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CEOの韓慶燕さんと共に、犬の鼻紋認証アプリ『Nose ID(ノーズアイディ)』をローンチした
犬の「鼻紋(びもん)」を使って、飼い主を見つけ出すことができる画期的なアプリって何?
目次
- 犬の鼻紋認証アプリ『Nose ID(ノーズアイディ)』とは?
- 飼い主が見つからなければ殺処分。それでも保健所へ迷子犬を連れていきますか?
- なぜ「鼻紋」で犬の個体識別ができるの? マイクロチップとの違い
- 愛犬の病歴や投薬情報も登録 近所の犬との名刺交換も
- 福岡市との取り組み 愛護センターで迷子犬の鼻を登録
- 愛犬家のコミュニティを広げ、「シンプルで温かい世界」を作りたい
犬の鼻紋認証アプリ『Nose ID(ノーズアイディ)』とは?
令和4年6月1日、飼い犬へのマイクロチップの装着が義務化されました。しかし、その情報を読み取るためには専用の機械が必要です。迷子になった犬がいたとしても、その飼い主をすぐに特定できるわけではありません。
この課題を解決するために開発されたのが、犬の鼻紋認証アプリ『Nose ID(ノーズアイディ)』。犬の鼻から読み取った「鼻紋(びもん)」を使って、飼い主を見つけ出すことができる画期的なアプリです。
『Nose ID(ノーズアイディ)』を開発した株式会社 S'moreの代表取締役COO・澤嶋さつきさんは、「迷子犬を見つけるだけでなく、飼い主の困りごとを愛犬家同士で解決できる温かなコミュニティをつくりたい」と語ります。
日本では、犬の飼い主はまだマイノリティな存在。ちょっとした犬に関する悩みの相談相手が見つからなかったり、犬連れでの交通機関、飲食店の利用などでも不便さを感じたりします。
犬と飼い主の未来についての考えや、鼻紋認証アプリ『Nose ID(ノーズアイディ)』を開発したきっかけなどについて、澤嶋さんに話を伺いました。
飼い主が見つからなければ殺処分。それでも保健所へ迷子犬を連れていきますか?
――澤嶋さんの会社、S’more(スモア)は、どんな会社ですか?
澤嶋さつきさん(以下、澤嶋):S’moreは2021年1月に「愛犬家が抱える暮らしにくさを改善したい」とCEOの韓慶燕(けいえん)とともに、立ち上げた会社です。「ペットと自由に暮らせる社会の実現」というビジョンを掲げています。
――具体的にはどんなサービスを作っているんですか?
澤嶋:犬の鼻紋認証アプリ『Nose ID(ノーズアイディ)』を開発しています。これは、犬の鼻から読み取った「鼻紋(びもん)」を使って、飼い主を見つけ出すことができる画期的なアプリです。他にもこのアプリから集めたペットのデータを使って、ペットライフのさまざまな課題を可視化し、解決していきたいと思っています。
――犬の鼻紋認証アプリ『Nose ID(ノーズアイディ)』はどのようなきっかけで生まれたんですか?
澤嶋:CEOの韓が愛犬と一緒にお昼寝をしていたときに火災報知器が鳴ったそうなんです。韓は愛犬を抱えて慌てて外へ飛び出しました。その時は誤報だったため大事に至らなかったのですが、リードを付けずに外へ出たので「いつ愛犬がいなくなってしまうかわからない」という不安を抱えたそう。
外出する際は皆さんもリードを付けると思いますが、非常時には難しい場合もあります。もし離れ離れになってしまったら、どう愛犬を探せばいいのか。その出来事をきっかけに、私たちにできる方法を考えるようになりました。
――災害時は混乱が生じますから、より迷子犬を探すことが難しくなりそうですよね。
澤嶋:そうなんです。
それに、迷子犬は保護した側にも責任を感じさせるケースがあります。「もし飼い主が見つからなかったら殺処分されます。それでも、保健所へ連れていきますか?」と聞かれたら、どうしますか。自分が「命の期限」を決めてしまうのではないか。そういう思いが生じるのではないでしょうか。飼い主にとっても、保護した側にとっても、迷子犬を探すアプリは必要だと思うんです。
――もし愛犬が迷子になった場合、飼い主と出会える確率はどのくらいでしょうか。
澤嶋:環境省が発表している「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」によると、令和2年度の所有者不明の犬は2万4,934頭。そのうち、無事に飼い主に返還されたのは9,463頭です。
迷子犬を探す場合、見失った場所からしらみつぶしに探す方法のほかに、保健所などへ問い合わせる方法もあるでしょう。中型~大型犬になると体力があるため、家から5~10キロほど離れた場所まで移動することも珍しくはありません。もし犬が県をまたいで移動してしまったら、出会える確率はより低くなってしまうのではないでしょうか。
なぜ「鼻紋」で犬の個体識別ができるの? マイクロチップとの違い
――そもそも、犬の鼻から読み取る鼻紋(びもん)って何ですか?
澤嶋:鼻紋とは、犬の鼻にある皺のことです。人間の指紋と同じで、一匹ずつ鼻の皺は異なります。ですから、鼻紋と飼い犬・飼い主の情報を紐づけておけば、同じ地域で同じ犬種が迷子になったとしても識別できるんです。
「肉球で個体識別できないの?」と聞かれることがありますが、肉球は歩くと削れてしまうので、鼻紋がいいんですよね。
――鼻紋って、犬以外にもあるんですか?
澤嶋:猫や鹿にはあります。中には、鼻紋がない動物もいるようです。鼻紋を使った個体認証は、和牛の血統書などを作成する際にも活用されています。
――迷子になった犬を発見した場合には、マイクロチップの読み取りを考える方が多いと思いますが、『Nose ID(ノーズアイディ)』との違いはありますか?
澤嶋:役割が違うと考えています。マイクロチップとは、犬たちに埋め込まれた小さな電子標識器具のことで、リーダーと呼ばれる専門機械を使って読み取ります。
この機械は、全国の動物愛護センターや保健所などの動物が保護される可能性のある施設に設置されていますので、もし一般の方が迷子犬を保護した場合には、まず読み取ってもらえる場所に連れて行く必要があります。マイクロチップには、飼い主の名前や住所、電話番号などの情報を紐づけたナンバーが記憶されていて、ある意味、迷子犬と飼い主をつなぐ「最後の砦」なんです。
一方で『Nose ID(ノーズアイディ)』は、登録されている犬であれば、誰でもアプリを使ってかんたんに見つけ出すことができます。鼻紋と紐づいた情報を活用して、飼い主同士で助け合って迷子犬を探すアプリなんです。
愛犬の病歴や投薬情報も登録 近所の犬との名刺交換も
――『Nose ID(ノーズアイディ)』のアプリでは、どのようなことができますか?
澤嶋:今は、迷子犬の登録などができる「迷子犬ネット」のほかに、鼻紋認証による犬の情報管理、名刺交換機能があります。また、鑑札、狂犬病予防接種済み表、狂犬病予防接種証明書、混合ワクチン摂取証明書などの各種証明書類をアプリ内に画像で保存することが可能になりました。『Nose ID(ノーズアイディ)』の協力店に登録しているサロンやホテルなら、原本がなくてもアプリ内の画像を提示するだけで利用が可能になります。
「迷子犬ネット」では、現在迷子になっている犬の情報を閲覧でき、同じ地域に住む別の飼い主(ユーザー)が捜索に協力できるようになっています。
――迷子犬の情報では、普段のご飯や病歴なども閲覧できるんですね。
澤嶋:そうなんです。実はCEO韓の愛犬は心臓病を持っていて、投薬の必要があるんです。もし迷子犬として保護された場合、病歴や投薬の必要性をどう伝えればいいのかが課題でした。そこで、病歴やアレルギー、投薬なども記載できるようにしたんです。
――名刺交換機能はどういうものですか?
澤嶋:犬の情報を名刺としてアプリ内で交換できる機能です。相手の犬の情報が閲覧できるので、散歩で出会った犬の名前が思い出せないとき、仲のいい犬の写真を見たいときに振り返ることができます。
日本では、犬の飼い主はまだマイノリティな存在で、ちょっとした犬に関する悩みの相談相手が見つからなかったり、犬連れでの交通機関、飲食店の利用などで不便さを感じたりすることがあるはずです。
『Nose ID(ノーズアイディ)』では、迷子犬を探すだけでなく、将来的には犬のビッグデータを作り、飼い主の困りごとを解消できるようなサービスを提供できるようにしていきたいと思っています。
――『Nose ID(ノーズアイディ)』に犬を登録しようと思った時は、どうすればいいんですか?
澤嶋:操作はとっても簡単です。まずは愛犬と飼い主の情報を登録します。現在の登録情報は飼い犬が、「名前、生年月日、性別、去勢・避妊、耳、体重、毛色、犬種、犬の登録・鑑札、狂犬病予防注射、投薬や病歴など」、飼い主が「名前、住所、電話番号など」となっています。
飼い主の情報が外部へ開示されることはありません。もし迷子犬として発見された場合は、当社で連絡を受け、個別に飼い主へ連絡する方法を取っています(今後、飼い主同士で連絡ができるよう開発予定。その場合も個人情報が開示されることはありません)。
――リリースから約半年が経ちましたが、実際に迷子犬が見つかったケースはあるんですか?
澤嶋:まだないんです。年間で飼育されている848万頭のうち、迷子犬は1年間で約2.5万頭(令和2年度)。もし1万頭の登録がされたとしても、年に1頭の迷子犬が救えるかどうか、という確率になるので、まだ道のりは長いですね。
もっと鼻紋の登録数が増えて、飼い主同士の互助の和で救える犬が増やせると嬉しいです。
――鼻紋の登録は、どのように行うのでしょうか?
澤嶋:5秒間の動画を撮影します。動画を撮影することで200枚の写真を撮影したのと同じことになるので、そこからAIが鼻紋認証に耐えうる写真を1枚ピックアップします。
――鼻紋認証の動画撮影が、なかなか難しいんですよね。
澤嶋:そうなんです。まだテスト版なので、コツが必要なんですよね。犬の顎の下を押さえたり、おやつで釣ったり。2人がかりで撮影するのも方法のひとつだと思います。どうしても登録できない場合は、私たちも一緒にトライしますから、気軽にお問い合わせください!
――ちなみに、登録には動画撮影が必須なのでしょうか。例えば、過去に迷子になってしまった犬の情報を登録できますか?
澤嶋:鼻紋がしっかりと撮影できた写真があれば登録が可能です。実際に、過去に迷子になってしまった愛犬を登録された方もいます。
福岡市との取り組み 愛護センターで迷子犬の鼻を登録
――現在は1万頭の登録を目指していますね。1万頭の登録ができると、どのようなメリットがあるのですか?
澤嶋:精度の向上と検索時間の短縮が期待できます。AIは機械学習ができるので、読み込み数を増やして学習を重ねることでより賢くなるんです。例えば昼と夜では鼻の写真の印象が異なりますよね。登録数が増えればさまざまなバリエーションの写真が蓄積されていくので、今92%の認証精度を、より100%に近づけることにつながります。
それに、登録数が増えると登録された鼻紋を似ているもの同士でカテゴライズできるので、検索が早くなるんです。
――アプリ「Nose ID」は、福岡市と連携し、実証実験を行っていますよね。具体的にはどのようなことに取り組んでいるのですか?
澤嶋:福岡市の動物愛護管理センターで迷子犬を保護した時は、実際に『Nose ID(ノーズアイディ)』を使用いただいています。犬によって、人懐っこい子もいれば、警戒心が強い子もいます。飼い主だけでなく行政もアプリを利用することで、より迷子犬と飼い主が巡り合う確率が高まると思っています。
――なぜ福岡市と提携したんですか?
澤嶋:福岡市は犬の殺処分を減らそうと努力しています。それに、スタートアップ企業を支援していて、地域としてシリコンバレーのようなエリアを目指しているんです。それで、私たちも東京から、福岡へ本社を移転しました。
今後、福岡市で事例ができれば、他の地域でも導入が進むのではないでしょうか。飼い主の皆さんや動物病院、トリミングサロンなどへの認知につなげていきたいと思っています。
愛犬家のコミュニティを広げ、「シンプルで温かい世界」を作りたい
――『Nose ID(ノーズアイディ)』では迷子犬だけでなく、飼い主の困りごとを解決していきたいとお話されていました。今後はどのようなことができる予定ですか?
澤嶋:そうですね……。今思い描いているのは、日常生活での薬やワクチンのリマインダー、鑑札や注射済証明書の証明機能、困った時の助け合いコミュニティづくり、病院やトリミングサロンなどでの施術情報を一元化できるシステムを構築したいと考えています。
救急病院などで飛び込み患者が出てきた場合、どの病院でどんな治療をうけているか、手術の経験はあるかなどがわかるようになるといいですね。
――なるほど。今後アプリの認知が広がることで、犬と人の共生社会はどのように成長していくと思いますか?
澤嶋:例えば、犬にお留守番をさせないといけない時に、「預かるよ」って手を差し伸べられるようなシンプルで温かいコミュニティを作っていきたいです。迷子犬も、みんなで助け合って探し合うのが理想。そういう困りごとをシェアできるようなものにしていきたいと思っています。
例えば鼻紋を認証することで注射済証明書などを持ち歩く必要がなくなり、「鼻パス」でホテルや新幹線などが利用できる社会です。また、犬のビッグデータを使って、例えば老犬が多い地域では介護施設を作るといった解決法も考えられるのではないかと思っています。
ーー犬との暮らしがより豊かになりますね。
澤嶋:はい。アプリのダウンロード数は2022年10月末時点で1万件を突破していますが、登録は約3,400頭です。現在の目標は来年の2月には1万頭のデータを集めて、4~5月にはアプリに反映させること。テスト版のアプリですが、必要だと思うサービスはお声を取り入れて作っていきます。ぜひ“鼻集め”にご協力いただきたいです!