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NPO CANBE NPOつなっぐ 日本動物病院協会理事 子どもの動物福祉教育、小児病棟犬セラピー、被虐待児童へ付添犬の派遣などに注力。保護犬猫問題にも取り組む
ミフネさんとヨシダさんは、たろ(4歳)とじろ(2歳)のお世話に日々奮闘する小さなおじさん家政夫です。
まずは登場人物をご紹介します。ミフネさんとヨシダさんは、元気な男の子の兄弟・たろとじろの家で、家政夫として働いています。家事のかたわら、ふたりのお世話もしつつ、忙しい毎日を過ごしています。
そんなおじさん家政夫たちですが、休憩中に何か話をしているようです……。
目次
- 子どもたちを癒やしたいおじさん
- 獣医さんに気になっていることを聞いてみよう!
- 犬がお子さんにもたらす影響について
- 犬との正しい触れ合い方
- お子さんが犬と触れ合う際に気をつけること
- 犬との生活をシミュレーション
- こんにちは、チャムちゃん〜犬との触れ合い実践編〜
- まとめ〜犬との癒やし体験後〜
子どもたちを癒やしたいおじさん
ヨシダ:ミフネさん、最近癒やされてますか?
ミフネ:突然どうしたんですか? まあ、たしかに最近はなかなか外出できないですからね。ストレスも溜まりやすくなってきますし、癒やしの時間は必要ですよね。私はお城が好きなのでお城の本を読みながら想像で旅行したりしていますよ。
ヨシダ:素敵な趣味があっていいですね。たろさんとじろさんもおでかけできる場所が限られて、いろいろとストレスがたまると思うんですよね。
ミフネ:そうですね。何か良い解決策はないですかね?
ヨシダ:ちょっと小耳に挟んだんですが、ミフネさん「犬セラピー」って知ってますか?
ミフネ:犬セラピーですか?それはどんなものなのでしょうか。
ヨシダ:私もあまり詳しくないのですが、わんちゃんと触れ合うことによってこころや身体を回復させることができるらしいのです。
ミフネ:そうなんですね。たしかにたろ父の実家で飼っているシロ(柴犬)に会った時、たろさんもじろさんも楽しそうにしていますね。わんちゃんが子どもたちに与える影響について、詳しく知りたいですね。
ヨシダ:詳しい人にお話聞いてみますか?
ミフネ:まさか、詳しい人知ってるんですか?
ヨシダ:はい、さっそくテレビ電話で聞いてみましょう。
ミフネ:ヨシダさんはいろんな知り合いがいますね。
獣医さんに気になっていることを聞いてみよう!
ヨシダ:準備はいいですか、ミフネさん?……って、ちょっとカメラに近すぎですよ。
ミフネ:す、すみません。テレビ電話はあまりしたことがないので、勝手がわかりませんでした。
ヨシダ:では、気を取り直して。もしもし、吉田先生、お久しぶりです。
ミフネ:はじめまして、ミフネです。今日はよろしくお願いします。
吉田先生:ヨシダさん、お久しぶりです。ミフネさん、はじめまして。獣医師の吉田尚子です。
吉田尚子先生
ミフネ:吉田尚子先生? もしかして…?
ヨシダ:はい、私の遠い親戚です。
ミフネ:そうだったんですね。改めまして、よろしくお願いいたします。
吉田先生:よろしくお願いします。今日はわんちゃんがもたらすお子さんへの影響について聞いてみたいとのことでしたね。
ヨシダ:そうなんです。その他、気をつけることなどもぜひ聞いてみたいです。
吉田先生:わかりました。
犬がお子さんにもたらす影響について
吉田先生:わんちゃんには特別な力があって、これはお子さんとの関係性に限った話ではないのですが、わんちゃんがいることによって、ご家庭での会話が増えたり、家庭内の嫌な雰囲気をガラッと変えてくれたりすることがあります。
そして、おふたりもわんちゃんと触れ合った経験からわかると思うのですが、わんちゃんは話したりはできないですが、こちらがどんな気持ちで接しているか、逆にわんちゃんがどんな気持ちなっているか、わかることがありますよね?
ミフネ:ええ、そういえば以前、私が落ち込んでいる時に寄り添ってくれたことがありましたね。ありがとうと言ったら嬉しそうな表情をしていた気がします。
吉田先生:わんちゃんはお話ができない分、人間に比べて表情を読み取る力に長けていると言われているんですね。こういった言葉以外のコミュニケーションをノンバーバル・コミュニケーションというのですが、このやりとりによって、お子さんの感情表現やコミュニケーション能力を伸ばすことに役立つことがあります。
体験や経験によって学ぶことを体感教育と呼んだりしますが、わんちゃんとの生活はまさにこの体感教育で、対人間でのコミュニケーションでは得られないような学びを得ることができます。
お子さんは、わんちゃんと生活することによって、人に対しても、シンパシー(同情)のようなものではなくて、エンパシー(共感)のような、相手の気持ちに歩み寄る感情を自然に持つことができる大人に成長することができると思いますよ。
ミフネ:たしかにわんちゃんに対してのコミュニケーションでは、会話ができない分、相手の気持ちをより深く考えますもんね。これを自然にできるようになれたら、もっと人にも優しくできるような気がしますね。
吉田先生:幼いころから、人以外の動物とも私たち人間は共存していることが体感できます。人間中心主義から、すべての命への尊敬や正しい倫理観が芽生え、身近な動物への愛情をはじめ、生態、環境への知識を身近に感じやすい、いわゆるワンワールド、ワンヘルスの概念も受け入れやすくなると思います。
犬との正しい触れ合い方
ヨシダ:わんちゃんがお子さんに限らず、我々人間に対してとても良い影響があることがわかりました。では、実際にわんちゃんと触れ合い方についても詳しく教えていただいてもよいでしょうか。
吉田先生:はい、わかりました。まず、わんちゃんと初めて接する時ですが、いきなり頭を撫でたりするとわんちゃんが驚いてしまうのでやめたほうがいいですね。
ミフネ:私、いきなり頭をなでる派でした……。あれ良くないんですね……。
▲突然、正面から大きな手が近づいてくると驚いちゃいますよね。
吉田先生:そうですね、ミフネさんも知らない人からいきなり頭を撫でられたら驚いちゃいますよね? それと一緒で、わんちゃんもいきなり手が来ると驚いちゃうので、必ず触る前にサインを出 すことが大切です。
このサインの方法ですが、まず声がけをしてから「わんちゃんの鼻の下に優しいグー」を出してあげます。
吉田先生:そのグーをわんちゃんがクンクンしたら触れ合っても良いというサインになります。これをお子さんにも教えてあげると、わんちゃんと良い距離感を自然に保つことができるようになると思います。
幼稚園くらいのお子さんなら、「わんちゃんにもおなかが痛い時やなでてほしくない気持ちの時もあるのね、わたしたちと一緒だね…」などと「なぜ、そうなのか」わかるようにお話をするのもおすすめです。
街でわんちゃんに会った時も、触っていいか確認した上で、この方法を実践するとトラブルになりにくいですね。もしクンクンしなかったら「わんちゃんを休ませてあげようか、また今度ね」とお子さんに言い聞かせて、わんちゃんを無理に追い込まないことが大切です。
ここで重要なのは、「わんちゃんの気持ちが準備できるまで待ってあげる」ことです。
ミフネ:相手の立場に立って考えるということは、先ほど先生がお話していたエンパシー(共感)という部分を、お子さんにわかってもらう良い機会になりそうですね。 他にも先生に聞いてみたいことがあるのですが、以前わんちゃんと目線を合わせて吠えられたことがあるのですが、目線って合わせないほうがいいのでしょうか?
吉田先生:これは一概には言えないのですが、たしかに初めて会うわんちゃんは、いきなりじーっと目線を合わせると警戒して吠えてしまうみたいなことがあるかもしれません。しかし、信頼関係を築いたわんちゃんであれば、目を見て触れ合うことは決して悪いことではないんですよ。ここでもやはり相手の様子を意識して、少しずつ、が大事ですね。
おもしろい話があるのですが、信頼関係のある飼い主とわんちゃんが見つめ合うと幸せホルモンと言われている「オキシトシン」が双方に分泌されることがわかってきました。(※注釈)
他の動物だと、見つめ合うことが威嚇のサインのようになってしまったりするのですが、わんちゃんはどうやら違うようで、これが証明されているのは、わんちゃんと人が良い関係性のケースでだけなんです。
ミフネ:それはとてもいいことを聞きました。今すぐにでもわんちゃんとやさしく見つめ合ってオキシトシンを分泌したいです。
お子さんが犬と触れ合う際に気をつけること
ヨシダ:わんちゃんと触れ合うことによってお子さんはいろいろなことを学ぶことができそうですね。では、最後にお子さんがわんちゃんと触れ合う際に気をつけることなどもお聞きしてもよいでしょうか。
吉田先生:はい、わかりました。まず、わんちゃんとの触れ合いは、ある程度お子さんが大きくなって、わんちゃんとの信頼関係が築けた段階で、と意識してください。お子さんがまだ小さい時や、信頼関係がまだ築けていない時は、お子さんとわんちゃんだけという状況にしないようにしてください。
特にお子さんがまだ加減がわからないような年齢の際にそうしてしまうと、わんちゃんに大きなストレスがかかり、思わぬ事故に繋がりかねません。
また、どうしてもお子さんが積極的に遊ぼうとしてしまう状況の場合は、ケージや小屋のような、誰からも干渉されない、安全地帯を作ってあげるのもひとつの手段です。
わんちゃんがある程度動き回れるくらいの、サークルケージなどが良いでしょう。ドアを閉めることができると、子どもと外部との境界線が明確になるので、より良いかと思います。
ミフネ:たしかに近くにわんちゃんがいたら、小さいお子さんは興奮して触りたくなってしまいますもんね。わんちゃんもお子さんも双方にストレスがかからない状態を、家庭の中に作ることが重要なんですね。
吉田先生:そうですね。そして、よくお子さんが寂しいからわんちゃんを飼うといった話を聞くことがあるのですが、安全性の確保に加えて関係性が良い状態になるまでは、大人がしっかりと介入する必要があります。
ここで重要なのは大人が責任を持てる状態でわんちゃんを飼うということです。わんちゃんとの接し方を大人がお手本となってお子さんに見せてあげながら、徐々に関係性を構築していくことが大切です。
他にも気をつけることとしては、「抱きしめ」と「抱き上げ」はやめたほうがいいですね。
小さいわんちゃんは落としてしまう可能性もありますし、ギューとやると苦しくなってしまうので、やさしくハグをしてあげるようお子さんに伝えてあげましょう。
▲小さいわんちゃんにとっては想像以上に強い力で抱きしめられている、というケースもあるので注意が必要です。
ミフネ:わんちゃんがどう思うか、想像力を持って接してあげることが大切なんですね。
吉田先生:そうなんです。ここでも「ぬいぐるみと違って生きているから、痛いのはかわいそうだよね」など、なぜ強く抱きしめることが良くないのかを、お子さんがわかるように話しかけてあげることも忘れずに。わんちゃんを飼うことで、相手の気持ちを考えることを意識して生活できるようになれば、お子さんの成長にも良い影響があると思います。
わんちゃんと生活していると「ごはんを食べてくれた」「お手してくれた」など小さい達成感の積み重ねをお子さんに経験させることができます。楽しみと同時に、実は大切な自己肯定感や責任感を育むとも言われています。
もちろん大変なこともたくさんありますが、わんちゃんを飼うことによって、お子さんに良い影響があるというのは間違いないと私は思っています。
ヨシダ:吉田先生、今日はとても良い話が聞けました。ありがとうございます。
吉田先生:またわんちゃんについて聞きたいことがあったら、連絡してくださいね。
ミフネ:ありがとうございました。
犬との生活をシミュレーション
ヨシダ:いろいろとお話が聞けてよかったですね。
ミフネ:ええ、わんちゃんが子どもたちに与える影響についてよくわかりました。実際にたろさんじろさんにも良い影響がありそうですね。ただ…
ヨシダ:ただ…?
ミフネ:話を聞いていたら私がわんちゃんと触れ合いたくなってしまいました。
ヨシダ:そう言うと思いましたよ。
ミフネ:え。
ヨシダ:私の知り合いにチンという犬種のわんちゃんを飼っている方がいるので、伺ってみますか?
ミフネ:また知り合いですか! ヨシダさんは本当に知り合いが多いですね…。ぜひお願いします。
ヨシダ:そして、せっかくなので、たろさんじろさんのような子どもの気持ちになってわんちゃんと触れ合えるようにこんなものを用意しました。
ミフネ:これをかぶって触れ合うんですね……。わかりました。
こんにちは、チャムちゃん〜犬との触れ合い実践編〜
ヨシダ:着きましたよ、ミフネさん。
ミフネ:これからわんちゃんに会えるんですね。ものすごく楽しみです。
ヨシダ:こちらチャムちゃんと飼い主の須田さんです。
チャム/犬種:チン(11歳)
須田さん:こんにちは、ミフネさん、ヨシダさん。
ミフネ:こんにちは。チャムちゃん、ものすごく可愛いですね。
ヨシダ:では、さっそく今日先生に教えていただいたわんちゃんとの触れ合い方を、たろさんじろさんの気持ちになって実践してみましょう。
ミフネ:ああ、もう早くなでなでしたいです!
ヨシダ:ミフネさん、先生に教えてもらったことを思い出してください。重要なのは、「わんちゃんが来るまで待ってあげる」ですよ。
まずは、声がけをしてから「わんちゃんの鼻の下に優しいグー」を出してあげましょう。
ミフネ:そ、そうでしたね。興奮していきなりなでなでするところでした。
ミフネ:チャムちゃん、こんにちは〜。(ドキドキ)
・
・
・
チャムちゃん:クンクン。
ミフネ:やりましたよ!!
ヨシダ:受け入れてもらえましたね。
ミフネ:改めまして、チャムちゃん、よろしくお願いします〜!
ヨシダ:かわいいですね。これならたろさんもできそうですね。次はやさしくハグさせてもらいましょうか。くれぐれも「抱きしめ」たり「抱き上げ」たりはしないようにしてくださいね。
ミフネ:そうですね。さあ、チャムちゃん、ハグしましょう。
ミフネ:おおおおおおおおおおおおおお!可愛すぎるううううううう!!!!!
ヨシダ:ミフネさん、くれぐれもたろさんとじろさんの気持ちになることを忘れないでくださいね。
ミフネ:ふおおおおおおおおおおおおお! お利口さんですねえええええええ!!!!!
ミフネ:ぬおおおおおおおおおおおおお! 幸せですうううううううううううう!!!!!
ヨシダ:まあ……楽しそうなので、良しとしましょうか。
まとめ〜犬との癒やし体験後〜
ヨシダ:今日はどうでしたかミフネさん。
ミフネ:ええ、とても癒やされましたし、わんちゃんが子どもたちに良い影響があることがとてもわかりました。オキシトシンが大量に分泌されましたよ。
次はたろさん、じろさんとも……一緒に……遊びた……
ヨシダ:どうしました。
ミフネ:zzz…zzz…
ヨシダ:幸せそうな顔で寝てますね。
先生から学んだわんちゃんとの触れ合い方を実践することによって、わんちゃんが子供に与える影響を身を持って体験することができた、ミフネさんとヨシダさんなのでした。
(※注記)「オキシトシン」に関する参考文献
https://first.lifesciencedb.jp/archives/10063
https://www.peppynet.com/library/archive/detail/798