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作家、獣医師。15歳の時に書いた第44回講談社児童文学新人賞佳作を受賞し、作家デビュー。一方、麻布大学大学院獣医学研究科で博士号を取得、獣医師としても活躍。
ご家庭に小さなお子さんがいる方で、「犬を飼いたいけど大丈夫かな?」と悩んでいらっしゃる方も多いのではないでしょうか。 そこで今回は、子どもと犬が一緒に暮らすメリットや犬種の選び方、おすすめの犬種や、犬を飼い始める時のポイントや注意点を解説します。実際に、犬猫2匹ずつ飼いながら3歳と0歳の娘と暮らす私の経験をもとにお伝え致します。
目次
- 小さい子どもがいても犬は飼える!子どもと犬の相性
- 子どもと犬が一緒に暮らすメリット
- 家庭環境に合った犬種の見つけ方
- 子どもと相性がいい犬種と飼いやすい理由・注意点
- 子どものいる家庭が犬を飼い始める時のポイント
- 子どもと犬の安全な暮らしのために気をつけるべきこと
- 子どもに教えるべき、犬と触れ合う時のルール
- 犬は子どもにとって最高のパートナー
小さい子どもがいても犬は飼える!子どもと犬の相性
小さな子どもがいても、環境を整えれば犬を飼うことは可能です。確かに子どもと犬が接触することで誤食やケガなどのリスクはありますが、大人がきちんと見ていられるのであれば、それらの事故を防ぐことができます。嬉しいときも悲しいときも隣に寄り添ってくれる愛犬は、子どもにとって最高のパートナーになってくれるでしょう。
子どもと犬が一緒に暮らすメリット
「ペットがいると子どもの情操教育に良さそうだよね」との声をよく聞きます。
実際、ペットが子どもに良い影響を与えるという報告があります。小児病棟において、子どもがセラピー犬と触れ合うことで入院中のストレス、不安、倦怠感、恐怖感および悲しみが緩和されたり(※1)、ペットとふれあうことで子どもの心拍数が下がる、つまり落ち着く(※2)といった報告もあります。
また、1999年にアメリカで始まった『Reading Education Assistance
Dogs(R.E.A.D.)』プログラムという、子どもが読書介助犬に読み聞かせを行うプログラムも世界的に人気です。このプログラムでは、犬は読み聞かせをただ聞くだけで、批判したり、言い間違いを指摘したりすることはないため、すべて受け入れてもらえて自信がつく、という点で、子どもが自己肯定感を高められるのではないか、という見方をする専門家もいます。(※3)
もっと身近な話だと、下記のような効果があります。
1.子どもが犬の世話をすることで色々なことを学べる
犬はぬいぐるみではありません。毎日ごはんをあげ、散歩をし、排泄物の処理をし、病気にならないように気を配る必要があります。また犬は、嫌なことをされたりしたら意思表示をしますし、高い場所から落としたら骨折します。そういった日々のお世話や関わり合いの中で、子どもが学ぶことは山ほどあります。
実際に、我が家の3歳の娘も、生まれた時から家に犬や猫がいる環境で育ちました。泣いていても犬や猫を見ると笑顔になり、自分で積極的にエサをあげたり、排泄物の掃除をしたり、おもちゃで遊んだりしてくれます。
2.犬が子どものよき遊び相手になってくれる
見ていて特に驚くのが、子どもは犬と遊ぶのがとても上手だということです。テイルティーザーと呼ばれる釣竿の先にロープなどがついたおもちゃを渡したときには、犬も子どもも夢中になって遊んでいました。子どもは予想外の動きをするので、犬も獲物を追いかけている気分になり、楽しいのでしょう。このようにうまく状況をセッティングしさえすれば、子どもと犬はとっても楽しく遊べます。
出典:(※1)Spotlight on the psychological basis of childhood pet attachment and its implications(2019/6/28)
(※2)Physiological and behavioral effects of animal-assisted interventions
on therapy dogs in pediatric oncology settings(2018/3)
(※3)Children Reading to Dogs: A Systematic Review of the Literature(2016/2/22)
家庭環境に合った犬種の見つけ方
実際に犬を飼う際には、家庭環境に合わせた犬を選ぶことが重要です。ペットショップで衝動買いをする前に、飼いたい犬種がもともとどういった目的で作られたのかを調べるのも良いでしょう。
例えば我が家にはシェットランド・シープドッグがいますが、先祖はイギリスのシェトランド諸島という寒さの厳しい島で牧羊犬として働いていました。
牧羊犬は、運動要求量が高く、適切にエネルギーを発散させてあげないと壁紙をかじったり家を破壊したりと、問題行動につながります。また、羊を吠えて追い立てていたため、見知らぬ人や犬に対して吠えることが多いので、集合住宅で飼育するのにはあまり向いていないかもしれません。
豊かな被毛も魅力ですが、もともと寒冷地育ちのため、寒さに強く、暑さに弱いので夏場は熱中症に注意する必要があります。
人間は長い歴史の中で、目的に合わせて犬を掛け合わせ、新しい犬種を作ってきました。すべての犬がその犬種に典型的な性格をしているわけではありませんが、ある程度飼育後の生活を想定するのに役に立つので、事前にしっかりと飼いたい犬種を予習することは重要です。
子どもと相性がいい犬種と飼いやすい理由・注意点
子どもと比較的相性がよく、日本の住宅環境で飼いやすい犬種をご紹介します。
・プードル:毛が抜けないので家の掃除は楽、定期的なトリミングは必須
「人気犬種ランキング」(※4)でも13年連続1番人気のプードルは、やはり飼いやすい犬種と言えます。毛が抜けないため、家中に犬の毛が舞って掃除に追われたり、気がついたら赤ちゃんが抜け毛を食べていたり、といった心配がありません。性格も朗らかで社交的な子が多く、子どものいい遊び相手になってくれる可能性が高いです。
その代わり、かなりのスピードで毛が伸びるため、定期的なトリミングが必ず必要になります。どんなスタイルにするかにもよりますが、1〜3ヶ月に1回はサロンでカットをしなければなりません。もともと猟犬のため、活発な子が多く、お散歩などでしっかりと運動させてあげる必要があります。
・チワワ:小さくてあまり力が強くないので、子どもでもお散歩が可能
子どもに犬の散歩をさせたい場合、あまり大きくならず、力も強くないチワワはうってつけです。もともとが愛玩犬なので、運動要求量もそこまで高くはありません。
ただし、怖がりで臆病な子も多いので、小さい頃にしっかり家の外の世界に慣らしてあげてください。生涯お散歩ができず、太ってしまう子もいます。怖がりゆえに、人を噛んだりする子もいるので、子犬期からしっかり人に慣らしたり、パピー教室に参加して飼い方を学んだりするとよいでしょう。
家でシャンプーすることも可能ですが、長毛でも短毛でもそれなりに毛は抜けます。
・パピヨン:とにかく明るく陽気、骨折に注意すれば子どもとよい遊び相手に
人気犬種ランキングではあまり上位に上がって来にくいですが、明るく陽気な性格の子が多い犬種です。幼少期の骨折にさえ注意をすれば比較的病気も少なく、シニアになっても元気いっぱいな子も多いです。小型犬の中では知能指数が1番高く、しっかりとトレーニングをすれば子どものよい相棒となってくれるのではないでしょうか。
運動要求量はかなり高く、しっかりと運動をさせてあげる必要があります。
今回は小型犬を3種類選んで紹介しましたが、中型犬、大型犬にも小型犬にはない良さがあります。ただ体の大きさに比例して力も強くなるので、よっぽどトレーニングをしっかりしない限り、子どもがリードを持ってお散歩をしたり、場合によっては小さな子どもと犬を一緒にお散歩したりすることすら難しいこともあります。妊娠中のお散歩も転倒のリスクがあるので、飼育を始めるタイミングには注意が必要と言えます。また、どんな犬種を飼うにしろ、子どもだけでいきなり散歩をさせるのはやめましょう。はじめは必ず大人が付き添い、犬にも子どもにも散歩のルールを教える必要があります。
出典:(※4)最新版!『人気犬種ランキング2022』/アニコム ホールディングス株式会社(2022/1/20)
子どものいる家庭が犬を飼い始める時のポイント
どの犬種でも、飼い始めはトレーニングやプロによる飼育指導を受けるのがおすすめです。犬だけを預けるパターンのトレーニング施設もありますが、最初は飼い主も一緒に飼い方指導を含めトレーニングを受ける方が効果的です。
特に犬が1歳になるまでの1年間は、しっかりと時間を割いてトレーニングや社会化を行うことが大切です。はじめの1年間どう過ごすかで、その後の犬との暮らしが素敵なものになるか、トラブル続きで大変なことになるかが大きく変わってきます。例えば、人間の赤ちゃんも生まれたばかりで手が掛かる、といったタイミングで子犬を飼い始めるのはあまりおすすめしません。
子どもと犬の安全な暮らしのために気をつけるべきこと
犬をお迎えすることに決まったら、先に家の環境を整えておくことが重要です。
1.部屋を片付けて犬の誤食を防ぐ
犬は赤ちゃんと一緒で、なんでも口に入れて確認します。人間の赤ちゃんと違って手が使えないので、なおさらです。子犬の目線で部屋を見回して、誤食のリスクのあるものはすべて片付けましょう。
最近だと、ウレタンマスクの誤食も増えています。飼い主のにおいがついたマスクは犬の大好物ですので、普段から遊ばせない、犬の届く範囲に置かない、などを家族全員で徹底してあらかじめルール作りをすると良いでしょう。子どものおもちゃも、口に入るサイズなら飲み込んでしまう可能性があります。大人がしっかり見てあげる必要があるでしょう。
2.子どもと犬が触れ合う時間を決める
子犬はとても骨が折れやすいです。子どもが抱っこしていて落としただけでも前肢骨折のリスクがあります。子どもはとにかく犬を抱っこしたがる傾向にありますが、あまり小さい子が不安定に抱っこをしたり、犬が嫌がっているのに無理やり抱っこをして犬が飛び降りたりすると、事故につながります。
家に来たばかりの子犬はただでさえ新しい環境に慣れるのに必死です。かわいいのでついつい構いたくなる気持ちはわかりますが、子犬をお迎えする前に、親が見ている時しかケージから出さない、無理やり抱っこしない、など子どもと約束事を決めておくと良いでしょう。
3.サークルを置き、犬がひとりでいられる空間を作る
子犬のうちは、犬を入れておけるサークルがあるとお留守番させるときも安心です。
子犬は人間の赤ちゃんと一緒です。必要なワクチン接種やトイレや散歩のトレーニング、具合が悪くなったら病院受診など、特に慣れるまでは手がかかります。多少余裕があり、時間をかけられるタイミングで子犬をお迎えしましょう。
子どもに教えるべき、犬と触れ合う時のルール
犬と子どもが仲良くなるためには、適切なルール作りが必要です。犬との付き合い方は、親が教える必要があります。
これは自分の家の犬でなくても言えることですが、犬と触れ合う時に最低限守って欲しいルールがあります。それは犬の嫌がることをしない、ということです。
具体的には、まずは下記の3つのルールを子どもに教えましょう。
犬と触れ合う時のルール
・一度に触るのは3秒まで
・嫌がって逃げたら追いかけない
冒頭でも述べましたが、犬はぬいぐるみではありません。意思と自我をもった命です。ついつい言葉で気持ちを伝えることができない犬の気持ちを後回しにしてしまいがちですが、犬も過剰になでられるのは嫌だし、気分が乗らない時には抱っこされたくありません。
柴犬などの和犬ならなおさらで、3秒も触らせてくれない場合もあります。自分やお友達を大切にするように、犬を大切にするよう、子どもに教えてあげてください。
親も犬を飼うのが初めてで、犬との生活に不安がある方には、『こころのワクチン』(村田香織/著、Parade books出版、2011年発売)という本もおすすめです。
犬は子どもにとって最高のパートナー
犬と子どもが遊んでいるのを見ると、なんとも幸せな気持ちになります。うまくいけば、犬は子どもにとって最高のパートナーになってくれるでしょう。
しかしそのためには、親が状況を整えてあげる必要があります。子どもにせがまれるままに飼ったり、ペットショップで衝動的に購入したりするのではなく、犬と子どもの暮らしを事前に想定し、できるだけ準備をした上でお迎えするのがおすすめです。
子犬ははじめの1年間で、人間の年齢に換算して赤ちゃんから15歳くらいまで一気に成長します。この時期に惜しみなく時間を割いてあげることで、その後の犬と子どもの生活が決まるといっても過言ではありません。
犬種選びやお迎えのタイミングを家族でよく話し合ってみてください。子どもがもう小学生になっていたら、いろんな犬種の特徴を一緒に調べて選ぶのも良いですね。