こうした精神的な影響によってご飯を食べなくなることがあります。
【対処法】
子犬が感じる変化を少しでも小さくしてあげることが大切です。迎え入れる前と同じ食器にする、同じご飯を与えるなど、安心できる要素を増やしてあげることで精神的な負荷の軽減につながります。
原因2:暑さや寒さといった気温やテレビの音がうるさいなどの環境的なストレス
暑さや寒さなどの気温の変化は、子犬の小さな体に大きな負担を与えます。また、テレビの音などの環境音や家族や他の動物の存在に不安を感じることで落ち着けなくなり、ご飯を食べなくなってしまうことがあります。
【対処法】
子犬が落ち着いて過ごせる環境を作ってあげることが大切です。リビングなどで食事を与える場合、家族や他の動物の存在が気にならないよう、タオルで目隠しをしてあげるといった工夫も効果的です。
原因3:ご飯の量が多い
胃が小さい小型犬などは、1回のご飯の量が多いと消化がなかなか進まず、空腹を感じにくくなることで、ご飯を食べてくれない場合があります。
【対処法】
一回のご飯の量を減らす代わりに、小分けにして1日の食事の回数を増やしてあげましょう。お腹が膨れた状態が続く場合、ご飯の質が子犬の消化機能に追い付いていないことも考えられます。その場合、ご飯をふやかす時間を長くするなどして消化器への負担を軽減してあげるとよいでしょう。
原因4:おやつのあげすぎ
子犬が可愛いからといって、ねだられるままにおやつを与えすぎてしまうと、おやつだけで満腹になってほかのご飯を食べなくなってしまうことがあります。
【対処法】
おやつを与える場合は必ず1日の量を決めるようにしてください。家族が別々におやつをあげると与えすぎになってしまうので、全員でルールを共有し、1日の上限を超えないように注意しましょう。子犬の頃は特に、ご飯よりもおいしく感じるおやつばかりを食べてしまいがちです。味をしめてしまわないよう、ご褒美はおやつではなくドライフードを数粒与えるのが良いでしょう。
原因5:運動不足でお腹が空いていない
運動不足でお腹が空かなかったり、食べたいという意欲がわかなかったりする場合もあります。
【対処法】
子犬のうちは、ワクチンなどの予防接種が完了していないために散歩に出られないという状況もあるでしょう。散歩に行けなくても、ケージの中でおもちゃを使って遊ばせてあげるなど適度な運動量を確保し、運動欲求を発散させてあげましょう。
原因6:ご飯が食べづらい、おいしくない
子犬はかみ砕く力が成犬と比べて未熟なため、フードの粒が大きかったり硬すぎたりると、食べづらさを感じてご飯を食べなくなることがあります。
【対処法】
粒の小さい子犬用のご飯に変えたり、フードをふやかす時間を長めにしたりして、食べやすさを重視してあげましょう。食べている様子や食べ終わるまでの時間などをチェックしておくことも、ご飯が子犬に合っているかを知る上で役立ちます。ただ、食べている間にじっと見過ぎると緊張してしまう子犬もいます。愛犬の性格に合わせてチェック方法は工夫しましょう。
原因7:体調不良や病気
体調不良で食欲がわかないこともあります。食欲不振に加え、嘔吐や下痢、元気がない、寝ている時間が長いといった症状が見られたら、病気などの体調不良のサインであると考えられます。
【対処法や治療法】
軽度の軟便などであれば、ご飯の量を少し減らしてお腹を休ませることで様子を見るといった対処方法もあります。しかし、体が小さく、成犬に比べて体力も少ない子犬の場合、一度の下痢や嘔吐、食欲不振が体力を消耗させてしまい、命の危険につながってしまうこともあるため、できるだけ早めに動物病院へ連れていきましょう。
子犬がご飯を食べない場合、病院へ連れていくかどうかの見極めポイントは?
子犬は成犬と比べて体力がなく、ご飯を食べない状態が続くことで消耗が進み、命を脅かす事態につながる恐れもあります。食欲不振以外にも、下痢や嘔吐、元気がないといった症状があわせて見られる場合はすぐに病院を受診しましょう。
元気はあるのにご飯を食べない場合は、精神的な要因による食欲不振が考えられます。あるいは、ご飯が気に入らないなどのわがままで、ストライキのような態度を示している可能性もあります。ご飯を食べない要因を見極めつつ環境を見直し、それでもご飯を食べない状態が続くようであれば、動物病院を受診した方が良いでしょう。
子犬のフードを選ぶときの注意点
子犬のフードは、どのように選べばよいのでしょうか? 選ぶときに気をつけるべきポイントを紹介します。
「総合栄養食」の記載のあるものがおすすめ
「総合栄養食」とは、そのご飯だけですべての栄養をまかなえる食事を指します。必要な栄養素をすべて含み、健康を保つのに十分な子犬の食事を継続して手づくりするのは難しいため、「総合栄養食」と記載のある市販のフードを選んで与えるのがおすすめです。子犬がよく食べるからといって、トッピングのふりかけやおやつだけの食事にしてしまうと、成長や生活に必要な栄養素が不十分となり、栄養失調になってしまうので気をつけましょう。
ウエットフードは犬の食いつきは良いが、ドライフードに比べて日持ちしづらい
ウェットフードは水分を多く含むため、風味豊かで、嗜好性が高い反面、脂肪分の酸化などによって劣化が進みやすいというデメリットがあります。劣化したフードを食べてしまうと、消化器に負担がかかり、下痢や嘔吐などの症状につながる場合があります。ウェットフードは、開封してからなるべくすぐ与え切るようにしましょう。
原材料をしっかり記載しているものを選ぶ
食物アレルギーの発症を防ぐためにも、子犬期の食事にどんな原材料が使用されているか注意を払う必要があります。アレルギー症状は、生後6か月くらいから2~3歳くらいにかけて発症することが多いと言われています。子犬のうちから、原材料が明記されているフードを選び、どのようなものを食べさせているのかを飼い主がしっかりと把握するようにしましょう。
子犬がご飯を食べないとき、人間の食べ物をあげてもいい?
ドッグフードに比べて、人間の食べ物も子犬にとって、おいしく感じやすいと言えます。子犬が「出されたドッグフードを食べないでいれば、よりおいしいものがもらえる」という悪知恵を覚えてしまうと、ますますフードを食べなくなってしまう可能性も。そのため基本的には、子犬用のご飯を食べないからといって、すぐに人間の食べ物を与えることは避けたほうががよいでしょう。
消化器症状がある場合などには、消化器にやさしいご飯を家庭で作って与えるよう、動物病院で獣医師から指示されることがあるかもしれません。そのような場合には、獣医師のアドバイスをふまえた上で、お腹にやさしい子犬用のご飯を作って与えるようにしてください。