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往診専門るる動物病院、TNRののいちアニマルクリニック 所属。小動物臨床15年、往診による一般診療、終末期医療、オンラインでの診療や相談にも積極的に取り組む。

「犬は塩分を取ったらダメ」というイメージを持っている人は多いのではないでしょうか?
人間同様、犬も塩分を取り過ぎると腎臓や心臓などの内臓に悪影響を及ぼしたり、食塩中毒になったりする危険もあるため大量の塩分には注意が必要です。
犬に濃い食塩水を飲ませると吐かせることができるなど、誤飲・誤食のとっさの応急処置として掲載されている場合があります。しかし、塩分中毒(高ナトリウム血症)を引き起こし、最悪の場合死に至ることもあるため絶対に行ってはいけません。
人間も適度な塩分は体に必要なように、犬にとっても適度な塩分は必要と言えるでしょう。どれくらいの量なら犬に与えて大丈夫なのか、また塩分摂取の注意点について、往診専門るる動物病院 院長のTNRののいちアニマルクリニック 顧問獣医師の岡田京子先生監修のもと、詳しく解説していきます。
目次
- 塩分は犬にとっても必要な成分!ただし、腎臓・心臓疾患がある場合は注意点も!
- 犬に食塩水を飲ませると吐かせることはできる?
- 犬が1日に必要とする塩分摂取量の目安は?
- 塩分の過剰摂取で起こる食塩中毒とは?致死量は?
- 手づくりご飯の場合は塩分不足にも注意!塩分不足の症状がでていないか注意して
- 【Q&A】こんな食材、こんなときの塩分摂取は大丈夫?
- ドッグフード派・手づくりごはん派に役立つ情報をご紹介!
- まとめ
塩分は犬にとっても必要な成分!ただし、腎臓・心臓疾患がある場合は注意点も!
食塩(塩化ナトリウム)は、犬の健康維持に欠かせない成分の一つであり、適量であれば犬が摂取しても問題ありません。
しかし、適量を超えた摂取や、腎臓や心臓に疾患がある場合には、塩分が悪影響を及ぼす可能性もあるため注意が必要です。
ここでは、塩分が犬の体内で果たす役割と、摂取に際しての注意点について詳しく解説します。
塩分の役割とは?
塩分の主成分である塩化ナトリウムは、犬の体内で神経や筋肉が正常に機能するために必要な電気信号を伝える役割を担っています。この仕組みは、神経や筋肉の正常な働きに直結するため、適量の塩分は健康な生活を支える要素だといえます。
また、体内の水分バランスを保つためにも重要です。例えば、汗をたくさんかくと水分と一緒にナトリウムも出て行ってしまうため、体調不良につながる可能性もあります。
犬は人間のように汗をかくことは少ないのですが、下痢や嘔吐をしたとき、また大量の水を飲んだ場合には、体内のナトリウム濃度が低下し水中毒(低ナトリウム血症)になることがあります。
これにより、脱力感や食欲不振などの不調を引き起こす場合もあるため、必要に応じて塩分を補給することが大切です。ただし、過剰な摂取は逆に健康を害する可能性があるため、適量を守ることが重要です。
腎臓や心臓に疾患がある場合は要注意!人間用の食品・料理はNG
腎臓や心臓に疾患がある犬にとって、塩分の管理は特に重要です。
腎臓の機能が低下すると、体内で不要な塩分を排泄する能力が制限され、ナトリウムの過剰蓄積がむくみや血圧上昇、さらに腎不全を悪化させる可能性があります。
特に慢性腎臓病は初期症状がわかりにくいため、日常的な塩分摂取量に細心の注意を払う必要があります。
また、心臓疾患がある場合、過剰な塩分摂取により血圧が上昇し、心不全などの重篤な状態を引き起こすリスクがあります。
犬が心疾患を抱えている場合は、塩分摂取を最小限に抑えることが推奨されます。特に加工食品や味付けの濃い食べ物には注意し、愛犬の健康を第一に考えた食事管理を心がけましょう。
人間用の食品や料理は、犬にとって塩分過多となる場合が多いことから、与えないように徹底することが必要です。
犬に食塩水を飲ませると吐かせることはできる?
犬が誤飲や誤食をした際、「食塩水を飲ませて吐かせる」という方法がインターネット上で応急処置として紹介されることがあります。しかし、この方法は安易に行ってはいけません。
食塩水を犬に飲ませることで食塩中毒を引き起こし、最悪の場合、命に関わる事態に陥る可能性があるからです。特に小型犬や体調が優れない犬の場合、少量の塩分でも中毒症状が現れることがあるため、大変危険です。まずは動物病院を受診しましょう。
もし愛犬が誤飲や誤食をしてしまい、ぐったりして動かない、けいれんや異常な呼吸がある場合は、直ちに動物病院に連絡してください。また、よだれ、嘔吐、下痢、血便といった症状も危険なサインであり、早急な受診が必要です。
その瞬間を見ていなくても、愛犬の様子がおかしくて誤飲や誤食が疑われる場合も、早めの受診が必要です。獣医師が状況に応じた適切な対応を指示してくれますので、自己判断で危険な方法を試すことは絶対にやめてください。
犬の健康と命を守るためには、正しい知識と冷静な対応が必要です。日頃から犬の手の届く範囲に危険なものを置かないようにしましょう。
また、散歩時にも拾い食いをしない、危険な物をくわえたときに離す・交換するといったトレーニングも大切です。
緊急時に相談できる動物病院の連絡先は、すぐに確認できるようにしておきましょう。
犬が1日に必要とする塩分摂取量の目安は?
犬に必要な塩分摂取量は、体重や健康状態により異なりますが、一般的には人間の3分の1程度とされています。
環境省の「飼い主のためのペットフード・ガイドライン」によると、体重5kgの犬(避妊去勢済み)の場合、1日の塩分摂取量の目安は約0.18gです(「AFFCO Official Publication 2016」より算出)。これは非常に少量であり、調味料を扱う感覚で与えると簡単に過剰摂取になってしまうため注意が必要です。
日常的に人間用の食品を与えることは、塩分の過剰摂取につながる大きな要因となります。
たとえば、ハムやソーセージ、総菜などの加工食品は犬にとって塩分が多すぎるため、与えてはいけません。基本的には、ドッグフード(総合栄養食)で塩分を賄ってください。総合栄養食は、犬に必要な栄養素をバランスよく含んでいるので安全です。
また、目安の塩分量は小さじや指でつまむ量では測れないほど少量です。
正確に測りたい場合は、調理用のはかりを使用することをおすすめします。特に塩分管理が必要な健康状態の犬に対しては、獣医師に相談しながら適切な量を確認し、過不足なく与えることが大切です。
愛犬の健康を守るためには、塩分の摂取量にも十分配慮しましょう。
塩分の過剰摂取で起こる食塩中毒とは?致死量は?
犬が塩分を過剰に摂取すると、体内のナトリウム濃度が急激に上昇し食塩中毒を引き起こす可能性があります。過剰な塩分摂取は腎臓や心臓に大きな負荷をかけ、血圧の上昇や心不全を引き起こすケースもあります。
特に、小型犬や健康状態に問題がある犬では、少量の塩分でも症状が悪化しやすいため注意が必要です。
食塩中毒のリスクが高まる塩分の量は、体重1kgあたり約2~3gとされています。致死量は体重1kgあたり約4gとされており、たとえば体重5kgの犬であれば20gの塩分が命に関わる量となります。犬種や体重、個体の体質による差もあります。
特に個体差により、少量でも命にかかわる事態に陥ることがあるため、「少量だから大丈夫」と自己判断せず、速やかに動物病院を受診してください。
食塩中毒の主な症状として、下痢や嘔吐、食欲の低下、水を大量に飲む、ふらつきや発作などが挙げられます。これらの症状が現れた場合は緊急性が高いと考え、速やかに動物病院を受診しましょう。
例えば、ロースハム1枚には約0.5gの塩分、ウインナーソーセージ1本には約0.3gの塩分、ベーコン1枚には約0.2gの塩分が含まれています。
これらを犬が誤って大量に食べてしまった場合、食塩中毒を引き起こす危険があります。特に、お歳暮などで贈られるロースハムのブロックをまるごと食べてしまうようなケースでは、致死的な状態に陥る可能性があるので要注意です。
日頃から犬の手の届かない場所に保管するよう心がけてください。
手づくりご飯の場合は塩分不足にも注意!塩分不足の症状がでていないか注意して
愛犬のごはんを手づくりする場合、塩分不足にも注意が必要です。塩分は犬の体内で重要な役割を果たしており、不足するとさまざまな不調を引き起こします。
塩分が足りないと腎臓が尿細管でナトリウムを再吸収する働きを活性化させ、尿の排出量を減少させることで体内のバランスを保とうとします。この過程が長期化すると健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
塩分不足の主な症状には、嘔吐、だるさ、食欲低下などが挙げられます。さらに症状が進行すると、軽い下痢や嘔吐でも動けない状態になる、おしっこの色が濃い黄色になる、意識がぼんやりとしてはっきりしないといった水中毒(低ナトリウム血症)の兆候が現れることがあります。これらの症状を見逃さず、早めに対応することが大切です。
総合栄養食として市販されているドッグフードには必要な塩分が適切に配合されているため、塩分不足を心配する必要はありません。
しかし、手づくりのごはんを与える場合は、栄養バランスに十分配慮しなければなりません。特に、塩分量を正確に計算し、適切に調整することが重要です。
不安がある場合は、獣医師やペット栄養管理士に相談しながら食事内容を見直すことをおすすめします。
【Q&A】こんな食材、こんなときの塩分摂取は大丈夫?
愛犬に与える食材や特定の状況での塩分摂取について、不安に感じる方も多いのではないでしょうか。正しい知識を持つことで愛犬の健康を守ることができます。
ここでは、特に気になりがちな「煮干し」「しらす」「熱中症対策としての塩分」に関する疑問を解説します。
犬に煮干しを食べさせても大丈夫?
煮干しは、適量をおやつとして与える分には問題ありません。ただし、魚アレルギーを持つ犬には注意が必要です。
アレルギー反応が出る可能性があるため、初めて与える際は少量から始め、愛犬の様子をよく観察してください。また、市販の煮干しには塩分が多く含まれているものもあるため、与える量には十分配慮しましょう。
最近では、犬専用に塩分を控えた煮干しも販売されています。煮干しは高たんぱくでカルシウムが豊富な食材ですが、主食ではなく補助的な食材として活用しましょう。
犬にしらすを食べさせても大丈夫?
新鮮な生のしらすは、少量であればそのまま与えても問題ありません。
ただし、人間用に加工されたちりめんじゃこや釜揚げしらすには注意が必要です。これらには塩分が多く含まれているため、与える場合は必ず塩抜きをしましょう。
塩抜きの方法としては、ザルにちりめんじゃこや釜揚げしらすを広げ、沸騰したお湯を回しかけてください。
また、しらすにはカルシウムやたんぱく質が豊富に含まれているため、成長期の犬や高齢犬にとって栄養補給として役立つことがあります。ただし、与えすぎると塩分過多や栄養過多になる恐れがあるため、適量を守ることが大切です。
熱中症対策で塩を与えても大丈夫?
熱中症対策として、犬に塩を直接与えるのは非常に危険です。人間の場合、汗とともに塩分を失うため補給が必要ですが、犬は汗をほとんどかきません。そのため、塩分を与えることで逆に塩分過多を引き起こし、中毒症状を招く恐れがあります。
人間と同じく電解質補給飲料(経口補水液)を与えるのが望ましいのですが、人間用のものは人工甘味料が多く含まれており、糖分過多のためおすすめしません。
動物用もしくは人間用で人工甘味料が含まれていないものを選んでください。ちなみに、人間用のものは動物用に比べて糖分が10倍ほど多く含まれています。
熱中症が疑われる場合は、まず犬の体温を下げることが最優先です。日陰や冷たい場所に移動させ、水で冷却したタオルを首や脇の下に当てると効果的です。
また、水を少しずつ飲ませて水分補給を行いましょう。症状が重い場合やぐったりしている場合は、速やかに動物病院を受診してください。熱中症は致死率が高いため一刻も早い対処が必要です。
愛犬を熱中症から守るためには、日頃からの予防が大切です。特に暑い時期には十分な水分補給を心がけ、涼しい環境を整えてあげましょう。
ドッグフード派・手づくりごはん派に役立つ情報をご紹介!
愛犬の食事において、塩分管理は健康を維持するために重要なポイントです。ドッグフードを与えている方も、手づくりごはんを取り入れている方も、それぞれのスタイルに合った方法で適切に塩分をコントロールすることが求められます。
ここでは、塩分管理がしやすいドッグフードやトッピングレシピ、手づくりごはんのおすすめレシピを紹介します。
塩分管理の心配がないドッグフード&トッピングレシピ
市販のドッグフードは塩分バランスが計算されており、安心して与えられます。さらに、塩分控えめのトッピングとして、茹でた鶏肉やかぼちゃを加えることで、栄養価を高めつつ愛犬も喜ぶ食事にアレンジ可能です。
手づくりごはんのおすすめレシピ
野菜や肉など、塩分を含まないさまざまな食材を組み合わせた一皿を以下にご紹介します。獣医師や栄養士に相談しながら栄養バランスを調整すると安心です。

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まとめ
犬にとって塩分は必要不可欠な成分ですが、適量を超える摂取は健康に悪影響を及ぼします。特に、腎臓や心臓に疾患がある場合は注意が必要です。
一方で、手づくりごはんの場合は塩分不足にも気をつける必要があります。適量を守るためには、総合栄養食のドッグフードを基本としながら、塩分を含まないトッピングやおやつを取り入れるのが良い方法です。
総合栄養食はすべての栄養素をバランスよく含んでいます。そのため、トッピングやおやつには塩分を含まないことが基本となります。
また、誤飲や誤食、熱中症などの緊急時に塩分を与えるのは非常に危険で、速やかに動物病院に相談することが大切です。
この記事で紹介した知識を活用し、愛犬の健康を守るために正しい塩分管理を心がけましょう。愛犬の個別の健康状態に応じた塩分量については、必ず獣医師に相談するようにしてください。